【9月以降のユーロ/米ドル相場と今後の見通し】
11月7日の欧州中央銀行(ECB)理事会は、市場の大方の事前予想に反し、現行の政策金利0.50%を0.25%に引き下げました。市場が注目していたのは、もっぱら理事会後のドラギ総裁の会見内容であったため、利下げの決定にユーロは久し振りに短時間で大幅下落する展開となりました。・・・
9月以降のユーロ/米ドル相場の推移
11月7日の欧州中央銀行(ECB)理事会は、市場の大方の事前予想に反し、現行の政策金利0.50%を0.25%に引き下げました。市場が注目していたのは、もっぱら理事会後のドラギ総裁の会見内容であったため、利下げの決定にユーロは久し振りに短時間で大幅下落する展開となりました。9月から10月末までの間に大きく上昇していたユーロでしたが、10月末から調整色が強く反発もほとんどない下落相場が暫らく続いていました。今回のECBの利下げによってこの流れが本格的な下落トレンドに入るのか、根強いユーロの先高観を背景にした買戻しが起こるのかを探って見ました。
(図:9月以降のユーロ/米ドル、ユーロ/円相場の推移 ユーロ/米ドル・・・黄、ユーロ/円・・・白 1時間足)
- (出所:ブルームバーグ)
9月と10月の相場
9月から10月にかけてのユーロ相場は、ほとんどの期間でユーロが上昇する展開となり、10月下旬には今年最高値となる1.38ドル台まで上昇しました。その要因を挙げてみる前に、2月から3月にかけての弱含み相場となった時期を除いて、今年のユーロが何故年間を通して堅調地合となったかの背景の見直しも必要でしょう。
まず一つには、市場の一部に漠然としたユーロ圏の景気回復期待とそれに伴う「ユーロ買い信奉」が底辺にありました。何故漠然かと言えば、確かに年央頃からの経済指標には改善を示すものも現れ始めたものの、基本的なファンダメンタルは依然として弱く、ユーロ圏全般にわたっての失業率の高さなどを考えれば、とても早期の景気回復を期待するには無理な状況にあったはずだからです。5月に金融緩和措置が採られたものの、その後のドラギECB総裁の金融政策見通しに対する発言がブレたこともあり、8月以降では追加金融緩和観測が後退気味となったことも大きく影響したかも知れません。また、ギリシャやポルトガルなどの債務危機問題が再浮上することもなく、政局の混乱から先行きが懸念されたイタリアも難局を回避しています。こうして南欧諸国の国債とドイツ国債との利回り格差が縮小し、ユーロ圏国債への信用がやや回復したことで、ユーロ圏の株式への資金流入にも繋がりました。一時期かなり心配された中国の景気後退への懸念も薄れ、新興国からの資金還流の動きもユーロにとっては強い下支え要因となっていました。
こうした中での9月から10月のユーロ相場ですが、9月上旬の米雇用統計が市場予想を下回る発表となり、中旬には量的金融緩和の縮小開始を巡って注目された米連邦公開市場委員会(FOMC)が大方の予想に反して緩和縮小開始を見送る決定を行ったことが更なるユーロ買いを強めました。ほぼ同時期に行われたドイツ総選挙にも懸念されたような波乱もなく、メルケル首相率いる政権与党の地位が維持されたこともユーロ相場の安定に繋がりました。
そして何よりもユーロの堅調な相場を促す原因となったのが、米国の財政協議を巡っての混乱でした。この米連邦財務の上限問題と財政政策の合意を巡っての民主党と共和党間の混乱が、政府機関の一部閉鎖状態をも招いたことによる「米ドル売り」という敵失による「ユーロ買い」によって、年初来高値となる1.38ドル台にまで達しました。勿論、ECBのバランスシートの縮小(ユーロ圏域内の銀行が、3年物長期流動性供給オペ―LTRO―を早期返済していることが主な理由)によって、過剰流動性が減少し市中金利の上昇に繋がりやすい状況なども基調的にユーロ高を支え易い構造にはなっていたはずです。ただ先述したような追加金融緩和措置の後退観測が11月7日のECB理事会で打ち消されたことによって、今年のこれまでのようなユーロ堅調相場が大きな転換点を迎えているのは間違いなさそうです。
今年のユーロの堅調相場を支えた要因
今年のユーロの堅調相場を支えた要因 |
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1 |
LTROの早期返済が続いた ― ECBのバランスシート縮小 |
2 |
5月のECBの金融緩和以降に追加緩和措置観測が後退した |
3 |
経済指標に部分的ながらも改善がみられた ― センチメントの改善 |
4 |
ギリシャ、ポルトガルなど高債務国の懸念拡大問題が持ち上がらなかった |
5 |
懸念されたイタリアやドイツの政局が想定されたよりも早めに落ち着いた |
6 |
米国の財政協議を巡る混乱による米国経済への懸念からの米ドル安の恩恵 |
7 |
ユーロ圏で進む経常黒字の拡大(ドイツの黒字拡大が主要因だが) |
8 |
市場の一部のユーロ圏景気回復期待の一方、在ユーロ圏およびユーロ圏出身の投資家はユーロ高の確信が得られずユーロ・ショートを繰り返し、買いのストップが長期間にわたり出続けた |
今後の見通し
11月7日のECB理事会で政策金利の引き下げが決められたことで、漠然としたユーロ圏景気の回復期待が現実に引き戻され、同時に追加の緩和措置がないとの思惑によるユーロ買いは一旦根拠を失うことになりました。今のところ顕在化していないものの、これ以上のユーロ高を歓迎するのはドイツだけと言っても良いでしょう。市場が依然としてユーロ高相場の継続を期待し、実際にユーロが上昇を続けることになれば、1.38ドルの今年高値や1.40ドルを越えていくような場面では、突如ユーロ高に対する懸念や不満が飛び出してくる可能性も少なくないはずです。ギリシャやポルトガルといった高債務国の危機が再度持ち上がる可能性もあります。今回のECB理事会の決定について、ドラギ総裁はユーロ圏はデフレ状態ではないと述べていますが、デフレを警戒しているのは明らかだと思われます。先日発表された欧州委員会の経済見通しで2014年のユーロ圏の実質GDP成長率が下方修正されています。ただ米国も来年の春頃には再度、財政問題の解決を図らなければならず、ユーロを売り対象の通貨と考えるのは、その時の米国の対応を見てからでも遅くないだろうとの見方もあるようです。更なる上昇には異論も噴出する可能性があり、しかも追加の金融緩和の可能性が残るユーロと、金融緩和の縮小への着手が間もないであろう米ドルとの金利動向の比較論になってきそうですが、12月の米雇用統計とFOMCを確認するまでは、一方的な相場展開にはなり難いのではないでしょうか。