日経平均株価の2月末終値は21,385円16銭となり、前月末比611円67銭(2.9%)の上昇となりました。1月の3.8%上昇に続き、月足ベースでは2ヵ月連続の上昇となりました。米FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策に対するスタンスがハト派的なものに変り、政策金利引き上げや資産縮小が停止されるとの期待が膨らみました。さらに、米中通商問題で妥協が成立するとの期待が高まったことが、投資家のリスク許容度を高めたものと考えられます。
今後の株式相場はどうなるのでしょうか。今回の「225の『ココがPOINT!』」では、「あるデータ」が「歴史的な低水準」まで減少していることをご紹介し、相場急変の可能性について考えてみたいと思います。
ココがPOINT!
日経平均株価の2月末終値は21,385円16銭となり、前月末比611円67銭(2.9%)上昇となりました。12月に10.5%下落した後、1月の3.8%上昇に続き、月足ベースでは2ヵ月連続の上昇となりました。米FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策に対するスタンスがハト派的なものに変り、政策金利引き上げや資産縮小が停止されるとの期待が膨らみました。さらに、米中通商問題で妥協が成立するとの期待が高まったことが、投資家のリスク許容度を高めたものと考えられます。
反面、2月前半に佳境を迎えた上場企業の2018年10〜12月期決算発表では、企業業績の減速傾向が鮮明になりました。決算発表が佳境を迎えた2/8(金)に日経平均株価は一時20,315円31銭まで下落し、そこが月間の安値になりました。しかし、多くの企業が自社株買い実施を発表したことに加え、日経平均株価の予想EPS(一株利益)があまり下らなかったこと等が下支え材料となり、株価が下落する場面は短期にとどまりました。
なお、週足ベースの日経平均株価は2月第1週(1/28〜2/1)に13円83銭(0.1%)高、第2週(2/4〜2/8)に455円22銭(2.2%)安となった後、第3週(2/12〜2/15)に567円46銭(2.8%)高、第4週(2/18〜2/22)に524円88銭(2.5%)高、3月第1週(2/25〜3/1)に177円18銭(0.8%)高と週足ベースで3週続伸となりました。この間、1,269円52銭(6.2%)の上昇です。続く3/4(月)も前週末比219円35銭高と大幅高でした。
このうち、直近の2/25(月)〜3/4(月)の日次の動きは以下のようになっています。
- 2/25(月)102円72銭高・・・米国による中国からの輸入品への関税引き上げ判断延期が好感されました。
- 2/26(火)78円84銭安・・・利益確定売りが増えました。インドがパキスタンに空爆。東証1部の売買代金2兆円割れは3日連続。
- 2/27(水)107円12銭高・・・2ヵ月半ぶりの高値水準を回復しました。アジア株高も追い風になったようです。
- 2/28(木)171円35銭安・・・米株安を嫌気。米朝首脳会談での「予定変更」を警戒。
- 3/1(金)217円53銭高・・・円安が好感されたことに加え、中国製造業PMIの上昇もプラス材料になりました。
- 3/4(月)219円35銭高・・・3月中旬から下旬に米中首脳会談開催と伝えられました。上海総合指数が3,000ポイント回復です。
図1 昨年12月中旬以来の高値水準を回復してきた日経平均株価
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2019/3/5取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2019/3/4現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2019/3/5取引時間中
当面の最大の注目材料は3/8(金)に発表が予定されている米雇用統計(2月)になると考えられます。非農業部門雇用者数の増加数(前月比)は1月の30.4万人増から2月は18.5万人増になるというのが市場コンセンサスになっています。同様に失業率は4.0%から3.9%に、時価当たり賃金(前年同月比)は3.2%増から3.3%増になる見通しになっています。
最近の米雇用統計では時間当たり賃金の増減が予想より大きいのか、小さいのかといった点に市場の注目が集まりやすくなっています。時間当たり賃金の伸びが加速すると賃金上昇圧力が高まり、金利上昇要因になると考えられるためです。
なお、3/8(金)に東京市場では「メジャーSQ」が予定されています。先物とオプションの「特別清算値」算出日が重なり、この日が転機になる可能性もゼロではないとみられます。今回は米国の雇用統計発表と日程が重なっており、この日に向けて投資家がポジションを整理する可能性もありますので、一応の注意が必要です。
表1 米国経済・金融政策の現状を確認
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
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3/5(火) |
中国 |
中国全国人民代表大会 |
経済の目標や対策に関心 |
米国 |
2月ISM非製造業景況指数 |
雇用等の個別指標にも注意 |
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米国 |
12月新築住宅販売件数 |
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3/6(水) |
米国 |
2月ADP雇用統計 |
雇用者数の市場コンセンサス(前月比)は19万人増 |
米国 |
ベージュブック |
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3/7(木) |
日本 |
2月都心オフィス空室率 |
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欧州 |
ECB定例理事会・ドラギ総裁会見 |
政策金利を「少なくとも19年夏まで現状維持」としてきたが・・・ |
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3/8(金) |
日本 |
メジャーSQ |
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日本 |
10〜12月期GDP(改定値) |
市場コンセンサス(前期比・年率)は1.7%成長) |
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米国 |
2月雇用統計 |
平均時給の市場コンセンサス(前年同月比)は3.3%増 |
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3/11(月) |
日本 |
東日本大震災から8年 |
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米国 |
1月小売売上高 |
市場コンセンサス(自動車除く・前月比)は0.4%増 |
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3/12(火) |
英国 |
EU離脱内容の採決期限(英国下院) |
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米国 |
2月消費者物価 |
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3/13(水) |
日本 |
1月機械受注 |
設備投資の先行指標 |
米国 |
1月耐久財受注 |
米設備投資の先行指標 |
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3/14(木) |
中国 |
2月鉱工業生産 |
市場コンセンサス(前年同月比)は5.8%増 |
中国 |
2月小売売上高 |
市場コンセンサス(前年同月比)は8.3%増 |
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中国 |
2月固定資産投資 |
市場コンセンサス(前年同月比)は5.7%増 |
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米国 |
1月新築住宅販売件数 |
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米国 |
☆決算発表 |
ブロードコム |
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3/15(金) |
日本 |
日銀金融政策決定会合結果発表。黒田総裁会見。 |
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米国 |
2月鉱工業生産・設備稼働率 |
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米国 |
3月ミシガン大学消費マインド指数 |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2019年 | |
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日銀金融政策決定会合 | 3/15(金)、4/25(木)、6/20(木)、7/30(火)、9/19(木)、10/31(木)、12/19(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/20(水)、5/1(水)、6/19(水)、7/31(水)、9/18(水)、10/30(水)、12/11(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 3/7(木)、4/10(水)、6/6(木)、7/25(木)、9/12(木)、10/24(木)、12/12(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
前述したように、3/8(金)は「メジャーSQ」の予定です。ただ、正確に言えばSQ(Special Quotaion)は「特別清算指数」のことです。市場参加者の多くが、「SQの算出が行われる日」についても「SQ」と表現しているようです。先物・オプション取引になじんだ投資家以外には理解が難しいので、「3ヵ月に1回、先物とオプションの清算が同時に行われる特別な日」と理解しておくといいかもしれません。3/8(金)に「メジャーSQ(算出日)」の予定であるということは、先物・オプションの清算が迫っていると考えればわかりやすいでしょう。
一方「裁定買い残」という表現があります。「先物と現物株の裁定取引に伴う現物株の買い持ち高」を指しています。一般的に、外国人投資家等が先物買いを増やすと、先物価格が割高となり、現物価格が割安となるため、裁定取引における現物株の買い持ちが増えやすくなります。すなわち、先物買いが増えると裁定買い残が増える傾向にあります。逆に、先物売りが増えると裁定買い残が減少する傾向が強まります。
こうした中、2/27(水)に東証から発表されたデータによると、2/22(金)時点の裁定買い残(期近・期先合計)が前の週に比べ991億円減少の6,625億円であったことが明らかになりました。9月には同残高が一時2兆5,629億円ありましたので、そこから74%も減少した計算になります。2/8(金)の5,674億円よりは回復した水準ですが、2016/9/9(金)に記録した3,326億円以来の低水準が続いていることになります。リーマンショック以降、裁定買い残が何週間かにわたり1兆円を大きく下回るような「歴史的な低水準」状態は、図4の赤丸で示したように3回しかない珍しい状態です。
裁定買い残がここまで減少したということは、それだけ先物売りの圧力や期間が大きかった可能性があるということです。一般的に、裁定買い残が高水準に積み重なった後に減少に転じる時に、株価が大きく下がる波乱となることが多いようですが、現在はそのリスクが小さくなっていることを示しています。
「メジャーSQ(算出日)」が接近し、持ち高を増やしにくくなることもあり、新たに先物買いを増やす投資家は少ないとみられ、裁定買い残はSQ通過後まで増えにくいかもしれません。その後も、米中首脳会談や「Brexit(英国のEU離脱)」等の問題がありますし、4月以降も、改元や10連休を控え、当面は先物買いが入りにくいかもしれません。
しかし、それらの重要日程を無事通過することができれば、「裁定買い残」という「リスク」が歴史的に小さいことを勘案すると、近い将来に急速に裁定買い残の回復を伴うような、株価上昇局面が訪れる可能性は十分あると考えられます。ちなみに、東京株式市場では、信用取引の買い残高も特に2019年以降、低水準ぶりが目立っており、将来の買い残増加に期待できる状態になっています。
図4 歴史的低水準まで減少した裁定買い残と日経平均株価
- ※Bloomberg・東証公表データをもとにSBI証券が作成