上場企業の2019年4-9月期決算発表が一巡した。一部メディアの集計によれば、上場企業(新興市場、親子上場の子会社などを除く)の4-9月期純利益は前年同期比で14%減った。業種別では製造業が31%減。電気機器を中心に大きく落ち込んだ。非製造業は6%増だったが、消費増税前の駆け込み需要が押し上げに寄与したとみられている。業績下方修正も製造業を中心に相次ぎ、下期の純利益見通しは10月1日時点で2割増だったのが足元で3%増まで下がったという。通期では7%減となるもよう。
決算発表シーズン中も日経平均の年初来高値更新は続き、11月8日の取引時間中には一時23591.09円まで上昇した。騰勢を強める前の10月10日終値(21551.98円)からの上昇幅は2000円以上に上る。企業の業績下方修正に伴い、1株当たり利益(EPS)は10月半ばの1750円程度から1660円程度に減少。一方で株高により株価収益率(PER)は12倍台から14倍程度まで上昇した。この間、金融市場では米中貿易協議の進展期待が高まり、日米で長期金利が上昇するとともに株価指数先物が買われた。個別株でも半導体関連を中心とした値がさのハイテク株が値上がりしたうえ、金利上昇で外需系の割安(バリュー)株が買われる場面もあり、相場全体を底上げした。製造業の決算は冒頭で述べたとおり落ち込みがきつく、通期予想の下方修正幅が市場の想定以上だった企業も多かったが、発表後の株価を見ると悪材料出尽くし感から上昇した銘柄が少なくない。PER上昇主導の株高は、市場の目線が「来期の業績持ち直し」に移ったことを示すものと捉えられる。
投資主体別売買動向を見ると、10月半ばごろから海外投資家の現物株買いが目立つ。世界経済や企業業績の底打ち期待で主要国の株価が上昇するなか、海外投資家は日本経済の先行きに不安を持ちつつも、「世界の景気敏感株」とされる日本株のアンダーウェート(弱気)解消に動いているようだ。厳しい事業環境の電機セクターを中心に親子上場を解消する動きが相次ぐなど、コーポレートガバナンス(企業統治)の改善がみられることも日本株の再評価につながっているという。
ただ、米中協議の進展期待に覆い隠され、企業を取り巻く事業環境の実態が見えにくくなっている可能性もある。半導体は最終製品メーカーの在庫水準が極度に落ち込み、水準修正の動きが期待されるうえ、製造装置についても下期に半導体各社の設備投資立ち上がりが見込まれるという。反面、自動車は米国を除く主要国・地域で販売低迷が続いており、工作機械・FA(ファクトリーオートメーション)も底打ち機運はなお乏しい。外需関連株全般の株高は危うさもはらみ、米中協議の行方に株価が大きく振らされる可能性もあるだろう。実態をよく見極めたうえでの銘柄選別が重要となってくる。
足元の日経平均は、10月半ばから強まった上昇トレンドの流れから、11月8日に年初来高値(ザラ場)23591.09円をつけ、その後は節目の23000円との間でのもみ合い推移となっている。同日につけた11月オプション特別清算指数(SQ)値である23637.93円を上抜ける展開には至っていない一方で、節目の日経平均23000円処では、直近の価格帯別売買高にて商いの積み上がりがみられてきており、同水準のサポートラインとしての信頼度も徐々に高まっているもようである。主な背景としては、10月半ばにかけて開催された米中貿易交渉にて両国が第1段階の合意に至り、同月15日に予定されていた関税引き上げ措置は見送られる方向となったことが挙げられよう。これをきっかけに国内外の投資家による米中貿易摩擦に絡んだ過度なリスク回避姿勢が後退し、東京市場では景気敏感株を中心に上値追いの動きに繋がった。
また、日本企業の7-9月期の決算では、減益決算や業績見通しの下方修正を発表した後にアク抜け感から株価が上昇する銘柄も散見され、半導体関連をはじめとした日本企業の業績底入れ期待も支援材料となった。東証と大阪取引所の集計による投資部門別売買状況では、海外投資家は11月第1週(5-8日)、現物・先物合計で5週連続の買い越しとなったほか、現物に関しては6週連続の買い越しとなっており、海外マネーが日本株へと回帰する格好となっている。
11月半ばにかけての米国株式市場では、NYダウやナスダック、S&P500といった主要3指数が揃って連日で過去最高値を更新する場面が目立った。米中貿易交渉の進展期待が優勢になるなか、欧州連合(EU)が英国のEU離脱期限の延長を認めたことも追い風となった。また、注目された10月連邦公開市場委員会(FOMC)では、想定通りに政策金利が引き下げられ、連邦準備制度理事会(FRB)議長が今後の利上げには大幅なインフレ率上昇が必要になるとの認識を示し、米国株は更に上げ幅を拡大。引き続き香港情勢が気がかりなほか、トランプ大統領をはじめとした要人発言に振らされる地合いは継続しているものの、10月雇用統計や小売売上高などの堅調な経済指標や、金融やヘルスケアセクターでの好決算が確認されたこともあり、下値で拾う投資家も多くみられている。これにより、米国株は高値圏を維持する展開になっている。
日本銀行の金融政策について
- 次回の日銀金融政策決定会合:金融政策は現状維持の公算
- 次回の予想:12月19日発表 金融政策などは現状維持の予想
- 長短金利操作(イールドカーブ・コントロール) 現状維持の予想
- 短期金利:日本銀行当座預金のうち政策金利残高に−0.1%のマイナス金利を適用
- 長期金利:10 年物国債金利が0%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は、経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるものとする。
※買入れ額については、保有残高の増加額年間約 80 兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する
- 政策金利のフォワードガイダンス 現状維持の予想
「政策金利については、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」
- 資産買い入れ方針 現状維持の予想
- ETFおよびJ-REIT:保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。
- CP等、社債等:それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
11月11日に公表された「金融政策決定会合における主な意見(2019 年10月30、31日開催分)によると、「わが国の景気は、基調としては緩やかに拡大している。先行きは、潜在成長率並みの成長が見込まれる。ただし、海外経済の減速や消費税率の引き上げの影響等に注意が必要である」などの意見が出ている。海外経済の先行きについては不確実性が高まっており、物価のモメンタムが損なわれるおそれが高まる場合には、追加の緩和策をすみやかに講じる姿勢を改めて示すとみられる。足元で年間の買い入れ目標に対して大幅なペースの遅れが目立つ日銀によるETF買いについては、11月19日に日銀・黒田総裁が参議院財政金融委員会で、対応方針について「弾力的に」と強調したことが話題となっている。これを受け、これまで買い入れ出動の目安として意識されていた前引け時点の東証株価指数(TOPIX)下落率0.5%という水準で、後場の東京市場が日銀ETF買いへの思惑から下げ渋るといったシナリオも従来より意識されにくくなる可能性がありそうだ。
FRBの金融政策について
- 次回のFOMC会合:政策金利は据え置きの公算
- 次回の予想:12月11日発表 政策金利(FFレートの誘導目標水準)は1.50%−1.75%に据え置かれる見込み
米連邦準備制度理事会(FRB)は12月10−11日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、金融政策を決定する。政策金利(FFレートの誘導目標水準)は現行の1.50%−1.75%に据え置きとなる見込み。
- ドル・円相場の見通し:日米株式の先高観は大きく後退していないことから、米追加利下げ観測は消えていないものの、リスク回避的なドル売り・円買いが大きく広がる可能性は低いとみられる。
- ドル・円の想定レンジ:107.00円−110.00円
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は11月13日の米議会証言で「米景気は貿易戦争による下振れリスクがあるものの、金融緩和が後押しして緩やかな経済成長が続く」との見方を示した。ただ、パウエルFRB議長は18日、トランプ米大統領、ムニューシン米財務長官とホワイトハウスで、景気や経済成長、雇用、インフレについて話し合いを行なっており、トランプ大統領は金利引き下げを要請した可能性がある。経済情勢次第となるが、消費やインフレ関連の指標が改善しない場合、2020年1月のFOMC会合で0.25ポイントの追加利下げが決定される可能性は残されている。日本株の為替との連動相関も市場では重要視されつつあるなか、米国の利下げ(金融緩和)余地が残されている状況は、現行の米国株高の展開にとってもサポート要因となろう。
欧州中央銀行の金融政策について
- 次回のECB理事会:主要政策金利は据え置きの予想
- 次回の予想:日本時間12月12日午後9時45分発表予定
- 預金ファシリティ金利:-0.50%(据え置き予想)
- 主要リファイナンス金利:0.00%(据置き予想)
- 限界貸付ファシリティ金利:0.25%(据え置き予想)
- ユーロ・円相場の見通し:米国の追加利下げ観測が再浮上しているが、米中通商協議のすみやかな進展に対する懐疑的な見方があることから、リスク選好的なユーロ買い・円売りが大きく広がる可能性は低いとみられる。
- ユーロ・円の想定レンジ:117.00円−122.00円
欧州中央銀行(ECB)は12月12日開催の理事会で、現行の包括的な金融緩和策を維持することを決定する見込み。ユーロ圏成長の下支えや物価の押し上げに向けあらゆる措置を講じる姿勢を維持するとみられる。ただ、一部のユーロ加盟国による財政支出の増大の必要性や有効性などについて、理事会で議論する可能性もある。ユーロ国家の景気刺激策に対しては、現状の株式市場ではポジティブに捉えられている。そのほか、12月12日に投開票を控える英国のEU離脱を巡る総選挙では、保守党勝利による円滑な欧州連合(EU)の公算も高まっており、欧州株式市場の堅調さに繋がる要因となろう。
提供:フィスコ社