5月第2週(5/9〜5/13)は、日経平均株価、米主要3指数ともに2%台の下げになりました。インフレ・金利上昇等に対する懸念がくすぶり続けていることや、中国経済の減速・悪化が気になる状況です。そうした中、東京株式市場ではこの週、決算発表が佳境となり、市場予想を下回る利益見通しを公表する企業が多くなることが心配されていました。
ただ、決算発表も5/16(月)をもって、おおむね一巡しました。終わってみれば思いのほか、底堅かったとの印象が残りました。自社株買いを発表する企業も多く、その分株価も下支えされました。今後の株式市場については、どう予想すべきでしょうか。そろそろ、株価が反転に転じる可能性はあるでしょうか。
5月第2週(5/9〜5/13)の日経平均株価(週足)終値は26,427円65銭となり、前週末比575円91銭(2.1%)安と反落しました。米国市場が続落基調となり、この週もそれぞれ、米S&P500が2.4%、NYダウが2.1%、ナスダックがは2.8%下落しており、その影響が国内市場にも及びました。
米国市場は引き続き、インフレ・金利上昇懸念が逆風になりました。FRB(米連邦準備制度理事会)による急ピッチな利上げが続くとの懸念から、5/5(木)にNYダウが1,063ドルも下落しました。その後、5/12(木)まで6営業日続落となりました。5/13(金)に4月の雇用統計が発表され、労働参加率が低下する中で、賃金上昇の継続が確認されました。4月の米消費者物価指数は、市場コンセンサスを上回る高い伸びが観測されました。
中国では上海でのロックダウンが続く中、経済の減速・悪化が顕著になってきました。5/9(月)発表の4月貿易統計では、輸出増加率の減速が確認され、5/13(金)の4月資金調達額や同人民元建て融資も急速に減少しましたが、株価は案外堅調でした。なお、5/16(月)に発表された鉱工業生産、小売売上高などの4月の経済指標も事前予想を下回る弱い数値になりました。
こうした中、国内上場企業の決算発表が佳境を迎え、企業業績への不透明感も影響しました。5月第2週は連日で3桁以上の数の上場企業が決算発表を実施し、5/12(木)には602社、5/13(金)には1,263社もの数となりました。3月決算企業の場合、同時に発表される2023年3月期の業績について、市場予想を下回る利益見通しを公表する企業が多く、投資家の様子見を促す要因となりました。
ただ、決算発表と同時に自社株買いを発表する企業も増えました。4/21(木)〜5/13(金)の決算発表時期には、合計で200社以上の上場企業が自社株買いを発表しました。発表後、株価が上昇するケースも多く、業績予想の下振れという株価下落要因との綱引きになりました。
個別には、プラント大手である日揮ホールディングス(1963)の株価上昇が目立ちました。5/12(木)の決算発表にて、2023年3月期の受注高が2.3倍に増えるとの見通しを示しました。ロシアのウクライナ侵攻等を背景に、エネルギー安全保障に対する意識の高まりから、プラント投資の再開が見込まれるようです。加えて、同期の予想配当を前期比9円増の24円増と増額したことも好感されました。
一方、大平洋金属(5541)の下落が目立ちました。5/10(火)の決算発表にて、2023年3月期の営業利益は前期比80.8%減になるとの見通しを示しました。前期に業績が大幅改善した後だけに、失望売りを招きました。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
日経平均株価(終値) | 前日比 | NYダウ(終値) | 前日比 | 国内株式市場の動き | 米国株式市場の動き | |
5/9(月) | 26,319.34 | -684.22 | 32,245.70 | -653.67 | 急反落。グロース売りが優勢で全面安。 ・米長期金利の上昇が重石に。米金融引締め加速懸念が再燃。 ・ロシアの対独戦争記念式典が開催予定で、プーチン大統領の動向に警戒感が高まる。 |
大幅に3営業日続落。NASDAQは-4.3%。 ・長期金利が一時約3年半ぶりの水準まで上昇。 ・スタグフレーション(=インフレ+景気後退)への警戒感が、前週末から続いた。 |
10(火) | 26,167.10 | -152.24 | 32,160.74 | -84.96 | 続落。東証グロース指数は小幅反発。 ・リスクオフムードが継続。 ・米株式先物と上海株が堅調に推移し、相場を下支えする。 ・中国ロックダウンによる需要悪化懸念で原油価格が下落。関連株が売られる。 |
小幅続落。NASDAQやS&P500は反発。 ・今後の米金融政策を左右するとされているCPI(消費者物価指数)の発表を翌11日に控え、もみ合い商状。 ・前日に大きく売られていたハイテク株に、買い戻しが入る。 |
11(水) | 26,213.64 | +46.54 | 31,834.11 | -326.63 | 小幅に反発。 ・前10日のNASDAQに連れて、ハイテク株が選好される。 ・トヨタが急落。決算発表にて今期減益見通しを示していた。 ・米CPI発表を同日夜に控え、見極めムード。 |
主要3指数揃って下落。 ・4月CPI(コア含む)は、市場予想を上回る。インフレピークアウト期待は後退。 ・10日に続き短期金利は上昇し、長期金利は下落。イールドカーブのフラット化を受け、金融引締め加速による、景気悪化懸念の広がりを指摘する声も。 ・大型ハイテク株が軒並み下落。 |
12(木) | 25,748.72 | -464.92 | 31,730.30 | -103.81 | グロース株を中心に大幅安。 ・米国市場に連れ安。 ・ダイキンやSUBARUなどは好決算が買い材料とされ、上昇。 ・引け後に決算発表予定のSBGが大幅安。 |
続落。 ・サンフランシスコ連銀総裁が75bpの利上げは検討していないと発言。 ・市場ではインフレ長期化のみならず、景気後退への懸念を指摘する声も。 |
13(金) | 26,427.65 | +678.93 | 32,196.66 | +466.36 | 大幅反発。 ・決算発表を終えて、SBGや東エレクが買われる。 ・大手石油元売り会社の上昇が目立った。(決算発表:コスモHD⇒12日引け後、ENEOS⇒13日後場)決算は、原油高を背景に、軒並み過去最高益。 |
グロース優勢に大幅反発。全面高商状。 ・前日引け後、FRB議長が今後2回の会合では50bpの利上げ可能性が高いと発言。過度な金融引締め懸念が後退し、長期金利が低下。 ・テスラCEOがTwitter買収の一時保留を発表。 |
16(月) | 26,547.05 | +119.40 | 32,223.42 | +26.76 | もみ合いとなり、グロース中心に小幅続伸。 ・13日の米国市場に連れ高。 ・中国経済指標の悪化が重しに。 ・上海副市長のロックダウン解除表明が伝わり、好感される。 |
ほぼ横ばいだが、小幅続伸。NASDAQは反落。 ・5月NY連銀製造業景況指数が大幅縮小。景気後退懸念が高まる。 ・金利は低下するも、13日の急騰と景気悪化懸念からグロースが売られる。 ・原油高(EU:ロ産石油の段階的禁輸見込み)で、エネルギー株が上昇。 |
- ※日経平均株価・NYダウ等各種株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表2 日経平均株価
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年5月17日11:30時点。
図表3 NYダウ
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年5月17日11:30時点。
図表4 ドル・円相場
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年5月17日12:00時点。
図表5 主な予定
月日 | 国・地域 | 予定 | 備考 |
18(水) | G7財務相・中銀総裁会議(-20日) | ||
日本 | 1-3月期GDP | ||
米国 | 4月住宅着工件数 | ||
19(木) | 日本 | 3月機械受注 | |
4月貿易統計 | |||
20(金) | 日本 | 4月消費者物価指数 | |
☆決算発表 | 東京海上、MS&AD | ||
米国 | 4月中古住宅販売件数 | ||
5月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | |||
23(月) | 日本 | 日米首脳会談 | 米大統領来日( 22-24日) |
米国 | ★決算発表 | ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ | |
24(火) | 米国 | 4月新築住宅販売件数 | |
25(水) | 米国 | FOMC議事要旨(5/3-4開催分) | |
4月耐久財受注 | |||
★決算発表 | エヌビディア | ||
26(木) | 日本 | 4月企業向けサービス価格指数 | |
米国 | 1-3月期GDP(改定値) | ||
27(金) | 米国 | 4月個人所得・個人消費支出 | |
4月卸売在庫 |
- ※各種報道、WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
2022年 | ||
日銀金融政策決定会合 | 6/17(金)、7/21(木)、9/22(木)、10/28(金)、12/20(火) | |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 6/15(水)、7/27(水)、9/21(水)、11/2(水)、12/14(水) | |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 6/9(木)、7/21(木)、9/8(木)、10/27(木)、12/15(木) |
※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は現地時間を基準に記載しています。
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(5/9〜5/16)
コード | 銘柄 | 業種 | 株価(5/16) | 株価(5/9) | 騰落率(5/9〜5/16) |
1963 | 日揮ホールディングス | 建設業 | 1,793 | 1,447 | 23.9% |
5803 | フジクラ | 非鉄金属 | 747 | 619 | 20.7% |
7733 | オリンパス | 精密機器 | 2,622 | 2,246.5 | 16.7% |
5406 | 神戸製鋼所 | 鉄鋼 | 642 | 561 | 14.4% |
7004 | 日立造船 | 機械 | 792 | 693 | 14.3% |
6472 | NTN | 機械 | 239 | 213 | 12.2% |
1801 | 大成建設 | 建設業 | 3,905 | 3,505 | 11.4% |
7261 | マツダ | 輸送用機器 | 1,065 | 967 | 10.1% |
9107 | 川崎汽船 | 海運業 | 8,490 | 7,720 | 10.0% |
7762 | シチズン時計 | 精密機器 | 537 | 490 | 9.6% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※5/16終値を5/9終値と比較し、値上がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(5/9〜5/16)
コード | 銘柄 | 業種 | 株価(5/16) | 株価(5/9) | 騰落率(5/9〜5/16) |
5541 | 大平洋金属 | 鉄鋼 | 2,601 | 3,485 | -25.4% |
5714 | DOWAホールディングス | 非鉄金属 | 4,425 | 5,420 | -18.4% |
9613 | エヌ・ティ・ティ・データ | 情報・通信業 | 2,014 | 2,440 | -17.5% |
5707 | 東邦亜鉛 | 非鉄金属 | 2,370 | 2,728 | -13.1% |
8303 | 新生銀行 | 銀行業 | 2,015 | 2,301 | -12.4% |
8795 | T&Dホールディングス | 保険業 | 1,499 | 1,699 | -11.8% |
8308 | りそなホールディングス | 銀行業 | 488.6 | 553.6 | -11.7% |
4902 | コニカミノルタ | 電気機器 | 430 | 486 | -11.5% |
8053 | 住友商事 | 卸売業 | 1,821 | 2,051 | -11.2% |
4005 | 住友化学 | 化学 | 520 | 575 | -9.6% |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
※5/16終値を5/9終値と比較し、値下がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。
今回の決算発表シーズンは、5/13(金)に1263社、5/16(月)には155社が実施し、おおむね一巡しました。ロシア・ウクライナ間の戦争、中国経済の減速・悪化、世界的なインフレ・金利上昇懸念等、不透明要因は数多く、上場企業の業績予想は慎重になるとの見方が普通でした。しかし、終わってみれば思いのほか、底堅かったとの印象が残りました。
日経平均の予想EPS(1株利益)は、決算発表本格化直前の4/20(水)に2,074円でしたが、5/16(月)には2,009円と少し減りました。また、BPS(1株純資産)は同じ期間に、22,309円から23,084円に増えました。5/15(日)付・日本経済新聞の報道によると、上場企業約1,100社の純利益は2022年3月期に前期比36%増となった後、2023年3月期は同3%増(ソフトバンクグループを除く計算では同5%減)になる見込みです。
また、日経平均株価は約31年ぶりの高値(終値ベース)となった2021/9/14の30,670円から、直近5/16(月)26,547円まで約13%下がりましたが、予想EPSは約7%の下落で、予想PERも同じく約7%の下落でした。やはり、ファンダメンタルズ(EPS)の悪化もありましたが、市場心理(PER)の悪化も同様に大きかったと考えることができます。事前には警戒感が強かった決算発表一巡により、市場心理は好転するかもしれません。
また、中国・上海市では、5/13(金)の会見で、上海にある9,000法人(売上高2,000万元以上)のうち、約半数が操業を再開しているといい、うち666社は稼働率が95%に達している模様です。当局は6月中を目途に、全面的なロックダウン解除にこぎつけたい模様です。前項でご説明したように、5/16(月)に発表された鉱工業生産、小売売上高などの4月の経済諸指標は、軒並み事前予想を下回る弱い数値になりましたが、中国株の反応は穏やかです。新型コロナウイルス感染症の拡大も一巡しつつあり、中国も当面の最悪期を脱出する可能性がありそうです。
なお、くすぶり続けるインフレ・金利上昇懸念ですが、4月の米消費者物価指数は確かに、市場コンセンサスを上回りましたが、前月からは減速しています。市場ではいったん、政策金利が6月に0.75%引き上げられるシナリオまで織り込まれましたが、現在その見方は後退しています。仮に今後、住宅価格等ピークアウトが鮮明になれば、インフレ懸念が後退する可能性もあり、そろそろ、株式投資に前向きになるチャンスをうかがっても良いかもしれません。
図表9 日経平均株価の下落は実態悪以上に心理的な側面が大きい?
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。