先週は米国での経済活動再開が順調に進む中、欧州での金融緩和強化や米国の5月雇用者数が予想外に増加したことなどを受けて米国株式市場は大幅高となりました。今週は6/10(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)結果発表とパウエルFRB議長の会見が注目されます。
今回は景気敏感業種からスクリーニングにより、ゼネラルモーターズ(GM)、ゼネラルエレクトリック(GE)、スターバックス(SBUX)、JPモルガンチェース(JPM)、アマゾン ドットコム(AMZN)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数のローソク足(日足、6ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 15.4% | 14.2% | 5.6% |
金融 | 12.2% | 17.6% | 2.8% |
資本財・サービス | 10.5% | 18.2% | 3.6% |
素材 | 7.6% | 13.5% | 11.9% |
不動産 | 7.1% | 11.0% | -3.8% |
S&P500 | 4.9% | 9.0% | 7.5% |
一般消費財・サービス | 4.8% | 10.3% | 15.6% |
情報技術 | 3.6% | 7.0% | 14.3% |
通信サービス | 2.4% | 6.3% | 9.6% |
公益事業 | 2.4% | 8.4% | -8.7% |
生活必需品 | 1.9% | 3.6% | -2.4% |
ヘルスケア | 0.2% | 3.8% | 6.4% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
オキシデンタル・ペトロリアム | 60.5% |
サイモン・プロパティー・グループ | 53.6% |
ボーイング | 40.9% |
フォード・モーター | 28.5% |
シティグループ | 22.9% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
ファイザー | -5.8% |
アボットラボラトリーズ | -5.3% |
イーライリリー | -2.4% |
チャーター・コミュニケーションズ | -2.4% |
ウォルマート | -2.0% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
米中関係の緊張が継続し、黒人暴行死に対する抗議デモが広がるなど悪材料がありました。しかし、米国で経済活動が再開してもCOVID-19の新規感染者数は小康状態が保たれ、欧州では「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」の6,000億ユーロ増額が決まり、米国の5月雇用統計では経済の底入れが示唆されるなど、好材料が悪材料を凌駕しました。S&P500指数は週間で4.9%の大幅上昇でした。
業種指数では、米国での経済活動の再開が順調に進んでいることを受けて「エネルギー」「金融」「資本財・サービス」など景気敏感業種に対する物色が2週連続で鮮明となりました。
個別銘柄では、ボーイング(BA)が大幅に上昇しています。米国での行動制限解除を受けて旅客需要が予想以上に早く回復する見通しとなり、アメリカン航空が7月の運航便数を6月に比べて74%増やすとしたほか、他の航空会社も便数増の意向であることが株価の刺激材料になっています。
経済指標では、5月の雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比750万人減の予想に対して同250万人増となりました。雇用増に貢献したのは、レジャーおよびホスピタリティ、建設、教育、ヘルスサービス、小売などで、都市のロックダウンで一時解雇が広がった産業で雇用が戻りつつあるようです。
失業率は市場予想の19.1%に対して13.3%と4月の14.7%から改善しました。また、米国の5月ISM製造業景気指数が前月の41.5から43.1へ、ISM非製造業景気指数が前月の41.8から45.4へ改善しました。
今週の米国株式市場
今週は6/10(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果発表とパウエルFRB議長の会見が注目されます。ゼロ金利と無制限の量的緩和という現行の政策が維持されるか、中長期の金利を抑制するためのイールド・カーブ・コントロールに言及があるか、パウエルFRB議長の景気認識に変化がないかなどが注目点となりそうです。
米国のCOVID-19の新規感染者数は、6/6(土)までの7日平均で2万人台と、5/30(土)の同2万人台から横ばいが保たれています。米国での経済活動の再開はおおむね順調と言えるでしょう。
一方、S&P500指数の予想PERは、21年予想EPSに対して19倍を超え、ファンダメンタルズの観点からは説明しづらくなっています。これに対する説明として、FRBによる過去に例をみない大規模な資産買い入れの一部が市場に流入して相場を押し上げていると言われています(図表3)。
リーマンショック時には緊急の資産買い入れは1兆ドルでしたが、今回は2月末の4.2兆ドルから5月末までに7.1兆ドルへ3ヵ月間で2.9兆ドルも拡大しているため、そのインパクトも予想外に大きくなる可能性がありそうです。ただし、金融緩和による需給で上昇する相場には脆い面がある点は念頭に置いておくべきでしょう。
なお、米ネット証券のチャールズ・シュワブが新サービスの「Schwab Stock Slices」を6/9(火)に導入することも市場で注目されています。S&P500指数採用銘柄について5ドルから購入できるサービスで、例えば1株2,483ドルのアマゾン株を50ドル分購入して0.2株の権利を所有できるといった具合です。
10銘柄までの利用が可能で、比較的少額で個別株の分散ポートフォリオを作れます。個人投資家の利用が広がれば、値がさ株の株式需給にプラスとなりそうです。
経済指標では、6/12(金)に米国の6月ミシガン大学消費者マインド(前月の72.3から76.0へ改善の予想)などの発表が予定されています。
企業決算では、アドビ、ルルレモン、PVHの3-5月期決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
筆者はここまでの相場反発局面で景気敏感株のご紹介は避けてきました。COVID-19の感染第2波が来た場合に再び大きく売り込まれるリスクがあると考えたためで、そのようなケースでも打撃が相対的に小さいと考えられる銘柄をご紹介してきました。
しかし、先々週、先週と景気敏感株の物色優位が続き、COVID-19の感染第2波が来ない、または、来たとしても影響は限定的となる場合、景気敏感株の戻りが継続する可能性もありそうです。そこで今回は方針を変更して景気敏感株の中から銘柄をご紹介いたします。
S&P100指数採用銘柄のうち「資本財・サービス」「一般消費財・サービス」「金融」に属する37銘柄について、6/4(木)の株価がアナリストの目標株価平均を超えておらず、来期の予想EPS増加率が30%以上の銘柄を図表4に抽出しました。
ここから、ゼネラルモーターズ(GM)、ゼネラルエレクトリック(GE)、スターバックス(SBUX)、JPモルガンチェース(JPM)、アマゾン ドットコム(AMZN)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表3 FRB(米連邦準備制度理事会)の資産規模
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 景気敏感株のスクリーニング(S&P100指数対象)
コード | 銘柄 | 株価 (6/4) (ドル) |
予想 PER (倍) |
目標株価 (ドル) |
目標株価 乖離率 (%) |
予想EPS 今期 (ドル) |
予想EPS 来期 (ドル) |
EPS増加率 来期/今期 (%) |
GM | ゼネラル・モーターズ | 29.16 | 40.7 | 32.6 | 11.8 | 0.72 | 3.83 | 435.3 |
GE | ゼネラル・エレクトリック | 7.74 | 71.0 | 8.3 | 7.4 | 0.11 | 0.39 | 253.2 |
WFC | ウェルズ・ファーゴ | 30.22 | 28.8 | 31.3 | 3.4 | 1.05 | 2.56 | 143.6 |
C | シティグループ | 55.65 | 19.9 | 60.9 | 9.4 | 2.79 | 6.13 | 119.7 |
SBUX | スターバックス | 78.74 | 58.4 | 80.4 | 2.1 | 1.35 | 2.76 | 104.8 |
JPM | JPモルガン・チェース | 106.44 | 20.9 | 106.8 | 0.3 | 5.09 | 8.64 | 69.9 |
AIG | アメリカン・インターナショナル・グループ | 35.21 | 12.5 | 37.5 | 6.6 | 2.81 | 4.58 | 63.1 |
AMZN | アマゾン・ドット・コム | 2,460.60 | 75.2 | 2659.7 | 8.1 | 32.73 | 52.09 | 59.2 |
GS | ゴールドマン・サックス・グループ | 214.82 | 15.7 | 220.2 | 2.5 | 13.65 | 21.65 | 58.6 |
BAC | バンク・オブ・アメリカ | 26.78 | 19.0 | 27.1 | 1.1 | 1.41 | 2.23 | 57.9 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (6/8) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ゼネラル モーターズ(GM) | 30.61ドル | 42.5 | 【自動車は景気敏感な耐久消費財の代表格】 ・経済状況によって購入のタイミングが前後する耐久消費財は、景気回復への信頼感が高まる局面で物色されやすいグループと考えられます。その中でも金額が大きい自動車は代表的なものです。米国の自動車販売台数は今年2月までの年率換算17百万台前後から、3〜5月の平均は10.7百万台まで落ち込んでいますが、今後は回復が見込まれます。 ・1-3月期の決算は売上が前年同期比6%減、調整後EBITが同46%減でした。北米の売上は同7%減でしたが、利益率が高いピックアップトラックの販売が増えて調整後EBITは同16%増となり、海外部門の落ち込みを一部相殺しました。北米の販売台数シェアは上昇基調が続いており、19年1-3月期の16.2%から17.3%に改善しています。3月末の流動性は334億ドルと十分とみられます。 | ||
ゼネラル エレクトリック(GE) | 7.88ドル | 71.6 | 【航空機エンジンがカギ】 ・19年の産業部門利益で65%を占め、航空機エンジンを製造する航空部門がCOVID-19のパンデミックによる航空需要の減退で甚大なダメージを受けると見込まれています。一方、先週は米国の航空各社が運航便数の増加を発表したことが刺激材料となって、ボーイングとともに株価が反発しています。パンデミックが収まり、航空需要が順調に回復するなら、株価に戻り余地があるとみられます。 ・1-3月期決算は、ヘルスケアの利益が前年同期比15%増となったものの、電力、再生エネルギー、航空とも同減益となり、産業部門の利益は同42%減でした。注目の航空部門は売上が前年同期比13%減、部門利益が同39%減、受注が同14%減となっています。キャッシュフローは、22億ドルのマイナスとなり、COVID-19によるパンデミックが約10億ドルのマイナスに寄与したとしています。 | ||
スターバックス(SBUX) | 82.14ドル | 29.8 | 【店舗閉鎖で打撃も、先行きの完全回復は可能と】 ・COVID-19のパンデミックにより各地で店舗を閉鎖したことから、打撃が大きくでた企業の一つです。一方、先行きについて会社は、中国事業での経験をもとに考えると、時間の経過とともに完全な回復は可能としています。 ・1-3月期はアジアと欧州での店舗閉鎖が響いてグローバルの既存店売上が前年同期比10%減(米州が同3%減、海外が同31%減)となり、売上が同8%減、営業利益が同43%減でした。業績見通しについて、米国は不確定要因が大きいとして示されませんでしたが、中国の既存店売上に関して4-6月期は前年同期比マイナス35〜マイナス25%、7-9月期は同マイナス10〜0%が見込めるとしています。 | ||
JPモルガン チェース(JPM) | 111.23ドル | 21.9 | 【高水準の引当金積み増しが続くが、4-6月期が底の見込み】 ・COVID-19によるパンデミックを受けて高水準の信用コストが発生している上、金利の低下により金利収入も減少して、収益が大幅に悪化した状態が続くと見込まれます。ただ、利益の底は4-6月期と見込まれ、その後はパンデミックが終息すれば回復が期待されます。 ・1-3月期は、企業向け、消費者向けともに貸し倒れが増えることに備えて貸倒引当金を68億ドル積み増しました。これを含む信用コストは83億ドルと前年同期の15億ドルから大幅増となって、純利益は前年同期比68%減でした。ダイモンCEOは4-6月期も貸倒引当金は約70億ドルになるだろうとしています。また、通年の純金利収入は約555億ドルで、570億ドル以上とした従来見通しを引き下げています。一方、自己資本比率(CET1比率)は11.5%を確保、1兆ドル以上の流動性リソースがあり、財務的な体力は十分としています。 | ||
アマゾン ドットコム(AMZN) | 2483.00ドル | 75.9 | 【COVID-19のパンデミックは長期にはプラスへ】 ・COVID-19のパンデミックは、実店舗の閉鎖で需要がネット通販に流れて売上面では恩恵があった一方、COVID-19の影響下で操業を続けるためのコスト増で利益面ではマイナスでした。しかし、COVID-19の終息とともにネット通販事業の収益は回復すると期待されます。また、これまでネット通販は使ったことがないという人も今回は利用したとみられ、長期的には恩恵が上回ると期待できるでしょう。 ・1-3月期決算は、売上が前年同期比26%増と19年10-12月期の同21%増から加速したものの、北米事業の減益幅が拡大したことが響いて営業利益は同10%減となりました。4-6月期にもCOVID-19に対応するためのコストとして40億ドルがかかるとし、営業利益のガイダンスは15億ドルの赤字から15億ドルの黒字とし、前年同期の30.8億ドルから減益の見込みです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。スターバックスは21年9月期、その他は20年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
8(月) | ・日本実質GDP(1-3月期、確報値) | |
9(火) | ・日本工作機械受注(5月) ・ユーロ圏実質GDP(1-3月期、確報値) ・米NFIB中小企業楽観指数(5月) ・米求人労働異動調査(4月) |
米ネット証券のチャールズ・シュワブが新サービス「Schwab Stock Slices」を開始 |
10(水) | ・日本機械受注(4月) ・中国生産者・消費者物価指数(5月) ・中国資金調達総額(5月、15日までに発表) ・中国海外直接投資(5月) ・米FOMC政策金利 ・米消費者物価指数(5月) |
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11(木) | ・米生産者物価指数(5月) ・米新規失業保険申請件数(6月6日に終わる週) |
アドビ、ルルレモン、PVH |
12(金) | ・ユーロ圏鉱工業生産(4月) ・ミシガン大学消費者マインド(6月、速報値) ・米輸入物価指数(5月) ・米家計純資産変化(1-3月期) |
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15(月) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(5月) ・中国新築住宅価格(5月) ・中国調査失業率(5月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(6月) |
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16(火) | ・日銀金融政策 ・ZEW景気期待指数(6月) ・米小売売上高(5月) ・米鉱工業生産(5月) ・米NAHB住宅市場指数(6月) |
オラクル、レナー |
17(水) | ・EU27ヵ国新車登録台数(5月) ・米住宅着工・建設許可件数(5月) |
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18(木) | ・フィラデルフィア連銀景気指数(6月) ・米新規失業保険申請件数(6月13日に終わる週) |
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19(金) | ・米先物オプション清算日(トリプルウィッチング) | カーニバル(E) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成