利下げとドル安〜AI投資離れ、米国債信認問題、関税対応
- 経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」におけるパウエル米FRB(連邦準備理事会)議長の講演は、利下げを示唆するものと市場で受け止められた。それに伴うグローバル金融市場への影響は小さくないだろう。焦点となっている雇用の動向については、9/5発表の8月の雇用統計まで重要な経済指標の発表が相次ぐ。それらは、政策金利引き下げに向けた最終テストと位置付けられそうだ。
- 政策金利が引き下げられれば、為替は米ドル安に傾きやすく、グローバル投資資金の米国外の市場へシフトを促す可能性がある。投資資金を米国内に引き寄せる上で重要な役割を果たしていたのは、時価総額の大きいハイテク・半導体関連株だ。政策金利引き下げはリスク選好(リスクオン)を伴いやすいことから、ショック安にはつながらないと考えられるものの、大型ハイテク・半導体銘柄からの海外市場または金利に敏感なセクターへの資金シフトは、S&P500やナスダックといった時価総額加重平均型指数の下落要因となる可能性がある。
- OpenAIのアルトマンCEOによるAI(人工知能)への過剰投資を警告する発言、および、中国のアリババが新たなAI半導体を開発した報道に対し、AI半導体・インフラ関連銘柄の株価が下落したことは、今年1月に中国の新興企業「DeepSeek」が低コストで高性能なAIモデルを発表した時の市場の反応に類似している。ただ、中国企業のAI関連新技術の動向は、米国企業による中国市場向け収益の増減に関することが中心であり、リスクは限定的なものと考えられる。
- また、米国債に対する信認問題もドル安を促しやすい。トランプ米大統領がクックFRB理事を解任したことに加えて、相互関税がワシントンの連邦巡回区控訴裁判所で一審判決に続いて憲法違反とされた。中央銀行の独立性に対する懸念にとどまらず、関税収入を失うことに伴う米国債への信認低下リスクが高まっている。相互関税が無効となれば企業にとっては関税コスト軽減により恩恵となる一方、長期・超長期ゾーンの米国債利回りを押し上げて米国株市場の下落要因となる可能性がある。
- 主要小売企業の決算発表から、企業は関税コストの価格への転嫁を控えて利益率の悪化を招いている様子が窺われる。7月の米消費者物価指数(CPI)および個人消費支出(PCE)価格指数が市場予想の範囲内で落ち着いて推移している要因となっている。建機大手キャタピラー(CAT)も8/29、関税による影響を通期で15-18億USD(従来予想は最大15億USD)へ引き上げた。企業は、関税コスト上昇を増収効果によって吸収するほか、高付加価値製品へのシフト、および仕入先変更などサプライチェーンの組み替えなどによる利益率向上、AIを活用した業務効率化など、様々な方策による対応を余儀なくされるだろう。(笹木)
- 9/2号は、アジレント・テクノロジー(A)、アリババグループ・ホールディング(BABA)、HP(HPQ)、スノーフレイク(SNOW)、ピュア・ストレージ(PSTG)、ウォルマート(WMT)を取り上げた。
ウィークリーストラテジー
S&P500業種別およびダウ平均構成銘柄騰落率(8/29現在)
主要企業の決算発表予定
- 9月2日(火)ゼットスケーラー
- 9月3日(水)ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、セールスフォース、ザ・キャンベルズ・カンパニー、ダラー・ツリー
- 9月4日(木)ブロードコム、ルルレモン・アスレティカ、コパート
主要イベントの予定
- 9月1日(月)
- 米休場(祝日レイバーデー)
- 9月2日(火)
- 米S&Pグローバル製造業PMI(8月、確報値)、米建設支出(7月)、米ISM製造業景況指数(8月)
- 9月3日(水)
- 米セントルイス連銀総裁が講演、米地区連銀経済報告(ベージュブック)
- 米求人件数(7月)、米耐久財受注(7月)、米自動車販売(8月)
- 9月4日(木)
- 米ニューヨーク連銀総裁と米シカゴ連銀総裁が講演・質疑応答
- 米ADP雇用統計(8月)、米新規失業保険申請件数(8月30日終了週)、米貿易収支(7月)、米S&Pグローバルのサービス業・総合PMI(8月、確報値)、米ISM非製造業総合景況指数(8月)
- 9月5日(金)
- 米雇用統計(8月)
- 9月8日(月)
- ニューヨーク連銀1年期待インフレ率(8月)、米消費者信用残高(7月)
- Bloombergをもとにフィリップ証券作成
銘柄ピックアップ
アジレント・テクノロジー (A)NYSE 2025/11/25に2025/10期4Q(8-10月)の決算発表を予定

- 1999年にヒューレット・パッカードから分離・独立してNYSE上場。ライフサイエンス分野の研究所と製薬会社が主要顧客。ライフサイエンス・診断市場、クロスラボ、応用市場の3事業セグメントを展開。
- 8/27発表の2025/10期3Q(5-7月)は、売上高が前年同期比10.1%増の17.38億USD(会社予想16.45-16.75億USD)、非GAAPの調整後EPSが同3.8%増の1.37USD(同1.35-1.37USD)。関税コストの影響で営業利益率は0.4ポイント低下の20.7%へ悪化したが、増収効果により吸収して増益を確保。
- 通期会社計画は、売上高を前期比6-7%増の69.1-69.3億USD(従来計画67.3-68.1億USD)へ上方修正に対し、調整後EPSは同5-6%増の5.56-5.59USD(同5.54-5.61USD)とレンジ幅を縮小。同社が扱う高精度な分析機器は代替が難しく研究機関から高い信頼性が求められること、および世界中に生産拠点と販売網を持ち米国でも生産能力を強化していることから関税の影響は限定的とみられる。
アリババグループ・ホールディング (BABA)NYSE 2025/11/14に2026/3期2Q(7-9月)の決算発表を予定

- 1999年設立。中国発の世界最大級の電子商取引企業。C2C(個人間)のECサイト「淘宝」と、B2C(企業対個人)のECサイト「天猫(Tモール)」を運営。電子決済(支付宝)やクラウド事業なども展開。
- 8/29発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比1.8%増の2476億元、非GAAPの調整後純利益が同21.4%増の406億元。調整後EBITDAは、中国コマース(売上比率52%)が21%減の383億元、クラウド・インテリジェンス(同12%)が26%増の29億元、国際事業(同13%)は赤字幅縮小。
- 2026/3期会社計画は非公表。1Q決算は中国コマースで出前事業の競争激化に伴う販促費増加があった一方、国際事業の1Qは前年同期比20%増収、調整後EBITDAが▲37億元から▲0.59億元へ赤字幅縮小。米WSJ紙は8/29、同社が従来に比べ幅広い用途で使える自前のAI(人工知能)半導体を開発したと報じた。エヌビディア製の中国向けAI半導体製品の代替需要増加が見込まれる。
HP (HPQ)NYSE 2025/11/26に2025/10期4Q(8-10月)の決算発表を予定

- 1939年にWilliam HewlettとDavid Packardが創業。PC(パソコン)や周辺機器、プリンターなどを手掛ける。2015年に法人向けソリューションなどを行うHewlett Packard Enterprise が分離独立した。
- 8/27発表の2025/10期3Q(5-7月)は、売上高が前年同期比3.1%増の139.32億USD、非GAAPの調整後EPSが同10.7%減の0.75USD(会社予想0.68-0.80USD)。パーソナルシステム(売上比率71%)が5%増収、プリンター(同29%)が4%減収。利益面で調整後営業利益率が1.1ポイント悪化の7.1%。
- 通期会社計画は、フリーキャッシュフローが前期比9-11%減の26-30億USDと従来計画を据え置いた一方、4Q(8-10月)会社計画は、最新のAIソフトを動かせる新型PCへの需要の高まりを背景に調整後EPSを0.87-0.97USDと前四半期比での成長を見込んでいる。AI向けPCは、会社計画よりも1四半期早く製品構成比が25%を超えた。Windows10サポート期限終了に伴う買い替え需要も見込まれる。
スノーフレイク (SNOW)NYSE 2025/11/22に2026/1期3Q(8-10月)の決算発表を予定

- 2012年設立のクラウドコンピューティング関連データウェアハウス企業。独自マルチクラスタ共有データアーキテクチャで複数ワークロードを大規模並列処理する。24年2月末にラマスワミCEOが就任。
- 8/27発表の2026/1期2Q(5-7月)は、売上高が前年同期比31.8%増の11.44億USD、非GAAPの調整後EPSが同94.4%増の0.35USD。製品売上高が32%増の10.90億USD(会社予想10.35-10.40億USD)、調整後営業利益率が6.1ポイント上昇の11.1%(同8%)と、それぞれ会社予想を上回った。
- 通期会社計画は、製品売上高を前期比27%増の43.95億USD(従来計画43.25億USD)へ上方修正。調整後フリーキャッシュフロー・マージンは同1ポイント低下の25%と従来計画を据え置いた。同社のマルチクラウド対応プラットフォームは様々な新型のAIモデルに対応できるため、AI企業の台頭によるソフトウェア業界への逆風の影響を受けにくい。新型AIモデルの台頭は追い風と考えられる。
ピュア・ストレージ (PSTG)NYSE 2025/12/3に2026/1期3Q(8-10月)の決算発表を予定

- 2009年設立のデータ・ストレージ管理会社。クラウド環境の多様なデータワークロードに対応し、構造化および非構造化データの大規模サポートのほか、データ分析、バックアップ・復元等を行う。
- 8/27発表の2026/1期2Q(5-7月)は、売上高が前年同期比12.7%増の8.61億USD(会社予想8.45億USD)、非GAAPの調整後営業利益率が同3.0ポイント縮小の15.1%(同14.8%)、調整後EPSが同2.3%減の0.43USD。定額課金のサブスクリプション収入は15%増となり、売上比率48%に達した。
- 通期会社計画を上方修正。売上高を前期比14-15%増の36.0-36.3億USD(従来計画35.15億USD)、調整後営業利益率を同6.0-9.5ポイント縮小の8.2-11.7%(同6%)とした。アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、アルファベット、メタ・プラットフォームズなど「ハイパースケーラー」によるデータセンター設備投資額拡大はピュア・ストレージのサブスクリプション収入増につながると見込まれる。
ウォルマート (WMT)NYSE 2025/11/20に2026/1期3Q(8-10月)の決算発表を予定
- 日足の始値と終値をローソク足で表示。「始値>終値 (陰線)」なら緑、「始値<終値 (陽線)」なら赤。
- 1945年にサム・ウォルトンが創業。「ウォルマート」のほか会員制「サムズ・クラブ」を運営。「エブリディ・ロウ・プライス」を旗印に特売に頼らず毎日安い価格で商品を提供することを基本戦略とする。
- 8/21発表の2026/1期2Q(5-7月)は、売上高が前年同期比4.8%増の1774億USD(会社予想3.5-4.5%増)、非GAAPの調整後EPSが同1.5%増の0.68USD。関税コスト負担で調整後営業費用率が0.4ポイント悪化したものの、燃料を除く既存店売上高の増収効果などで相殺された。
- 通期会社計画を上方修正。売上高を前期比3.75-4.75%増(従来計画3.0-4.0%増)、調整後EPSを同0.4-4.4%増の2.52-2.62USD(同2.50-2.60USD)とした。関税コストを十分に価格転嫁できない場合は利益率悪化が懸念されるが、在庫管理や商品構成の改善により粗利益率は24.5%と、前年同期比、前四半期比ともに改善。広告事業の成長も見込まれ、コスト増への対応余地は大きいだろう。
- 決算発表の予定は現地8/29現在であり、変更される可能性があります。
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