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【そうだったのか!ETF徹底解剖】第13回 ETFの二つの顔:「取引」ビークルと「投資」ビークル
2018/05/02
ETFには二つの顔が存在するといわれています。それは、「株式」と「投資信託」の両方の特性を持っていたり、「流通市場」と「発行市場」の二つの流動性を持っていたりすることなどが代表例です。ここでは、それとは別の「ETFのビークル(金融商品としての器)としての特徴」を「投資家の視点」から見た場合におけるETFの二つの顔について解説します。
1. 取引ビークル(Trading Vehicle)としてのETF
ETFの特徴を一つ挙げてくださいと質問されたときに「取引所で売買できること」と答える人は、ETFを「取引ビークル」として見ているのかもしれません。市場が開いてさえいれば、いつでも取引が可能であるということはETFの非常に大きな特徴の一つです。取引ビークルとしてのETFの利用価値は、すばやくエクスポージャーを確保できること、またすばやくそれを解消できることです。要するに売買がすぐにかつ円滑にできることです。
取引ビークルとしてETFを利用するのは、裁定取引業者やデイトレーダー、ヘッジファンドなどで、投資期間が短く、ETFの供給する流動性を利用することを目的としている市場参加者達です。そのため、使われるETFは、主に時価総額加重で、市場を代表するような指数のものであり、またその指数の先物などの裁定取引の対象となるような流動性の高い他の金融商品があるようなものになります。また、レバレッジやインバース型の商品も取引ビークルとして提供されていると考えることができるでしょう。
これらを利用する投資家は、短期的なエクスポージャーの入れ替えを複数回行うため、取引コストの観点から、流通市場における流動性が高く、スプレッドが小さいものが好まれるでしょう。
初期に誕生したETFたちは現物バスケットのエクスポージャーを円滑に取引するためのツールとしての側面が大きく、この性質はETFの初期のイメージともいえます。
2. 投資ビークル(Investment Vehicle)としてのETF
ETFの特徴を一つ挙げてくださいと質問されたときに「長期投資に向いている」「多様な種類がある」「経費率が割安」などと答える人は、ETFを「投資ビークル」として見ているのかもしれません。低コストで様々なエクスポージャーを提供しているETFは、もちろん短期のトレーダーだけに向けた商品というわけではありません。スマートベータ(スマートベータについては、「ETFの連動対象の指数とスマートベータ」を参照ください)やアクティブ運用型のETFは、効率的なエクスポージャーの提供、ファンド内での定期的なリバランスなどを提供する「投資」ビークルの代表格でしょう。
低コストで透明性の高い投資ビークルとしてのETFの認識は、スマートベータといった投資戦略の認識と同時並行して進んで来たといえます。特に投資信託の代替としてスマートベータ戦略およびその戦略を実現するETFが利用されてきたことで、ETFの世界は大きな広がりを見せています。
この手のETFは、取引ビークルとして認識されているETFほど流通市場での流動性が高くないものも多くありますが、原資産のバスケットの流動性を基にした取引を行うことで、大きな資金フローも受け入れることができます。(詳しくは、「ETFの流動性とはなにか?売買高がすべてではない」を参照ください)
投資ビークルとしてのETFの利用は、中長期の投資家を中心に幅広く行われています。また、例えばインカムの獲得を目指したり、リスクを低減した株式のポートフォリオを構築したりと、所謂「目的別」の投資にも幅広く利用することが出来ます。
当初は取引ビークルとしてのイメージが強かったETFですが、昨今では投資ビークルとしての利用が大きく増えていると考えられます。
3. 二つの顔
ETFは取引ビークルと投資ビークルという二つの顔があります。レバレッジ・インバースのものは、日次でリセットされるものとなるため、取引ビークルの色合いが濃いと考えられますが、それ以外のものについては、ほぼ両方の顔を持った上で、どちらかの色がやや濃い、といった形になるかと思います。
取引ビークルとしてのETFと投資ビークルとしてのETFのイメージ
※上記はイメージ図であり、すべての事象を網羅したものではありません。
二つの顔をもっているということは当然両方のニーズに対応することが出来ます。さらに、例えば投資ビークルとして設計されたものが、流通市場の流動性が高まることで取引ビークルとしても使えるようになった場合、投資ビークルとして活用していた長期投資家にとっても、流動性の向上による買付時または売却時の取引コストの削減効果を享受することが出来ます。様々なユーザーが様々な視点でそのETFを利用するようになることで、そのETFのすべての利用者にとって、利便性が向上します。このことは、ETFが「民主的な金融商品」であるといわれる一つの理由でもあります。
著者
渡邊 雅史(わたなべ まさふみ)
ウィズダムツリー・ジャパン株式会社 ETFストラテジスト
アクセンチュアにて金融機関向けコンサルティング業務に携わった後、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)にポートフォリオマネジャーとして入社。その後、ETF部門のストラテジストを務める。金融ベンチャー企業に参画した後、2016年より現職。ETF及びETF市場の分析や、機関投資家及び個人投資家に対するETFを用いた運用戦略の立案・提案業務などに幅広く携わっている。慶應義塾大学総合政策学部卒、早稲田大学大学院ファイナンス修士(MBA)。著書に『計量アクティブ運用のすべて』、『ロボアドバイザーの資産運用革命』(ともに共著、金融財政事情研究会)、訳書に『ETFハンドブック』(金融財政事情研究会)がある。