エヌビディアの2-4月期決算を受けてAI関連投資が順調な拡大となっていることが確認され、関連する銘柄への注目も高まっています。その中で生成AIの広がりによるネットワークの通信需要拡大から恩恵を受けているブロードコムに焦点を当ててご報告いたします。アップルiPhoneの買い替え期待の面からも注目されます。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(6/11) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ブロードコム(AVGO) | 1461.03ドル | 1465.01ドル | 795.09ドル |
エヌビディア(NVDA) | 120.91ドル | 125.59ドル | 38.62ドル |
シスコ システムズ(CSCO) | 45.77ドル | 58.19ドル | 45.27ドル |
マーベルテクノロジーグループ(MRVL) | 70.40ドル | 85.76ドル | 46.07ドル |
マイクロチップ テクノロジー(MCHP) | 93.53ドル | 100.57ドル | 68.75ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は通信向け半導体大手のブロードコムを取り上げます。エヌビディアの2-4月期決算の発表を受けてAI向けデータセンター投資が引き続き急拡大していることが確認されました(図表2)。AI関連の売上高を具体的に開示しているブロードコムへの注目も続くと期待されます。
なお、同社は本日6/12(水)引け後に2-4月期決算を発表予定ですので、ご注意ください。
〇ブロードコムはAI関連として注目
ブロードコムは株式市場でAI関連銘柄として注目されています。例えば11-1月期決算では、「AI関連の売上は23億ドルで前年同期比4倍に伸びた」と具体的な数字を開示しています。
11-1月期の同社売上は120億ドルですので、23億ドルは19%の構成比に当たります。これが前年同期比4倍の勢いで伸びているというのは、全体としても小さくないインパクトです。
同社はVMウェア買収を2023年11月22日に完了しているためソフトウェア事業の売上構成が増えますが、2024年10月期のAI関連の売上は売上全体の5分の1を占めるだろうとして、AI関連売上のモメンタムの強さは維持される見通しです。
〇需要拡大が見込まれるネットワーク半導体
同社のAI関連の売上の多くは、データセンターでの通信に関わる「ネットワーキング半導体」と考えられます。そして、このネットワーキング半導体(IC)は高い成長が見込まれています。
テクノロジー調査会社IDCの予想によると、2022年から2027にかけてAIインフラストラクチャーで使用される主要半導体の年平均成長率は、コンピュートIC16%、ネットワーキングIC26%、DRAM10%となっています(図表3)。
コンピュートICはエヌビディアが供給しているAIコンピュータが中心と考えられますが、ネットワーキングICの市場はこれよりも高い伸びが見込まれていることになります。コンピュートICは、2023年、2024年に高い伸びとなった後、2025年からの伸びは鈍化する見通しです。一方、ネットワーキングICの市場は、平均的に高い伸びが続く見通しです。
この要因としては、大規模言語モデルなど巨大な生成AIモデルの計算を処理するために、エヌビディアのGPU(画像処理半導体)によってコンピュートICが高速化したためにネットワーキングICの高速化が求められていること、また、モデルが大きくなったために一つのGPU処理することができず、複数のGPUを連携するためにネットワーキングICが必要となっていることがあるようです。
図表2 エヌビディアのデータセンター向け売上

注:同社の決算月は1月で、28年度は28年1月期になります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 AIインフラストラクチャ向け半導体の市場成長率予想(IDCの予想)

※テクノロジー調査会社IDCによる予想をもとにSBI証券が作成
ブロードコムのAI関連売上の中身を覗いてみましょう。同社がAI関連とする売上額は開示されていますが、何が含まれているかについて細かくは開示されていないため、以下については推定を含みます。
〇ブロードコムの半導体事業
まず、ブロードコムの2023年10月期の部門別売上構成比を確認してみましょう。大きくは、半導体ソリューションズの79%、インフラストラクチャ・ソフトウェアの21%に分かれます。さらに、半導体ソリューションズは以下の分野に分かれています。
・ネットワーキング(売上構成比38%) ・・・データセンター、サービスプロバイダー、エンタープライズ向け
・ワイヤレス(同26%) ・・・スマートフォン、Wi-Fi、Bluetooth向け
・ブロードバンド(同16%) ・・・セットトップボックス(ケーブルTV)およびブロードバンド・アクセス向け
・エンタープライズ・ストレージ(同16%) ・・・サーバー、ストレージシステム向け
・インダストリアル&他(同4%) ・・・ファクトリー・オートメーション、自動車向け
AI関連売上の中心を占めると考えられるのがネットワーキングで、半導体売上の38%を占めます。AI関連売上は約15%を占めたということですので、ネットワーキングの半分強がAI関連となっているようです。
〇AI関連売上の中心をなすネットワーキングの製品
ネットワーキング分野で、アニュアルレポートに主な製品としてあげられているのは以下の通りです。
・イーサネットのスイッチおよびルーター向け半導体
・特定顧客向け半導体(ASICs)
・光通信および銅線のトランシーバ(送受信機)
・光通信のトランスミッター(送信機)&レシーバ(受信機)
スイッチはネットワークにある機器同士が効果的に通信できるようにするコントローラの役割を果たす通信機器、ルーターはパソコンなどの複数のデジタル機器を1本の回線でインターネットに接続するために必要な接続機器です。トランシーバ、トランスミッター、レシーバは光ファイバーによる光信号とサーバー内の電気信号を相互に変換する機能を担います。AI計算の広がりによってデータセンターで需要が拡大しているのは、スイッチおよび光通信のトランシーバなどと考えられます。
〇イーサネット・スイッチ向け半導体の市場
AI関連として特に重要なのはイーサネット・スイッチ向け半導体とみられます。イーサネットはサーバーやパソコンなどのコンピュータ機器をつなぐ有線のネットワークで使われる主流の通信規格で、イーサネット・スイッチは、この接続をコントロールする機器になります。
イーサネット・スイッチの機能を担う半導体チップの市場では、ブロードコムのほか、シスコ システムズ(CSCO)、マーベルテクノロジーグループ(MRVL)、マイクロチップ テクノロジー(MCHP)などが主要プレーヤーとみられます。各社の市場シェアは不明なものの、ブロードコムは市場のリーダーと認められていることから、市場拡大の恩恵を確実に受けられるポジションにあると考えらえます。
3月20日に開催されたAIに焦点を絞った「AIインフラを可能にする(Enabling AI Infrastructure)」と題する会社説明会では、イーサネット・スイッチ・チップの主要製品として、データセンター向けの「Tomahawk 5」、企業向けの「Trident」、通信事業者/サービスプロバイダー向けの「Jericho」が紹介されています。
〇イーサネット・スイッチ以外のAI関連製品
イーサネット・スイッチ以外で重要と考えられるのが、特定顧客向けのAIアクセラレーターのXPUです。これはエヌビディアのGPUと同じような機能を果たしますが、特定顧客の利用目的に合わせて共同開発されたものです。
同社のプレゼンテーションでは顧客名が伏せられていますが、グーグルのTPU(Tensor Processing Unit)、メタプラットフォームズのMTIA(Meta Training Inference Accelerator)がこれに当たるとみられます。
その他の関連製品としては、以下があります。
・PCLe(Peripheral Component Interconnect-Express)スイッチ・・・サーバーの中の部品をつなぐスイッチ
・NIC(Network Interface Card)・・・機器をインターネットにつなぐ回路基板
図表4 ブロードコムの半導体ソリューション売上に占めるAI関連比率

※ブロードコム会社資料をもとにSBI証券が作成
〇企業概要
米国の半導体大手で、2023年の半導体売上ランキングは世界5位です。2016年に共に通信向け半導体を主力とするアバゴテクノロジーとブロードコムが合併、2019年にセキュリティ・ソフトウェアのシマンテックを買収して現在の事業が形成されました。部門別売上構成比(2023年10月期)は半導体ソリューションが79%、インフラストラクチャー・ソフトウェアが21%、地域別売上構成比(同)は中国が32%、米国が20%、シンガポールが13%で、それ以外が35%です。最大顧客はアップルで、売上の約20%を占めます(2023年10月期)。2011年度以降、増配傾向が続いています。
〇会社の見方
通信用半導体大手として、アップルを筆頭とするスマホメーカーやハイパースケールデータセンター、ネットワーク機器メーカーなどが主要顧客です。ソフトウェア事業も強化しており、この分野ではM&Aを活用しています。半導体の売上高に占める生成AI関連製品の比率は2023年10月期に15%でしたが、2024年10月期は35%に拡大する見込みで、成長をけん引すると期待されています。
2023年11月に買収を完了したVMウェアは仮想化・クラウド技術大手です。仮想化はソフトウェアによって複数のハードウェアを統合し、1台のハードウェアで処理しているように稼働させるものです。2018年度〜2023年度の売上の年平均成長率は11.2%と安定成長の事業と考えられます。
11-1月期決算は、売上が前年同期比4%増(半導体が同3%増、インフラストラクチャー・ソフトウェアが同7%増)、調整後EPSが同6%増で、いずれも市場予想を上回りました。半導体は各種産業向けの弱さを人工知能(AI)関連の伸びでカバーしています。2024年10月のガイダンスは、売上が買収効果により前年比40%増の500億ドル、調整後EBITDA(利払い、税金、償却前利益)率は約60%としました。調整後EBITDAは300億ドル相当で前年実績に対して29%増の計算です。
これまでスマホ向けは足をひっぱっていましたが、アップルが年次開発者会議で同社のAIシステム「アップルインテリジェンス」をOpenAIとの連携でiPhoneに組み込むことを発表しました。来年に向けて買い替えが促進される可能性があり、同社も恩恵を受けるとの期待が高まっています。
〇投資指標
6/10(月)の株価1,440.47ドルは、2024年10月予想EPSの47.18ドルに対して30.5倍、2025年10月期予想EPSの58.31ドルに対して24.7倍です。年初来の株価は、AI関連物色の流れにのって29%の上昇と好調です。
アナリストの目標株価平均は1,552.20ドルで、6/10(月)終値の7.7%上です。6/12(水)引け後に発表される2-4月期決算が堅調であれば、一段高が期待できそうです。
図表5 ブロードコムの業績推移

注:予想は、Bloomberg集計のコンセンサス予想によります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
免責事項・注意事項
- 本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客さまが損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
- レバレッジ型・インバース型 ETF等(ETN含む)は、主に短期売買により利益を得ることを目的とした商品です。レバレッジ指標の上昇率・下落率は、2営業日以上の期間の場合、同期間の原指数の上昇率・下落率のレバレッジ倍(又はマイナスのレバレッジ倍)とは通常一致せず、それが長期にわたり継続することにより、期待した投資成果が得られないおそれがあります。上記の理由から、一般的に長期間の投資には向かず、比較的短期間の市況の値動きを捉えるための投資に向いている金融商品といえます。投資経験があまりない個人投資家の方が資産形成のためにこうしたETF等を投資対象とする際には、取引の仕組みや内容を十分理解し、取引に伴うリスク・コストを十分に認識することが重要です。レバレッジ型・インバース型 ETF等に係る商品の特性とリスクについてはこちらのリーフレットをあわせてご確認ください。