中長期投資として注目に値する米テック株について、定期的にウォッチするコラムとして、【米テック株ウォッチャー】を立ち上げました。主にテック業界における最新動向や株価への影響を確認し、将来へのインプリケーションを考察していきます。初回は、「AI半導体王者のエヌビディアに挑むAMD」と「テスラの充電規格が米業界の標準仕様に」を取り上げます。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(6/21) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エヌビディア(NVDA) | 438.08米ドル | 437.21米ドル | 108.13米ドル |
アドバンスト マイクロ デバイシズ(AMD) | 118.93米ドル | 132.83米ドル | 54.57米ドル |
テスラ(TSLA) | 274.45米ドル | 314.67米ドル | 101.81米ドル |
フォード モーター(F) | 14.22米ドル | 15.88米ドル | 10.10米ドル |
ゼネラル モーターズ(GM) | 37.32米ドル | 43.63米ドル | 30.33米ドル |
リビアン オートモーティブ(RIVN) | 15.70米ドル | 40.86米ドル | 11.68米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
生成AIブームで最も恩恵を受けるとされるAI半導体王者のエヌビディア(NVDA)に対し、競合のアドバンスト ・マイクロ・デバイシズ(AMD)が挑戦状を叩き付けました。
AMDは6/13に、「AMD Data Center and AI Technology Premiere」のイベントを開催し、AIプロセッサーの「Instinct MI300 X」を発表しました。「Instinct MI300 X」には生成AIの処理を高速化できるアクセラレーター(生成AIブームを引き起こしたChatGPTなどが使用する技術)が採用されます。今後の予定についてAMDは、今年第3四半期に顧客に向けてサンプルの提供を開始し、年末までに生産を加速する見通しだとしました。
AI向け半導体分野ではエヌビディアが先行しており、AMDは今回、エヌビディアへの対抗製品を正式に打ち出したことになります。AI向け半導体が属するサーバー向けGPUの市場シェアを確認してみると(図表2)エヌビディアが95%と圧倒的に高く、AMDはおよそ5%程度です。しかしながら、その他には競合がほとんどないのも現状で、AMDは王者のエヌビディアに挑戦できる唯一の独立系半導体メーカーとも言えます。
図表2 サーバー向けGPUの市場シェア(ユニットベース)
※Bloomberg Intellingence (BI)によりSBI証券が作成
したがって、投資家はAMDの新製品発表に対し、高い期待を寄せました。特に5/5にマイクロソフト(MSFT)がAMDのAIプロセッサーへの進出に協力していると報じられた後、AMDの株価パフォーマンスは一時エヌビディアを上回りました(図表3)。
図表3 エヌビディア(NVDA)とAMD(AMD)の株価とバリュエーション推移(過去2年)
※BloombergデータによりSBI証券が作成
その後、エヌビディアが5/24の決算発表会で市場予想を大幅に上回るガイダンスを示し、エヌビディアの株価は急騰しました。6/13にAMDがエヌビディアに対抗するAI新製品を発表した後、AMDの株価は冴えない一方、エヌビディアの株価は一段高となりました。
両社の株価動向からは、投資家がAMDの新製品発表に対し失望していることが伺えます。背景要因は、主に以下の2つです。
1)AMDはAI新製品を採用する予定の主要顧客を公表しなかった(過去の新製品発表時は公表した)。主要顧客が分かれば、AMDの「Instinct MI300 X」がエヌビディアの「H100」に対抗、あるいは代替できる商品かどうかある程度判断できるため、顧客の未公表はネガティブ・材料として意識された。
2)「Instinct MI300 X」の提供開始や量産の時期が期待より遅くなる見通しとなった。足元はAI半導体に対する需要が最も旺盛な時期とも言えるため、早期の提供および量産開始が何よりも重要になってくる。量産・納入が期待より遅くなるということは、売上計上も先になることを意味する。
振り返ってみると、エヌビディアがAI向けの最新型GPUである「H100」を発表したのは、2022年3月です。そして、2022年9月に量産および出荷を開始しました。つまり、エヌビディアは生成AIブームが始まる前に既に「H100」を顧客に納入しています。納入開始後、決算期ベースでは2022年8-10月期に「H100」の売上計上が始まり、2022年11月-2023年1月期には「H100」の売上高が従来の主力製品「A100」を上回りました。「H100」の好調さはその後も続いたとみられます。エヌビディアは5/24にAI半導体の好調を支えに、2023年5-7月期の売上高は大幅の増加になる見通しだと示しました。
このようにみると、短期的にAMDがエヌビディアの支配的な立場を脅かすことは難しいと考えられます。(エヌビディアについて詳しくまとめたレポート、6/14付の「【エヌビディアの決定版】 エヌビディアのAIを語り尽くす」もご参照願います。)
ただし、AMDにまったくチャンスがない訳でもないようです。ロイター通信によると、アマゾン・ドットコム(AMZN)のクラウド部門(AWS)は、AMDのAI向け新半導体の導入を検討しています。同記事によると、「エヌビディアはチップを”ばら売り”しているが、クラウドプロバイダーに対して自社が設計したDGXクラウド(クラウド型AIスーパーコンピューター)を採用する気はないかと訪ねている。AWSはそれを断った。」といいます。
上記の報道からは、クラウドプロバイダーはエヌビディア製以外の製品を求めていることが伺えます。エヌビディアが生成AI向け半導体で独占的な立場にあるため、価格交渉力が高く、関連製品(たとえばDGXクラウド)を売り込むこともできることは、逆にいえば顧客を弱い立場に立たせています。したがって、AMDが競争力のある製品を打ち出せば、中長期的にシェアを伸ばすチャンスはあると考えられます。また、生成AIの導入拡大により市場のパイが大きくなれば、同社も中長期的に恩恵を受けることとなるでしょう。
電気自動車(EV)最大手のテスラ(TSLA)の株価が足元で好調に推移しています。米大手自動車メーカーのフォード・モーター(F)とゼネラル・モーターズ(GM)、および新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブ(RIVN)が相次いでテスラの急速充電設備「スーパーチャージャー」を利用すると発表したためです(図表4)。
図表4 テスラ(TSLA)の株価(2021年から)と充電ネットワークをめぐる動き
※BloombergデータによりSBI証券が作成
特に米EV市場でテスラにとって最大のライバルであるフォード・モーターとGMがテスラ式を採用したことは、テスラがEV充電で米業界標準を確立させる象徴的な出来事となりました。なぜならば、3社合わせて米EV市場のおよそ8割をシェアを占めるためです。新興EVメーカーのリビアン・オートモーティブがテスラのスーパーチャージャーの利用を発表したことで、その動きは一段と加速したことになります。
テスラにとっては、EV充電サービスの提供で新たな収入源を獲得することになります。一部のアナリストはフォードモーターとGMがテスラの充電ネットワークを利用することで、テスラの売上高は2030年までに30億ドル押し上げられることになりそうだと試算しました。テスラの2022年通年の売上高(約815億ドル)に比べると、決して多額とは言えないかもしれません。ただ、継続的で安定的な収入源になることはプラス材料となるでしょう。
米EV業界への影響としては、テスラ以外の中小EV充電企業は今後、淘汰される可能性が高いかもしれません。他方、標準的な充電規格の確立により、EVの普及は加速することとなりそうです。
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