当面、利上げは見送りか
先週のFOMC声明文では、2016年12月の利上げ再開以降、一貫して見られた「更なる段階的な利上げ」との文言が削除されたほか、パウエルFRB議長の会見や記者との質疑応答を通じて、今後の金融政策について「忍耐強く望む姿勢」が強調され、実質的に『一時的な利上げ停止』との解釈も聞かれたことから、米長期金利の低下につながりました。
さらに、パウエルFRB議長は、声明文には盛り込まれていないバランスシートの縮小について、潤沢な準備金とともに金融調節を行う方針について言及したほか、資産縮小を想定以上に早期に終了する可能性に言及するなど、「当面、利上げは見送られる」「利上げ棚上げ宣言」と市場が受け止める極端にハト派的な内容となりました。
昨年10月時点では、中立金利まで依然距離があるとして、利上げ継続が当面続くとするタカ派的な発言を行った結果、NYダウは10/3のザラ場高値(26,951ドル=史上最高値)から10/29のザラ場安値(24,122ドル)まで、1ヵ月間に10.5%の下落を招くこととなりました。
しかし、パウエル議長は、11月初旬に利上げ打ち止めを示唆する発言をしたことから、11/7のNYダウが再び26,000ドル台を回復、11/8のザラ場高値(26,277ドル)まで上昇するなど、株式市場はパウエル議長のタカ派からハト派への方針転換を好感、株式市場の落ち着きが確認されました。
それでも、12月の利上げ観測は根強く、NY株式市場の堅調さは長続きせず、11/23に再度24,268ドルまで反落(11月高値から7.6%安)しました。
さらに、12月FOMCでは、トランプ大統領をはじめ、複数の政府関係者からの利上げ牽制に屈することなく利上げを決定。声明文では、「更なる段階的な利上げ」との文言を「幾らかの一段の緩やかな利上げが整合的」へと修正されるなど、2019年の年2回の利上げ予想を支援する内容となりました。
しかし、先週のFOMCでは、前述の通り、首尾一貫して極めてハト派寄りの内容となり、当面の利上げは休止されると市場が受け止める内容となりました。
二転三転したことで、市場との対話に失敗している現状に変わりはなく、議事要旨で他の委員らの発言を見極める必要があるとの声も聞かれるなど、パウエルFRB議長に対する市場の信頼が回復したとは言い切れません。今後、米中通商交渉での一段の進展や、今後の米経済次第では、先週のFOMCで示した金融政策の方針が、かえってFRBの柔軟な決定を束縛することになるかもしれません。
米1月雇用統計は、就業者数が市場予想を大きく上回る
8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | |
---|---|---|---|---|---|---|
非農業部門 雇用者数(万人) | 28.2 | 10.8 | 27.7 | 19.6 | 22.2 | 30.4 |
失業率(%) | 3.9 | 3.7 | 3.7 | 3.7 | 3.9 | 4.0 |
時間給賃金 前月比(%) | 0.4 | 0.3 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 0.1 |
時間給賃金 前年比(%) | 3.2 | 3.0 | 3.3 | 3.3 | 3.2 | 3.2 |
- ※出所:SBIリクイディティ・マーケット
2/1に発表された米1月雇用統計では、就業者数が30.4万人増と市場予想を大きく上回ったほか、昨年1年間の月平均(22.8万人増)も大きく上回りました。
失業率は4.0%に悪化したものの、労働参加率が63.2%と前月(63.1%)から増加したことで説明できることから、概ね良好との判断となりました。
時間給賃金(前年比)も4ヵ月連続で3.0%を上回っており、今回の雇用統計からは、米国の景気減速の兆候は見られない内容となりました。
株式市場は適温相場へ回帰?
さらに、今回の雇用統計の特徴の一つとして、あらゆる業種で比較的万遍なく雇用増が確認され、直近12ヵ月の平均を下回ったのは製造業(1.3万人:2.0万人)、政府関連(0.8:0.9)、その他(0.4:0.6)など、限られた業種に留まりました。
また、1月ISM製造業景況指数(56.6 前月:54.3)も市場予想(54.0)を上回るなど、製造業が急速に冷え込んだとの懸念は後退しています。
市場では、先週のFOMCで「当面利上げはない」との思惑が先行しており、予想を上回る米経済指標によって、今後の株式市場は適温相場への回帰として上昇することが予想されます。
果たして、FRBは市場の信頼を取り戻すことができるのでしょうか。パウエルFRB議長の真価が問われることになりそうです。