日経平均株価は4月末まで4週間連続で週足が上昇しましたが、5月第1週(5/7〜5/10)に913円81銭(4.1%)下落、同第2週に94円83銭(0.4%)下落と続落に転じました。米国のハト派的金融政策と米中通商協議妥協への期待に支えられた反発相場は暗転し、再び米中通商摩擦の激化に怯える展開になるのでしょうか。
今、我々市場参加者は改めて米中通商問題について整理し、その本質を考え直す必要があるかもしれません。そうすることにより、過度の懸念は後退し、株式市場については押し目買いスタンスを取ることが肝要になると考えられます。
日経平均株価は4月末まで4週間連続で週足が上昇しましたが、5月第1週(5/7〜5/10)に913円81銭(4.1%)下落、同第2週に94円83銭(0.4%)下落と続落に転じました。
米中通商交渉が難航し、5/5(日)に米トランプ大統領は、中国からの輸入品2,000億ドルに対し、関税を10%から25%に引き上げると表明しました。それ以降、世界の株式市場は波乱に転じました。
5/10(金)には米国の関税引き上げが実施に移されましたが、これに対して中国が「報復」に転じたこと、米国が残りの中国からの輸入品にも関税賦課(25%)の方針を表明したこと等を背景に、5/13(月)の米国市場では、NYダウが617ドル安となり、終値は3ヵ月ぶりの安値水準まで沈みました。さらに5/15(水)には、米商務省が中国の通信機器最大手ファーウェイへの商品供給禁止等を発表しました。
5/13(月)〜5/21(火)の日経平均株価の日次の動きは以下のようになっています。
- 5/13(月)153円34銭安・・・中国から米国への残りの輸入品にも関税25%が賦課される方針が嫌気されました。
- 5/14(火)124円05銭安・・・前日のNYダウが617ドル安となりました。中国から米国への携帯・PCの輸入も課税候補です。
- 5/15(水)121円33銭高・・・6月のG20で米中首脳会談が設定される可能性が台頭し、日経平均は8営業日ぶりの反発です。
- 5/16(木)125円58銭安・・・米商務省が中国のファーウェイへの「禁輸」を発表(5/15)しました。
- 5/17(金)187円11銭高・・・NY株高に加え、ソニーが好材料(自社株買い・マイクロソフトとの提携)発表で上昇しました。
- 5/20(月)51円64銭高・・・GDP(2019年1〜3月)が予想を上回りました。ただ、輸入減少等が背景とみられました。
- 5/21(火)29円28銭安・・・アルファベット等、ファーウェイとの取引停止を決める米企業が相次ぎました。
我が国の実質GDP(1〜3月期・前期比・年率)は市場予想でマイナス0.3%程度でしたが、5/20(月)の取引開始前に発表された速報値は2.1%のプラス成長になりました。下振れさえ警戒されていたこともあり、まさにポジティブサプライズとなり、この日の日経平均株価は一時179円高水準まで上昇しました。
しかし、このプラス成長に寄与したおもな要因は、在庫の意図せざる積み上がりや輸入の減少でした。もともと、我が国のGDP速報値は改定値で大きく修正されることもあり、次第に「数字ほど強くはない」との見方が有力になりました。この日の東京株式市場ではむしろ値下がり銘柄数の方が多く、特に資材株の多くが下落しており、経済の先行きを悲観するような取引内容でした。
米国のハト派的金融政策と米中通商協議妥協への期待に支えられた反発相場は暗転し、再び米中通商摩擦の激化に怯える展開になるのでしょうか。
図1 75日移動平均を下回ってきた日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/5/21取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/5/20現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/5/21取引時間中
決算発表シーズンが終了しました。新聞報道等でも整理されているように、企業業績は踊り場を迎えており、2020年3月期は2期連続の減益が見込まれています。決算発表シーズンには、市場予想を下回るような弱い業績見通しを発表する銘柄が売られるケースが多く、投資家は慎重な対応が求められる期間でした。
仮に決算発表シーズンを4/22(月)〜5/20(月)とした場合、日経平均株価は4/19(金)の22,200円56銭から5/20(月)の21,301円73銭まで約4%の下落になりました。決算発表を警戒し、株価は素直に下落したといえそうです。ただ、日経平均株価の予想EPS(一株利益)は同期間、1,771円から1,779円と結果的には、ほぼ横ばいでした。企業業績は株式市場が警戒する程には悪化しなかったものと考えられます。
市場心理を反映する予想PERはこの間、12.53倍から11.97倍へと低下しました。決算発表や米中貿易摩擦への警戒から、市場心理が悪化し、予想PERが低下し、株価の割安感自体は増幅したものと考えられます。今後は日経平均の予想EPSが変動しにくくなり、予想PERもその分下がりにくくなると考えられます。
表1 決算発表シーズンが終了
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
5/21(火) |
日本 |
4月首都圏新規マンション発売 |
|
日本 |
4月訪日外客数 |
1〜3月累計では前年同期比5.7%増 |
|
米国 |
4月中古住宅販売件数 |
市場コンセンサスは前月比2.6%増 |
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5/22(水) |
日本 |
4月貿易統計 |
前回は輸出が前年同月比-2.4% |
米国 |
FOMC(4/30〜5/1)議事録 |
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5/23(木) |
欧州 |
欧州議会選挙(〜26日) |
|
ドイツ |
5月Ifo景況感指数 |
約7,000社のドイツ企業に景況感をアンケート |
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米国 |
4月新築住宅販売件数 |
||
米国 |
☆決算発表(2〜4月期) |
ベストバイ |
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5/24(金) |
日本 |
4月消費者物価指数(生鮮食品を除く) |
前回(前年同月比)は0.8%増) |
米国 |
4月耐久財受注 |
米民間設備投資の先行指標 |
|
5/25(土) |
日本/米国 |
米トランプ大統領が来日(〜5/28) |
|
5/27(月) |
日本/米国 |
日米首脳会議 |
|
米国 |
米国株式市場は休場 |
ベテランズ・デー |
|
5/28(火) |
米国 |
5月コンファレンスボード消費者信頼感指数 |
|
米国 |
3月FHFA住宅価格指数 |
||
米国 |
S&P/ケース・シラー中落価格指数 |
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5/30(木) |
米国 |
1〜3月期GDP(改定値) |
市場コンセンサス(前期比・年率)は+2.9% |
5/31(金) |
日本 |
4月有効求人倍率/失業率 |
前回はそれぞれ1.63倍、2.5% |
日本 |
5月都区部消費者物価指数(生鮮食品除く・前年同月比) |
市場コンセンサスは1.3% |
|
米国 |
4月PCEコア・デフレータ(前年同月比) |
前回は+1.6% |
|
中国 |
5月製造業PMI |
前回は50.1 |
|
6/1(土) |
中国 |
米国からの輸入品600億ドルに関税引き上げ |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | |
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日銀金融政策決定会合 | 6/20(木)、7/30(火)、9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 6/19(水)、7/31(水)、9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 6/6(木)、7/25(木)、9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
世界経済において、どの国も貿易に関税や障壁を設けることなく、自由貿易を突き詰めることは、発展をもたらすと考えられています。したがって、米国のトランプ大統領が海外からの輸入に関税を賦課すると主張し始めた時、市場参加者の多くは困惑したのが現実ではないかと思われます。トランプ大統領の政策は保護主義的であり、世界経済の発展にはつながらないとする見方は、今でも多いように思われます。
しかし残念ながら、「自国の利害」と「世界平和や自由貿易」を天秤にかけた時、後者を取る国は意外と少ないかもしれません。より正確に言えば、建前では「世界平和や自由貿易」を重視しても、どちらかを取らなければならないとすれば「自国の利害」を取ることが多いように思います。日本にしても「自動車は自由に輸出したいが、農産物が海外からどんどん入ってきては困る」のが現実です。
実はトランプ大統領の登場前後で、米国の本質は変わっていないのかもしれません。米国も他の多くの国同様に「自国ファースト」であったように思われます。ただ以前は「世界平和や自由貿易」を重視する姿勢を建前にしていましたが、それを建て前にしなくなっただけで、むしろ分かりやすくなったのかもしれません。
米国は世界の政治・経済におけるリーダーであり、最強の軍事力がそれらを支えています。しかし、かつてはソ連(現在のロシア)が軍事上の脅威となり、現在は中国がそれに代わろうとしています。南シナ海での覇権の主張や「製造2025」は中国が米国にとって代わる姿勢を明確にしたと、米国人の多くは考えています。米国はそれを防ぐという姿勢を明確にしたものと考えられます。昨年10/4(木)の「ペンス演説」はそうした米国の姿勢を明確に表現したものと言われています。日経平均株価は「ペンス演説」の直前となる10/2(火)終値24,270円62銭が当面の高値になりました。
米国の狙いが中国の覇権を防ぐことである以上、妥協は簡単に成立しないと考えられます。米国は中国を「世界の工場」として組み込んだサプライチェーンを再構築したいと考えているのでしょう。足元の流れで考えれば、現在進行している「5G革命」で中国がリードすることを防ぎたいと考えており、それがファーウェイとの取引停止につながっています。米国のみならず世界の多くの企業が中国企業との取引見直しを迫られるとみられ、その不透明感がもたらす株価調整が現在の姿であると考えられます。
ただ、すでに「完全雇用」の米国が再び「世界の工場」になると期待することも現実的ではないでしょう。「5G革命」においても、米国の「同盟国」となっている日本の役割増加が期待される所です。現在売り込まれている半導体や電子部品等の関連銘柄が最終的には、大きく成長している可能性も十分ありそうです。