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2021-10-17 10:21:59

銀価格はバイデン・トレードで上昇も残る下落リスク

2020/11/18
提供:株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA)

米大統領選挙はトランプ大統領が法廷闘争を辞さない姿勢を示しているが、順当にバイデン大統領が誕生するだろう。バイデン大統領が誕生した場合、まずはバラバラに分断された米国を1つにまとめることから始める必要があるが、それと同時にバイデン次期大統領は今までのトランプ大統領の政策をほぼ180度転回して環境規制を強めることがほぼ確実で、化石燃料の使用量を減らし再生可能エネルギー重視の政策に舵を切ると公言している。実際、バイデン次期大統領のホームページでも太陽光パネルを数百万枚導入する(正確な枚数は明示していない)、電気自動車の普及を推進するとしており、シェールオイルなどのフラッキング(水圧破砕)も国有地などを対象に規制する方針である。

この政策を実行するためには、化石燃料の使用数量を減らしたとしても、それを達成するためには別の資源が必要になる。代表的な例を挙げると太陽光パネルの正極材に用いられる銀や、そのバックアップ電源である鉛蓄電池に用いる鉛、電気自動車に用いる銅や軽量化目的のアルミ、電気自動車のバッテリーに用いるニッケル、脱炭素が進んで水素社会となり、燃料電池が本当に普及すればプラチナの需要が増加する、といったものが挙げられる(弊社ではこうした金属のことを「省エネ金属」として分類している)。

銀価格は2020年7月頃から急速に水準を切り上げている。これは、1.7月14日にバイデン候補が環境インフラ投資政策を発表したことで、省エネ金属が広く買われ、化石燃料が売られる「バイデン・トレード」が活性化したこと、2.銀投資を行う上での比較対象となる金価格が、米国の実質金利緩和政策によって上昇を加速させたこと、3.コロナウイルスの影響によるロックダウン期間中、給付金などを原資に銀ETFを通じて投資を行った個人投資家が増加したとみられること、4.積極的に取引所在庫を積み増す動きが見られたこと、などが考えられる。

1.は上述の通り。金は銀に遅れて上昇しているが、これはポンペオ国務長官が7月21日に中国総領事館の閉鎖を求めたことによる安全資産需要の高まりによるものであり、銀価格の上昇からは若干の時間差がある。

2.の金との比較であるが、銀価格は金価格との相関性が高く、前回のコラムで解説したとおり、金価格は米国の実質金利との相関性が高い。FRBがコロナショックからの早期立ち直りを企図して実質金利を引き下げたことが金価格を押し上げていた。しかし、米長期金利の低下が一服し、FRBも長期金利を意図的に引き下げるイールドカーブ・コントロールに積極的ではないなど、金基準価格の上昇余地が限定されたため、割安に放置されていた銀が物色された。11月9日には米ファイザーが新型コロナのワクチン開発で顕著な進展があったと発表、株価上昇と長期金利の上昇で価格が急落したが、それでもFRBの金融緩和は継続する見込みであり、銀価格はまだしっかりした推移となっている。

3.4.はほぼ同義だが、投資目的で銀を保有する市場参加者が増えたということである。ETFの管理残高が増加することや取引所在庫の増加は、現物市場で直ちに利用可能な銀現物が減少することを意味する。

Silver Instituteのデータと、ETF残高、取引所在庫の水準を参考に銀需要に占める銀の現物投機需要の比率を算出すると、2019年と比較して2020年の投機需要の全体の需要に占める比率は大幅に増加している。つまり、銀価格動向は投機がどれだけ購入するか?に依拠しており、投機動向が価格を左右しがちということだ。現在、バイデン政策を前倒しで評価する動きとなっているため、足下の価格上昇はあまり違和感がない。ただ、米上下院は共和党・民主党でねじれの状態になる可能性が高いため、民主党の財政政策やグリーンニューディール政策が上院で否決される可能性があり、想定している規模やペースで環境規制強化が進む可能性は以前ほど高くない。ただし、米国の上院選挙の結果は南部ジョージア州の2議席が1月の決選投票に決着を持ち越すことが確実となり、残る3議席はいずれも共和党が優勢の状態だが、仮に50対50となった場合、最後の1票は米副大統領が有するため「トリプル・ブルー」となる。この場合、銀価格が期待先行でさらに上昇することも想定される。これは中期的な見通しだ。

しかし、銀価格はこのまま高値を維持するのかといえば、むしろ下落リスクの方が大きいのではないかと考えている。太陽光パネル向けの投資拡大はまだ始まった訳ではないこと、新型コロナワクチンの開発進展や、経済対策の影響で来年の米経済は緩やかな回復を持続する見通しで長期金利の上昇が予想されることがその理由だ。長期金利の上昇は実質金利を押し上げ、金銀価格の下押し要因となる。また、太陽光パネルの設置が進んだとしても、これまで積み上がった投機需要を吸収するほどの需要になるかどうかは不透明である。2019年の銀需要と比較すると、2020年のETFと取引所在庫の水準は2億4,000万オンス程度高い。これは2019年の太陽光発電向け需要の約3倍に相当する。投機筋は基本的には現物を必要としないため、いずれかのタイミングでこれまで買い進んできたポジションを手仕舞って売却する可能性が高いが、銀価格が現在の水準を維持するためには、この投機の売り需要を太陽光発電需要が吸収する必要が出てくる(その他の工業向け需要が増加しないという前提)。しかし、本当にそうなるかどうかは、今後、バイデン政権の政策がどれだけ実行可能かどうかに依拠するため、現時点で「決め打ち」するのはややリスクだろう。

以上を考えると、11月末の大手ファンドの決算や、その他のファンドの決算期末である12月末、といったカレンダー上、市場参加者が手仕舞いをしなければならないタイミングで、いったん下落するリスクは警戒する必要がある。

株式会社マーケット・リスク・アドバイザリー(MRA) 新村 直弘
1994年東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、本店金融市場営業部でコモディティ・デリバティブ開発を担当。国内製造業、金融機関をはじめ幅広い業種に対する価格リスクマネジメントの提案業務に従事。
バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月、企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立、代表取締役に就任。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。
また日経新聞、週刊ダイヤモンド、東洋経済、エコノミスト等のメディアにも多数寄稿。
日本アナリスト協会検定会員、資源エネルギー学会会員
著書:
『調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門』(ダイヤモンド社)
『コモディティ・デリバティブのすべて』(きんざい)
『天候デリバティブのすべて―金融工学の応用と実践』(東京電機大学出版)

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