世界的な過剰流動性を背景に、株式市場の需給関係は強く、海外の株式市場は総じて堅調に推移しています。それを受け、日経平均株価も堅調な動きを示しています。
そうした中、日経平均採用銘柄の2020年4〜6月期決算発表は、8/11(火)をもって終了となりました。日経平均株価の純利益等の水準と比べ、現在の日経平均株価の水準は妥当なのでしょうか。
東京株式市場では、日経平均株価が7月第5週(7/27〜7/31)に前週比1,041円85銭(4.6%)安と大きめに下げた後、8月第1週(8/3〜8/7)は同619円94銭(2.9%)高と反発しました。
市場参加者の主要関心事である新型コロナウイルスについては、世界の1日当たり平均新規感染者数は6月が14.3万人、7月が22.7万人でしたが、8月上旬(8/1〜8/10)も平均25万人と、感染拡大の勢いを維持しています。ただ、新型コロナウイルスの感染が世界でもっとも拡大している米国では、1日当たり平均の新規感染者数は6月の2.6万人から7月は6.4万人と加速しましたが、8月上旬は5.2万人とやや落ち着く兆しをみせています。
また、米国やブラジル、新興国を除き、日本を含む東アジアや欧州などでは、重症者や死亡者が増えにくくなっています。欧州主要国の8月上旬の1日当たり死亡者数はドイツで5.6人(多いときは300人超)、フランスで7.2人(同約2,000人)、イタリアで7.3人(同約1,000人)にとどまりました。我が国でも、新規感染者数の増加ペースは第2波到来ともいえる状況ですが、8月上旬の1日当たり死亡者数は3.9人にとどまり、40人超増えた5月上旬と比べれば大きく減速する状況になっています。
こうした中、世界的な過剰流動性を背景に、株式市場の需給関係は強く、海外の株式市場は総じて堅調に推移しています。
特に米国株式市場の基調は強く、7/31(金)〜8/10(月)にNYダウは7営業日連続高となりました。この間に発表された景気指標も総じて強い内容のものが目立ち、8/7(金)発表の7月雇用統計では、雇用者数が市場予想を上回りました。アップルやアマゾンなど、主力IT株も上昇基調となりました。
冒頭でご説明したように、8月第1週に日経平均株価が上昇した背景には、このような海外株の堅調があげられると思われます。ただ、円高への懸念等もあり、米国株に比べると、日本株の勢いが乏しく感じるのは否めないところです。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/8/3〜2020/8/11)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
8/3(月) | 22,195.38 | +485.38 | 月替わりに加え、利食いで円高・ドル安が一巡したことも影響か。 |
8/4(火) | 22,573.66 | +378.28 | 前日の米国市場でマイクロソフトの上昇が目立つ。同国新型コロナ新規感染者が減速の兆し。 |
8/5(水) | 22,514.85 | -58.81 | 2日で800円超上昇した反動か。円高や決算発表にも警戒。 |
8/6(木) | 22,418.15 | -96.70 | 決算発表で明暗。21/3期大幅減益予想のホンダが下落。利益上振れでトヨタが上昇。 |
8/7(金) | 22,329.94 | -88.21 | 米国がTikTok、ウィーチャットとの取引禁止。アリババ下げ、ソフトバンクGが下落。 |
8/11(火) | 22,750.24 | +420.30 | 景気回復傾向を背景にNYダウが7連騰したことを好感。3連休明けも追い風か。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/8/11取引時間中。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/8/10現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/8/11取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
8/11(火) | 日本 | 景気ウォッチャー調査 | |
日本 | ★決算発表(225件) | 楽天、ワークマン、NTT、ソフトバンクグループ | |
ドイツ | 8月ZEW景況感調査 | 350人の市場関係者に景況感をアンケート | |
8/12(水) | 日本 | 7月マネーストック | |
日本 | 7月工作機械受注 | 民間設備投資の先行指標 | |
日本 | ★決算発表(200件) | 明治HD、トレンドマイクロ、第一生命、セコム | |
米国 | 7月消費者物価 | ||
8/13(木) | 日本 | ★決算発表(164件) | 富士フイルム、三菱商事 |
米国 | ☆決算発表 | アプライド・マテリアルズ | |
8/14(金) | 日本 | オプションSQ | |
日本 | ★決算発表(224社) | ||
中国 | 7月鉱工業生産 | 市場コンセンサスは前年同月比5.1%増 | |
中国 | 7月小売売上高 | 市場コンセンサスは前年同月比0.2%増 | |
中国 | 7月都市部固定資産投資(年初来) | 市場コンセンサスは前年同月比1.6%減 | |
米国 | 7月小売売上高 | ||
米国 | 7月鉱工業生産 | ||
米国 | 8月ミシガン大学消費マインド指数 | 市場コンセンサスは非農業部門雇用者数が2,685千人増。失業率10% | |
8/17(月) | 日本 | 4〜6月期GDP | |
米国 | 民主党大会 | ||
米国 | 8月NY連銀製造業景況指数 | ||
8/18(火) | 米国 | 7月米住宅着工 | |
8/19(水) | 日本 | 7月貿易統計 | |
日本 | 6月機械受注 | 民間設備投資の先行指標 | |
日本 | 7月訪日外客数 | 4月、5月、6月は前年同月比99.9%減 | |
8/20(木) | 米国 | 8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | 米製造業のマインドは? |
8/21(金) | 日本 | 7月全国消費者物価 | |
米国 | 7月米中古住宅販売 |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
図4にあるように、日経平均株価は長く、予想PER11倍程度から16倍程度に相当する水準近辺で推移してきました。また、年末の日経平均株価の予想PERは2017年が15.1倍、2018年が11.2倍、2019年が14.4倍でした。このように、日経平均株価はその時々の予想EPS(1株利益)に十数倍の予想PERを掛ければ算出できたことになります。
日経平均の予想PERの変動が少なかったのは、企業業績の変動が一般的な景気変動の枠内に収まり、ある程度予想可能な範囲内だったからと言えます。しかし、2020年に入り、株価と予想PER、予想EPSの間のある程度安定した関係は崩れてしまいました。その結果、予想PER12倍相当、同14倍相当、同16倍相当の日経平均株価の水準は大きく動いてしまっている上、現実の日経平均株価はそれらのラインから、大きくかけ離れた水準に位置することになりました。現在、日経平均株価の予想PERは20倍程度ですが、予想PERは株価が割高か割安かを判断するための指標としては、あまり役立っていないように思われます。
ちなみに、8/11(火)にソフトバンクグループ(9984)の決算発表が終わり、3月決算企業(日経平均採用銘柄のうち188社)、9月決算企業(同1社)、12月決算企業(同27社)の2020年4〜6月決算発表が主要企業についておおむね一巡しました。こうして決算発表終了が峠を越したこと自体が、投資家のリスク回避姿勢後退を促す材料となり、この日の株価の大幅高につながった可能性もあります。しかし、引き続き、通期の業績予想を開示できない企業が残るため、予想PERを頼りにできない状況が続くと考えられます。
なお、アナリストの市場コンセンサスが取れる銘柄だけで計算すると、今期の純利益は6%程度の減益見込みですが、来期は4割程度の増益が見込めそうです。これを単純に現在の日経平均株価予想EPS(約1,100)円に乗じると1,540円程度で、現在の日経平均株価で逆算すると予想PERは14.8倍程度と計算されます。新型コロナウイルスの感染が本格化する前の水準とさほど違和感はないように思われます。すなわち、来期にかけて、アナリストの期待通りに業績が推移するのであれば、現在の株価水準はおおむね妥当であるように思われます。
逆に、日経平均株価が1月の年初来高値(24,083円)を超えてさらに上昇していくには、現状の景況感では力不足のように思われます。すなわち、今後さらなる株価上昇のためには、ワクチン開発等により「アフターコロナ」の時代が展望できることが必要なように思われます。
図4 日経平均株価と予想PER12倍・14倍・16倍相当ライン、およびBPS(1株純資産)相当ライン
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。