トランプ米大統領が鉄やアルミニウムに輸入関税を課すと発言し、世界の株式市場が動揺し、日経平均株価は3/5(月)に再び2万1千円の大台を割り込む場面がありました。しかし、貿易戦争に対する過度の懸念が後退し、3/6(火)は反発に転じました。
今後はどうなるのでしょうか。貿易戦争の不安が強まり、円高懸念がくすぶる中、日経平均株価の予想PERは低下傾向になるかもしれません。しかし、それでも現在の株価水準は低過ぎると考えられます。
逆トランプ相場? |
日経平均株価(図1)は2/14(水)に一時20,950円15銭まで下落した後は反発基調に転じ、2/27(火)には一時22,502円05銭まで上昇しました。しかし、その後は再び下落基調となりました。
NYダウ(図2)が2/27(火)の25,800ドルを高値に下落に転じ、その日から3/2(金)まで4営業日続落となり、累計で1,171ドル下げたことが逆風となりました。この間はリスク回避の円買いが強まり、ドル・円相場(図3)は3/2(金)に1ドル105円台前半まで円高・ドル安が進み、やはり日本株にとってはマイナス材料となりました。
2/27(火)にパウエルFRB議長が下院金融サービス委員会で証言を行いましたが、市場で証言内容が「タカ派」と捉えられ、その日のNYダウは前日比299ドル安と反落しました。続く2/28(水)は特に大きな材料が見当たらない中、NYダウが50日移動平均線を割り込んだ後に下げが加速し、結局前日比380ドル安と続落になりました。3/1(木)にはトランプ大統領が鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の輸入関税を課す方針であることが明らかになり、NYダウは3営業日続落の420ドル安と波乱になりました。
こうした中、輸入関税についてトランプ大統領が「新しく公正なNAFTA(北米自由貿易協定)が署名された場合に限り解除される」とツイッターで述べたことから、貿易戦争への懸念が後退し、3/5(月)のNYダウは336ドル高と、5営業日ぶりに反発し、外為市場ではドル・円相場が1ドル106円台に戻りました。これを受けた3/6(火)の東京市場では日経平均株価がようやく反発に転じました。
この1週間、全般的な相場でみる限り、日本株が独自の材料で動いた場面はほとんどなく、まさに米国に振り回された局面であったと言えそうです。ただ、トランプ大統領の経済政策の「負の側面」を織り込んだという意味で、市場の一部では今回の株価波乱を「逆トランプ相場」と表現しているようです。
図1:日経平均株価(日足)〜「W底確認」に向かうのか、もみ合い継続か
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2018/03/06取引時間中
図2:NYダウ(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2018/03/05現在
図3:ドル・円相場(日足)
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2018/03/06取引時間中
当面のタイムスケジュール〜雇用統計(2月)で賃金上昇圧力の強弱を確認 |
当面は日本および欧州の金融政策に関する動向、米雇用統計(2月)など重要日程が目白押しになっています。要人発言が市場で「増幅」または「誤解」されて伝わる可能性もあり、油断は禁物と言えるでしょう。
3/8(木)に欧州ではECB(欧州中銀)理事会が予定されています。現在、同中銀は月300億ユーロの債券買い入れ(2018年からはそれまでの月600億ユーロから減額)を9月までの予定で実施しています。その後はどうなるのか、債券購入継続の可能性を残すのか等「フォワードガイダンス」の変更について「3月の会合ではない」との見方が有力になっています。ただし、ドラギ総裁の会見に市場が反応する可能性はあり、一応の注意が必要です。
3/9(金)には日銀金融政策会合の結果発表、および黒田総裁の会見が予定されています。3/2(金)の所信聴取でその発言の一部が切り取られ、日銀は出口戦略を検討しているというイメージが世界に拡散され、円高を後押ししたという経緯があります。金融政策自体の変更は予想されていませんが、会見内容に注目が集まる可能性はありそうです。
同じ日の日本時間夜(22時30分)、米国では雇用統計(2月)の発表が予定されています。市場コンセンサスでは非農業部門雇用者数の増加(前月比)は20万5千人(1月は20万人)、失業率は4.0%(同4.1%)、平均時給の伸び(前年同月比)は2.8%増(同2.9%増)という予想になっています。前回の発表では、平均時給の伸びに市場が衝撃を受け、株価が急落したという経緯があります。現時点では、平均時給の伸びが市場コンセンサスを下回ることが、市場にとっての好材料になりそうです。
ただ、週次で発表される新規失業保険申請件数等をみる限り、労働市場のひっ迫状態は継続しているとみられ、「フタを開けるまではわからない」のが現実だと思われます。
表1:当面の重要なタイムスケジュール〜雇用統計(2月)で賃金上昇圧力の強弱を確認
月日 |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
3/6(火) | 米国 | 2月ISM非製造業指数(午前0時) | 雇用指数にも注目 |
3/7(水) | 米国 | 2月ADP雇用統計 | 雇用者数のコンゼンサスは前月比200千人増 |
米国 | ベージュブック | 米金融政策の重要な判断材料に | |
3/8(木) | 日本 | 10〜12月期GDP改定値 | 市場コンセンサスは前期比・年率+1.0% |
日本 | 2月都心オフィス空室率 | 1月は3.07%。ボトムは17年10月の3.02% | |
中国 | 2月貿易収支 | コンセンサスは輸出+11.0%、輸入+9.7% | |
欧州 | ECB(欧州連銀)定例理事会 | ガイダンス変更があるとの見方は後退? | |
3/9(金) | 日本 | 日銀金融政策決定会合結果発表 | 黒田総裁の記者会見に注目 |
日本 | メジャーSQ | ||
米国 | 2月雇用統計〜非農業部門雇用者数 | コンセンサスは前月比205千人増 | |
同〜平均時給 | コンセンサスは前年同月比+2.9% | ||
3/10〜3/15 | 中国 | 2月マネーサプライ(M2) | コンセンサスは前年同月比8.7% |
中国 | 2月資金調達額 | コンセンサスは1兆665億元 | |
中国 | 2月新規ローン | コンセンサスは9,000億元 | |
3/11(日) | 米国 | 夏時間入り | |
3/13(火) | 米国 | 2月消費者物価指数 | コンセンサス(食品・エネルギー除く)は前年同月比+1.8% |
3/14(水) | 日本 | 1月機械受注 | コンセンサス(コア)は前年同月比-5.0% |
中国 | 2月小売売上高 | コンセンサス(年初来)は前年同月比9.9%増 | |
中国 | 2月鉱工業生産 | コンセンサス(年初来)は前年同月比6.2%増 | |
中国 | 2月都市部固定資産投資 | コンセンサス(年初来)は前年同月比7.0%増 | |
米国 | 2月小売売上高 | コンセンサス前月比0.4%増 | |
3/15(木) | 日本 | 2月首都圏マンション発売 | |
米国 | 3月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | 企業マインドの強弱は? | |
3/16(金) | 米国 | 2月住宅着工件数 | コンセンサスは前月比-3.7%減 |
米国 | 2月鉱工業生産 | コンセンサスは前月比+0.3% | |
米国 | 3月ミシガン大学消費者マインド指数 | 期待指数(2月)は90.0 |
表2:日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2018年 | |
---|---|
日銀金融政策決定会合 | 3/9(金)、4/27(金)、6/15(金)、7/31(火)、9/19(水)、10/31(水)、12/20(木) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/21(水)、5/2(水)、6/13(水)、8/1(水)、9/26(水)、11/8(木)、12/19(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 3/8(木)、4/26(木)、6/14(木)、7/26(木)、9/13(木)、10/25(木)、12/13(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀Webサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合がありますので、あくまでもデータ作成段階のものです。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表2の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
【ココがPOINT!】それでも市場は「弱気」に傾き過ぎ? |
このレポートではこれまで、「日経平均株価は過去数年間、予想PER13.5倍〜16.5倍(15倍±10%)のレンジで推移してきた」という見方をもとに、その時々の株価水準について考えてきました。その見方は今も変わっていません。3/5(月)現在、日経平均株価の予想EPSは1,683円ですので、仮に上記のレンジの中心である予想PER15倍で評価された場合、
1,683円×15.0倍=25,245円
と計算されます。それに比べると現在の株価水準は低過ぎるとみられ、日経平均株価は近い将来、水準訂正されると予想しています。
しかし、保護主義の危機が迫り、円高圧力がくすぶる中で「想定される予想PERの水準は低下しないのか」という疑問を持つ投資家も増えると思われます。そこで、「日経平均株価は今後、予想PER12.5倍〜15.5倍のレンジで推移する」と、前提条件を保守的なものに改め、考え直してみたものが図4になります。
もともと、アベノミクス相場における予想PERの下限は2016年6月の「英国によるEU離脱決定」で付けた12.6倍であり、3/5(月)の水準はそれを下回っています。また、推定予想PERの「中心」を14倍と考え直した場合、
1,683円×14.0倍=23,562円
と計算されます。現在の株価水準はやはり「弱気」に傾き過ぎているとみられます。
図5からもご理解頂ける通り、2015年秋から2016年夏にかけ、外為市場では相当に急激な円高・ドル安が進みました。それを反映するかのように、日経平均株価の予想EPSは低下傾向をたどりました。株式市場は「円高による業績悪化懸念」を少し前にすでに経験しているのです。そして、その時の予想PERの下限が12.6倍であった訳です。その当時に比べれば、円高・ドル安の規模も小さく、予想PERの低下傾向も確認されていません。やはり、予想PERの現在の水準は低過ぎるように思われます。
そもそも、株式市場では数ヵ月前、円高でも下げ渋る日本株をみて「日本企業の円高耐久力が強化された」との声が聞かれました。そうした声が現在聞こえないのは不思議です。市場の見方が正しければ、円高による業績の鈍化は限定的になるのではないでしょうか。
図4:日経平均株価と予想PER
- 日経平均株価データを用いてSBI証券が作成
図5:ドル・円相場(週足)
- 当社チャートツールを用いてSBI証券が作成
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