ギリシャ財政問題の行方とその影響
2月以降、欧州の新聞紙上では『Couldn`t Even Agree to Disagree』(EUとギリシャ双方の見解に相違があることにすら合意しない)という見出しが躍りました。実際、ギリシャ側は「緊縮財政を伴うEUからの支援策の延長を拒否する」との姿勢の一方、EUやドイツからは「妥協しない」との下で交渉が繰り返され、2月16日のEU財務相会合でも結論出ず、支援の猶予が2月20日まで延長されることになりました。
先週発表されたギリシャの10-12月期GDPは前期比-0.2%とマイナス成長となっているほか、1月の税収も予算を20%ほど下回るなど伸び悩んでおり、ギリシャ財政の急速な悪化が懸念されています。昨年末時点でECBからギリシャへの資金供給は560億ユーロでしたが、2月5日にECBがギリシャ国債の担保要件除外を取り消すと発表、緊急流動性支援の枠を650億ユーロまで引き上げられたものの、ギリシャ国内銀行の資金調達コストは跳ね上がっています。
今後もEUからの支援問題の解決に時間がかかり、ユーロ圏からの離脱が現実味を帯びる事態となれば、国民からの大量の資金流出によりデフォルトに陥る銀行が出る可能性も否定できません。16日に交渉妥結に至らなかったことで、今後EUが緊急流動性支援に何らかの供給制限などの措置を加えるか注目する必要がありそうです。
今後も交渉が進展せず、万が一中国やロシアがギリシャに資金支援を実施するような事態となった場合、欧州域内でギリシャがロシア側に付くこととなり、ユーロ圏の混乱につながりかねません。ロシアの影響力がギリシャに及ぶことになればロシア海軍の黒海から地中海に至る海上戦略における重要な拠点となる可能性があります。
もともとギリシャは、トルコと同様に東西冷戦時代の最前線に位置するとともに、昔からロシアとの関係が深い国でした。ギリシャ新政権がEU側の緊縮財政を求める強硬姿勢に対し、ロシアや中国からの支援などの「切り札」を使いながら交渉を有利に進めようとしているのであれば、EU側も単に経済的影響のみで、一切の妥協なしに対ギリシャ支援策を決めることは政治的なリスクを持つことになるかもしれません。
当然、米国もユーロ圏に属すギリシャに対し、ロシアの影響力が強まることに強い警戒を滲ませています。米国はNATO問題も含め、EUやドイツが何とかギリシャのユーロ圏離脱を回避するよう望んでいると伝えられています。 そうした中で15日に米・ルー財務長官がギリシャ首相に対し、現実的な道に集中するよう要請があったことも、政治的にギリシャが東西の軍事的・政治的要所として強く意識されている証かもしれません。
2月末にEUやIMFからのギリシャへの金融支援の期日を迎える中、支援の延長が決まらなければギリシャは国家破綻へ進むことになるとの懸念も聞かれています。そもそも金融支援が延長されなかった場合、ECBからの資金調達が困難になり、ギリシャの金融機関の存続も危惧される事態となります。さらに公共事業の中断や公務員給与の支払い停止など再度ギリシャ国内が不安定な状況に陥る可能性もあります。
2月末にEUからのギリシャへの金融支援の期日延長が決まらない場合、ギリシャ政府が短期国債を発行することで当面の資金をつなぐことも一案として取り沙汰されているようですが、ギリシャの国内金融機関の購入余力が低下していれば国債購入も困難になり、その場合3月20日にもギリシャ政府の資金が枯渇する可能性が懸念されています。
これまでも一部の債務減免によって国債償還を消化してきたギリシャですが、当面の国債償還の予定はないものの、今年7月から8月にかけて67億ユーロの償還があるほか、7月上旬には115億ユーロのサムライ債も償還が予定されています。短期国債の発行などによる時間稼ぎが功を奏したとしても、最終的にはEUやIMFからの財政支援に頼らざるを得ないのが実情のようです。
ギリシャとEU、IMFらとの交渉で妥協点を見出すことができるのか、着地点を見出すまでユーロは当面の間神経質な値動きが続くかもしれません。
直近の値動き(ユーロ/円)
※出所:総合分析チャート 1時間足
直近の値動き(ユーロ/米ドル)
※出所:総合分析チャート 1時間足