日経平均株価は3/4(月)の21,860円39銭を当面の高値として下落に転じましたが、3/8(金)および3/11(月)の取引時間中に21,000円を割り込んだ後は反発に転じています。引き続き米中通商協議での妥協成立に期待が集まっていることに加え、中国の経済対策が評価されている可能性がありそうです。3/12(火)には大幅高となった東京株式市場ですが、市場を取り巻くリスクは後退し、日経平均株価は再び上昇に転じるのでしょうか。
日経平均株価は基本的に、その予想EPS(1株利益)のトレンドに従うと考えられます。日経平均株価の予想EPSは当面下落傾向に転じることが警戒され、日経平均株価は再び下落に転じる可能性も小さくないと考えられます。
日経平均株価は2018/12/26(水)の取引時間中に付けた安値18,948円58銭をボトムに、本年3/4(月)の同高値21,860円39銭まで、2,911円81銭(15.4%)上昇しました。それに先立ち、10/2(火)以降5,499円49銭下落していましたので、その下落幅に対する戻り率は52.9%と「半値戻し」を達成した格好です。しかし、3/4(月)をピークに下落に転じ、3/8(金)には一時20,993円07銭の安値を付けました。その後はやや値を戻す展開になっています。
なお、週足ベースでみた場合、日経平均株価は3月第1週(3/4〜3/8)※に前週比577円13銭(2.7%)下落しました。週足での下落は4週間ぶりとなります。特に3/5(火)〜3/8(金)には4営業日続落となりました。なおこれを含め、3/4(月)〜3/11(月)の日次の動きは以下のようになっています。
- 3/4(月)219円35銭高・・・3月中旬から下旬に米中首脳会談開催との報道。上海総合指数は3,000ポイント回復です。
- 3/5(火)95円76銭安・・・米国で米中通商協議進展が織り込み済みに。日経平均は前日までに「半値戻し」を達成しました。
- 3/6(水)129円47銭安・・・米中通商協議の先行きを警戒。短期筋の先物売りが増加したようです。
- 3/7(木)140円80銭安・・・米ハイテク株安の流れを引き継ぎ、半導体関連株中心に下落しました。
- 3/8(金)430円45銭安・・・世界景気減速の不安。SQ算出値を下回って下げが加速。ただ21,000円は維持されました。
- 3/11(月)99円53銭高・・・アジア株が上昇したこともあり、自律反発に転じました。
ちなみに、3月第1週(3/4〜3/8)のNYダウは5営業日続落となり、累計で576.08ドル(2.2%)下落し、東京株式市場にとって逆風となりました。上記したように、米中通商協議での妥協成立に対する期待はおおむね織り込み済みになり、次第に利益確定売りが優勢になりました。ただ、パウエルFRB議長が「中立的金融政策」を改めて表明したことが好感され、3/11(月)のNYダウは6営業日ぶりに反発し、これを好感した3/12(火)の東京市場では、買いが大きく先行する展開になっています。
- ※「何月第何週」という表記については、東証が使用している表現と統一することにしました。例えば、本年の場合、「1月第5週」は1/28(月)〜2/1(金)、「2月第1週」は2/4(月)〜2/8(金)、「2月第4週」は2/25(月)〜3/1(金)を指すことにします。
図1 上昇一服後もみ合いに転じた日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/3/12取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/3/11現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/3/12取引時間中
当面の注目材料としては、(1)EU(欧州連合)離脱をめぐる英国の動向、(2)景気減速が懸念される中国の重要経済指標の発表、(3)景気ピークアウトが懸念される米国の経済指標発表等があげられます。
このうち、(1)についてEUと英国は正念場を迎えることになりそうです。焦点となるのは、英国と北アイルランドの間に物理的な国境を再構築するか否かの問題となっています。英国本島(グレート・ブリテン島)の西に浮かぶアイルランド島では現在、「英国領北アイルランド」と「アイルランド」との間に物理的な国境線はなく、厳格な国境管理はありません。しかし、英国がEUから離脱すると、同じ島に「EU」という「関税同盟」に属す地域と属さない地域が混在することになります。そこで、国境を再構築するのか否かと言う問題が出てきます。
かつて、英国最大の問題と言われた「北アイルランド問題」を再燃させたくないという思いからは国境の再構築は容認できないところです。しかし、国境管理なくして、EUからの離脱も「絵に描いた餅」となります。
こうした中、3/11(月)に欧州委員会のユンケル委員長とメイ英国首相が会談の後、合意し、英国のEU離脱案を見直しました。3/12(火)に東京株式市場が大幅高した背景には、この合意により英国のEU離脱が「秩序なき離脱」になるリスクが後退したとの市場の評価もありそうです。当面は英国をEUに残すものの、同国が永続的に拘束されないとするものです。ただ、ユンケル委員長はこれ以上の見直しはないとしており、これが否決されると「秩序なき離脱」に近付くことになり、市場に混乱が起こる可能性が残ります。
表1 EU離脱をめぐる英国の動きに注意
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
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3/12(火) |
英国 |
EU離脱内容の採決期限(英国下院) |
3/11(月)にEUとの間で修正離脱案を合意 |
米国 |
2月消費者物価 |
市場コンセンサス(コア・前年同月比)は2.2%増 |
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3/13(水) |
日本 |
1月機械受注 |
市場コンセンサス(コア・前月比)は1.5%減 |
米国 |
1月耐久財受注 |
市場コンセンサス(前月比・輸送用機器を除く)は0.1%増 |
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英国 |
EU離脱修正案否決の時に「合意なし離脱」採決 |
変更の可能性に留意 |
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3/14(木) |
中国 |
2月鉱工業生産 |
市場コンセンサス(年初来・前年同月比)は5.5%増 |
中国 |
2月小売売上高 |
市場コンセンサス(同)は8.1%増 |
|
中国 |
2月固定資産投資 |
市場コンセンサス(同)は6.0%増 |
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米国 |
1月新築住宅販売件数 |
市場コンセンサス(前月比)は0.2%増 |
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米国 |
☆決算発表 |
ブロードコム |
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英国 |
「合意なし離脱」否決の時に「離脱延期」の是非を問う採決 |
変更の可能性に留意 |
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3/15(金) |
日本 |
日銀金融政策決定会合結果発表。黒田総裁会見。 |
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米国 |
2月鉱工業生産・設備稼働率 |
市場コンセンサス(前月比)は0.4%増 |
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米国 |
3月ミシガン大学消費マインド指数 |
米国の消費マインドを計測 |
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3/18(月) |
日本 |
2月貿易統計 |
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日本 |
★日経平均株価採用銘柄入れ替え |
(削除)パイオニア、(採用)オムロン |
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米国 |
3月NAHB住宅市場指数 |
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3/19(火) |
ドイツ |
3月ZEW景況感指数 |
350人のアナリストや市場関係者に景況感をアンケート |
米国 |
☆決算発表 |
フェデックス〜米国景気に先行性あるとの見方が有力 |
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3/20(水) |
日本 |
2月訪日外客数 |
2018年は3,119万人(前年比+8.7%)。1月は前年同月比7.5%増 |
米国 |
FOMC結果発表/パウエルFRB議長会見 |
市場予想の年内「利上げ確率」はゼロ。「利下げ確率」は17.0% |
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米国 |
☆決算発表 |
マイクロンテクノロジー〜半導体メモリ大手企業 |
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3/21(木) |
日本 |
◎東京市場は休場(春分の日) |
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欧州 |
EU首脳会議 |
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米国 |
3月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 |
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3/22(金) |
日本 |
2月消費者物価指数 |
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米国 |
2月中古住宅販売件数 |
市場コンセンサス(年換算)は510万件 |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | |
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日銀金融政策決定会合 | 3/15(金)、4/25(木)、6/20(木)、7/30(火)、9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/20(水)、5/1(水)、6/19(水)、7/31(水)、9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 3/7(木)、4/10(水)、6/6(木)、7/25(木)、9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
日経平均株価は3/4(月)の21,860円39銭を当面の高値として下落しましたが、3/8(金)および3/11(月)の取引時間中に21,000円を割り込んだ後は反発に転じています。引き続き米中通商協議での妥協成立に期待が集まっていることに加え、中国の経済対策が評価されている可能性がありそうです。株式市場を取り巻くリスクは後退し、日経平均株価は再び上昇に転じるのでしょうか。
現実にはまだまだ注意が必要であると「225の『ココがPOINT!』」は考えています。3/8(金)の株価急落について説明しにくい部分が大きかったように、3/12(火)の上昇もその多くは説明がしにくいのが現実です。実際には投機的な動きの反映である可能性もありそうです。ある1営業日の相場変動要因について、説明が付きにくい場合、複数の営業日をセットで考えた方がよい場合もあり、今回もそのケースであるかもしれません。
米中貿易協議が進展したと言われますが、中国が米国から輸入を増やす程度の内容は織り込み済みであると考えられます。技術競争や知的財産の問題についてはあまり伝わってきていません。むしろ、米国で「米中貿易協議が進展」というニュースは利益確定売りを促す材料となりつつあるようです。
図4に示したように、日経平均株価のその時々の予想EPS(1株利益)に予想PER12.0倍を掛けたライン(茶色の線)、同じく13.5倍をかけたライン(緑色の線)、15.0倍をかけた線(紫色の線)は赤線で囲まれた部分でピークアウトとなり、その後は下落に転じています。理由は日経平均株価の予想EPSがピークアウトしたためです。
日経平均株価の予想EPSは12/13(木)に1,794円のピークを付けました。2019年に入り1月下旬以降、2018年10〜12月期の決算発表が本格化する中、この予想EPSも大きく下がる可能性が指摘されましたが、実際には案外底固く推移しました。3/5(火)時点での同予想EPSは1,756円でした。しかし、その後3/11(月)に同予想EPSは1,711円まで急低下しています。
ルネサスエレクトロニクス(6723)のニュースは半導体の回復が想定より遅れる可能性を示している可能性があります。一部外食チェーンの業績悪化や小売大手の24時間営業見直しなど、業績悪化につながるニュースが増えています。そもそも、4月から「働き方改革」が本格施行される中で、労働投入量の減少や賃金の減少が警戒され、内需の失速も心配です。株式市場が悪材料の多くを織り込んだとの見方は「時期尚早」ではないでしょうか。
日経平均株価は基本的に、その予想EPSのトレンドに従うと考えられます。日経平均株価の予想EPSは当面下落傾向に転じることが警戒されるため、日経平均株価も再び下落に転じる可能性が小さくないと考えられます。
図4 日経平均株価(日足)と予想PER12.0倍、13.5倍、15.0倍相当ライン
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。最新データは2019/3/12