株高で円高が進行する要因とは!?
3/21、NYダウは今年初めて7連騰を記録したほか、S&P500も先週末の終値で年初来初めてプラス圏に浮上、さらに原油価格も一時41ドル台を回復するなどリスク回避志向が後退しています。さらに、3/21に上海株も、1/19以来となる3,000Ptsを回復するなど、年初から懸念された不透明要因が徐々に払拭されつつあります。先週のドル円相場は110円67銭まで円高が進行し、2/11に付けた年初来の最円高水準(110円98銭)を更新しており、市場で何が起こっているのか、円高に傾いている根本的要因は何なのか疑問に感じている方も多いと聞いています。
ドル円の1ヶ月物ボラティリティも10%割れまで低下したほか、恐怖指数といわれるVIX指数も14台まで低下するなど通貨・株式の変動率が低下しているにもかかわらず、ドル円のキャリートレードが進行する気配すら見えません。FOMC以降、米利上げペースの鈍化が明確化したことでドル買いポジションが解消したことも、円高が一段と進んだ要因といわれますが、それだけでは納得のいく説明にはなっていないのかもしれません。
昨年6月から7月にかけて上海株が急落した際、人民元は一旦反発したものの8月の中国人民銀行による切り下げ(6.20元⇒6.39元)を受けて一層の人民元安・上海株安が進行しました。そもそも、当時の背景にはそれまで度々不安視されていた中国経済の減速懸念があり、いよいよハードランディングに陥るのか、との憶測が上海株安・人民元安(昨年8月:6.39元⇒今年3月初旬:6.59元)の元凶だったといわれています。中国・習近平政権は景気減速懸念を収束すべく、あらゆる手段を講じるはずと考えた人もいれば、いや今回は相当危ない、といった見方に二分されていました。
人民元/円の推移(日足)
出所:FX総合分析チャート(日足)
米ドル/円の推移(日足)
出所:FX総合分析チャート(日足)
米系を中心とする大手ヘッジファンドは、中国経済の一段の悪化を見込み、人民元の対ドルレートが大きく人民元安に進む(6.60元を割込むであろう)と読み、人民元安が目標水準まで進行すれば莫大な利益が得られるオプション(USDCall/CNHPut、行使価格6.60元)を大量に購入したと言われています。すなわち、昨年8月の人民元切り下げ当時、人民元は3日間で約5%も切り下がっただけに、さらに人民元安が進むであろうとの判断によって大きなポジションを仕込んだものと思われます。
しかし、人民銀行がこのようなヘッジファンド勢の動きを察知していたかどうかは定かではありませんが、結果的に6.60元まで元安が進まなかったことで、こうしたオプションは権利行使されないまま、収支コストだけを見ると、オプション購入時に支払ったプレミアム(保険料のようなもの)がそのまま支払い損となっています。推測の域を出ませんが、6.60元を一度でも付けていれば元本の2倍、3倍にもなるような莫大な収益が得られるワン・タッチ系などのエキゾチック・オプションが大量に仕込まれていたようです。
要するに経済効果から見ると、USDCall/JPYPut (ドルを買う権利)オプションに絡んで、人民元が行使価格の償還期日が近づくにつれてオプションの売り手であった銀行は、デルタヘッジのためのドル売りとドル買いのオペレーションを繰り返す必要があったと思われます。
大量のUSDCNHオプションのデルタヘッジに伴うCNHは市場の流動性が限られており、CNHに代わり円も合わせて相対として用いられた可能性が高かったとも思われます。すなわちドル円の114円付近ではドル売り、112円付近ではドル買いをするオペレーションが実行されていたのかもしれません。実際、USDCNHとUSDJPYのチャートを見ると、きれいな相似関係にあることがわかります。
年初来の米ドル/円の日足チャート
出所:SBIリクイディティ・マーケット
そして先週期日を迎えたこのUSDCNHオプションも最終的に6.60元に達せず、先週木曜の海外市場ではUSDCNHの大幅下落によって、投機筋によるUSD買いCNH売りのポジションが巻き戻されました。2月以降の人民元の反発により、人民元安の目論みが外れ始めたことから、ポジションが手仕舞いされたこともドル売りに拍車をかけたともいわれています。
結果的にデルタヘッジの必要もなくなり、112円台でのドル買い需要も消滅し、USDCNHの代替ヘッジとしてのドル円の買い手当の必要もなくなり、ドル円は110円67銭まで円高が進行、NYダウの5連騰も原油価格の反発とは全く関係なく、110円割れを狙っていた動きがドル円の反発を抑えている可能性もありそうです。
連休明けの東京市場でのドル円は朝方こそ112円20銭まで上昇したものの、反発力の弱さが懸念され依然として110円割れのリスクが大きく残っているだけに、期末が近付いてきた時期での需給の変化には引き続き注意が必要かもしれません。