日経平均株価は7/18(水)に22,949円32銭まで上昇し、「トリプルトップ」形成となった後は、ジリジリと値を切り下げる展開になっています。米中貿易摩擦が続いていることに加え、新たに米国とトルコの間で対立激化が深刻化し、東京株式市場でリスク回避姿勢が強まっているためです。
世界経済については日々、悲観論が強まっているように思われます。今後も、世界的に貿易摩擦が激化する可能性があり、株式市場の波乱には注意が必要であると考えられます。しかし、仮に世界的な貿易摩擦が後退した場合はどうなるのでしょうか。今回の「225の『ココがPOINT!』」では、世界的貿易摩擦と日経平均株価のシナリオについて、いくつか考えてみました。
日経平均株価は7/18(水)に22,949円32銭まで上昇し、「トリプルトップ」形成となった後は、ジリジリと値を切り下げる展開になりました。米中貿易摩擦が続いていることに加え、新たに米国とトルコの間で対立激化が深刻化し、東京株式市場でリスク回避姿勢が強まっているためです。
貿易を巡る米国と中国の対立は、長期的な覇権争いの様相を呈しています。7/6(金)以降米国が中国からの輸入340億ドル分(自動車、情報通信機器、ロボット他)に対して25%の関税を課していますが、8/23(木)以降は同160億ドル分の輸入(半導体、電子部品、鉄道車両他)についても関税を賦課する予定です。さらに、2,000億ドルの輸入品(食品、たばこを含む広範囲な生活関連製品等)についても関税を賦課する方針で、その税率は当初の10%から25%へ引き上げられる方針と伝えられています。そして、これらの輸入関税に対し、中国も報復措置を実行、または計画しています。
一方、米国はトルコとも対立しています。2016年7月にエルドアン大統領の政権転覆を狙って軍がクーデターを起こし失敗しましたが、この時に米国人牧師が関与したと同大統領は考え、同牧師を逮捕・収監してしまいました。これに対し、トランプ米大統領が、牧師の逮捕および長期拘束は不当だとして、トルコからの鉄鋼・アルミ輸入に2倍の関税を課すことを表明しました。外為市場では、トルコ経済の悪化が懸念され、8/10(金)と8/13(月)にトルコリラは米ドルに対し、2割超も急落し、新興国経済・通貨全般への不安につながり、日本株も強く動揺する展開になりました。
こうした中、米国は日本に対する貿易赤字も問題視しており、2国間でFTA(自由貿易協定)を締結すべく圧力をかけています。しかし、TPP(環太平洋経済連携協定)の効果を高めたい我が国との溝は深く、8月の段階では日米通商協議に目立った前進は認められません。米国は今後も自動車・同部品における関税強化で揺さぶりをかけてくる可能性があり、要注意であると考えられます。
日経平均株価(図1)は「トルコ・ショック」を契機に25日移動平均線、200日移動平均線等の主要移動平均線を一気に下抜け、その後はそれらを下回る水準で推移しています。今週の日経平均株価は8/20(月)に71円38銭安と反落し、8/21(火)は反発したものの、大勢に大きな変化はないようです。
図1 日経平均株価が主要移動平均を下回る状態が長期化
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2018/8/21現在
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2018/8/20現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2018/8/21取引時間中
前項でもご説明したように、8/23(木)以降、米国が中国からの160億ドル分の輸入品(半導体、電子部品、鉄道車両他)についても関税を賦課する予定で、それに対し中国も報復するとみられています。米国ではそれまで、米中次官級協議が行われている予定ですが、妥協の成立で貿易戦争の流れに変化が起きるか否か、注目が集まる所です。
同じ8/23(木)からは米国で「ジャクソンホール会議」(〜8/25)が行われる予定です。8/24(金)にはFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が講演を予定しており、現在の世界経済や金融政策について、どのような認識を有しているのか問われることになりそうです。現在、米国のトランプ大統領がFRBによる利上げに難色を示しているだけに、その独立性に対する認識等も問われる可能性がありそうです。
なお、テクニカル的には8/23(木)頃に、日経平均株価の一目均衡表(日足)において、2本の先行スパンが交差する「要注意日」となりそうです。このように、8/23(木)には重要日程が目白押しになっており、上下どちらかに株価が大きく動く可能性もありますので、注意が必要とみられます。
表1:8/23(木)は多くの点で「要注意日」
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
---|---|---|---|
8/20(月) | トルコ | 休場(8/20〜8/24) | 8/20(月)は「犠牲祭前夜」、8/21(火)〜8/24(金)は「犠牲祭」 |
8/22(水) | 米国 | 7月中古住宅販売件数 | 市場コンセンサスは前月比1.3%増 |
米国 | 貿易問題に関する米中次官級協議 | ||
8/23(木) | 米国 | 7月新築住宅販売件数(前月比) | 市場コンセンサスは前月比3.8%増 |
米国 | ジャクソンホール会議 | 〜8/25(土) | |
米国 | 中国からの輸入160億ドル相当に追加関税発動 | ||
中国 | 米国からの輸入160億ドル相当に追加関税発動 | ||
8/24(金) | 日本 | 7月全国消費者物価指数 | 6月(生鮮食品を除く)は前年同月比0.8%増 |
米国 | 7月耐久財受注 | 市場コンセンサス(輸送用機器を除く)は前月比0.5%増) | |
8/27(月) | ドイツ | 8月Ifo景況感指数 | 約7千社のドイツ企業に景況感をアンケート |
8/28(火) | 日本 | 8月末権利確定銘柄の権利付最終日 | |
米国 | 8月コンファレンスボード消費者信頼感指数 | 株主優待実施銘柄のうち、108社が権利確定月 | |
8/29(水) | 米国 | 4〜6月GDP改定値 | 速報値(前期比・年率)は4.1%増 |
米国 | 7月中古住宅販売仮契約 | 6月は前期比0.9%増 | |
8/30(木) | トルコ | 休場(「戦勝記念日」) | ケマル・アタチュルク率いるトルコ軍がギリシャに勝利した日 |
8/31(金) | 中国 | 8月製造業PMI |
表2 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2018年 | 2019年 | |
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日銀金融政策決定会合 | 9/19(水)、10/31(水)、12/20(木) | 1/23(水)、3/15(金)、4/25(木)、6/20(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 9/26(水)、11/8(木)、12/19(水) | 1/30(水)、3/20(水)、5/1(水)、6/19(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/13(木)、10/25(木)、12/13(木) | 1/24(木)、3/7(木)、4/10(水)、6/6(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
図4は日経平均株価と予想PERの関係を1つのグラフにしたものです。8/20(月)現在、日経平均株価は22,199円00銭ですが、その日の予想PER12.99倍に予想EPS(一株利益)1,708円93銭を掛けた数値として計算されています。今後、株価が上昇するためには少なくとも、市場心理を示す予想PERまたは、企業業績を示す予想EPSが上昇する必要が出てきます。
図4にもありますように、日経平均株価の予想PERが12.5倍(線A)を下回るような「弱気」な場面は、世界経済が極度の不透明要因によって覆い隠されるような場面に現れる傾向にあります。ここ3年間では、英国のEU離脱(Brexit)や米中貿易摩擦がその例となっています。仮に今後、企業の利益に上積みがなく、さらなる世界経済の混乱があった場合、予想PERが12.5倍を下回り、日経平均株価が線A以下の水準となるリスクはゼロではないと考えられます。
ちなみに、「Brexit」では日経平均株価は一時15,000円を下回りました。今後、米国が自動車関税を強化するような事件が起きた場合に、再び日経平均株価はそこまで下がるのでしょうか。いや、その可能性は小さいと考えられます。仮に、自動車関税強化のような事件により、市場心理が「Brexit」並みに悪化した場合、同じ予想PERでも、それに対応する日経平均株価が上昇していることを線Aが示しているためです。仮に、その時に予想PERが「Brexit」並みに低下した場合、日経平均株価は21,000円前後と計算されることになります。無論、市場心理が「Brexit」以下になった場合は、その限りではありません。
逆に、自動車関税の可能性が後退するなど、世界的な貿易摩擦に対する市場の不透明感が薄くなった場合はどうなるでしょうか。その場合、予想PERは上昇し、日経平均株価は線Bや線C近辺に上昇するケースも出てきそうです。
ちなみに、企業業績の方向感を示す日経平均株価の予想EPSは緩やかに上昇傾向をたどっています。仮に、世界経済を覆う不透明感が晴れ、予想EPSの上昇カーブが急になった場合、線Bや線C自体がより上方にシフトすることになりそうです。その場合、日経平均株価が現状で線Cが位置する27,000円を指向しても不思議ではないことになります。
このように、世界的な貿易戦争の行方次第で、日経平均株価は大きく変動する可能性を秘めていると考えられます。
図4:日経平均株価(日足)と予想PER
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。