テック株で構成されているナスダック100指数が足元で調整色を強めています。その背景と過去2週間の主な出来事を確認し、今後の見通しを考察してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(9/26) | 52週高値 | 52週安値 |
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インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ) | 354.21米ドル | 387.98米ドル | 254.26米ドル |
プロシェア ウルトラプロ ショート QQQ ETF(SQQQ) | 21.10米ドル | 69.55米ドル | 16.38米ドル |
アップル(AAPL) | 171.96米ドル | 198.23米ドル | 124.17米ドル |
マイクロソフト(MSFT) | 312.14米ドル | 366.78米ドル | 213.43米ドル |
アルファベット A(GOOGL) | 128.565米ドル | 139.16米ドル | 83.34米ドル |
アマゾン ドットコム(AMZN) | 125.98米ドル | 145.86米ドル | 81.43米ドル |
エヌビディア(NVDA) | 419.11米ドル | 502.66米ドル | 108.13米ドル |
テスラ(TSLA) | 244.12米ドル | 299.29米ドル | 101.81米ドル |
メタ プラットフォームズ A(META) | 298.96米ドル | 326.20米ドル | 88.09米ドル |
- 注:ブル・ベアETFについては、レポートの最後にある注意事項をご確認ください。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
ナスダック100指数は7月中旬に年初来高値を付けた後、割高感に対する警戒から調整しました(図表2)。
図表2 ナスダック100指数の益回りと米10年債利回りの推移(2002年以降)
※Bloombergおよび各種資料によりSBI証券が作成
図表3 ナスダック100指数と米10年債利回りの推移(年初来)
※Bloombergおよび各種資料によりSBI証券が作成
その後、ナスダック100指数は8月中旬から下旬にかけてテック株大手の堅調な決算を受け持ち直しましたが、9月に入ってからは米10年債利回りの上昇を嫌気し再び調整しました(図表3)。9/20以降は、タカ派のFOMC(米連邦公開市場委員会)による金融引き締めの長期化懸念と米長期金利の一段高が重石となりました。9/26の終値は8月中旬に反発する前の安値を下回りました。
なお、9月に入ってからFOMCのほかに、テック株に関連する重要なイベントが2つありました。1つ目は、AI関連銘柄として注目を集めているアーム ホールディングス ADR(ARM)(通常、アーム)の新規上場(IPO)です。2つ目は、AI関連銘柄のオラクル(ORCL)とアドビ(ADBE)の決算発表です。
アームのIPOについては大成功となり、上場初日は株価が公開価格に対して2割を超える上昇となりました。しかし、その後は勢いが続かず、割高感への警戒で調整しました(9/18付ウォール・ストリート・ジャーナル記事「上場のアーム、早くも割高感」をご参照ください)。
ソフトウェア大手のオラクルとアドビの決算については、テック株の中で決算の先陣を切ったAI関連銘柄として注目されました。両社とも決算の内容は堅調で、おおむね市場予想通りの結果となりました。しかし、決算発表後の翌取引日にオラクルの株価は13.5%下落し、アドビは4.2%下落しました。オラクルについては6-8月期のクラウド事業の伸び鈍化、アドビについては9-11月期の売上高見通しやAI関連製品の値上げ効果に対する懸念が意識されました。
興味深いことに、両社の決算後の株価反応に関するBloomberg記事では、「投資家のより高い予想(期待)には及ばなかった」と指摘しています。つまり、AI関連銘柄については、市場予想通りの決算内容ではもはや投資家を満足させることが難しくなっているようです。
背景には、金利の高止まりに対する警戒が挙げられます。高PER(株価収益率)のテック株にとって、金利上昇あるいは金利の高止まりはバリュエーションを押し下げる要因となり得ます。特に足元では、米国連邦準備制度理事会(FRB)の政策転換(金融引き締めから金融緩和へ転換)には時間がかかる可能性があり、2024年は金利が高水準にとどまる可能性もあると警戒されています。
今後の見通しについて、金利動向をめぐっては不透明感が多く、必ずしも明確なコンセンサスができてない点に加え、アームの上場とAI関連銘柄の決算からは業績やAI期待がテック株を支えきれていない点も考慮すると、当面は慎重なスタンスを取ったほうがいいかもしれません。
なお、今回より「米国株式市場のデータ集」を追加し、業種別S&P500指数の推移や米代表的なテック企業7社「マグニフィセント・セブン」の株価騰落率と関連ニュースをまとめてありますので、併せてご参考にしていただければと思います。
データ集(1) 業種別S&P500指数と米10年国債利回りの推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(2) ナスダック100指数とSOX指数、および米10年国債利回りの推移(年初来)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
データ集(3) 「マグニフィセント・セブン」(米代表的なテック企業7社)の騰落率(9/11-9/22の2週間)
銘柄 | 株価推移(年初来) | 騰落率 | 関連ニュース等 |
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アップル(AAPL) | -1.9% | 9/12に「iPhone15」シリーズを含む新製品を発表。9/12は新製品に目新しさを欠いたほか、”事実で売り”によって下落(中国リスク※も重しに)。ただ、その後は新製品の販売好調が報じられ、株価はやや持ち直す場面もあった。(※詳細は「9/13付レポート【米テック株ウォッチャー】アップルの急落:2つの中国リスク、テスラの上昇:AI期待」をご参照ください。) | |
マイクロソフト(MSFT) | -5.2% | 個別要因よりも、テック株の売りが響いた。タカ派のFOMC(米連邦公開市場委員会)による金融引き締め長期化懸念と米長期金利の上昇が嫌気された。なお、同社は9/21に基本ソフト「ウィンドウズ」向けAIアシスタントの提供を9/26に開始し、業務用ソフト「オフィス」用AIアプリは11/1に幅広い提供を始めると明らかにした。 | |
アルファベットA(GOOGL) | -4.5% | 個別要因よりも、テック株の売りが響いた。タカ派のFOMCによる金融引き締め長期化懸念と米長期金利の上昇が嫌気された。なお、同社関連ニュースとしては、「傘下グーグルの幹部は早ければ2027年にAIチップのサプライヤーからブロードコムを除外することを検討している。自社での開発を模索するという」と報じられた。「ブロードコムと価格を巡り数カ月間にわたって対立していた」ことが背景のようだが、グーグルは報道について、ブロードコムとの関係に変更はない見通しとコメントした。 | |
アマゾン・ドット・コム(AMZN) | -6.6% | テック株の売りが響いた。タカ派のFOMCによる金融引き締め長期化懸念と米長期金利の上昇が嫌気された。9/20に生成AIを搭載した小型スピーカーなどの新製品を発表したが、相場の反応は限定的だった。ただ、9/25は小幅に反発した。9/22に一部の国を対象に来年早期から「プライム・ビデオ」で限定的に広告を取り入れると発表したほか、9/25に生成AIの新興企業・アンソロピックに最大40億ドル投資すると報じられたことが材料視された。しかし、9/26は大きく下落。米連邦取引委員会(FTC)が来週、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで同社を提訴する見通しだと報じられ、売りが膨らんだ。 | |
エヌビディア(NVDA) | -8.7% | 9/15にTSMCが主要サプライヤーに最先端半導体向け製造装置の納入を遅らせるよう求めたと報じられ、半導体株が売られた。タカ派のFOMCによる金融引き締め長期化懸念と米長期金利の上昇も半導体株の下落率を増幅させた。AI関連銘柄のアドビが決算発表後に急落したことも投資家センチメントに影響した。アドビが9/14に発表した9-11月期の売上高見通しはおおむね市場予想と一致したが、投資家はより高い期待を寄せていたようだ。9/14に上場した半導体設計会社のアームがバリュエーション懸念で9/15以降に下落したことも、半導体株に影響を与えた。なお、半導体株は9/25はやや持ち直した。アマゾンドットコムによる生成AI関連の大型買収と、TSMCがエヌビディアの注文に対応するため、高性能コンピューティング(HPC)向けパッケージング技術「CoWoS」の製造装置の購入を増やしていると報じられたことが買い材料となった。 | |
テスラ(TSLA) | -1.5% | 9/11に大手証券会社がテスラの自動運転をめぐるAIスパコン「Dojo」を高く評価し、目標株価を大幅に引き上げ、株価が急騰した。ただ、9/18は大手証券会社による1株当り利益(EPS)見通しの下方修正(値下げによる影響を考慮)で下落。9/20以降は、米金融引き締め長期化懸念と長期金利の上昇で売り優勢に。全米自動車労働組合(UAW)によるストライキについては今後、自動車大手3社のEV化遅れにつながればテスラにとって有利との指摘もあったが、軟調地合いも相まって株価反応は限定的だった。なお、9/26にEUの中国製EVに対する補助金調査の対象にはテスラも含まれていると報じられた。9月初めにEUが既に中国製EVの調査を開始したと発表していたため、9/26の株価反応は限定的だった(テック株並みの下落率にとどまっている)。EUの調査は9カ月ほどかかると報じられているが、今後の動向には留意する必要があろう。 | |
メタ プラットフォームズ A(META) | 0.4% | 同社は9/13に対話アプリ「ワッツアップ」の「チャンネル」機能について、近く150カ国以上で利用できるようになると明かした。大手証券会社による買い推奨も株価を支えたもよう。同証券会社は、同社株は広告とAIの推進で今後3カ月で大幅に上昇する可能性があり、特に9/27-9/28に開催予定の仮想イベント「Meta Connect 2023」で同社がAIへの投資についてより詳しい情報を提供した後、株価は上昇するだろうと予想した。なお、株価は300ドル近辺でのもみ合いとなっている。 |
注:銘柄リストはレポート作成時の前月末時点の時価総額順です。騰落率は前の金曜日を基準とした過去2週間の騰落率です。
※Bloombergおよび各種報道によりSBI証券が作成
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