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2024-04-17 02:01:25

豚肉価格は年末年始に沈静化か〜その他の商品・企業業績への影響も無視できず

2021/6/23
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

米国の豚赤身肉先物価格が高騰し、「ポークショック」との見出しも目にするようになった。豚赤身肉価格の上昇はその他の商品と同様、コロナウイルスの感染拡大もあるが、それ以外の要素も絡んだ複合要因で上昇している。米国がテーパリング議論開始を示唆してからリスク資産価格は総じて軟調だがまだ高値を維持している。豚肉価格の上昇は米国内外の需要・供給の両要因による物でありそれほど大きな下落にはなっていない。恐らく年末年始に掛けて下げ幅を拡大する展開になると予想される。

ここまでの豚肉価格の上昇は、そもそも2018年に中国から始まった。豚熱(当時は豚コレラと呼ばれていた)の感染が中国で拡大、ベトナムなどの周辺国にも感染が広がりその影響で肥育豚が殺処分されたことがきっかけとなった。米農務省の資料を基にすると2019年の中国の飼育頭数は4億2,807万頭だったが、2020年は3億1,041万頭と1億頭以上が殺処分されている。

通常、屠畜した豚の肉は食用に供されるが、豚熱や口蹄疫などの感染症の場合は人間への感染への懸念があるため食用とされない。これは日本で鳥インフルエンザが発生した場合に殺処分されて食用に供されないのと同じである。話を戻すと、中国人は肉類の中で最も豚肉を好むとされ、豚肉価格が同国の消費者物価指数を乱高下させるほど影響が大きい。もちろん豚肉が食べられなくなれば鶏肉や羊肉、牛肉などの代替需要が増加し、それらの価格も大きく上昇するのだが、やはり最も上昇が顕著だったのは豚肉で中国政府も海外から豚肉を確保せざるを得なくなった。

このとき、中国は米国との通商戦争が一巡、農畜産品の輸入量を増加させることで合意していたため「米国に言われなくても自国の需要を満たすため」に米国からの豚肉輸入も増加させた。それまで中国は米国からも豚肉を輸入していたが、米国の豚肉輸出は長らくメキシコが1位であり2位が日本だったが、今回の豚熱で2019年11月頃から米国の最大の豚肉輸出国となった。

出所:マーケットリスクアドバイザリー社にて作成

供給側の米国は2020年のコロナの感染拡大により米食肉大手タイソン・フーズでクラスターが発生、ノースカロライナの工場では4人に1人が感染、工場閉鎖が相次ぎ需要に合わせた出荷が困難となったため屠畜業者による屠畜が進んだ。米農務省の統計では2020年の米国の豚肉生産は1,284万3,000トンと、前年の1,254万3,000トンから増加している。中国での殺処分と異なり、豚熱感染による屠畜ではなく屠畜された豚の肉は製品として流通されるため、通常、豚肉価格にとって屠畜進ちょくは下押し要因となる。また、豚熱の影響が緩和した中国で、コロナからの経済立て直しのために養豚業者への飼育頭数増加策を行った結果、豚の飼育頭数が増加、豚の飼料向け需要も増加したため世界的に飼料価格(大豆ミール)が上昇、さらに、ラニーニャ現象発生による生産見通し不安から大豆ミールの原料である大豆価格も上昇し大豆ミール価格上昇を助長、生産コストの上昇で採算が悪化した米生産者はさらに屠畜を進め、結果的に米国の飼育頭数は減少した。しかしこの間も中国を初めとしてメキシコなどへの輸出が増加し高い水準で推移したため米国内の豚肉在庫の水準が低下し、今年に入ってからの価格上昇に寄与した。

出所:マーケットリスクアドバイザリー社にて作成

しかし、中国では豚熱の影響が一巡し、中国政府による養豚業者への支援もあって国内生産が回復、中国の豚肉卸売価格は急速に低下している。今後も飼育頭数は増加する見込みで、2021年の中国の飼育頭数は4億650万頭が見込まれており、中国の豚肉輸入量は前年比▲8.2%の485万トンが減少すると予想されている。これにより米国の豚肉輸出需要は減少が見込まれ、米国内需給の緩和を通じて豚肉価格を押し下げることになるだろう。足下の価格高騰を受けて結果、米国の豚肉需給の緩和に寄与すると考えられる。

出所:中華人民共和国商務部

これに加えて、米国もコロナワクチンの接種進捗と、豚肉価格の高騰を受けて飼育頭数を増加させると見られる。通常、豚は妊娠期間が約4ヵ月、生まれてから6ヵ月程度で出荷されるため養豚業者が出荷を前提に飼育頭数を増やしたとしても10ヵ月程度で市場に出荷が可能となる。意思決定の時間も含めれば1年程度だろうか。昨年11月にファイザー社のワクチン開発成功が発表され、米国は通常の活動に徐々に戻りつつあり、仮に春頃から豚の飼育頭数の増加が始まっていれば年明けには出荷可能な状態になると予想される。この間も中国での増産は続き、輸出市場の需給には緩和圧力が強まるだろう。価格上昇局面で投機の買いが価格を押し上げた可能性があるため、米テーパリングが意識される年後半には上述の需給見通しを背景に手仕舞い売りが価格を押し下げる可能性はある。また、豚肉生産者が採算確保のために出荷前に先行して先物に利益確定の売り(販売価格下落リスクヘッジ)を行う可能性も有り得るため、年末年始といわずもう少し早く下落する可能性は十分有り得る。ただ、米中の生産頭数が増加するとはいっても上述の通り生産開始決定から出荷まで1年程度の時間があるため需給緩和にも時間がかかり、下落余地を限定させるだろう。

なお日本への影響だが、日本の豚肉の輸入品の流通シェア(推定出回り量シェア)は、2020年度実績が49.9%とほぼ半分が輸入品となっているため、豚肉の流通価格が上昇し小売価格にも影響が出ることも十分考えられる。日本の食肉加工メーカーの業績への影響も懸念されるが、加工事業においてはハムやソーセージなど、販売価格を変動させることが難しい一般向けの加工食品事業においては減益要因となり得るが、食肉事業などの場合には販売先への価格転嫁が可能なケースも多いため、影響はこの状況においても限定されるとみる(消費者にとってはマイナスに)。それよりも、豚肉需要の回復に伴う飼育頭数の回復、飼料需要の増加や脱炭素の流れを受けたバイオ燃料需要の増加が、大豆ミールやトウモロコシ価格を押し上げて、飼料価格の上昇が生産者(食肉加工メーカーも自社で家畜を育てているケースは多い)の業績に影響を与える可能性の方が高いのではないだろうか。

そして、ここでぜひ意識したいのが「豚肉→大豆ミール→大豆→大豆油→バイオ燃料→エタノール(または粗糖)→ガソリンなどの輸送燃料→物価への影響」といった連関性がある点だ。風が吹けば桶屋が儲かるではないが「その資源価格の変動はこの資源価格とは関係ない」と思っていたものも、今回の豚肉価格問題のように複雑に絡み合い、影響を与え合う市場になっているといえる。このことは、全く関係が無いと思われたイベントリスクが、自社の調達コストや販売価格のリスクになり得ることを意味し、企業業績への影響が無視できなくなっていることを示唆している。

また、今回の豚肉価格上昇は中国での豚熱がきっかけであるが、(その後発生したコロナはもちろんだが)ラニーニャ現象などの異常気象の発生も豚肉・大豆価格の形成に大きな影響を及ぼしている。気象の影響を受けないはずだった商品の価格も、全てが説明可能な形でその他の商品価格の形成と有機的に結びつく時代になっているため、互いに影響しあっていることを認知することは、今後の市場動向を考える上では重要なのではないか。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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