前回のレポートでは日米欧という世界の主要国・地域の金利が低水準な状況が続く中、イールド・ハングリーな(利回りに飢えた)マネーが今後どこに向かうのか先進国に焦点を当てて見ていきました。今回は新興国編と題し、新興国に焦点を当てて検証していきたいと思います。
新興国債券の高い利回りとリスク |
新興国国債の利回りは先進国と比較して高くなっています。主要新興国の中でも利回りの高いブラジルの10年国債利回りはドイツの約10倍、日本の20倍超となっています。
図1:各国10年国債利回り(2014年7月末)
- (出所)bloombergよりSBI証券作成。
利回りが高いからと言ってすぐに新興国の債券に飛びつくのは危険です。図2で各国の外貨建て長期債務信用格付を見ると新興国の方が先進国よりも総じて低いことが分かると思います。信用格付とは、格付機関が「その国や会社の長期的な債務支払い能力を評価した上でランク付けしたもの」です。格付けの表記は評価機関ごとに違いはありますが、一般的にAAAが最も高く、下になるほどややその確実性(健全性)が低くなります。
つまり新興国は国債利回りが高い一方で、先進国と比較すると経常赤字や政情不安などによって債務返済能力が低くなっている国もあり、リスクが伴うことは認識しておく必要があります。
その上で再び図2を見てください。図2では現在の格付けと合わせて2000年12月末の格付けも併記しています。格付けの変化に着目すると多くの新興国の格付けが引き上げられているのが分かると思います。新興国は2000年以降、急速な経済成長に伴い信用力を向上させています。今後も成長余力が高いと見込まれる新興国では、経済状況の改善とともに更なる信用力向上が期待できます。そのような将来性を勘案すると新興国債券の現在の高い利回り水準はやはり魅力的と言えます。
図2:主要国の格付の変化(2000年12月末と2014年7月末の比較)
- (出所)S&Pの外貨建て長期債務格付。□は、2000年12月末の格付、○は、2014年7月末の格付。○のみの国は格付の変化なし。
新興国の通貨は割安? |
前回のレポートで海外の債券に投資をするとき利回りの水準と合わせて通貨の値動きが重要となるという話をしました。実は多くの新興国通貨は購買力平価の観点から割安に放置されていると言えます。
図3:購買力平価から見た各通貨の為替水準 (対米ドル)
- (出所)IMF 「World Economic Outlook Database, April 2014」、bloombergよりSBI証券作成。
- (注)購買力平価は2014 年予想、各国の対米ドル為替レートは2014年8月7日現在。
購買力平価とは、為替レートは2国間の通貨の購買力によって決定されるという説で、長期の為替レート決定理論としてよく用いられます。具体的には、例えばアメリカでは1ドルで買えるハンバーガーが日本では100円で買えるとするとき、1ドルと100円では同じものが買える(つまり1ドルと100円の購買力は等しい)ので、為替レートは1ドル=100円が妥当だという考え方です。
購買力平価 例
図3はIMF(国際通貨基金)が推計している購買力平価に基づく為替レートと足元の為替レートを比較してその割安度を測ったものです。IMFでは過去の一時点を起点として、その後の当該国間のインフレ格差から時系列的に物価を均衡させる為替相場を算出しています。これを見るとオーストラリアやニュージーランドといった先進国通貨は対米ドルで割高となっていますが、インドや南アフリカをはじめとした新興国通貨は軒並み割安となっています。
今後、新興国経済が成長し、通貨の流動性が高まる過程では購買力平価対比での乖離率は縮小していく可能性が高いと考えられます。
資金用途で選ぶ運用法 |
先進国通貨建て投資商品への投資を考えた時には、資金用途毎に債券、MMF、FX(外国為替保証金取引)など幅広い選択肢から選ぶことが可能でした。しかし、新興国通貨の場合、自国の通貨当局によって海外流通を制限されている国が多くあり投資商品の選択肢が限定されてきます。
トルコ・リラ、南アフリカ・ランド、メキシコ・ペソ
新興国通貨建て商品の中でも先進国通貨並みに選択肢が多いのがトルコ・リラと南アフリカ・ランドです。
長期投資向きの債券、中期投資向きの外貨建てMMF、短期投資向きのFXなどから選ぶことが可能です。
また、メキシコ・ペソについても外貨建てMMFは取扱いはないものの、FXを通じて取引可能です。
ブラジル・レアル、インド・ルピー、インドネシア・ルピア
ブラジル・レアル、インド・ルピー、インドネシア・ルピアは比較的アクセスの難しい通貨となっています。
しかし、これらの通貨も債券や投資信託を通じて取引可能です。