公約のオバマケア代替法案は撤回された
オバマケア代替法案を巡る採決は当初先週の23日(木)に予定されていましたが、一日先送りされた24日、身内である共和党内で反対を表明していた一部議員の説得に失敗し、法案の撤回を余儀なくされました。
トランプ大統領は、
「(法案成立には)非常に僅差だったが、民主党の支持が得られなかった」
と述べていますが、改革法案の欠点である『重病患者は保険に入れない。自営業者や無職の人たちの保険加入が難しくなる』といった点を解消できず、共和党内の保守強硬派を説得できなかったことが成立に失敗した大きな要因と指摘されています。
トランプ大統領は、金融市場が期待している税制改革よりもオバマケア代替法案の成立を優先させることで、今後の政権運営の実行力を高め40%割れと低迷する政権支持率の回復を図る狙いがあったようです。
法案撤回を受けて、一時は上昇に転じたドル円も、日本時間3/27(月)午後には110.12円を付け、3/15のFOMC利上げ以降ドル安の流れが止まりません。
ドル円 (日足)
- ※出所:FX総合分析チャート
支持基盤の弱さと準備不足が原因か
トランプ大統領は政治的にほぼ無所属の立場で大統領になったことと、大統領選挙期間中に共和党主流派を敵に回し、保守派議員から自身を受け入れられなかったことが議会運営がスムーズに進まない理由のひとつとされています。
また、従来民主党を支持してきた労働者層からの人気により当選した大統領であることを考えれば、トランプ大統領が新たな連合を築くためには民主党議員に働きかける必要もありそうですが、現状そうした兆候は見られません。
元々、民主党議員はトランプ大統領に対する反感が根強く、オバマ前民主党政権の代表的な政策を全廃しようとした動きそのものが間違いとの批判も沈静化できませんでした。支持率が40%を下回っている背景として、圧倒的な政治的な支持基盤がないことが挙げられます。
さらに、オバマ前大統領はオバマケア法案成立に向けて、その必要性を訴えるために演説を繰り返すなど、法案可決に向けた努力を積み重ね、法案成立に一年半もの時間を費やしました。こうしたオバマ前大統領の動きと比べると今回の法案成立に向けた動きは、あまりに成果を急ぎすぎたといえるでしょう。
今後の議会運営に不安が残るトランプ政権
アメリカの新政権誕生後、最初の100日間は蜜月期間と言われ、報道機関も野党も新政権に対する批判や性急な評価を避ける紳士協定があり、大統領からの税制改革や財政政策に対する具体的な言及が明らかになるのを見守っています。
こうした中でトランプ大統領は、「税制改革について何らかの動きを間もなく発表する」と述べ、
ムニューシン財務長官は、「難航も予想されるが、今年8月までの税制改革の実施を楽観している」と発言しています。
しかし、ライアン下院議長は、今回のオバマケア代替法案の採決断念によって、共和党内での調整力、指導力不足が露呈したことを自覚してなのか「税制改革が難しくなることは確かだ」との意見を示しています。
実際、NYダウは先週末の3/24までで7日続落しているほか、米10年債は政治的な不安を反映して利回りは下降傾向にあり、昨年11月の大統領選から続いてきたトランプラリーの調整が加速する懸念も聞こえ始めています。
税制改革や社会インフラ整備法案を巡る議会承認が遅れることになれば、トランプ政権の一段の支持率低下を招きかねないだけに、今後のゆくえが注目されます。
米10年債利回りの推移 (%)
- ※出所:Bloomberg
税制改革では、選挙期間中の公約である法人税の大幅な引下げや、中間所得者層向けの所得税減税を巡って、比較的早い段階で具体的な大統領案が示される可能性が残されています。
しかし、下院共和党内からは国境調整税についての議論で成立が長引くのではないかとの懸念も聞かれています。
国境調整税とは
- 下院共和党が税制改革法案の一つに盛り込んでおり、米国への輸入品に20%の関税をかけることで輸入を抑制し、輸出を促進して国内の生産拠点を増やそうとするもの。
- 輸出企業は恩恵を受ける一方で、輸入の多い小売業では収益のマイナスインパクトが大きいとされており、米国での消費低迷につながるとして、米経済全体に影響を与えるとの見方もある。
さらに、民間資金を活用した10年間で1兆ドルの社会インフラ整備についても、依然として具体案が示されず、財源の議論もできていない不透明な状況にあります。財源次第では「小さな政府」を掲げる共和党内から反発も予想され、税制改革法案の議会承認後までインフラ整備は後ろ倒しされるというのが一般的な意見のようです。
前オバマ民主党政権時代には、高い支持率を維持した一方で、議会の多数派を占めた共和党との『ねじれ』を理由に政策実行力が問われましたが、トランプ政権誕生後の金融市場では、支持率の低迷に苦しんでいるものの、政権と議会との『ねじれ解消』で、政権の政策実行能力は高まると期待されていました。
今回のオバマケア代替法案撤回では、その期待が裏切られたかたちで、これまで続いてきた「株高・金利高・ドル高」の修正が迫られることになるのか注目されています。