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“SWIFTからのロシア締出しの副作用は株高に繋がる?”
“SWIFTからのロシア締出しの副作用は株高に繋がる?”
2022/3/1
提供:フィリップ証券株式会社
リサーチ部:笹木 和弘
“SWIFTからのロシア締出しの副作用は株高に繋がる?”
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ロシアのウクライナ侵攻が株式市場においても猛威を振るっている。2/21にロシアがウクライナ東部で2地域の独立を承認し、24日に実質的な侵攻開始・軍事作戦を展開した。金融市場は当初、WTI原油先物価格が2014年以来となる1バレル100ドル超えまで急騰、CMX金先物価格も1オンス1,976ドルまで高騰。株式市場も24日のNYダウ平均が一時32,272ドルまで、ナスダック総合指数が12,587ポイントまで下落した。その後、バイデン大統領から当初発表された経済制裁はロシアのSWIFTからの排除は含まれなかったことや、ロシア軍による首都制圧で短期間での事態沈静化を期待する向きから、海外市場の24日終値ではWTI原油先物価格が92ドル台まで、CMX金先物価格も1900ドル前後まで下落。それに反比例するように株式市場は急騰した。
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その流れは25日まで続いたが、週末に大きな事態の変化が訪れた。欧米各国は国際的な決済ネットワークのSWIFTからロシアの特定の銀行を締め出す措置を実行することで合意。最も厳しい経済制裁に踏み切った。それに加え、ウクライナ軍の抵抗も激しさを増し、欧米からも物資や武器の支援が続いている。更には、ロシアへの抑止力として鍵を握る中国で、3月には4〜13日まで北京冬季パラリンピックが開催されるほか、4日に中国人民政治協商会議、5日に中国全国人民代表大会(全人代)が開幕する予定だ。このような点を総合的に勘案すれば、日本時間28日午後に予定されている停戦交渉でロシアが一旦応じる可能性も残されているように思われる。28日以降の米国株式市場は先ず停戦協議を睨んだ動きとなりそうだ。
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仮にSWIFTからロシアの銀行が締め出された場合、ロシア企業を相手とす貿易や金融の取引で送金情報が届きにくくなることから、資金繰りに支障が出てくる副作用が想定される。その場合、各国の中央銀行は短期市場への流動性供給による資金繰り支援が必要になるかもしれない。ところが、米国では3月のFOMCに向けて利上げのペースが議論されている最中である。短期市場への流動性供給はインフレ加速と実質金利のマイナス幅拡大に繋がり、FRBの金融政策が制御しにくいものとなる懸念が出て来よう。それは一方で、株式市場に対してはグロース銘柄への再回帰を促す面もあり得よう。
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2/23終値でS&P500構成銘柄の年初来騰落率のワースト5は、①エッツィ(ETSY)、②ペイパル・ホールディングス(PYPL)、③モデルナ(MRNA)、④メタ・プラットフォームズ(FB)、⑤ネットフリックス(NFLX)である。それぞれ、市場予想PERのバリュー面でも魅力が出て来ている点は注目される。比較的長期間のチャートで下値抵抗線に達するようなら買いも検討されよう。(笹木)
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3/1号では、ボーイング(BA)、エッツィ(ETSY)、メタ・プラットフォームズ(FB)、ゼネラル・ダイナミクス(GD)、ネットフリックス(NFLX)、ペイパル・ホールディングス(PYPL)を取り上げた。
S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(2/25現在)
3月1日(火) |
ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、セールスフォース・ドットコム、ロス・ストアーズ、JMスマッカー、ターゲット、ドミノ・ピザ、ホーメルフーズ、百度[バイドゥ]、オートゾーン |
3月2日(水) |
オクタ、スプランク、ダラー・ツリー |
3月3日(木) |
マーベル・テクノロジー、ブロードコム、コストコホールセール、クーパー、ブラウン・フォーマン、ベストバイ、クローガー |
3月1日(火) |
- バイデン大統領 一般教書演説、米アトランタ連銀総裁 オンライン討論会に参加、G7財務相・中央銀行総裁会議
- 米自動車販売 (2月)、ISM製造業景況指数 (2月)、米建設支出 (1月)、マークイット米国製造業PMI (2月)
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3月2日(水) |
- 米FRB議長下院金融委員会で議会証言、地区連銀経済報告(ベージュブック)公表、シカゴ連銀総裁・セントルイス連銀総裁 講演
- 米ADP雇用統計 (2月)
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3月3日(木) |
- 米FRB議長 上院銀行委員会で議会証言、ニューヨーク連銀総裁 討論会出席
- 米非農業部門労働生産性(4Q)、米新規失業保険申請件数(2月)、米製造業受注(1月)、米ISM製造業総合景況指数 (2月)、マークイット米国サービス業・総合PMI (2月)
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3月4日(金) |
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3月7日(月) |
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- 1916年創業の航空・宇宙機器製造会社。民間航空機、防衛・軍用機、電子・防衛システム、衛星、衛星打ち上げ機、高度情報通信システムなどを手掛ける。世界150ヵ国以上で事業を展開する。
- 1/26発表の2021/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比3.3%減の147.93億USD、Non-GAAPの調整後EPSが前年同期の▲15.25USDから▲7.69USDへ赤字幅縮小、営業キャッシュフロー(CF)およびフリーCFが同▲42.74億USDから4.94億USDへ黒字転換。世界的に737MAX運航再開が進んだ。
- 2022/12期会社見通しは2018-19年に墜落事故を起こした737MAX、および品質問題で納入停止中の787型機の引渡し増加を見込む。2021年末の受注残が全体で前年末比3.9%増の3,775億USDとなるなか、同1.7%減の防衛・宇宙・セキュリティ部門はロシアのウクライナ侵攻に伴う受注増の可能性があろう。また、世界的な経済再開からの渡航制限緩和による航空機需要増の恩恵も受けよう。
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- 2005年設立。ハンドメイド作品、ヴィンテージ商品等の出品や購入が可能な米電子商取引サイトのEtsy.comとReverb.comを運営。決済サービスや広告プラットフォームその他のツールも提供する。
- 2/24発表の2021/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比16.2%増の7.17億USD、Non-GAAPの調整後EBITDAが同14.0%増の2.18億USD。流通総額(GMS)が同16.5%増、稼働売り手人数が同72.3%増、稼働買い手人数が同17.6%増のほか、米国外売上構成比率も同3ポイント上昇の43%。
- 2022/12期1Q(1-3月)会社計画は、GMSが前年同期比1.8-8.2%増の320-340億USD、売上高が同2.6-7.1%増の5.65-5.90億USD。4/11より売り手からの手数料を売却金額の5%から6%に値上げ予定。アプリ上で手作りの衣服やアクセサリーなど売買の場を提供する同社はコロナ禍に手作りマスク売買で飛躍し、英フリマアプリ「Depop」を16億USDで買収。株価も下落からの反発が期待される。
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- 2004年にザッカーバーグCEOらがサービス開始。無料登録SNSの「Facebook」のほか、画像・動画共有アプリの「Instagram」、メッセージアプリの「Messenger」、「WhatsApp」、および「Oculus」を展開。
- 2/2発表の2021/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比19.9%増の336.71億USD、純利益が同8.3%減の102.85億USD。日次稼働ユーザー数の前四半期比が全体で1千万人増も、Facebook単体では100万人減。利益面でアップルのプライバシー保護規約変更や設備投資支出増が響いた。
- 2022/12通期会社計画は、売上高が前期比3-11%増の270-290億USD、設備投資支出額が同51-77%増の290-340億USD。アップルの規約変更と仮想空間メタバースへの投資拡大が業績への重荷となる懸念の一方、2/22に短編動画を無料で作成できる「リール」機能をFacebook上でグローバルに提供開始と反転攻勢が期待される。2/25終値で市場予想PERが15.3倍と割安さが注目される。
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- 1899年に前身のエレクトリック・ポート設立以降、潜水艦や対潜ミサイル等を米海軍向けに製造してきた。現在は、航空宇宙、海洋システム、戦闘システム、テクノロジーの4事業セグメントを営む。
- 1/26発表の2021/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比1.8%減の102.92億USD、純利益が同5.0%減の9.52億USD。期末受注残高は全体で同2.1%減も、航空宇宙部門が同40.1%増と伸びた。また、通期の営業キャッシュフローが前期比10.7%増となり、債務返済や株主還元を実施した。
- 2022/12通期会社計画は、売上高が前期比1.8-2.5%増の392-394.5億USD、EPSが同3.9-5.2%増の12.00-12.15USD。同社開発の戦車M1A2エイブラムスについて、オースティン米国務長官は2/18、訪問先のポーランドにて同国に250両(約60億USD)を売却する方針を表明。米国はロシアがウクライナへ軍事侵攻したことに対し欧州同盟国と結束を強める方針であり、軍事支出拡大が見込まれよう。
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- 1997年設立。テレビ番組・映画のインターネット配信のパイオニア。世界最大級のオンラインストリーミングサービスであり、2021年6月末時点の全世界の有料会員数は2億918万人に達する。
- 1/20発表の2021/12期4Q(10-12月)は、売上高が前年同期比16.0%増の77.09億USD、純利益が同12.0%増の6.07億USD。3ヵ月間の有料会員純増数が828万人と伸びた。その内、北米が119万人増にとどまったが、欧州・中東・アフリカが354万人、アジア太平洋地域が258万人増と全体を牽引。
- 2022/12期1Q(1-3月)の会社計画は、売上高が前年同期比10.3%増の79.03億USD、純利益が同23.3%減の13.04億USD。3ヵ月間有料会員純増数が250万人予想にとどまったため決算発表翌日終値が前日比21.7%下落。一方、北米での月額料金値上げ、海外有料会員数の伸長余地に加え、今後はウクライナ情勢関連ドキュメンタリー制作も期待されることから会員増の継続が見込まれよう。
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(注)日足の始値と終値をローソク足で表示。「始値>終値(陰線)」なら緑、「始値<終値(陽線)」なら赤。 |
- 1998年設立のフィンテック企業。電子メールとインターネットを利用の決済サービスを提供。PayPalアカウントに登録されたカード・銀行口座情報を送金先の事業者に通知せずに決済を完了できる。
- 2/1発表の2021/12期4Q(10-12月)は、営業収益が前年同期比13.1%増の69.18億USD、Non-GAAPの調整後純利益が同3.0%増の13.19億USD。1年以内稼働口座数が同13%増、決済総額が同10%増。一方、通期の1年以内稼働口座増加数は4,890万口座と前期の7,200万口座から減少。
- 2022/12通期会社計画は、決済総額が前期比19-22%増、前期のE-Bayの自社決済移行に伴うマイナス分の影響を除く調整後売上高が同19-21%増、調整後EPSが同0-3.3%増の4.60-4.75USD。同社株価は昨年7月に付けた過去最高値から約約70%下落。25日終値は市場予想PER約24倍。1月発効のRCEP(地域的な包括的経済連携)協定で越境ECの拡大が見込まれ、同社への追い風となろう。
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- (※)決算発表の予定は2/25現在であり、変更される可能性があります。
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