5月米雇用統計
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
先週末発表の米5月雇用統計は、非農業部門の就業者数が前月比55.9万人増加と2カ月連続で市場予想(67.1万人増)には届かず、幅広い業種で労働力が不足し、景気回復の足かせとなっている様子のほか、企業が人材の確保に苦慮している状況をあらためて浮き彫りとなりました。その要因として(1)子どもの預け先確保が困難な状況にあること (2)失業保険給付の特別加算延長により賃金の低い職種の魅力が低下したこと (3)感染への根強い懸念が依然燻る業種が見られること (4)感染によるテレワークの普及など仕事の価値に関する考え方の変化などが要因として挙げられるかもしれません。一方、失業率は5.8%と前月(6.1%)から改善するなどワクチン接種の効果により、政府が規制を緩和し、州や地方当局も企業の経済活動正常化を支援。さらに政府の現金給付が個人消費の追い風になり、労働力への需要が高まっていると見られます。
今回の結果についてバイデン米大統領は 「5月雇用統計は“歴史的な進展”示す」と発言したほか、クリーブランド地区連銀のメスター総裁も5月の雇用統計は堅調な内容だったとの見解を示した上で、回復は続いており、金融当局者は忍耐強く臨む必要があると発言。また、イエレン財務長官は、最近の物価上昇は一過性であると発言したほか、米労働市場が感染前の水準に戻るには時間を要するとの認識を明らかにしました。テーパリング議論の開始が遅くなる可能性が高まったことで、米10年債利回りは1.55%台へ低下したことからドルが売れる展開となり、110円台を維持できないまま先週末の取引を終えています。
FRBの金融政策
雇用統計の発表前から (1)中国政府が商品高抑制に向けた取り組みを強化する方針を示した以上のペースでは進んでいないこと (2)好調な米債入札など米長期金利の上昇にブレーキを掛ける要因がいくつか見られているのが現状で、こうした点もドル円の上値抑制の要因となっています。
FRBの今後の方向性としては、今夏のいずれかの時点で、資産買い入れ縮小に関する議論に着手し、その後しばらくしてから、数カ月かけて資産購入額をゼロまで減らすとの基本シナリオに変わりはないとの見方も根強く、ドル円の下値支援の一因となっています。先週25日にクラリダFRB副議長は、物価上昇は一時的としながらも、「今後数回の会合でテーパリングについて議論を開始できる状況になるだろう」と発言。26日にはクオールズ副議長自身の経済見通しが正しければ、テーパリングの議論開始が重要になるとの考えを明らかにしています。
緩和縮小に向けて FRB 幹部から2日続けて観測気球を打ち上げられたものの、市場の反応は限定的に留まるなど5月19日に公表された4月27‐28日開催分のFOMC議事要旨ではテーパリングの議論開始に前向きと捉えられる記述が明らかになった際の市場の反応とは対照的な結果となりました。少なくとも、今回の5月雇用統計で来週15‐16日のFOMCでこうした議論が活発化するとの観測を緩和させる結果になったと見られます。
10日発表の米5月消費者物価指数に注目
- ※出所:米労働省
5月12日に発表された4月消費者物価指数が前年比+4.2%と市場予想(+3.6%)を大幅に上回り3月(+2.6%)から上昇したことを受け、10年債利回りが1.65%台へ上昇するなど日米金利差拡大が意識されドル円は109円21銭まで上昇。半導体不足による自動車生産の遅れを受け、中古車価格や輸送関連の増加を受けトラックの需要増を受けた価格上昇のほか、レンタカー価格の上昇も消費者物価指数の上昇につながった一因となりました。一方、金利上昇を受けナスダック先物が2.6%超下落するなどインフレ加速が景気回復の足かせになるとの警戒感に加え、米10年債入札を見極めたいとして一時108円90銭まで反落。その後、10年債利回りが1.67%台へ上昇する中、対欧州通貨や対オセアニア通貨でドル買いが優勢となる中、ドル円は日足・雲の上限(109円42銭)を上抜け109円64銭まで上昇。その後、好調な米10年債入札を受けて1.64%台へ低下したものの109円51銭までの反落に留まり、NY市場終盤にかけて再び1.69%台へ上昇したことからドル円は109円68銭で5月12日の取引を終えた経緯があります。
今週は8日に3年債入札、9日に10年債入札、10日に米5月消費者物価指数の発表に続き30年債入札が予定されており、来週のFOMCのテーパリング議論開始の思惑を高める結果となるかドル円の動向が注目されます。
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