米大統領選直前の10月末、30日の日経平均株価の終値は22,977.13円だった。その日経平均は11月に入ってから、1カ月前も経たないうちに3,000円超という記録的なペースでの急伸を見せ、一気に29年ぶりとなるバブル崩壊後の戻り高値を更新し、大台の26,000円をも超えてきた(11月24日終値時点)。
大統領選の投開票に伴う政局混迷、それによる株式市場の調整を見越してイベント前に売りを仕掛けていたヘッジファンドなどの短期筋が、大統領選が思いのほか早い段階でバイデン氏の当確で決まったことで、不透明感後退に伴うあく抜け感から急激に買い戻したのが大きな背景とみられている。
実際、東京証券取引所が発表している投資主体別売買動向によれば、11月第1週(11/2〜11/6)および第2週(11/9〜11/13)の間に、海外投資家は現物で合計7,000億円、先物との合算では2兆円超と大きく買い越しの動きをみせてきた。先物が主導とはいえかなりインパクトのある金額だ。
もちろん、大統領選通過によるあく抜け感だけでなく、各国での経済指標の改善や、国内主力企業の中間決算において相次いで好決算や通期計画の大幅上方修正が発表され、世界景気の底打ち感と共に製造業を中心とした強烈なX字回復が確認されつつあることも大きい。加えて、米ファイザー、モデルナ、英アストラゼネカなどが開発する新型ウイルスワクチンに大きな進展があったことも追い風となった。
世界の景気敏感株とも言われる日本株にとって、これらの材料は強烈な後押し材料となり、世界的にも日本株への見直しが進んできている。さらに、直近では、米国の次期財務長官に前米連邦準備制度理事会(FRB)議長だったイエレン氏の採用が決まったことで、大規模財政出動と平仄を合わせた柔軟な金融政策への期待感が高まったほか、トランプ氏が政権移行を認めたとの報道を受けて経済対策協議の遅行リスクが緩和されるなど、好材料が相次いでいる。
一方、国内外では新型コロナウイルスが第3波と呼ばれるほどまでに再拡大していることで、手放しで喜んでばかりもいられないのもまた事実。急ピッチでの株価上昇に対する警戒感もある。しかし、それでも市場はこの先も堅調な推移を辿ることが予想される。
まず1つ目に、ここまでの相場上昇の大きな背景として取り上げられる海外投資家については、年初から日本株を現先合算で大きく売り越しており、大統領選後にようやく明確な買い戻しに転じてきたばかりだ。そのため、改めて売りの動きに即座に転じることは考えにくい。2つ目に、ここまでの急ピッチの上昇に乗り遅れている多数の投資家の存在がある。海外投資家が大幅に買い越してきていた11月の第1週および第2週の間、逆張り志向の強い個人投資家は反対に1兆円を超える強烈な売り越しの動きを見せており、この間に換金化した資金がまだ手元に残っている可能性が大きい。
また、11月第1週、第2週の間に現物で日本株を買い越していたのは海外投資家以外では証券自己だけだった。国内の機関投資家などは、大統領選の混乱で下げてから買おうと決め込んでいた向きが多く、完全にこの11月に入ってからの上昇相場に乗り遅れている。そのため、こうした乗り遅れた投資家勢が下げた場面ではすかさず押し目買いをいれると考えられることから、指数は底堅く推移することが想定される。
物色面では、失業者数がまだまだ多く、GDP(国内総生産)の実質的な水準も依然としてコロナ前に遠く及ばないことを考慮すれば、この先もFRB主導の世界的な大規模金融緩和政策は当面続くとみられ、そうなれば、一時的に調整をみせたグロース銘柄も再びしっかりとした動きになることが期待される。つまるところ、景気回復期待が高まる中での低金利継続という市場にとって居心地の良い環境が続くことで、この先は、景気敏感系のバリュー株だけでなく、グロース銘柄、その両方の性格を併せ持つハイテク銘柄などを含めて広く買われる全面高に近い相場展開になることが想定されよう。
図1 日経平均チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
11月に入ってからの日経平均は3,000円以上の大幅上昇となり、およそ29年ぶりに26,000円台を回復した。3日に実施された米大統領選は紆余曲折を経つつも、民主党候補のバイデン前副大統領の勝利が確実となった。また、新型コロナウイルスのワクチン開発でも良好な試験結果が相次ぎ伝わり、先行きが明るくなったことで米NYダウは史上初の3万ドル乗せを達成。東京市場でも投資家心理が上向いた。
日本経済新聞社が算出する日経平均の予想PER(株価収益率)は10月30日時点で22.31倍だったが、11月25日には24.56倍まで上昇。また、PBRも1.07倍から1.19倍まで上昇した。ただ、外部環境の改善によるバリュエーション向上のみが株価を押し上げたかというと、必ずしもそうでない。
10月下旬から11月半ばまで企業の7-9月期決算が発表され、予想EPS(1株当たり利益、PERから逆算)は10月30日の1,029.90円から11月25日には1,070.72円まで増加。ちなみにBPS(1株当たり純資産)も21,473.95円から22,098.20円に増えた。つまり、コロナ禍で落ち込んだEPSが改善方向に転じてきたことも株価上昇に大きく寄与したと考えられる。
代表的なところでは、トヨタ自動車<7203>が2021年3月期通期の業績予想を上方修正しており、本業のもうけを示す営業利益を従来の5,000億円から1兆3,000億円(前期比45.8%減)に、最終利益については7,300億円から1兆4,200億円(同30.3%減)にそれぞれ引き上げた。コロナ禍でコスト削減などの努力を徹底したところ、産業のすそ野が広い自動車を中心に需要回復が想定より早く、期初予想より減益幅が縮小する企業が相次いだ格好だ。
米企業に遅れつつも、ここにきて日本企業の業績改善が明確になってきたことで、日本株が米国株をアウトパフォームするとの見方が増えてきた。バイデン米政権が発足することで米中摩擦が和らぐとの期待もこうした見方を後押ししている。
但し、2018年末にかけて米中対立の激化懸念が一段と強まる前、日経平均のPBRはおおむね1.2倍前後で推移していた。この水準は経済の正常化期待をある程度織り込んでいるとも言えるだろう。足元では新型コロナの感染が国内外で再拡大しており、政府は観光需要喚起策「Go Toトラベル」で一部地域を対象から一時除外。東京都は飲食店等への時短営業を要請し、海外でも規制再強化の動きが相次いでいる。足元の景気下押しリスクがくすぶるなか、バリュエーションが一段と向上するかは見通しづらい。ワクチン実用化への根強い期待に加え、中間配当の再投資といった需給面の押し上げ要因も多く挙げられるが、日経平均は目先、25,000〜26,000円台でもみ合う展開になるとみておきたい。
図2 NYダウチャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
日本
日本政府による経済支援措置によって7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は前期比+5.0%、年率換算では+21.4%となったが、4-6月期における前例のない大幅な経済の落ち込みからの回復は十分ではないが、感染症の予防効果が期待できるワクチン接種は2021年1-3月期に開始される見込み。雇用環境の先行きは不透明な状態が続くものの、インフレ鈍化の可能性は低いとみられる。日本銀行は現行の金融政策を維持し、必要に応じて適切な金融支援を実行していく。長期金利については、当面0.01%から0.05%近辺で推移し、ウイルスの感染流行が一服した場合、0.05%をやや上回る水準まで上昇する可能性がある。
- 10年債利回りの想定レンジ:0.01%−0.07%
アメリカ
市場関係者の間では「連邦政府債務は持続可能な水準の上限に達している」との見方が浮上している。民主党政権に移行し、前連邦準備制度理事会(FRB)議長のイエレン氏が財務長官に起用されても、大規模な財政支出を新たに実行することは難しくなると予想される。すでに米長期金利は上昇に転じており、FRBがインフレ進行を容認する姿勢を明確にした場合、長期金利は1%を超える可能性がある。FRBは長期金利の過度な上昇を抑えると予想される。為替については、政権移行が完了するまでは予断を許さない状態が続くとみられているが、民主党政権はドル高によるインフレ抑制を望んでいないとの見方が多い。低金利政策の長期化が予想されることから、リスク選好的なドル買い・円売りが拡大する可能性は低いとみられる。来年にかけて1ドル=100円を試す場面がありそうだ。
- 10年債利回りの想定レンジ:0.70%−1.00%
- ドル・円想定レンジ:99.00円−108.00円
ユーロ圏
11月23日に発表されたマークイット11月総合PMI速報値は、45.1と好不調の分岐点である50を下回った。欧州諸国におけるウイルス感染の再拡大によって経済的な規制措置が強化されたことが要因。欧州中央銀行(ECB)は12月に追加緩和を実行する見込みだが、今年春との比較で現在の経済規制措置は厳格ではないため、ユーロ圏の経済活動の落ち込みは軽微にとどまる見込み。ユーロ圏中核国であるドイツの長期金利は主に-0.50%近辺で推移し、下げ渋る状態が続く見込み。
為替について、欧州中央銀行のラガルド総裁は10月29日に行われ会見で「リスクが明らかに下方に傾いている現在の環境下で、理事会はパンデミックの動向やワクチン展開の見通し、為替レートの値動きなど今後の情報を慎重に評価していく」との見方を伝えている。それ以前にも「現在は不確実性が高まっているため、外国為替相場の動向を含む入手可能な情報の注意深い検証が必要になる」と指摘しており、ユーロ高の進行を警戒していることは否めない。12月開催の理事会では、ECBによる資産購入枠の拡大について議論される見込みだが、ユーロ高の進行を抑制する方針を提示する可能性もある。
- ドイツ10年債利回りの想定レンジ:-0.40%−0.55%
- ユーロ・円想定レンジ:118.00円−126.00円
図3 ドル円チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
図4 ユーロ円チャート 日足、1年チャート
- ※SBI証券サイトより転載
提供:フィスコ社