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【そうだったのか!ETF徹底解剖】第15回 ETFを取り巻く環境変化
2018/5/30
ETFという金融商品が米国を中心として大きく成長した背景には、ETF自身が投資家にとって有益な金融商品であったというだけではなく、様々な環境の変化があります。本稿では、ETFの成長を促した様々な外部要因について見ていきたいと思います。
伝統的アクティブ運用の不振
米国のアクティブ運用は長い歴史がある分、長いパフォーマンスの記録がなされています。ところが、「SPIVA U.S. Scorecard 2017」によれば、米国株のマネジャーで、直近の3年間でベンチマークにアンダーパフォームしたマネジャーはほとんどのカテゴリーで80%以上にのぼり、10年間や15年間ではその割合が90%をこえるカテゴリーが大半を占めることがわかってきました。また、この要因の多くはアクティブマネジャーが課している高い運用報酬によるものではないかという議論がかなり活発になってきました。
リテール販売チャネルの変化
米国の投資アドバイザーのビジネスモデルは、コミッション(売買手数料)からフィー(残高連動)に移りつつあります。コミッション型のビジネスでは、いかに顧客に回転売買をしてもらって売買手数料を稼ぐのかが重視されてしまうため、長期にわたる適切なアドバイスが出来ないのではないか?という懸念がその背景にはあります。また、売買手数料が高いファンドであれば、アドバイザーはそのファンドのパフォーマンスや運用報酬についてはそこまで気にしないかもしれません。それに対して、フィー(残高連動)ビジネスをするようなアドバイザーであれば、顧客のポートフォリオが毀損して残高が減少すれば、それはそのままそのアドバイザーの収入減にもつながります。そのため、顧客との利害が一致することで、単に手数料が高いだけのファンドへの投資は抑制されるのではないかと言われています。このようなフィービジネスをする独立系のアドバイザーであるRIA(登録投資アドバイザー)は、米国の資産運用業界を語るために欠かせない存在となっています。彼らは結果としてパフォーマンスが悪く高コストなアクティブファンドよりも低コストのETFやスマートベータのような戦略を好むようになっています。
機関投資家の投資行動の変化
一方で、機関投資家も投資行動を変化してきています。アクティブ戦略中心のポートフォリオから、パッシブ戦略+オルタナティブ戦略という組み合わせによるポートフォリオの構築に舵を切っています。この変化の一部はパッシブ戦略の増加に一役買っているでしょう。また、目的重視の戦略を導入する事例も増加していると考えられます。例えば、負債対応型の運用やそれに伴う毎年のインカムリターンにフォーカスを当てるような戦略の導入です。そのような中で、パッシブ運用のための効率的なツールとしてETFを選び、投資目的を低コストで実現するスマートベータの投資手法を導入するようになってきました。
金融商品のイノベーション
このような環境下で注目を浴びたのが、効率的で流動性を伴ったエクスポージャーを提供するETFという金融商品と、低コストで目的に応じた投資戦略を提供するスマートベータという運用手法です。これらは、伝統的なアクティブ運用の代替としてアドバイザーからも機関投資家からも大きな支持を集め、結果として飛躍的な成長をし続けているのです。
米国で起こっているETFを取り巻く環境変化
さまざまな変化の受け皿となったETFとスマートベータ
もちろんETFやスマートベータという商品や運用戦略はそれ自体でもすばらしい発明でありイノベーションであると考えられます。しかしながら、それを評価し実際に使う動機を持った主体(アドバイザーや機関投資家)が資金を振り向けているからこそ今日の成長があったと考えられます。ETFやスマートベータの成長の背景にある販売チャネルや投資家の行動、競合にあるアクティブ商品との関係などを紐解くことで、米国の資産運用業界で今何が起こっているのかを垣間見ることができます。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュアにて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にポートフォリオマネジャーとして入社。その後、ETF部門のストラテジストを務める。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年より現職。ETF及びETF市場の分析や、機関投資家及び個人投資家に対するETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに幅広く携わっている。慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。著書に『計量アクティブ運用のすべて』、『ロボアドバイザーの資産運用革命』(ともに共著、金融財政事情研究会)、訳書に『ETFハンドブック』(金融財政事情研究会)がある。