新型コロナウイルスの感染拡大がさらに加速しています。特にイタリアを中心とする欧州での感染拡大スピードはすさまじく、死亡者数も増え続けています。世界最大の経済大国である米国でも感染拡大が本格化してきたことで、危機は新たなステージに入ったと考えられます。これに対し、主要国・地域の中央銀行が金融緩和をもう一度強化する方向に舵を切った他、相次いで非常事態宣言を発令し、国内外の人の往来を閉ざすなど、対応を強化する国が増えています。
そうした中、日経平均株価は3/19(木)に一時16,358円19銭まで下げ、トランプ氏の大統領当選が確実と伝えられ、一時的に下げた2016/11/9(水)以来、3年4ヵ月ぶりの安値を付けました。日本株は「トランプ相場」のスタート地点に引き戻された形になっています。しかし、3/23(月)および3/24(火)の日経平均株価は大幅続伸となり、特に後者の日には終値が、前日比の上昇幅が1,000円を超え、7営業日ぶりに18,000円の大台回復となる水準まで値を戻しました。
日経平均株価の反発は一時的にとどまり、再び下落に転じるのでしょうか、それとも、これで当面の底入れを完了した形になったのでしょうか。
日経平均株価は、3月第2週(3/9〜3/13)に前週末比3,318円(16.0%)下げ、下落幅としては過去最大を記録しました。同第3週(3/16〜3/19)も前週末比878円22銭(0.5%)下げ、週次ベースではこれで6週連続の下落となっています。株式市場の主要関心事は、新型コロナウイルスの感染拡大の程度と、経済に対する影響、対応策としての金融・財政政策等の評価が中心になっています。現在は、同ウイルスの感染スピードがすさまじいため、市場参加者はリスク回避姿勢を強めています。
新型コロナウイルスについて、世界の感染者数の推移(3/13→3/24:カッコ内は死亡者数で、単位はともに「人」)は、中国で80,813(3,176)→81,773(3,283)と落ち着きを取り戻している反面、イタリアが15,113(1,016)→63,927(6,077)、スペインが2,965(84)→33,089(2,182)、フランスが2,877(61)→19,856(860)、ドイツが2,369(6)→29,056(123)等、欧州で「桁違い」の拡大となっています。また、米国でも同じ期間、1,264(36)→46,337(610)と急増しています。
このうち、イタリアでは医療器具が不足し、高齢者の治療ができなくなるなど医療崩壊の様相を呈しており、致死率(死亡者数を感染者数で割った数字)は世界平均の4.4%を大きく超える9.5%に達しています。EU(欧州連合)加盟国や米国は、国内・域内の外出や移動を制限するだけではなく、国外や域外との往来も閉ざすなど、鎖国状態になっています。店舗や工場、営業所は閉鎖され、生産やサービス活動はストップしています。感染が徐々に広まっているアジアでも、同様の対応が増えており、世界経済はマヒ状態になっています。
こうした中、世界最大の経済大国である米国では、NY州やカリフォルニア州で非常事態宣言が発令され、事業活動が原則停止となっています。足元で同様の措置を取る州が増えています。生産・サービス活動はマヒ状態になっており、4〜6月期のGDPは数十%減り、失業率も数十%に急上昇する可能性が懸念されています。これを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)はマネーの流れが滞らないよう、3/4(水)に0.5%、3/16(月)に1.0%の緊急利下げを実施するとともに、無制限の量的金融緩和実施等を決めました。米政府も最大2兆ドル規模の経済対策を実施する方針です。
一方、日本では新型コロナウイルスの感染者数(クルーズ船を除く)が3/13→3/24に、722人(死者21人)→1,142人(同42人)とジリジリとした増加傾向になっています。海外の多くの国と比較してPCR検査が少ないことで患者数が少なく見えているとの指摘がありますが、それでも死者数が少ないことを評価する向きが少しずつ増えているようです。3/19(木)には全国に先駆けて緊急事態を宣言していた北海道が同宣言を解除したこと、東京五輪が延期の方向で固まりつつあること等、転機を示す事象が増え、3月第4週は続伸でスタートしています。3/24(火)には日経平均株価の前日比の上昇幅が一時1,000円を超え、7営業日ぶりに18,000円大台の回復となる水準まで値を戻しました。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/3/16〜2020/3/24)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
3/16(月) | 17,002.04 | -429.01 | FRBの緊急利下げ、日銀のETF追加購入等も、逆に手詰まり感の増幅に |
3/17(火) | 17,011.53 | +9.49 | 前日のNYダウが過去最大の下げ。新型肺炎流行長期化を警戒。安値では値ごろ感も |
3/18(水) | 16,726.55 | -284.98 | 米経済対策を好感し一時380円高も、時間外で米株先物が取引停止となる波乱 |
3/19(木) | 16,552.83 | -173.72 | ECB(欧州中銀)の資産買い入れを好感し一時上昇も、新型肺炎拡大を警戒 |
3/23(月) | 16,887.78 | +334.95 | 日銀のETF買いや公的資金の買いに対する思惑で意外高。五輪延期容認で転機? |
3/24(火) | 18,092.35 | +1204.57 | 朝方から買いが先行。米国でのSOX指数大幅高も追い風か |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/3/23現在。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/3/23現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/3/23取引時間中。
前項でご説明した通り、世界の生産・サービス活動はマヒ状態となっています。事業活動や外出の禁止は長期間にわたる可能性があり、今後発表される企業業績や、経済指標については、これまでの延長線上ではまったく想像することさえできない、非連続的な数字の悪化を覚悟すべきです。
すでに、複数のエコノミストは2020年4〜6月期の欧州や米国のGDPについて、十数%程度の減少を予想しているようですが、さらに悪化して数十%も減少すると警告する中央銀行関係者も出ています。
先週末には訪日外国人急減のあおりを受けた帝国ホテル(9708)や、各種興行の中止が響いた ぴあ(4337)が、業績予想の下方修正を発表しました。今後はこうした業績予想の下方修正が続きそうです。
米国労働市場の現状を知る指標として、毎週木曜日に発表される新規失業保険申請件数ですが、3/26(木)に発表される数字は、米労働市場の急変を最初に示す経済指標になるかもしれません。これまでは20万件を少し超える程度になることが多い指標ですが、これが150万件程度に急増(前週は28.1万件)するとの見方が平均的になっています。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
3/24(火) | 日本 | 2月全国百貨店売上高 | インバウンド消費の落ち込みの程度は? |
米国 | 2月新築住宅着工件数 | ||
3/25(水) | ドイツ | 3月Ifo景況感指数 | ドイツ企業の景況感を探る |
米国 | 2月耐久財受注 | 米国企業の設備投資意欲は? | |
米国 | ☆決算発表〜マイクロン・テクノロジー | 半導体業界の先行きを占う | |
米国 | 1月FHFA住宅価格指数 | ||
3/26(木) | 欧州 | EU首脳会議(〜27日) | |
米国 | 新規失業保険申請件数(〜3/14) | 市場コンセンサスは150万件(前週は28.1万件)に急増の予想 | |
3/27(金) | 日本 | 3月決算銘柄権利付き最終日 | 株主優待実施企業は826社 |
3/31(火) | 日本 | 2月完全失業率/有効求人倍率 | |
中国 | 3月製造業PMI | ||
4/1(水) | 日本 | 3月日銀短観 | 大企業・製造業の業況判断指数は-10が市場コンセンサス |
米国 | 3月ISM製造業景況指数 | ||
4/3(金) | 米国 | 3月雇用統計 | 労働市場の急速な悪化に注意 |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 4/28(火)、6/16(火)、7/22(水)、9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 4/29(水)、6/10(水)、7/29(水)、9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 4/30(木)、6/4(木)、7/16(木)、9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
米国経済については、週次の新規失業保険申請件数に続き、ISM製造業指数(3月)や雇用統計の発表(同)があり、通常通りであれば4月中旬から1〜3月期の決算発表が実施される予定です。日本経済についても、4/1(水)の日銀短観に続き、4月下旬からは決算発表が本格化してくる予定です。
投資家はこれらの発表を通じ、記録的な経済の悪化を確認することになりそうです。企業業績については、決算発表に至る途中で、業績下方修正という形で悪材料が前倒しされる可能性がありそうです。原油先物相場やREIT相場の波乱もあり、株価波乱の「2次災害」として、金融システムが動揺を受ける可能性もゼロではありません。
ちなみに、リーマンショック(2008/9/15)後の下げでは、日経平均株価のPBRが0.81倍まで低下しました。今回もリーマンショック並みに下がれば、3/23(月)現在のデータで計算する限り、PBR0.81倍相当水準は16,284円と計算されます。3/19(木)の安値はこれに限りなく近い16,358円です。PBRという投資尺度でみる限り、日経平均株価はすでにリーマンショック並みの下げを記録してしまったといえ、その面では日経平均株価は底入れが完了したと考えることができます。
最初の項でもご説明したように、新型コロナウイルスの感染拡大に対し、日本が医療崩壊を回避し、低い死亡者数を維持していることが海外から評価される可能性があります。我が国は春と夏の「お彼岸」を境に気候が変わる傾向にありますが、このまま暖かい日が増え、さらに初夏にかけて湿度が上昇する中で、ウイルスの繁殖が抑えられることも期待されます。さらに、北海道の緊急事態宣言解除や東京五輪延期の方向性台頭が重要な節目になった可能性も大きそうです。
リスクシナリオとしては、自粛疲れも手伝い、ウイルスの感染拡大が再加速してしまうことや、業績予想の下方修正等を通じ、下値メドの計算に使われる日経平均予想EPS(1株利益)や同BPS(1株純資産)等が大幅に減少してしまうことがあげられます。反対に、新型コロナウイルスの感染拡大が早めに収束した場合、歴史的な過剰流動性が株価反発の程度を大きくするというシナリオも想定されます。
図4 世界の新型コロナウイルス新規感染数(日次・人)
- ※各種資料をもとにSBI証券が作成。一般的に直近の新しいデータは大きめに修正される可能性があり、取り扱いに注意が必要です。