19年1月から2月にかけての東京市場では、日経平均は21,000円を前にした上値の重さが意識されていた。米中貿易摩擦や英国によるEU離脱問題の動向に一喜一憂する展開が続き、世界経済の減速懸念の高まりなども相まったことから、ともに12月末にかけて急落を見せた日米株価だが、現状は懸念緩和から米NYダウ・ナスダック指数ともに12月初旬の水準を回復している。
一方の日経平均株価は、戻り基調が継続しているものの、昨年12月3日高値(22,698.79円)から12月26日につけた昨年来安値(18,948.58円)の半値戻しレベルを達成した。半値戻しは全値戻しと行きたいところだが、決算発表の内容から日本企業の業績に対する懸念が高まり、米国市場に比べ上値が重くなっている。
他方、今回2月初旬に集中した企業の10-12月期決算では、市場コンセンサスを下回る着地であったり、会社計画の下方修正を発表したものの、悪材料出尽くしとの見方が先行して決算後に買われる銘柄も散見された。日本企業の決算に対する想定外の市場反応を受けて、海外短期筋によるショートカバーの動きが見られる場面もあったが、積極的な上値追い材料には欠ける状況である。12日の米国市場にて、米上下両院の交渉担当者が国境警備予算案で合意に達したことで、政府機関閉鎖への懸念が後退するなか、米中高官協議の進展を期待する見方も広がったことから13日の日経平均はようやく節目の21,000円を回復した。とはいえ、海外では14-15日にかけて米中閣僚級による貿易協議が行われる予定であるほか、同時期に英国によるEU離脱案修正の議会での審議採決なども控える。決算ラッシュ後の手がかり材料難が意識されてくるなかで、依然としてこれら海外の政治イベントに対する市場反応にも一段と振らされやすくなろう。
日米決算状況の総括
2018年10-12月期の決算発表が一巡しつつある。一部メディアが8日集計した結果によると、国内上場企業の同期間の純利益は前年同期に比べ24%減ったようだ。10四半期ぶりの減少となる。外需系の企業を中心に業績下振れが相次ぎ、中国経済の減速や米中摩擦が企業業績にも影響を及ぼし始めてきた。また、金融などを除いた東証1部企業の19年3月期通期の純利益見込みは前期比で0.4%減となっている。昨年11月時点の集計では1.2%増だったが、減益見込みに転じた。
米国では主要500社の19年1-3月期の1株当たり利益が前年同期に比べ1.7%減るとみられている。昨年12月末時点では3.3%増と見込まれていたが、18年10-12月期決算を受けてアナリストが業績予想の下方修正を強いられた。日米とも企業業績の先行きには不透明感が漂う。
日経平均の予想1株当たり利益(EPS)の推移を見ると、昨年12月末時点でおよそ1,784円だったのが、2月8日時点では1,747円となり、やはり拡大一服といった様相だ。ただ、小売大手の決算や一部企業の業績下方修正が発表された1月半ばから下旬にかけて1,720円程度まで減る場面があり、その時点からはやや持ち直した格好となっている。日経平均は1月以降、短期調整を挟みながら21,000円程度まで値を戻してきたが、企業業績に対する過度な懸念が和らいだことも一因とみられる。
図1 直近1年の日経平均チャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
図2 直近1年のNYダウチャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
米中貿易協議の途中経過について
米国と中国は今年1月上旬より、貿易不均衡の是正や知的財産権の侵害を見直すことなどについて協議を進めている。1月7−9日に行われた次官級協議では「公正で互恵的で均衡の取れた」両国の貿易関係を達成する方策について、技術移転の強要や知的財産保護、非関税障壁、商業目的で企業秘密を盗むサイバー攻撃などに関して議論された。
1月30−31日に開かれた閣僚級協議では、次官級協議でみられた見解の相違などについて議論された。中国側は米国産の大豆輸入を増やす方針を公表し、一部報道によると、中国側は今後6年間にわたり1兆2,000億ドル規模の米国商品を輸入する意向を示したとされる。ただし、問題解決についてはさらなる協議に委ねられることになった。米国の貿易赤字削減については、中国側が1兆2,000億ドルの追加輸入を提案しており、一定の成果を得たとみられる。
ただし、3月1日の交渉期限までに、「公正で互恵的で均衡の取れた」両国の貿易関係を達成することができるか、予断を許さない状況が続いている。11日から北京で貿易問題をめぐって次官級協議が再開されており、この後14−15日の2日間で行われる閣僚級の協議で知的財産権の侵害の問題などで、中国側の対応を見極めることになる。
なお、トランプ大統領は12日、「中身のある合意に近づいているならば、交渉の期限を少し延ばす可能性がある」との見方を示しており、追加の制裁措置の発動を猶予し、期限を延長する可能性が浮上しているが、14−15日に行なわれる閣僚級協議で有意義な進展がみられない場合、米国側は中国からの輸入品にさらに高い関税を課す制裁措置の発動を3月1日に発動する可能性は依然として高いとみられる。
株価への影響について
米中貿易協議で期限までに合意形成を図ることができれば、世界経済の減速懸念はある程度緩和される見込み。ドイツなどの欧州地域から中国向けの自動車輸出はある程度持ち直し、この動きを好感して日本の輸出関連部門にも好ましい影響を与える可能性がある。日経平均は当面の悪材料出尽くしとなり、ひとまず22,000円台を目指す展開も期待される。
貿易・通商問題に関する米中協議(交渉)は制裁措置が発動された場合でも継続する可能性はあるものの、「公正で互恵的で均衡の取れた」両国の貿易関係を早期に構築する目途がたたない場合、米中貿易摩擦は深刻化、長期化し、日本経済にも重大な影響が及ぶことは避けられない。外需の落ち込みや企業設備投資の抑制などの影響で2019年1−3月期の経済成長率は2018年10−12月期の成長率(市場予想で前期比年率+1.4%程度)を下回る可能性がある。日経平均は13日までに21,000円台を回復したが、米中貿易摩擦が深刻化した場合、今年前半に昨年12月26日につけた直近安値(18,948円)を再度試すような厳しい相場展開もあり得る。
欧州連合(EU)からの英国の離脱(ブレグジット)については、2017年3月29日にリスボン条約第50条を発動させていることから、2019年3月29日(金曜日)が期限となる。1月15日に英議会下院でメイ首相と欧州連合(EU)が合意した英国のEU離脱協定案の承認採決が行なわれたが、432対202の大差で否決された。
英政府報道官によると、ブレグジットに関する交渉でEU側の責任者を務める欧州委員会のバルニエ首席交渉官と英国側のバークレイEU離脱担当相は今月11日、ブリュッセルで会合を開いた。報道官によると、両者はブレグジットにおける次のステップを議論し、英国議会とEUの両方が受け入れ可能な打開策を見いだせるかを探るために会談し、さらなる協議を行うことで一致した。
メイ首相は11日に行われた会合でのEU側の反応を点検し、13日にEUとの修正協議がどこまで進展したかを議会で発表する予定。14日は、離脱問題全般を巡る動議が提出され、それに基づいて議会で審議が行われる。メイ首相が14日までにEUから修正を引き出せないことは決定的であり、離脱全般を巡る14日の審議は行なわれることが確実視されている。
想定される4つのシナリオ
ケース1:NO DEAL(合意なしの離脱)
英議会による英EU交渉結果不承認による時間切れ等で離脱協定が発効しないまま、2019年3月30日に離脱が発効するケース。金融市場にとっては最悪のケースとなる。
ケース2:交渉期限延長
離脱協定が発効せず、再交渉のために欧州連合条約第50条に基づく加盟国の全会一致による交渉期限延長。(EU側は離脱協定再交渉のための延期の可能性を否定しており、実現の可能性は極めて低い)
ケース3:離脱協定発効(合意ある離脱)
離脱協定の発効(アイルランドに係る議定書含む)によって、移行期間中に将来関係について交渉を継続する。
ケース4:NO Brexit(離脱撤回でEUに残留)
可能性はかなり低いとみられるが、何らかの国内事情による英国による離脱撤回。撤回期限は2019年3月29日まで、それ以降はEU新規加盟手続きが必要だが、国民投票実施のためには一定の準備期間が必要となる。
政府関係筋などの話をまとめると、メイ首相が現在、離脱交渉で追求しているのは3つの選択肢。1)EUの同意なしに英国がバックストップの効力を停止する権利を得ること、2)バックストップに期限を設ける、3)バックストップに代わる新たな策を見いだすとみられている。英議会は14日にブレグジットに関して審議するが、13日までにメイ氏の離脱協定案について再び採決を行う予定は決まっていない。関係者によるとメイ首相は、修正協議で2月26日までにEUと合意できない場合は議会に進ちょく状況を報告するもよう。
英政府とEUで合意された離脱協定案及び政治宣言骨子の主な内容
- 移行期間中の英国にはEU法(国際約束を含む)が引き続き適用される。移行期間は2020年12月31日に終了するが、合同委員会の決定により、移行期間を延長することは可能。
- 英国は2019年及び2020年のEU予算を引き続き支払いし、ECB(欧州中央銀行)から脱退する。
- 移行期間の終了から8年間、EU司法裁判所がEU法の解釈に権限を有する。離脱協定の実施のために合同委員会を設置。合同委員会における協議で解決しない紛争は仲裁に付託される。
提供:フィスコ社