トランプ大統領の強硬姿勢に変化?
2/11から北京で開催された米中次官級による通商交渉に続き、2/14-15にはムニューシン財務長官やライトハイザー米通商代表部(USTR)代表ら閣僚級による通商交渉が続いたものの、最終合意には至らず、今週ワシントンでの継続協議となりました。
中国側は、米国からの輸入拡大や中国市場の開放に前向きな意向を明らかにしています。一方、米国が強く求めている中国に進出する米国企業への技術移転の強要など知的財産権の問題や、中国政府から国有企業に対する補助金問題については、依然として米中間の溝が深い状態です。
しかし、トランプ大統領は2/15に「米中間の通商交渉は非常に上手く進んでおり、合意に達することができれば関税撤廃することもあり得る」と前向きな発言を行っています。
さらに、米国の対中輸入品2000億ドルを対象に10%の関税を25%に引き上げる猶予期限を前に、60日間の期限延長についても、トランプ大統領自ら「期限が延長される可能性がある。交渉継続中は関税引き上げを行わない」と発言するなど、昨年の強硬一辺倒の姿勢が明らかに変化し、軟化姿勢が見られています。
米小売売上高(除く自動車) 前月比(%)
- ※出所:米国勢調査局
関税引き上げ猶予期間を延長か
2/14に、政府系機関の閉鎖が続いた影響により遅れていた米12月小売売上高が発表されましたが、前月比-1.2%と2009年以来の大幅な下落率となったほか、自動車を除いた売上高も前月比-1.8%と2008年12月以来の下落率となりました。
大幅な下落率となった要因は、政府系機関の閉鎖による一時的なもの、あるいは米中通商問題の影響によるものなのでしょうか。
トランプ大統領の支持率を支えるNY株式市場の下落は、来年2020年の大統領選に向けた懸念につながるだけに、経済指標の下振れについても、これまで以上に関心を高めていると思われます。
さらに、今回の米中通商交渉の結果を受けて、仮に米国が関税引き上げを行うことになれば、米企業業績や米国経済に対する打撃も無視できないとする分析が、トランプ政権内部から発信されています。
中国は、したたかにそうしたトランプ政権内の動きを分析した上で、知的財産権や補助金問題について、何とか妥協点を見出し、一応の着地点を探っているとも言われています。
トランプ大統領は、一般教書演説の中でインフラ投資の重要性に言及したものの、昨年の演説で示した1.5兆ドル規模との具体的金額を示すことはありませんでした。
減税策やインフラ投資といった目玉政策の無い中で、2期目を目指すトランプ大統領にとって、NY株式市場の上昇に象徴される米国経済の堅調さの継続が、再選に向けた要になっていることは言うまでもありません。
今週も続く米中通商協議で着地点を見出し、知的財産権などの問題は継続審議事案として、関税引き上げ猶予期間を延長するものと思われます。
NY連銀製造業景況指数
- ※出所:NY連銀
NYダウの推移(日足)
- ※出所:Quants Research Inc.
市場の注目は米中通商交渉の行方
2/15に発表された米2月NY連銀製造業景況指数は予想を上回ったほか、期待指数も昨年11月以来の高水準へ改善するなど、安心感が見られました。
NYダウは、昨年10月初めに史上最高値を更新する27,000ドル手前の水準まで上昇したもののパウエルFRB議長によるタカ派的な金融政策を嫌気し、12月下旬には21,712ドル台へと下落しました。
その後、パウエルFRB議長のハト派政策への転換に加え、1月のFOMC声明文から2016年12月以降続いた「更なる段階的(緩やかな)利上げ継続)」の文言が削除され、金融政策について忍耐強い姿勢が強調されるなど、実質的な利上げ停止がコンセンサスになりつつあり、NYダウは昨年11/9(25,989ドル)以来の高値となる25,883ドルで2/15の取引を終えています。
トランプ大統領がメキシコ国境の壁建設費用の必要性を主張し、国家非常事態宣言を宣誓したものの、市場の反応は限られていました。これは、米中通商交渉の進展期待が注目点となっていることを象徴しています。
3/1の対中関税引き上げ猶予期限を控え、期限延長で妥協するといった観測が有力視されているほか、トランプ大統領は、「いずれかの時点で習近平国家主席と課題について会談する」と、米中首脳会談を実施する意向を明らかにしています。
今後、再選に向けた生命線となるNY株式市場の上昇や、米国経済の成長持続を支援するため、トランプ大統領は必要な措置を講ずるものと思われます。