米雇用統計の結果は利上げ判断への決定打に・・・???
先週の雇用統計振り返り
先週末発表された米7月雇用統計は、非農業部門就業者数が21.5万人増と節目とされる20.0万人増を上回ったものの、市場予想の22.5万人増を若干下回りました。しかしながら、5月分が6千人増(26.0万人)、6月分が8千人増(23.1万人)とそれぞれ速報値から上方修正されたことから、今回の就業者数の結果も決して弱いものではない、と評価する声が多く聞かれました。業種別では製造業の伸びが加速したほか、サービス業では小売業の堅調な伸びが確認され、雇用DIが前月の60.6から64.6へ上昇しており、雇用の裾野が確実に拡大していることが確認されました。
為替市場の反応は、予想を下回った就業者数の一方で3ヵ月連続での20万人超えを好感し125円07銭まで上昇したものの、期待以上には至らなかったことでドルの買いポジションを調整する動きから124円台前半までの反落が見られました。さらに、仮に9月に利上げが開始された場合でも、その後の利上げペースは非常に緩やかなものになるとの見方のほか、原油価格が43ドル台へ続落し、年初来安値(42.03ドル)が視野に入るなど、中国をはじめとする景気減速懸念を背景にNYダウは2011年7月から8月にかけての8日続落以来の7日続落となりました。こうした動きもドル円の上値抑制要因となりました。
発表前後の値動き(米ドル/円)
- 出所:FX総合チャート(5分足)
リーマンショック前と今年(2015年)の数値を比較
リーマンショック前、2005年から2007年の非農業部門就業者数の月平均は15.9万人増であったのに対し、2015年(7月まで)の月平均は21.1万人増という数値を見ても、労働市場の回復が順調なことが明らかになっています。また、2005年から2007年の失業率の平均は4.8%であったのに対し、2015年(7月まで)は5.45%、今回も前月と変わらず5.3%とイエレンFRB議長が適正水準とする『5.2%〜5.0%』に近い水準にあり、こちらも順調な回復を裏付けています。
その一方で時間給賃金上昇率は前月比+0.2%、前年比+2.1%と予想通りの結果ながらも、賃金上昇に弾みがつく状況にはないことが確認されました。さらに生産労働・非管理職の時間給賃金は前年比+1.8%と前月(+1.9%)から僅かに鈍化、原油価格の低下と時間給賃金の伸び悩みなどインフレ期待が高まる気配がなく、一部には9月利上げ開始は難しいとの見方も出ています。
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
平均 |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
失業率 (%) |
5.7 |
5.5 |
5.5 |
5.4 |
5.5 |
5.3 |
5.3 |
5.5 |
非農業部門雇用者数 (万人) |
20.1 |
26.6 |
11.9 |
18.7 |
26.0 |
23.1 |
21.5 |
21.1 |
タイミングをはかるFRB
イエレン議長はこれまで何度となく『年内利上げが適切』との発言を繰り返していますが、ロックハート・アトランタ連銀総裁は、ここからさらに踏み込み『9月の利上げの可能性』に言及しました。市場では中道派と認識される連銀総裁発言を「9月利上げへの地ならし、もしくはイエレン議長からのシグナル」との観測も聞かれました。今月下旬の各国中央銀行関係者が集うジャクソンホールでの金融フォーラムに議長が不参加を表明するなど、議長本人の発言に対し、市場がこれまで以上に神経質になっており、議長は余計な言質を与えたくないのかもしれません。一方、アトランタ連銀総裁の発言に対し、翌日にはパウエルFRB理事が『9月利上げはまだ決まっていない』と牽制するなどFRB内部の過半数が9月利上げを決定したと判断するのは時期尚早のようです。
ただ、今回の雇用統計が9月利上げの決定打につながらなかったのは事実ですが、今週13日の小売売上高をはじめ、金融政策の正常化に向けた確信が得られるデータを待ち構えている状況にあり、FRBは一日も早い金融政策正常化に動き出すタイミングを伺っているようにも思われます。いずれにしてもFRBが、利上げに向けた姿勢を鮮明にする材料とタイミングだけが残されているだけで、既に秒読みの段階にあるように思われます。