東京株式市場では、日経平均株価が下落基調となっています。アップル株への不透明感もあり、米国株式市場が下げていることや、米中貿易摩擦への懸念が続いていることが背景であると考えられます。カルロス・ゴーン会長の逮捕を受け、11/20(火)には、日産自動車(7201)が大きく下落し、株式市場に大きな衝撃を与えました。
ただ、日産自動車株はストップ安まで売り込まれることなく、投資家から相当の押し目買いが入ったことも、もうひとつの事実です。そして、このことは東京株式市場や日経平均株価の先行きを考える上で、投資家にある示唆を与えてくれている可能性がありそうです。
11/1(木)〜11/9(金)の日経平均株価は戻りを試す局面となりました。トヨタ(7203)、ソフトバンクグループ(9984)など主要企業の決算発表、米中間選挙など重要日程を「無事」通過できたことが要因と考えられます。ただ、11/8(木)に一時22,583円43銭まで上昇した後は、以下のように一進一退を繰り返しつつ、ジリジリと値を下げる展開になっています。
- 11/12(月)19円63銭高・・・11/9(金)のNY株安を嫌気し、一時203円安も上海株高と円安を追い風に切り返す。
- 11/13(火)459円36銭安・・・GSやアップル等の下落を背景に11/12(月)のNYダウが602.12ドル安し、東京市場もそれを嫌気。
- 11/14(水)35円96銭高・・・前日急落した後でもあり、電子部品等に押し目買いが目立つ。
- 11/15(木)42円86銭安・・・アップル株安を背景にNY株が続落(11/14まで4日続落)も、アジア株高が下支え。
- 11/16(金)123円28銭安・・・米中貿易協議への期待でNYダウ(11/15)が反発も、米半導体大手エヌビディアが慎重な見通しを発表し、時間外で同社株が急落したことが影響。
- 11/19(月)140円82銭高・・・NY株の続伸を好感。半導体関連株等が反発。
- 11/20(火)238円04安・・・「アップルがiPhoneの発注削減」と報道されNYダウ(11/19)が395ドル安。「カルロス・ゴーン会長逮捕」を受け、日産株が下落も、市場の影響は限定的。
同じ期間、NYダウ(図2)も11/8(木)の取引時間中に付けた26,277.82ドルを高値に、11/15(木)には一時24,787.79ドルの安値を付けるなど小甘い展開となりました。10/26(金)〜11/8(木)の決算発表時期には、企業業績の好調を織り込んで上昇していましたが、その後は反動安になった格好です。アップルへ部品等を納入する業者が同社からの発注減少を示唆する事例が続き、iPhoneの販売不振が懸念され、米国株式市場全般に不安感が広がりました。中間選挙については、上院で共和党、下院で共和党が多数派になるという市場予想通りの結果となり、11/7(水)こそ大幅高という反応になりましたが、その後は材料視される場面は見られなくなりました。
一方、ドル・円相場(図3)は11/13(火)頃までは1ドル114円台に絡んだ動きとなり、日本株を下支える要因となりました。10月雇用統計の発表(11/2)を挟み、米労働市場の強さが再確認され「着実な利上げ」が意識される展開が続きました。しかし、米10年国債利回りは短期的に、11/7(水)の3.25%がピークとなり、その後は再び低下気味となりました。11/16(金)に、FRB議長・副議長から、米国の利上げが世界経済に及ぼす影響について、留意すべきとのハト派的発言があり、金利低下基調に拍車をかける展開になっています。これを受け、ドル・円相場も1ドル112円台まで円高・ドル安が進む展開になっています。
このように、決算発表シーズンを無事通過した東京株式市場ですが、不安定な米国株式市場、外為市場での円高・ドル安基調等という「木枯らし一号」が、厳しい季節の訪れを警戒させ、市場参加者の様子見気分を強めさせる要因となっています。
図1 日経平均株価は22,000円割れでの取引が継続
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2018/11/20取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2018/11/19現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2018/11/20取引時間中
米国では11月の第4木曜日が「感謝祭(Thanksgiving Day)」の法定休日と定められています。2018年は11/22(木)が該当します。欧州から米国大陸にわたった反イングランド教会派のキリスト教徒たちが初めての収穫を神に感謝したことを記念し、建国の基礎を作った働きを称えることが目的とされます。この日は七面鳥の丸焼きとカボチャのパイを家族そろって食べることが習わしになっています。
そして、「感謝祭(Thanksgiving Day)」の翌日の金曜日が「ブラックフライデー」と言われ、株式市場は短縮取引となり、この日からクリスマスまで、年末商戦が展開されることになります。米国において、小売業は年末商戦だけで年間売上高の2割程度を稼ぎ、この時期はさすがに、収支も「黒字」になりやすいことから、この名があるとされています。
10/3(水)に全米小売業協会(NRF)が発表した、2018年11〜12月の米小売売上高(自動車・ガソリン・外食を除く)は前年同期比で4.3%〜4.8%増加するとの見通しを発表しています。個人消費は米GDPの7割程度を占め、景気全般を大きく左右すると考えられるだけに、年末商戦の動きは米景気トレンドに大きく影響すると考えられ、実際の売上高がどう変化するのか、市場でも大きく注目されると考えられます。
なお、11/30(金)〜12/1(土)にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでG20首脳会議が開催されます。そこで、米国のトランプ大統領と中国の習主席が会談する予定で、貿易摩擦解消に向けた将来の交渉の「枠組み」で合意することができるか否か、注目されます。
表1 当面の主要タイムスケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
---|---|---|---|
11/20(火) | 米国 | 10月住宅着工件数 | 市場コンセンサス(前月比)は1.6%増 |
米国 | ☆決算発表 | ベストバイ、ギャップ他 | |
11/21(水) | 日本 | 10月訪日外客数 | 台風、地震の影響で9月は前年同月比5.3%減だった |
欧州 | 欧州委員会がイタリア制裁を勧告する可能性が残る | ||
米国 | 10月耐久財受注 | 米民間設備投資の先行指標 | |
米国 | 10月中古住宅販売件数 | 市場コンセンサス(前月比)は1.0%増 | |
11/22(木) | 日本 | 10月消費者物価指数(食品・エネルギーを除く) | 市場コンセンサス(前年同月比)は+0.4% |
米国 | ◎米国市場は休場 | 感謝祭 | |
11/23(金) | 日本 | ◎東京市場は休場 | 勤労感謝の日 |
- | 博覧会事務局総会 | 2025年「大阪万博」開催はなるのか | |
米国 | ブラックフライデー | 米年末商戦が開始 | |
11/25(日) | - | 英国のEU離脱を協議する臨時EUサミット | EUと英国が妥結した離脱協定草案を加盟国レベルで協議 |
11/26(月) | ドイツ | Ifo景況感指数 | 約7,000社のドイツ企業に現況と半年先の見通しをアンケート |
米国 | サイバーマンデー | オンラインショップにおける年末商戦開始日 | |
11/27(火) | 米国 | 9月FHFA住宅価格指数 | 市場コンセンサス(前月比)は0.4%上昇 |
米国 | 9月S&PコアロジックCS住宅価格指数 | 8月(20都市)は前年同月比5.49の上昇 | |
米国 | 11月CB消費者信頼感指数 | ||
11/28(水) | 米国 | 7〜9月期GDP改定値 | 市場コンセンサス(前期比・年率)は+3.6% |
米国 | 10月新築住宅販売件数 | 市場コンセンサス(前月比)は5.3%増 | |
11/29(木) | 米国 | 10月中古住宅販売仮契約 | 市場コンセンサス(前月比)は1.0%増 |
米国 | FOMC(11/8発表)議事録 | ||
11/30(金) | 日本 | 10月鉱工業生産 | |
中国 | 11月製造業PMI | 市場コンセンサスは50.2 | |
- | G20首脳会議(〜12/1) | ブエノスアイレス(アルゼンチン)で開催 |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2018年 | 2019年 | |
---|---|---|
日銀金融政策決定会合 | 12/20(木) | 1/23(水)、3/15(金)、4/25(木)、6/20(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 12/19(水) | 1/30(水)、3/20(水)、5/1(水)、6/19(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 12/13(木) | 1/24(木)、3/7(木)、4/10(水)、6/6(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
11/20(火)の東京株式市場では、日産自動車(7201)(※注)が大きく下げました。前日、同社のカルロス・ゴーン会長が逮捕されたことが原因と考えられます。我が国を代表する企業経営者と考えられていただけに、株式市場に与えた衝撃は大きかったと考えられます。
ただ、ストップ安まで売り込まれることなく、投資家から相当の押し目買いが入ったことも、もうひとつの事実です。その結果、株式市場では同社株に対する強弱が対立し、同社株の売買高は前日の18倍超と大きく膨らんでいます。同社株に押し目買いが入った大きな理由は、同社が予想配当利回りの高い銘柄として知られているからであると考えられます。SBI証券でも、口座開設後多くの投資家の方が「初取引」の対象に、同社株を選びました(10月)が、予想配当利回りの高さが理由のひとつであると考えられます。
図4は、日経平均株価の予想配当利回りの推移を週足ベースでみたものです。11/19(月)現在の予想配当利回りは2.10%ですが、この水準を付けるのは最近では10月下旬(10/31に2.14%)前後の数日以来で、それ以前は2012/11/21以来となります。「アベノミクス相場」の中ではほぼ、現在が最高水準であると考えられます。
予想配当利回りは配当が増えたり、株価が下落することで上昇します。野田前首相が解散を表明した2012/11/14(水)、日経平均株価の終値は8,664円73銭で、現在(11/20終値は21,583円12銭)の4割に過ぎませんでした。当時は株価が安かったことが、予想配当利回りの高い理由になっていたと考えられます。しかし、企業業績が「過去最高益」の現在は、予想配当額の多さが配当利回りに結びついていると考えられます。その分、株式投資の魅力は増したと考えられます。
同様に、図5は日経平均株価の予想PERの長期推移をみたものです。11/19(月)現在、日経平均株価の予想PERは12.26倍まで低下し、「アベノミクス相場」で最低水準になっていると考えられます。企業業績と比較した株価の割安感もまた、歴史的な高まりを見せていると考えられます。
予想配当利回りが一定水準まで上昇し、予想PERが一定水準まで低下すれば、株価は下げ止まるという保証は、残念ながらありません。しかし、株価が下がり、予想配当利回りががさらに上昇し、予想PERがさらに低下すれば、それを魅力とする投資家が増える可能性は十分あると考えられます。
- (※注)この項での日産自動車(7201)に対するコメントは、日経平均株価について考察することを目的に書かれており、同社株の今後の見通しを述べることを目的として書かれたものではありません。
図4 日経平均株価の予想配当利回り(週足・%)
図5 日経平均株価の予想PERの推移(倍)
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。ここで「アベノミクス相場」は、野田前首相が解散を表明した2012/11/14に開始したものとします。