3月中旬は日米欧で金融政策を決める会合が相次いで開催されました。その結果は総じて市場の予想通りとなり、欧州の追加緩和実施、米国の利上げ見送りという市場にとってフレンドリーな結果になりました。これを受けて世界の株式市場は概ね堅調な推移となりました。
こうした中、日経平均株価についてはやや心理的ストレスのたまりやすい展開になりました。NYダウが連騰する一方で続落基調となり、3/4(金)に回復した17,000円台をなかなか値固めすることができず、3/18(金)まではむしろ16,000円台半ばに押し戻されるかのような形で推移しました。「米国株は連騰しているのに、日本株はなぜ弱いのか?」というのが、市場参加者の偽らざる思いなのかもしれません。
結局、3/21(月)までNYダウは7営業日連騰となり、さすがの日経平均株価も連休明け3/22(火)の東京市場では買い先行になっています。この動きは本物でしょうか、まやかしでしょうか。どうやらその鍵を握るのは為替相場に対する見方になりそうです。本日は、為替相場の動きの背景に流れる潮流変化をチェックし、日経平均の先行きを占ってみたいと思います。
<今週のココがPOINT!>
米国・中国などの株価反発ムードに乗り切れない東京市場 |
世界の金融市場で先週最も注目を集めたのは、現地時間3/16(水)まで実施されたFOMC(米連邦公開市場委員会)でした。その結果は市場の予想通り「政策金利引き上げは見送る」というものでした。それまで、FRB(米連邦準備制度理事会)は年4回利上げするつもりであり、そのためには3月の利上げが必要と考えられてきました。3月の利上げが見送られたことで、実質的に年4回の利上げは不可能となり、「FRBは2016年に1〜2回の利上げ」というのがメインシナリオに変わりました。
世界の市場参加者は総じて、不透明感が漂う世界経済・金融市場を考慮すれば「FRBによる年4回の利上げは性急すぎる」と考えてきましたので、FRBの利上げ見送りを、先取り(FOMC前)・好感(FOMC後)する形となりました。NYダウは3/21(月)まで7営業日続伸となり、昨年末比の騰落率がようやくプラスへと回復してきました。中国上海総合指数も3/21(月)まで7営業日続伸となり、終値としては1/19(火)以来の3,000ポイント台回復を実現しました。
欧州の追加緩和実施に続き、米国が利上げを見送ったことは、世界経済・金融市場の安定化を意識したものであり、日本株にとってもプラス要因と考えられます。3/4(金)に17,000円大台を回復した日経平均株価はそれを先取りする形で、3/14(月)の取引時間中には17,291円と、2月上旬以来の高値水準を取り戻してきました。しかし、その後は次第に上値が重くなり、連休直前の3/18(金)には一時16,613円の安値を付けました。
日本株が米国株や中国株同様の上昇波動に乗り切ることができないのは「円高」が背景と考えられています。FOMCの結果は日本時間では3/17(木)の取引開始前に明らかになり、同日の日経平均株価は一時278円高の17,253円まで上昇しましたが、ドル・円相場は、9時30分1ドル112円91銭から、14時30分112円00銭となり、この日の日経平均株価は結局下落して取引を終了。ドル・円相場はその後も17時5分に111円52銭、21時に110円72銭となり、これを嫌気する形で3/18(金)の日経平均株価は大幅安(211円安)になりました。
FOMCの結果を受け「米国の本格的な利上げ局面が到来し、米債券利回りが上昇し、円安・ドル高になる」というシナリオが修正を迫られ、円高・ドル安になったと考えられています。円安を招く日本の金融緩和に批判的な声もあったとの指摘もあり「これ以上の金融緩和は難しい」との見方から、円高は長期化するとの見方もあるようです。
しかし、こうした見方には誤解が含まれていると「ココがPOINT!」では考えています。「円高」は長期化せず、日経平均株価は再び上昇に転じる可能性が大きいと予想します。その理由は(3)でご説明したいと思います。
図1:日経平均株価(日足)一目均衡表
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2016/3/18現在。
3/22〜25日の週よりも、3/28〜4/1の方が要注意 |
為替相場と日経平均株価の見通しを占う前に、タイムスケジュールをチェックしておきたいと思います。タイムスケジュールの面では、3/15(火)の日銀金融政策決定会合、3/16(水)のFOMC結果発表が終わり、それらとの比較でみると重要なイベントは少ないと言えます。為替相場や株式相場の反転に向け、大きな支障はないと考えられます。
3/24(木)の耐久財受注は、米国の設備投資を占う意味で重要です。変動の大きい輸送用機器を除いた数字で考えるのが一般的ですが、市場コンセンサスでは若干の減少(前月比)を見込んでいるようです。ただ、最近では企業心理を反映する地区連銀製造業指数の多くが好転しています。一時に比べドルは多くの通貨に対して下げており、上振れれば、米景気の改善傾向を示唆することになりそうです。なお、翌日の3/25(金)が休場となるため、米国市場は3連休となります。それを控えたポジション調整には注意が必要です。
3/28(月)には、わが国の上場企業の3月決算企業および9月決算企業のほとんどが「権利付最終日」を迎えます。この日までに買い付けていないと、それらの銘柄は配当や株主優待等の権利を享受することができなくなりますので注意が必要です。また、一部ではありますが、3/20決算などの銘柄があり、それらの銘柄はすでに「権利落ち」になっています。配当や株主優待の「ラストチャンス」を狙う投資家は、投資対象銘柄の期末月日を確認しておく必要があります。
なお、「権利落ち日」となる3/29(火)直後は、「権利取り」を狙った買い需要が減少する分、3月期決算企業等の株価が下落しやすくなりますので要注意です。本年は特に、マイナス金利の導入とそれに伴う運用難を背景に、地銀等に配当取りの動きが強まっている可能性もあります。権利落ち後の反動がきつくなる可能性に注意が必要です。
4/1(金)には日銀短観、中国製造業PMI、米雇用統計の3大イベントが予定されています。通常であれば重要指標のISM製造業指数の存在が薄れる程です。その直前には、3月期末ということもあり、日米で「様子見」となる可能性があります。
表1:当面の重要なタイムスケジュール
月日(曜日) |
国・地域 |
予定内容 |
ポイント |
---|---|---|---|
3/22(火) |
独 |
Ifo景況感指数 |
|
米国 |
1月FHFA住宅価格指数 |
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3/23(水) |
米国 |
2月新築住宅販売 |
|
3/24(木) |
米国 |
2月耐久財受注 |
輸送用機器を除く部分で前月比-0.2%が事前予想。 |
3/25(金) |
日本 |
2月全国(3月東京)消費者物価指数 |
生鮮食品を除く部分は「全国」が前年比±0%がコンセンサス。 |
米国 |
10〜12月GDP確定値 |
「前期比年率1.0%」からの変化は? |
|
米国 |
米国市場他休場(グッドフライデー) |
|
|
3/28(月) |
日本 |
3月決算銘柄等が権利付最終日 |
|
3/29(火) |
日本 |
3月決算銘柄等が権利落ち日 |
権利落ち銘柄の株価が下落圧力を受ける |
日本 |
2月家計調査・商業統計調査 |
||
米国 |
3月消費者信頼感指数 |
||
3/30(水) |
日本 |
2月鉱工業生産 |
1月は前月比-4.4%。 |
米国 |
3月ADP雇用統計 |
|
|
3/31(木) |
米国 |
シカゴ購買部協会景気指数 |
|
4/1(金) |
日本 |
3月日銀短観 |
大企業製造業の業況判断指数は7との予想(前回調査の「予想」) |
中国 |
3月製造業PMI |
前回数値から改善が見込まれている。 |
|
米国 |
3月雇用統計 |
非農業部門雇用者は前月比20万人増・失業率は4.9%の予想。 |
|
米国 |
3月ISM製造業指数 |
前回49.5から50.4へ「改善」の見通し(コンセンサス) |
- ※Bloombergデータ、報道等をもとにSBI証券が作成。海外は現地時間。データは2016/3/21現在。
【ココがPOINT!】「円高」に進んで久しく、そろそろ一巡し、株高へ? |
冒頭でご説明したように、先週までの動きをみる限り日本株の動きは冴えません。市場では、「円高が進み、景気・企業業績に悪影響が及ぶ」と考えられているようです。G20で金融緩和をテコに円安を図ろうとする日本の経済政策に批判的な意見も出たようで、今後日銀は追加的金融政策を打ちにくくなるとの指摘もあります。
しかし、市場の見方には誤解が含まれているような気がします。今後、本当に円高が進むのか、それが景気・企業業績の逆風になるのか、違和感を強く感じます。
2015年の円対外国通貨の動きをみると、円に対してドルはおおむね横ばいでしたが、他の外国通貨は一部の例外を除きほぼすべてが下落しています。「円高」とか「円安」という言葉だけで考えてしまう我々には、昨年までは「円安」というイメージがありますが、昨年はすでに、ほとんどの通貨に対して「円高」となっていたのが実態です。ちなみに、ドルもほとんどすべての通貨に対して上昇していました。ドル高は確かに米企業業績に逆風となりましたが、その「ドル高」はおもに、ユーロおよび新興国通貨の対ドルでの下落からもたらされており、G20で日本批判が生じたという見方には違和感を感じます。
さらに、過去1ヵ月の為替相場をみると、ロシア・ルーブル、ブラジル・レアルなど日本円に対し、上昇に転じている通貨も目立っています。政治不安に揺れるブラジル・レアルは年初来でみても円に対して上昇しています。貿易の面でも、製造拠点やサービスの国際展開の面でも、日本と海外の取引は多角化しており、為替についてドル・円相場だけをみていれば済む訳ではありません。したがって、足元の為替変動を「円高」として一括して理解してしまうと、細部で誤解が生まれる余地が拡大してしまいます。すでに為替市場では「円高」が一巡し始めている可能性があります。
多くの海外通貨との間では昨年からすでに円高が進んできましたが、足元ではその傾向に一服感もみえるというのが実態で、これから円高が進むというのはむしろ、市場の動きに対し遅行した考え方のように思えます。ペースこそ緩和したものの、米国が利上げ方向、日本が現状維持または緩和方向と、依然として金融政策の方向感に違いがあることも確かです。そもそも、原油高や新興国株高を背景に「リスク回避の円買い」需要も後退すると予想されます。
円高が一巡し、日経平均株価が上昇に転じる可能性も大きいと「ココがPOINT!」では考えています。
図2:円に対する主要外国通貨の騰落率〜2015年にすでに下落し、足元は上昇に転じている通貨も
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。円に対する各通貨の騰落率を期間別に示したもの。「2015年」は同年の年間騰落率。単位は%。
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