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異常気象と米テーパリングのリスク
2021/7/21
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)
今年の5月、長らく続いていたラニーニャ現象が収束し通常の状態に戻った。日本の気象庁ではラニーニャ現象とは、太平洋の赤道付近の海面温度の5か月移動平均が、過去30年の数値よりも0.5度以上低い状態が続く現象と定義している。逆に0.5度以上高くなる現象をエルニーニョ現象と定義している(なお、この定義は国によって微妙に異なる)。エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生すると、世界各地で異常気象が発生しやすくなる。
天候条件の変化は農産品価格に影響をもたらすことが多いが、今年はラニーニャ現象収束宣言を受けて米国の穀物価格が大幅に下落した。これは2000年以降顕著になっているのだが、ラニーニャ現象が発生している時は不作となり、価格が上昇するケースが多いことが経験則的に分っているためだ。そしてこれとは逆にエルニーニョ現象が発生している間は価格は下落する傾向が強い。今年は夏から秋にかけてエルニーニョ現象の発生が見込まれているため広く穀物価格には下押し圧力が掛りやすい。
しかし、今年の秋から冬場に掛けては再びラニーニャ現象の発生が一部では既に予想されている。ここで、過去にラニーニャ現象が発生した時期をピックアップしてみると、なぜか政治的なイベントが発生していることが多い。エルニーニョ現象発生時にも政治イベントは発生しているが、影響の大きいイベントはラニーニャ現象発生時の方が多いようだ。グラフは米国海洋気象局(NOAA)が算出している、海洋ニーニョ指数(ONI=Oceanic Nino Index)の推移とシカゴ小麦価格の推移である。海洋ニーニョ指数が▲0.5を下回るとラニーニャ現象が、+0.5を上回るとエルニーニョ現象が発生していることを表している。
出所:米国海洋大気庁、CBOT
1997年から1998年に掛けてはアジア危機・ロシア財政危機が発生した時期であり、リーマンショックやアラブの春、北朝鮮と米国の対立が激化したのもラニーニャ現象発生時である。そして、ラニーニャ現象が発生している年は、小麦の価格が上昇しているケースが多い。小麦は欧州やアフリカなど、世界各地で主食とされている。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、その主食の価格が上昇することによって貧困層の不満が高まり、域内の不安定さや政情の不安定さにつながり、こうした政治的なイベント発生につながった可能性はあり得る。
もちろん、これらの政治的な出来事や自然災害とラニーニャ現象、小麦価格の関係性を明確に証明することはできないが、大きなイベントリスクが顕在化しているケースが多いことは事実である。そして2020年は周知の通り新型コロナウイルスの感染拡大というパンデミックが発生した。さらに、中東・北アフリカ・西アジアでバッタが大量発生し、貧困地区に深刻な食糧問題をもたらした。多くの場合、資金が潤沢な国では国民の不満が高まっている時に、財政出動を伴う経済対策の実施でその不満を解消することができる。
しかし、こうした政治的に不安定であり、かつ、財政的にゆとりがない状況で食糧危機などの問題が発生すると、対応が困難になる。足下、少なくともコロナ対策で各国財政は逼迫していると考えられ、これに十分対応できない国では暴動が起きる可能性も否定できない。このことは、新たなリスクの顕在化が、財政的にゆとりがない新興国での暴動につながる可能性が高まっていることを示唆している。
何も大きな変化がなければ問題はないのだが、既にコロナの変異種の感染拡大が始まっている上、米国の経済正常化に伴うテーパリングの開始が予想されている。テーパリングは踏み込んだアクセルを緩める政策であり基本的には「金融引き締め」とは異なるが、前回テーパリング実施時には新興国への影響が無視できなかった。米金利の上昇を受けてドル高・新興国通貨安が進行し、輸入物価の上昇を通じて消費者物価が上昇、自国通貨安を回避するために利上げを余儀なくされたためだ。この影響を強く受けたのは、南米と欧州・アフリカの新興国である。新興国市場の混乱は株価の下落もさることながら、特に景気循環系の商品(原油や工業金属など)の下落要因となる。秋〜冬にかけてのラニーニャ現象の発生が意識される時期に、米国がテーパリングを実施する見通しであることは、無視できないリスクと言える。
株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)
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