テスラ(TSLA)が10/18に決算発表後、株価が急落しました。主な要因を確認したうえで、今後の見通しを考察してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄
銘柄 | 株価(10/24) | 52週高値 | 52週安値 |
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テスラ(TSLA) | 216.52米ドル | 299.29米ドル | 101.81米ドル |
DRX デイリー テスラ株 ブル1.5倍 ETF(TSLL) | 12.30米ドル | 21.10米ドル | 4.64米ドル |
DRX デイリー テスラ株 ベア1倍 ETF(TSLS) | 22.22米ドル | 58.05米ドル | 17.11米ドル |
インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ETF(QQQ) | 359.13米ドル | 387.98米ドル | 259.08米ドル |
Direxionデイリー半導体株ブル3倍ETF(SOXL) | 17.04米ドル | 28.75米ドル | 7.53米ドル |
Direxionデイリー半導体株ベア3倍ETF(SOXS) | 12.05米ドル | 69.09米ドル | 8.17米ドル |
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注:ブル・ベアETFについては、レポートの最後にある注意事項をご確認ください。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
世界EV最大手のテスラ(TSLA)が10/18に決算発表後、株価が急落しました。主な要因は、以下の3つと考えられます。
図表2 テスラ(TSLA)の株価と米10年債利回りの推移(年初来)
※Bloombergおよび各種資料によりSBI証券が作成
1)決算内容と決算発表会でのイーロン・マスクCEOの「弱気発言」
10/18に発表された7-9月決算は、売上高とEPSが市場予想を下回り、注目の粗利益率も17.9%となり、前四半期の18.2%より低下しました。ただ、同社はすでに10月初めに7-9月期の出荷台数を発表しており、売上高の鈍化や利益率の低下はある程度想定されていました。
しかし、市場にとって全く予想外だったのは、いつも「強気発言」が目立つイーロン・マスクCEOが今回の決算発表会ではやや「弱気トーン」になったことです。マスク氏は、2023年通期のEV納車台数について引き続き、180万台を目標にしていると示しながら、今後については「永久に50%の複合成長率を維持することは不可能」とコメントしました。これまでは「複数年で年平均50%増」を目標に掲げてきており、過去の決算発表会では達成可能と示していました。
成長のけん引役として期待されているサイバートラックについては、「サイバートラックに対する(市場の)期待を抑えたいと思う。量産に達し、キャッシュフローをプラスにするには非常に大きな課題があることを強調したい。キャッシュフローのプラスは1年から1年半はかかるだろう」と示し、アナリストや投資家の失望を呼びました。
2)EV需要の鈍化懸念
決算発表会でメキシコ工場の本格稼働について質問が及んだ際、マスク氏は「本格的に稼働させる前に、世界経済の状況を把握しておきたい。我々は高金利環境を心配している。金利が高止まりしたりもしくはさらに上昇すれば、それだけ(消費者にとって)車を買うことが難しくなる」との見方を示しました。世界経済の不確実性や需要懸念を示唆するコメントとして捉えられました。
折しも、決算発表の前日にゼネラル・モーターズ(GM)が需要懸念を理由に、米ミシガン州工場での電動ピックアップトラックの生産開始を1年延期すると発表しました。10/14はフォード・モーター(F)が複数の制約要因を理由に、ミシガン州EV工場の3シフトのうち1シフトを一時削減したと報じられました。自動車大手各社の動きやマスク氏の「弱気発言」から、EV需要の見通しについて楽観視して良いかどうか、投資家は改めて問われることになりました。
3)米国の金利高止まりに対する警戒
テスラのようなグロース株にとっては、業績見通しに加えて、金利動向も重要になってきます。企業の株価評価において、将来の利益を現在価値に割り引く際、その割引率に含まれる金利が変われば、企業価値も変わってきます。たとえば、将来の利益(分子)が変わらないとしても、分母の割引率に使用される金利が高くなれば、現在価値は目減りします。
テスラの株価と米10年国債利回りの年初来推移を確認してみると(図表2)、株価下落時は決算内容に加え、その時の金利水準(金利見通しも)株価に影響を与えていることが分かります。特に足元では、米10年国債利回りが急上昇し、10/23には一時5.0%台を付けました。金利高止まりに対する警戒の強まりで、グロース株の業績見通しに対する投資家の目線が厳しくなったことも、株価の大幅下落につながったとみられます。
また、米10年国債利回りは安全資産とされる米国債の利回りであるため、株式と債券の投資魅力を比較する際に使われる指標にもなっています。米10年債利回りと比較する際、株式(株価指数)の場合はPER(株価収益率)を逆数にした益利回りが使用されます。図表3を確認してみると、足元の長期金利の急上昇で、長期金利からナスダック100指数とフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)の益利回りを差し引いたイールドスプレッドはプラスに転じ、債券に対する株式(テック株)の割高感が示されました。
図表3 主要指数のインストールスプレッドと米10年債利回りの推移
※Bloombergおよび各種資料によりSBI証券が作成
したがって、テック株(含むテスラ)にとって、その割高感を払拭できる業績(実績と見通し)を示す必要性が高くなっていると言えます。なお、金利水準が低下すれば、業績に対する厳しい目線もやや和らぐ可能性もあります。
テスラの場合は、今後のEVの需要見通しや販売実績、米長期金利の動向などが株価を左右する要因となりそうです。米国をはじめとする先進国市場については、マスク氏が決算発表で示したように、高金利環境を背景とした需要懸念が今後の販売にどう影響するかを販売実績で確認する必要があり、中国市場については経済回復やBYD(01211)などからの競争の動向に目を配る必要がありそうです。
なお、中国当局は10/24に財政赤字の拡大と国債増発を承認し、異例の予算修正で経済支援を強化すると発表しました。習近平・国家主席は10/24に異例の中国人民銀行(中央銀行)訪問を行い、市場に対して経済重視の姿勢を示しました。テスラを含めて中国の売上比率が比較的高い米テック株にとっては支援材料となりそうです。
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データ集(1) 業種別S&P500指数と米10年再利回りの推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(2) ナスダック100指数とSOX指数の年初来推移
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(3) ナスダック100指数とSOX指数のバリュエーション
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(4) 「マグニフィセント・セブン」の株価推移(年初来)
注:株価10/24までの推移です。
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(5) 「マグニフィセント・セブン」の騰落率と関連ニュース(10/11-10/24)
銘柄 | 騰落率 | |
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アップル(AAPL) | -2.8% | 新型スマホ「iPhone 15」の売れ行きについて、中国では前の機種をはるかに下回っている(米国市場は今のところ比較的堅調のようだ)ことが、調査会社のデータで明らかになった。複数のアナリストも「iPhone 15」のリードタイムは短くなっており、需要の弱さを指摘。同社のティム・クックCEOは10/16-10/18に、販売低調の中国(ファーウェイの新型スマホは好調)をサプライズ訪問し、中国市場を重視する姿勢を示した。なお、中国税務当局は10/22に同社の主要受託生産会社である台湾企業Foxconnについて調査を開始した。米国の対中制裁に対する報復措置の一環なのかそれとも政治要因なのかは不明。調査により、アップル製品の生産に影響が出る場合はネガティブ材料となるため、今後の動向には留意する必要があろう。なお、Bloombergが集計した同社株に対するコンセンサス・レーティングは「iPhone 15」が発売される前は4.19だったのに対し、10/24時点は4.13となり、小幅ながら下方修正された。 |
マイクロソフト(MSFT) | 0.7% | 同社は10/13に、昨年1月に発表したActivision Blizzardの買収を完了したと発表。これにより、マイクロソフトはテンセントとソニーに次いで世界第3位のビデオゲームパブリッシャーとなる。なお、同社にとってゲーム事業の売上構成比(2023年6月期)は7%にとどまっている。一方、クラウドサービス「Azure」が含まれているインテリジェントクラウド事業は売上の42%、オフィスソフトの「Microsoft365」が含まれているプロダクティビティ&ビジネスプロセス事業は同33%で、両事業は成長のけん引となっている。ただ、大手証券会社は「ゲーム分野におけるAI導入の勝者」に同社とソニーを挙げた。ロイター通信は10/24に、エヌビディアが半導体設計大手アームの技術を使用し、マイクロソフトの基本ソフト「Windows」を動かすCPUの設計を開始したと報じた。AMDもアーム技術を使ったPC用チップの製造を計画しているという。エヌビディアやAMDの取り組みは、アームベースのWindows PC用プロセッサの構築を支援するマイクロソフトの取り組みの一環でもある。なお、10/24引け後に発表された7-9月期決算は、売上高とEPS(1株当り利益)がともに市場予想を上回った。インテリジェントクラウド事業が前年同期比29%増収となり、4-6月期の26%増収より伸びが加速し、業績をけん引した。 |
アルファベットA(GOOGL) | 0.5% | 決算期待で買われた。決算発表を10/24に控え、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。一部アナリストは、検索エンジンにおける同社の市場シェアは安定しており、7-9月期はクラウド事業の売上高が前四半期比で増加する可能性があると予想した。ただ、10/24引け後に発表された決算では、総売上高とEPSは市場予想を上回り、主力のインターネット広告事業も堅調(前年同期比9%増収と市場予想を上回る)だったが、クラウド事業は期待外れの結果となった。成長分野として期待されたクラウド事業は前年同期比22%増収にとどまり、前年同期より伸びが鈍化した。なお、10/18に同社傘下のグーグルはクアルコムと共同で「RISC-V」ベースの「Snapdragon Wear」プラットフォームを開発すると発表。それにより、「Androidエコシステムの中で、低消費電力で高性能なカスタムCPUを活用できる製品が増える道が開かれる。」(注:「RISC-V」はオープンソースで提供されている命令セットアーキテクチャで、CPUコア市場を寡占するアームの牙城を崩す可能性がある技術として注目されている。) |
アマゾン ドットコム(AMZN) | -0.7% | 10月中旬(地域によって開催日はまちまち)に有料会員向けのセール(プライムデーイベント)を開催した。市場調査会社Numeratorのデータによると、プライムデーの米国の世帯平均支出は124ドルと、昨年の117ドルから6.1%増加した。なお、ウォール・ストリート・ジャーナルは10/18に、アマゾンが新しいロボット機能とAIツールの使用を通じて倉庫の効率化を目指していると、報じた。新ロボットの「Sequoia」は、配送時間を最大25%短縮することを目的としているという。 |
エヌビディア(NVDA) | -4.7% | 米商務省が10/17にAI半導体の対中輸出をめぐり、新たな規制を発表。同社が中国向けに設計した「A800」と「H800」が輸出規制の対象に加えられた。これを受け、同社株は10/17-10/20に大幅下落。なお、中国の大手テック企業は米国の追加措置を見込んでエヌビディアに対し発注を実施した可能性が高く(中国国内紙は「買いだめている」とも報じている)、今回の措置はエヌビディアの短期業績に対する影響は限定的とみられる。ただ、中長期的には米国に次いでAIの導入に力を入れている中国の成長を取り損ねる可能性はあるかもしれない。また、「買いだめていた」場合は、中国需要およびその分の売上の先取りになった可能性もあるかもしれない。なお、同社は今回の措置について「当社製品に対する世界的な需要を踏まえれば、短期的に業績に大きな影響が出るとは考えていない」とした。中国分の減少は他の国の強い需要で補える見方を示した。ただ、規制によって「タイムリーな製品開発完了や対象となる製品の既存顧客サポート、対象地域以外での対象製品供給に関する当社の態勢に影響があるかもしれない」とした。中長期的な影響については不確実性が示された。 なお、10/23以降はロイター通信の報道と米長期金利の低下を受け、株価は反発。ロイター通信は、同社が半導体設計会社アームの技術を利用して、インテルのプロセッサに対抗するPC向けの半導体を開発しようとしており、早ければ2025年にも発売される見通しだと報じた。事実なら、同社は「これまでインテルの牙城だったPC用半導体市場に挑む」ことになり、成功すれば新たな収益源獲得となろう。なお、米国の新たな対中輸出規制は、発効日が10/30の予定だったが、1週間前倒しとなり10/23からすでに発効されたことが10/25に明らかになった。 |
テスラ(TSLA) | -17.9% | 決算内容や決算発表会でのイーロン・マスクCEOの「弱気発言」で急落した。米国の金利高止まりを懸念し、グロース株の業績見通しに対する投資家の評価が厳しくなっていることも下落幅を大きくした。(詳細は本文をご参照ください。)なお、決算発表後の下落で株価は10/20に終値ベースで200日移動平均を下回った。ただ、翌取引日10/23以降は小幅に買い戻された。200日移動平均を意識した投資家の買いや、米10年国債利回りの低下を受けた地合い改善が背景と考えられる。 |
メタ プラットフォームズ A(META) | -2.9% | 決算発表を前に大手証券会社による前向きなコメントや目標株価の引き下げで、10/12は年初来高値を更新した。しかし、その後は米長期金利の上昇を嫌気し、利益確定売りに押された。10/25に発表される予定の7-9月期決算については、好調な収益傾向は続いた可能性が高いと多くのアナリストが予想した。10/24に米国の30以上の州が同社を提訴したことが明らかになった。同社傘下の「Instagram」や「Facebook」が利益をあげるために若者を利用し、有害なコンテンツを提供していると原告団は主張しているという。それにより、同社がユーザーに対する救済措置を実施し、罰金を科される可能性もあるが、業績への影響は限定的となろうとアナリストは指摘した。 なお、同社が今年7月に「X」(旧twitter)に対抗するためにサービスを開始した「Threads」をめぐっては、月間ユーザーベースの市場シェアでは依然として「X」に大きく水をあけられているが、順調に市場シェアを獲得していることが明らかになった。調査会社Sensor Towerによると、マイクロブログ市場で昨年9月は「X」のシェアが99%だったのに対し、今年9月は「X」が82%に低下し、「Threads」は18%となった。 |
※Bloombergおよび各種報道によりSBI証券が作成
データ集(6) ナスダック100指数とSOX指数の上位・下位騰落率5銘柄(10/11-10/24)
ナスダック100指数の構成銘柄 | ||
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銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 騰落率 |
NFLX | ネットフリックス | 10.8% |
LULU | ルルレモン・アスレティカ | 8.1% |
FANG | ダイヤモンドバック・エナジー | 4.4% |
FAST | ファスナル | 3.1% |
MDLZ | モンデリーズ・インターナショナル | 3.0% |
JD | JDドットコム | -16.6% |
TSLA | テスラ | -17.9% |
LCID | ルーシッド・グループ | -22.1% |
MRNA | モデルナ | -23.6% |
ENPH | エンフェーズ・エナジー | -24.6% |
SOX指数の構成銘柄 | ||
銘柄コード | Bloomberg銘柄名 | 騰落率 |
AVGO | ブロードコム | 2.6% |
TSM | 台湾積体電路製造 [TSMC] | 1.1% |
ASML | ASMLホールディング | -0.2% |
KLAC | KLA | -0.8% |
MU | マイクロン・テクノロジー | -1.5% |
QCOM | クアルコム | -2.6% |
NXPI | NXPセミコンダクターズ | -9.0% |
ACLS | アクセリス・テクノロジーズ | -9.4% |
MRVL | マーベル・テクノロジー | -10.1% |
LSCC | ラティスセミコンダクター | -11.3% |
MPWR | モノリシック・パワー・システムズ | -14.7% |
※BloombergデータによりSBI証券が作成
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