米国企業の収益環境は厳しく、7-9月期決算の発表を受けてS&P500指数の通期予想EPSは下方修正されています。テクノロジー大手GAFAMの決算も不振なもの多かったです。そのような中、好決算銘柄を7つピックアップしてご紹介いたします。
図表1 注目銘柄
銘柄 | 株価(11/1) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ネットフリックス(NFLX) | 286.75ドル | 700.99ドル | 162.71ドル |
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 138.20ドル | 144.73ドル | 114.56ドル |
エンフェーズ エナジー(ENPH) | 299.48ドル | 324.84ドル | 113.40ドル |
ビザ A(V) | 206.93ドル | 235.85ドル | 174.60ドル |
コカ-コーラ(KO) | 59.64ドル | 67.20ドル | 52.28ドル |
ユナイテッド エアラインズ(UAL) | 42.66ドル | 54.52ドル | 30.54ドル |
JPモルガン チェース(JPM) | 128.15ドル | 172.33ドル | 101.28ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は米国の7-9月期決算をとりあげます。第1節では企業業績の集計ベースの状況と相場へのインパクト、第2節では不振となったGAFAMの決算概要、第3では好決算と考えられる注目銘柄を7つご紹介いたします。
〇7-9月期決算は市場予想を上回って着地
米国企業の7-9月期決算発表は、テクノロジー大手GAFAMの決算が終わり、11/1(火)時点で数的にもS&P500指数採用銘柄の66%が発表済みとなって大勢は判明しつつあります。
テクノロジー大手の決算に不振なものが多かったことは広く報道されましたが、全体としては市場予想を上回って着地しています。
Bloombergの集計によりますと、S&P500指数採用銘柄で11/1(火)までに発表された328社について、売上は市場予想を2.2%上回り、EPSは4.5%上回っています。これだけをみると、米国の企業業績は予想を上回って良好と考えられるかもしれません。
〇事前の下方修正が予想を上回って着地している主因
しかし、これにはからくりがあって、決算発表前にアナリストが業績予想を大きく下方修正しています。FactSet社の集計ですが、7-9月期の予想EPSは6月末時点では前年同期比9.8%増の予想でしたが、決算発表が始まる直前の10/7(金)には同2.2%増まで、7.6%ポイントも下方修正しています。
事前に下方修正が行われていたために市場予想を上回って着地していると考えられます。このため、「市場予想を上回る決算が多いから、企業業績は好調」という論調には注意が必要です。
〇通期の予想EPSは下方修正基調
事実、S&P500指数の通期予想EPSは下方修正基調となっています(図表2)。年初から上方修正が続いていましたが、4-6月期決算が発表された7月から下方修正に転じ、7-9月期決算の発表が始まった10月半ばから下方修正のピッチがあがっています。
ドル高による売上・EPSの目減りに加え、原材料費や人件費の上昇がマージンを圧迫、、また全般的な景気減速も売上見通しの不透明感として織り込まれつつあるとみられます。さらに、2023年予想の下方修正が2022年予想よりも大きく、先行きの経済活動への不透明感が反映されていると考えられます。
9/12(月)から10/28(金)に決算を発表した246社について過去4週のEPS修正動向を調べると、通期の予想EPSが上方修正となったものが70社、修正なしが5社、下方修正が167社の分布で、下方修正となった銘柄が圧倒的に多くなっています。
ただし、いまのところ深いリセッションは想定されていないようで、2022年は前年比で15.5%の増益、2023年は2022年予想比6.8%の増益と増益が続くと見込まれています。
〇相場へのインパクトは?
このようなEPSの下方修正は相場にどのような影響を与えるでしょうか?
「企業業績の下方修正が続いているから株価は下落するに違いない」と考えるのは、早計かもしれません。というのが、今年の前半は予想EPSの上方修正が続いていたにも関わらず、株価は下落し続けたからです。
「インフレ高進→FRBによる利上げ→長期金利の上昇→PERの低下」という経路でEPSの上方修正とは関係なく株価が下落しました。
反対に、EPSの下方修正と関係なく、インフレピークアウトを織り込む中で株価が上昇する可能性もありそうです。ただ、その場合も想定されているリセッションが深いものでなく、2023年の増益予想が維持されるという条件がつきそうです。
図表2 S&P500指数の予想EPS
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
本邦投資家の保有が多く、相場全体への影響も大きい、テクノロジー大手GAFAMの決算を概観しておきましょう。
今回はアップルを除いて不振で、不振の要因は:
(1)いずれもグローバルに事業展開しているため、ドル高による売上・利益の目減りの影響が大きい
(2)景気動向に左右されやすいネット広告の減速が予想以上となっている(主にメタプラットフォームズ、アルファベット)
(3)クラウドサービスの売上にも減速傾向がみえてきた(アマゾンドットコム、マイクロソフト、アルファベット)
図表3にまとめた通り、10-12月期の見通しについても、売上減速を見込む企業が多くなっています。インフレピークアウトを織り込む相場に変化する兆しがみられる中「グロース株」に注目したい投資環境ですが、業績の動きをみるとやや買いにくい印象があります。
アップル(AAPL)
アップルの7-9月期決算は売上が前年同期比8%増、EPSが同4%増で市場予想を上回りました。製品別には、iPhoneは市場予想並みの増加で、サービス収入は市場予想を下回った一方、PCのMacやウェアラブルが予想を上回る増加となりました。10-12月期についてクックCEOは、製品ラインアップは強力だと自信を示しましたが、売上成長率は鈍化する見通しとしました。
マイクロソフト(MSFT)
7-9月期決算は、売上が前年同期比11%増、EPSが同4%増で、市場予想をそれぞれ1%、2%上回りました。売上はドル高等の影響で5年ぶりの低い伸びとなりました。成長をけん引しているクラウドサービスの「Azure」売上は為替の影響を除いて同42%増で、4-6月期の同46%増から伸びが鈍化、10-12月期はさらに5%ポイント低下する見通しとしました。
アマゾン ドットコム(AMZN)
7-9月期決算は、売上が前年同期比15%増ながら、営業利益は販管費等の増加により同48%減と市場予想も下回りました。売上高は4四半期ぶりに2桁成長に回帰しましたが、営業利益は5四半期連続で減益でした。クラウドサービスのAWS売上高は同27%増と好調でしたが伸びは鈍化しています。10-12月期の売上見通しを1,400〜1,480億ドルとして、市場予想の1,550億ドルを大きく下回って嫌気されました。
アルファベット A(GOOGL)
7-9月期は売上・EPSとも市場予想を下回りました。主力の広告収入は検索広告が前年同期比4%増へ鈍化、ユーチューブ広告は同2%減で2019年10-12月期以来の初の減収となりました。「成長鈍化は水準が高かった昨年の反動もあるが、広告主の支出抑制の影響も見逃せない」としています。成長鈍化を受けて人員採用を抑制する見通しです。
メタ プラットフォームズ A(META)
7-9月期は売上が前年同期比5%減(為替の影響を除いて同2%増)、EPSは同49%減で、EPSは市場予想を13%下回りました。景気減速を受けたシクリカルな広告の鈍化は仕方ないとしても、TikTokとの競争の影響も出ているとみられます。メタバースへの先行投資が重く、収益の重石になりそうなことが嫌気されています。
図表3 GAFAMの7-9月期決算概要
7-9月期 売上 予想比 |
7-9月期 EPS 予想比 |
7-9月期 売上 前年同期比 |
7-9月期 EPS 前年同期比 |
10-12月期見通し | |
---|---|---|---|---|---|
アップル(AAPL) | 1.7 | 2.1 | 8.1 | 4.0 | 10-12月期の売上は7-9月期との比較で減速を見込む。 |
マイクロソフト(MSFT) | 0.9 | 2.3 | 10.6 | 3.5 | アジュールの10ー12月期の増収率は7-9月期の前年同期比42%増(為替の影響を除く)から5ポイント低下する見込み。 |
アマゾン ドットコム(AMZN) | -0.4 | 63.3 | 14.7 | 19.0 | 売上・EPSとも市場予想を大きく下回る。 売上1,400〜1,480億ドル(予想1,555.2億ドル) 営業利益見通し:0〜40億ドル(予想46.6億ドル) |
アルファベット A(GOOGL) | -1.6 | -15.2 | 6.8 | -18.7 | 主力の広告収入は前年同期の水準が高く、伸びを抑える要因になると想定。 |
メタ プラットフォームズ A(META) | 1.1 | -13.0 | -4.5 | -49.1 | ガイダンスレンジの中間値が市場予想を下回った。 10-12月期売上見通し:300〜325億ドル(予想322.0億ドル) |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
10/28(金)までに7-9月期決算を発表した銘柄から、好決算で注目できると考える銘柄をピックアップしました。
7-9月期決算の売上・EPSが市場予想を上回り、また、前年同期比との比較でも大きな減益になっていないことを条件(一時要因による減益を除き)とし、業績好調が今後も続きそうな余韻があることを意識して選びました。
最初の3銘柄、ネットフリックス、IBM、エンフェーズエナジーは個別要因で好決算となりました。その次の3銘柄、ビザ、コカ・コーラ、ユナイテッドエアラインズは経済再開の恩恵を受けています。最後のJPモルガンは長期金利上昇の恩恵を受けています。
ネットフリックス(NFLX)
【加入者純増が回復】
・7-9月期の売上は前年同期比6%増、EPSは同3%減、市場予想に対してはそれぞれ1%、46%上回りました。7-9月期の加入者純増が241万人で100万人の会社ガイダンスを大きく上回り、10-12月期のガイダンスも450万人と4-6月期の98万人減から回復傾向が続くことが示唆されました。加入者純増が1-3月期、4-6月期と2四半期連続でマイナスとなって「中期的な成長力を失ったのではないか」、との懸念が後退したとみられます。
・次の注目点は、広告ありプランの導入です。広告ありプランは年内に主要10ヵ国以上で導入される予定で、同プランによる視聴者数(加入契約当たり複数人が視聴できるため、加入者数よりも多いと考えられます)は、2022年末に4.4百万人(うち米国が1.3百万人)、2023年7-9月期に40百万人(うち米国が13.3百万人)に達すると想定されています。詳しくは、10月5日付外国株式特集レポート「株価が大幅下落したネットフリックスに復活はあるのか!?」をご参照ください。
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)
【売上モメンタムの回復を示唆】
・7-9月期の売上は前年同期比7%増(為替の影響を除いて同15%増)、調整後EPSは同2%減、市場予想に対してはそれぞれ4%、0.1%上回りました。部門別の増収率は、ソフトウェアが同7%増(為替の影響を除いて同14%増)、コンサルティングが同5%増(同じく同16%増)、インフラストラクチャーが同15%増(同じく同23%増)と、いずれも好調です。
・売上見通しについて、これまで「1桁台半ばの伸び」としていましたが、具体的な数字はあげなかったものの、これ以上の伸長を見込むとして好感されました。同社は昨年末に成長性の低い部門を切り離したことで売上成長の回復が期待されてきましたが、順調に推移しているとみられます。利益の回復は遅れていますが、売上の回復が続けばいずれついてくると期待されます。
エンフェーズ エナジー(ENPH)
【太陽光発電の増加から恩恵】
・太陽光発電向けのマイクロインバータを生産している会社です。7-9月期決算は、売上が前年同期比81%増、EPSが同102%増、市場予想をそれぞれ3%、13%上回りました。売上は2022年4-6月期比でも20%増と、欧州が約70%増となってけん引しています。10-12月期の売上高見通しを6.8〜7.2億ドルとして、市場予想の6.64億ドルを上回りました。
・北米での需要は堅調で、欧州やその他地域でもエネルギー価格高騰やロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け再生エネルギーの需要が増しています。売上のうちIQ8マイクロインバーターの割合が約5割に上昇、利益率向上に繋がっていることも好感できそうです。また23年下期に新たに米国内に製造ラインの増設を計画しています。米国政府の政策の追い風を受け事業拡大が継続しそうです。
ビザ A(V)
【海外旅行の回復から恩恵】
・7-9月期決算は、売上が前年同期比19%増(為替の影響を除いて同23%増)、調整後EPSが同19%増と好調でした。本国外でのカード利用で発生するクロスボーダー取引額は前年同期比36%増(為替の影響を除く)、欧州圏内取引を除いた場合は同49%増となって業績の伸びをけん引しています。業績好調を背景に取締役会は、四半期配当を20%増やして0.45ドルとし、新たに120億ドルの自社株買いプログラムを承認しました。
・CEOは、「消費の強さ、eコマースの堅調、海外旅行の回復、といった2022年を通じて出ていたトレンドが7-9月期も継続した」「短期的な事業環境には不透明感があるが、消費者決済、新しいフロー、付加価値サービスにわたる長期的な成長に自信をもっている」とコメントしています。
コカ-コーラ(KO)
【オーガニック売上成長が16%】
・7-9月期は売上が前年比11%増(為替の影響は8%ポイントのマイナス)、オーガニック売上成長が同16%増(内訳は価格/製品ミックスが同12%増、販売数量が同4%増)、調整後EPSは同6%増と好調でした。パンデミックの影響からの回復を受けて、いずれの地域でも10%以上のオーガニック売上成長を記録しました。
・業績の好調を受けて通期のオーガニック売上成長を前年比15〜16%増へ、調整後EPSは前年比5〜6%増へ見通しを引き上げました。ノンアルコールパッケージ飲料の市場シェア(金額ベース)は、家庭内と家庭外の合計市場で拡大が続いています。ドル高や原材料コストの上昇など事業環境は厳しいものの、世界の炭酸飲料市場で45%のシェアをもつ優位性から相対的に堅調な業績拡大が期待されます。
ユナイテッド エアラインズ(UAL)
【パンデミックからの回復が順調】
・7-9月期の売上は前年同期比66%増、EPSは-1.02ドルから2.81ドルに黒字転換、市場予想に対してそれぞれ1%、23%上回りました。売上は新型コロナ前の2019年の同期の水準を13%上回っています。10-12月期の調整後営業利益率は2019年の水準を上回る見通しで、業績回復が本格化していると言えるでしょう。
・CEOは年末にかけての業績回復についても楽観しているとしました。現在進んでいる景気鈍化の影響を相殺する要因として、(1)新型コロナからの回復局面が継続している、(2)リモートワークの普及で旅行回数が増えている(休暇を柔軟に計画しやすくなった)、(3)サプライチェーン問題で業界の供給は今後数年間制約される見通し、の3つをあげています。
JPモルガン チェース(JPM)
【消費者向け事業が堅調】
・7-9月期の収益は前年同期比10%増、EPSは同17%減、市場予想比ではそれぞれ4%、8%上回りました。EPSの減少は前年同期比の信用コストがマイナスとなっていた特殊要因の反動で、4-6月期比では13%増と堅調です。純金利収入は金利上昇の恩恵を受けて前年同期比34%増、非金利収入は同8%減でした。
・足もとは平均預金残高が前年同期比9%増、デビット・クレジットカードの利用額が同13%増と消費者向け事業が堅調です。一方、先行きの景気動向については警戒的で、市場予想以上の貸倒引当金の積み増しを行っています。ダイモンCEOは、自己資本比率が十分に高まっていることから、来年のはじめには自社株買いを開始したいとの意向を表明しています。
図表4 注目銘柄の四半期決算と投資指標
7-9月期 売上 予想比 |
7-9月期 EPS 予想比 |
7-9月期 売上 前年同期比 |
7-9月期 EPS 前年同期比 |
|
---|---|---|---|---|
ネットフリックス(NFLX) | 1.0 | 46.0 | 5.9 | -2.8 |
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 4.3 | 0.1 | 6.5 | -1.6 |
エンフェーズ エナジー(ENPH) | 2.8 | 13.2 | 80.6 | 101.6 |
ビザ A(V) | 3.1 | 3.7 | 18.7 | 19.1 |
コカ-コーラ(KO) | 5.6 | 8.5 | 10.5 | 6.2 |
ユナイテッド エアラインズ(UAL) | 1.2 | 22.6 | 66.2 | 黒字転換 |
JPモルガン チェース(JPM) | 3.5 | 8.4 | 10.0 | -16.6 |
銘柄名(コード) | 株価 (10/31) (ドル) |
予想PER (来期基準) (倍) |
予想EPS (今期) (ドル) |
予想EPS (来期) (ドル) |
目標株価 (ドル) |
---|---|---|---|---|---|
ネットフリックス(NFLX) | 291.88 | 26.2 | 10.71 | 11.2 | 291.78 |
インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 138.29 | 14.3 | 9.08 | 9.6 | 138.00 |
エンフェーズ エナジー(ENPH) | 307 | 58.0 | 4.38 | 5.3 | 315.35 |
ビザ A(V) | 207.16 | 21.4 | 8.32 | 9.7 | 247.27 |
コカ-コーラ(KO) | 59.85 | 23.5 | 2.47 | 2.6 | 66.00 |
ユナイテッド エアラインズ(UAL) | 43.08 | 7.3 | 2.08 | 5.9 | 52.88 |
JPモルガン チェース(JPM) | 125.88 | 9.8 | 11.53 | 12.8 | 137.53 |
注:IBMの7-9月期業績の前年同期比伸び率は、分離事業の影響を除いたベースです。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
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