直近発表の四半期決算で業績堅調が目立っている医療機器セクターの銘柄をご紹介いたします。パンデミックが世界的に終息して、「待機的手術」(医療上の緊急事態を伴わない手術)が回復、また、病院のスタッフ不足が改善して医療現場が正常化に向かっていることが業績改善の背景にあるようです。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(5/16) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ボストン サイエンティフィック(BSX) | 53.77ドル | 54.08ドル | 34.98ドル |
インテューイティブ サージカル(ISRG) | 306.61ドル | 308.46ドル | 180.07ドル |
エドワーズライフサイエンス(EW) | 88.66ドル | 107.92ドル | 67.13ドル |
レスメド(RMD) | 228.73ドル | 247.65ドル | 190.12ドル |
ジンマー バイオメット ホールディングス(ZBH) | 134.84ドル | 149.25ドル | 100.39ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は直近の四半期決算発表で事業環境の改善が報告されている医療機器セクターを取り上げます。
〇市場全体の業績モメンタムは横ばい圏
S&P500指数採用銘柄の四半期決算は、2022年10-12月期から2023年1-3月期にかけて、景気減速を反映して業績モメンタム(前年同期比の伸び率)は横ばい〜やや鈍化の傾向となりました。
・2022年10-12月期 売上 前年同期比5.7%増 EPS 同2.1%減
・2023年1-3月期 売上 前年同期比4.2%増 EPS 同3.3%減 (5/16(火)、459社発表時点)
その中で業績モメンタムの改善が目立った分野としては、海外旅行の再開を受けたホテル、カジノ、クルーズ船など海外旅行の再開関連や、米国政府の政策から恩恵受ける太陽光発電関連、米国のインフラ投資関連などがあり、今回取り上げる医療機器関連もその一つでした。
〇医療機器セクターの業績モメンタムが改善
医療機器セクターの業績モメンタム改善は、1-3月期決算発表の序盤から注目を集めました。
医療機器専業ではありませんが、業界大手に匹敵する医療機器部門をもつジョンソン&ジョンソンの医療機器部門の売上は2022年10-12月期の前年同期比1%減から、2023年1-3月期の同7%増に改善しました。これが4/18(火)です。
また、4/19(水)にはアボットラボラトリーズの医療機器部門も同様に同0%から同9%増に改善したことから、医療機器は業界全体として改善しているとの見方が強まりました。
世界的にパンデミックが収まったことで、「待機的手術」(医療上の緊急事態を伴わない手術)が回復していることが背景となっているようです。このような動きは、その後も手術支援ロボットのインテューイティブ サージカル、医療機器専業大手のボストンサイエンティフィックなどの決算でも確認されました。
〇医療機器セクターの株価は回復中
医療機器セクターの株価はパンデミック下でも2020年から2021年前半にかけてはほとんど市場平均並みで推移していました。既にパンデミックによる業績への影響は出ていましたが、成長企業が多く比較的PER水準が高いため、長期金利の低下と量的金融緩和による株価押し上げの効果が優ったためと考えられます。
しかし、2021年後半から徐々にアンダーパフォームするようになりました。これはパンデミックが短期に終息する期待が後退し、医院への来訪減少が長引き、医療機器の需要が低調となり、業績へのマイナスが深刻化したことが背景とみられます。
一方、医療機器のアンダーパフォームは2022年8月の22%でピークを付け、その後は徐々にS&P500指数に対するアンダーパフォームを縮小しつつあります。ただ、8%ポイント割負けています。病院での医療活動の正常化を受けて、今後も劣後を縮小する可能性が高いとみられます。
個別銘柄の株価パフォーマンスは図表3の通りです。S&P500指数に採用されている医療機器20銘柄の年初来の株価騰落率を示しています。パンデミックの影響で延期されていた手術の回復に関連する銘柄のパフォーマンスが良好となっています。
図表2 医療機器セクター指数とS&P500指数
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 医療機器20銘柄の年初来株価騰落率(時価総額順)
コード | 銘柄名 | 株価騰落 (年初来) (%) |
株価 (5/12) (ドル) |
予想PER (倍 ) |
時価総額 (億ドル) |
---|---|---|---|---|---|
ABT | アボットラボラトリーズ | 0.6 | 110.49 | 29.5 | 1,921 |
MDT | メドトロニック | 14.4 | 88.88 | 207.3 | 1,182 |
SYK | ストライカー | 16.8 | 285.47 | 33.1 | 1,084 |
ISRG | インテュイティブサージカル | 15.0 | 305.27 | 49.0 | 1,070 |
BSX | ボストン・サイエンティフィック | 15.3 | 53.34 | 54.0 | 767 |
BDX | ベクトン・ディッキンソン | -0.7 | 252.51 | 33.8 | 717 |
EW | エドワーズライフサイエンス | 19.5 | 89.18 | 25.0 | 541 |
DXCM | デクスコム | 7.5 | 121.70 | 14.0 | 472 |
IDXX | アイデックスラボラトリーズ | 19.5 | 487.47 | 20.0 | 405 |
RMD | レスメド | 12.2 | 233.50 | 26.6 | 343 |
GEHC | GE HealthCare Technologies Inc | 28.3 | 74.92 | 34.3 | 341 |
ZBH | ジンマー・バイオメット・ホールディングス | 7.3 | 136.75 | 21.4 | 285 |
PODD | インシュレット | 12.2 | 330.23 | 18.2 | 230 |
ALGN | アライン・テクノロジー | 39.3 | 293.71 | 27.3 | 225 |
BAX | バクスターインターナショナル | -16.7 | 42.47 | 21.7 | 215 |
STE | ステリス | 14.2 | 210.85 | 18.4 | 209 |
HOLX | ホロジック | 10.6 | 82.77 | 19.9 | 204 |
COO | クーパー | 18.0 | 390.16 | 17.2 | 193 |
TFX | テレフレックス | 0.0 | 249.59 | 24.2 | 117 |
XRAY | デンツプライ・シロナ | 28.4 | 40.88 | 107.8 | 87 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3にリストアップした医療機器セクターの20銘柄から、1-3月期の決算が好調だったものを、図表4に抽出しました。
抽出の条件は、以下の通りです。
(1)1-3月期の売上が市場予想を3%以上上回った
(2)売上の前年同期比伸び率が10-12月期から1-3月期にかけて5%ポイント以上改善した
(例えば、売上伸び率が10-12月期の前年同期比3%増から1-3月期に同8%増になった場合など)
上記の条件を満たす銘柄を時価総額順に並べています。ここから注目できる銘柄を次節でご紹介いたします。
これらの銘柄群を含む全体の傾向でも、医療機器セクターの業績好調が確認できます。
20銘柄のうち、決算期がずれているメドトロニック(MDT)とクーパー(COO)を除いた18銘柄のうち、17銘柄の売上が市場予想を上回っています。また、2022年10-12月期から2023年1-3月期にかけて売上のモメンタムが改善した銘柄は14銘柄となっています。
図表4 1-3月期決算の好調銘柄
銘柄名(コード) | 1-3期 売上 市場予想比 (%) |
1-3月期 EPS 市場予想比 (%) |
1-3月期 売上 前年同期比 (%) |
1-3月期 EPS 前年同期比 (%) |
10-12月期 売上 前年同期比 (%) |
10-12月期 EPS 前年同期比 (%) |
時価総額 (億ドル) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
インテューイティブ サージカル(ISRG) | 6.1 | 1.8 | 14.0 | 8.9 | 6.7 | -5.4 | 1,070 |
ボストン サイエンティフィック(BSX) | 7.3 | 8.2 | 12.0 | 19.4 | 3.7 | 0.0 | 767 |
エドワーズライフサイエンス(EW) | 4.6 | 2.1 | 8.8 | 3.3 | 1.4 | 25.5 | 541 |
レスメド(RMD) | 6.5 | 4.2 | 29.2 | 27.3 | 15.5 | 12.9 | 343 |
ジンマー バイオメット ホールディングス(ZBH) | 7.7 | 15.5 | 10.1 | 17.4 | -10.4 | -3.6 | 285 |
アライン テクノロジー(ALGN) | 3.9 | 7.8 | -3.1 | -14.6 | -12.6 | -38.9 | 225 |
ステリス(STE) | 8.8 | 7.1 | 14.4 | 12.8 | 0.7 | -4.7 | 209 |
テレフレックス(TFX) | 3.5 | 4.1 | 10.8 | 7.3 | -0.5 | -2.2 | 117 |
デンツプライ シロナ(XRAY) | 4.4 | 15.8 | 0.9 | 19.3 | -9.7 | -7.6 | 87 |
※BloombergデータをもとにSBII証券が作成
図表4の1-3月期決算の好調銘柄から、注目銘柄を5つご紹介いたします。
図表5の株価動向も併せて勘案すると、地味ながら上場来高値を更新しつつある、ボストンサイエンティフィック、株価の回復に勢いがあるインチュイティブサージカルなどが特に注目できそうです。
〇ボストン サイエンティフィック(BSX)
【待機的手術が回復】
・医療機器の大手で、心臓カテーテル、内視鏡検査装置、冠動脈疾患向け装置、ペースメーカーなどを製造します。世界的にパンデミックが収まったことで、「待機的手術」(医療上の緊急事態を伴わない手術)が回復して予想以上の増収・増益となっています。業績回復を受けて4月以降ジリジリと上場来高値を更新する動きが続いています。なお、決算発表前後の株価乱高下は、報道された血管内結石破砕術用の機器を扱うショックウェーブ メディカル(SWAV)の買収に対する思惑によります。
・1-3月期の売上は前年同期比12%増となり、会社ガイダンスの同3〜5%増を大きく上回りました。メドサージ部門の売上が同11%増、カーディオバスキュラー部門が同13%増と、売上の好調は幅広い分野に広がっています。業績モメンタムの回復を受けて、通期のガイダンスを売上は前年比5〜7%増から同8.5〜10.5%増へ、EPSは1.86〜1.93ドルから1.90〜1.96ドルへ引き上げています。
〇インテューイティブ サージカル(ISRG)
【業績回復が安定化】
・米軍の遠隔手術の研究開発から生まれた手術支援ロボットで世界トップの実績を誇る「ダビンチ」を販売する会社です。「ダビンチ」は世界70ヵ国で7,500台以上が設置され、過去1,200万件以上の手術に使用された実績を誇ります。売上は地域により濃淡はあるものの、全体的にパンデミックによる混乱から回復して売上・利益とも安定しつつあるようです。
・1-3月期の「ダビンチ」を使った手術件数は前年同期比26%増でした。中国ではパンデミックの影響が残った一方、米国では前年同期にパンデミックの影響で落ち込んだ反動増があったとしています。「ダビンチ」の設置台数は前年同期比12%増と堅調です。Bloombergアナリストの分析では、2025年までの売上成長は10%台後半、2023年は20%台の可能性があるとしています。
〇エドワーズライフサイエンス(EW)
【経カテーテル大動脈弁留置術で成長】
・心疾患治療用医療機器メーカー。弁膜症治療向け人工心臓弁や血行動態モニタリング製品で世界首位。同社が世界で初めて開発した、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVR)向けの売上が65%を占めます(2022年12月期)。TAVRの市場規模は2021年の約50億ドルから2028年には100億ドルに拡大する見通しで、同社の売上もこれに沿って拡大すると見込まれています。
・1-3月期の売上は前年同期比9%増と10-12月期の同1%増から改善、主力のTAVRの売上成長は10-12月期の同横ばいから1-3月期に同8%増となっています。同社は売上モメンタムが改善した背景として、新型コロナのパンデミックをきっかけに起こった病院でのスタッフ不足が改善したことをあげています。1-3月期の業績好調を受けて、通期の売上はガイダンスレンジ56〜60億ドルの上限に近くなるとしています。
〇レスメド(RMD)
【呼吸器系の医療器具メーカー】
・呼吸器系の医療器具メーカー。柱は睡眠時無呼吸症候群、慢性閉そく性肺疾患(COPD)等の検査・治療機器です。クラウド接続された医療機器の活用やヘルステック企業の積極買収などで、在宅医療の分野で革新的なソリューションを提供します。過去12ヵ月の売上構成比は、デバイス54%、マスクその他35%、SaaS11%、地域別では米州59%、欧州アジア他30%、SaaS(米国とドイツ)11%です。
・1-3月期は業績モメンタムが前四半期から加速し、売上は前年同期比29%増、調整後EPSは同27%増と伸びました。睡眠時無呼吸症候群の治療器具「AirSense 10」「AirSense 11」などの生産を強い需要に沿って増やした結果だとしています。「AirSense 10」については、クラウド接続できるものがグローバルに供給できる体制が整いました。また、ライバルのフィリップスが競合機器についてリコールしたことも強い需要につながったようです。
〇ジンマー バイオメット ホールディングス(ZBH)
【整形外科向け医療器具メーカー】
・整形外科向け医療器具メーカー。2015年にジンマーとバイオメットと統合して誕生。世界シェアトップの人工膝関節、人工股関節等を製造、関節リウマチや変形関節症に適応します。2022年3月に歯科・脊椎事業をスピンオフしています。同社の2022年12月期の売上は69億ドルで、184億ドルと2倍以上の規模であるストライカー(SYK)が競合企業です。
・1-3月期の売上は前年同期比10%増、調整後EPSは同17%増と、10-12月期のそれぞれ同10%減、同4%減から大きく改善しました。業績改善について、「手術件数回復の継続、業務の確実な執行、同社のイノベーションによるけん引」が要因とコメントしています。2023年12月期のガイダンスは、売上が前年比1.5〜3.5%増から同5.0〜6.0%増へ、調整後EPSは6.95〜7.15ドルから7.40〜7.50ドルに引き上げています。
図表5 注目銘柄の株価推移
※BloombergデータをもとにSBII証券が作成