日経平均株価15,000円割れは“買い”?予想EPS(一株利益)の拡大が株価上昇につながる公算
現在の株式市場を支える「プラス要因」と「マイナス要因」は?
株式市場は一進一退の展開となっています。日経平均は昨年12月30日(大納会)に、16,291円という「アベノミクス相場」の高値を付けましたが、1〜3月は、それよりも低い水準での揉み合いになってしまいました。表1は、そんな株式市場を取り巻く、投資環境を「プラス要因」と「マイナス要因」に分けたものです。それにもとづいて、今後の相場動向について考えてみたいと思います。
表1:株式市場を取り巻くおもな「プラス要因」「マイナス要因」
各種資料・報道等をもとにSBI証券が作成。
現在は、表中のマイナス要因のうち、特に、消費税引き上げにより、2014年4〜6月期のGDPが急減速するかもしれないとの懸念や、この消費税引き上げや円安効果一巡を背景に上場企業の業績が減速する可能性、米国市場で高速取引が問題視され始めたこと等の要因が強く意識され、株価の頭が押さえられていると考えられます。このうち、米国市場の高速取引に関する問題は、3月雇用統計発表直後の4月4日(金)に、米国株が下げた大きな理由のひとつと考えられます。高速取引をめぐり、一部市場参加者が「不当な利益」をあげているのではとの当局による懸念は、市場参加者を委縮させ、売買ボリュームの縮小につながる可能性があり、注意が必要です。事態が長期化の様相を呈した場合、日経平均が一時的に、波乱の展開になる可能性には注意が必要です。
しかし、これらのマイナス要因が次第に株価に織り込まれ、プラス要因が意識されることにより、株価は上昇志向を強める可能性が大きいとみられます。雇用の拡大や賃上げによる可処分所得の下支えは、前回の消費税引き上げ(97年4月)にはほとんどなかったことであり、消費税増税による景気減速リスクを小さく抑えることが可能とみられます。それが経済指標に反映されることで、景気・企業業績の拡大が再認識され、2015年3月期における1割程度の営業増益予想について確度が高まれば、企業心理の委縮も次第に解消してゆくとみられます。また、4月7日に日豪EPA(経済連携協定)が基本合意をしましたが、このことで、停滞していたTPP交渉が、日米で合意に近づく可能性が膨らんできたと考えられます。
TPP交渉が進み、安倍政権が成長戦略をしっかり打ち出す(6月の予定)ことができれば、市場が期待しているように、日銀は万が一の時に追加的な金融緩和を「躊躇なく」実施することが可能になります。今のところ、市場は7月14〜15日の金融政策決定会合で追加緩和があるとの見方をメインシナリオに据えており(サブシナリオは、6月または8月)、この場合、円安は持続し、株高も次のステージに進むと考えられます。
なお、ウクライナ問題については、ロシアにとって貴重な外貨獲得手段である天然ガスの輸出先を確保する上でも、欧米との衝突はないと考えるのがメインシナリオです。ただし、中国経済リスクは、長期化する可能性があり、時折、株式市場に逆風を吹かすことになる可能性があります。
企業業績の拡大・予想EPSの上昇が日経平均を下支える
株式市場は、いくつかのリスク要因を織り込みつつあり、一時的な波乱も警戒されるものの、基本的には上昇基調にあるとみられます。それは、株価にとって最も基本的な企業業績が、拡大し、株価を下支えすると考えられるためです。
日経平均株価の下値支持ラインについては、以前もご紹介した通り、日経平均株価のその当日の予想EPS(一株利益)に14倍をかけた水準(予想PERが14倍と計算される日経平均株価の水準)が支持ラインになっているようです。2012年11月に野田・前首相が解散総選挙を表明した時の予想PERが13.6倍であったため、市場の「期待」を反映するPERが14倍を割り込むと、その水準に限りなく、予想PERが接近してしまうためとみられます。
一方、上値については、おおよそ13週移動平均の水準が重要な抵抗ラインになっています。少なくとも、2014年に暦が変わって以降、株価が反発に転じても、同移動平均の水準を大きく超えることなく、跳ね返される展開が3回も続いています。テクニカル的には、ここを突破することが、さらに株価が上昇してゆくための課題になります。
さて、今後の日経平均株価の推移については、どう予想すべきでしょうか。ここで改めて、下値支持ラインとなる予想PER14倍相当の日経平均株価について、先行きを考えてみることで、推定したいと思います。
計算のもとになる日経平均株価の予想EPSについてですが、その計算の基礎になる日経平均採用銘柄の予想利益は、おもに、3月期決算企業の14年3月期予想利益になっています。そして、決算発表とともに15年3月期の予想利益が中心的になってゆくとみられます。4月4日現在、日経平均の予想EPSは1022円となっていますが、決算発表を経て、仮に、これが5%程度上昇するならば、予想EPSは1,073円に、10%程度上昇するならば、1,124円に増加すると計算されます。
前者に予想PER14倍をかけると15,023円、後者に同14倍をかけると15,738円となりますので、その分、下値支持ラインが現在の14,307円(1,022円×14倍=14,307円)から上昇するという計算になります。アナリスト・コンセンサスを見る限り、2015年3月期は10%程度の営業増益が見込めますので、上述したように、EPSが5〜10%増えるとの予想に無理は少ないと思います。
ちなみに、2014年4月から、復興特別法人税が前倒しで廃止されるため、法人税の実効税率が38.01%から35.64%に下がることになっています。法人税の減少は、企業の予想EPSを押し上げる要因になります。さらに、6月にまとまる安倍政権の成長戦略でさらなる法人減税が盛り込まれれば、将来、予想EPSはさらに押し上げられ、日経平均の「下値支持ライン」も上昇することになるとみられます。
先物取引は、メジャー限月(3の倍数月(3月、6月、9月、12月))のうち、最終取引日の最も近い限月(期近(きぢか)と呼びます)が、出来高が最も多い傾向にあり、現時点においては6月限が該当します。出来高の多い限月は、取引参加者が多く、適正価格で注文が成立しやすくなっているため、これから初めて先物取引を始める投資家の方は、6月の最終取引日に向けて、日経平均株価が15,000円を割れた局面で、“新規買”を行っていくのも一つの戦略かもしれません。
図1:日経平均株価(日足)と主要移動平均
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。予想PER14倍ラインの基準となる予想EPSは日経公表データより作成。