「ChatGPT」をきっかけとしたAI(人工知能)ブームが続く中、今回はAI半導体王者のエヌビディア(NVDA)の業績とバリュエーションを確認してみたいと思います。
図表1 主な言及銘柄 (Bloomberg銘柄名)
銘柄 | 株価(2/28) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エヌビディア(NVDA) | 232.16米ドル | 289.46米ドル | 108.13米ドル |
モノリシック パワー システムズ(MPWR) | 484.29米ドル | 541.39米ドル | 301.69米ドル |
IPGフォトニクス(IPGP) | 123.24米ドル | 136.08米ドル | 79.88米ドル |
ラティスセミコンダクター(LSCC) | 84.96米ドル | 92.55米ドル | 43.41米ドル |
ON セミコンダクタ(ON) | 77.41米ドル | 87.55米ドル | 44.76米ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
AI(人工知能)半導体分野で世界トップのエヌビディア(NVDA)をめぐり、決算発表(2/22、現地時間)前後でアナリストたちによる目標株価の引き上げが目立ちました(図表2)。その間、エヌビディアの株価も上昇しました。
図表2 エヌビディア(NVDA)の株価終値と目標株価(注)の推移
注:目標株価はBloombergが集計したものです。
※BloombergデータをもとによりSBI証券が作成
エヌビディアの株価推移とフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)、およびナスダック指数の動向と合わせて確認してみると(図表3)、年初からエヌビディアの好調さが目立ちます。たとえば、今年1月に米利下げ期待を背景にSOX指数とナスダック指数が反発した中、エヌビディアは両指数を大幅に上回って上昇しました。2月に米利下げ期待が後退すると、SOX指数やナスダック指数が調整し、エヌビディアも大幅に下げる場面がありました。しかし、エヌビディアは決算発表後は反発しました。
図表3 エヌビディア(NVDA)とSOX指数、ナスダック指数の推移(2019年12月末=100として指数化)
※Bloombergおよび各種資料をもとによりSBI証券が作成
SOX指数の構成銘柄のうち、グラフィック関連銘柄が年初から株価パフォーマンスが好調だと、2/23付のBloomberg記事が指摘しました。年初来騰落率を確認してみると、同記事で挙げられたグラフィック関連銘柄の上昇率はSOX指数(16.8%上昇)を上回っており、そのうちエヌビディアは上昇率1位(58.9%上昇)になりました。
図表4 SOX指数とグラフィック関連銘柄(注)の株価騰落率
銘柄コード | 銘柄名 | 年初来騰落率(%、2/28まで) | 企業(および指数)概要 |
---|---|---|---|
SOX | SOX指数 | 16.8 | 半導体関連の代表的な指数であるフィラデルフィア半導体株指数 |
NVDA | エヌビディア | 58.9 | 半導体メーカー、グラフィックスプロセッサーと関連ソフトウエアの設計・開発・販売会社 |
MPWR | モノリシック パワー システムズ | 37.0 | 電力ソリューションの設計・開発会社 |
IPGP | IPGフォトニクス | 30.2 | 電子部品メーカー、高出力ファイバーレーザーとアンプリファイヤーを製造 |
LSCC | ラティスセミコンダクター | 30.9 | 半導体メーカー、プログラマブル・ロジック装置の設計、開発、販売に従事 |
ON | ON セミコンダクタ | 24.1 | 半導体メーカー、データ管理および電力管理用のアナログ、標準ロジック、および単機能半導体を供給 |
注:2/23付のBloomberg記事「エヌビディアが強気予想、AI取り組み奏功か−時間外取引で株価上昇」より
※BloombergをもとによりSBI証券が作成
エヌビディアの株価パフォーマンスがより好調な要因は、主に以下の2つと考えられます。
1)AIブームがAI半導体で支配的な立場にあるエヌビディアに追い風
2)エヌビディアの好決算と良好な見通し
1)AIブームがAI半導体で支配的な立場にあるエヌビディアに追い風
2/15付のレポート「【AI最先端】〜「ChatGPT」をめぐる動きと関連銘柄〜」でご紹介しましたように、生成AIの「ChatGPT」が注目を集めています。史上最速で1億人のユーザー数を獲得したとされる「ChatGPT」の成功をきっかけに、AIブームは加速するとの見方が増えています。その恩恵を最も受ける企業がエヌビディアであると指摘されています。生成AIが必要とするグラフィック半導体市場で、エヌビディアが支配的な立場にあるためです。
2)エヌビディアの好決算と良好な見通し
図表3を確認してみると、エヌビディアとSOX指数はともに2月中旬に下落しました。2月中旬に発表された米国の消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)からはインフレ圧力の継続が示唆され、利下げ期待が後退したためです。それを受け、図表4のグラフィック関連銘柄(エヌビディア含む)も2月中旬以降、調整しました。その後、エヌビディアだけが反発しました。2/22の決算発表がきっかけです。決算発表後、アナリストたちは相次いで目標株価を引き上げました。
2/22に発表されたエヌビディアの2023年1月期4Q(2022年11月-2023年1月期)の業績は市場予想を上回りました。主力のデータセン ター部門が堅調で、2023年1月期3Qから提供を始めたAI関連新製品の次世代GPU「H100」が好調でした。会社側が示した2024年1月期1Q(2023年2-4月期)のガイダンスも市場予想を上回りました。決算発表会で経営陣がAIの導入拡大に対し、楽観的な見通しを示したことも好材料となりました。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは決算発表会の冒頭で、「AI は転換点に達した」との認識を示しました。また、「生成AI の多機能性と優れた機能(が示されたこと)により、世界中の企業がAI戦略の策定と実行が急務だと認識するようになった」とコメントしました。AIの導入が今後、加速する可能性があるとの見方を示しました。
【業績動向】
エヌビディアの売上高の推移を確認してみると、2020年1月期(20.01期)を除けば右肩上がりとなっています。部門別ではゲーム部門が長年にわたって成長をけん引し、売上高構成比は20.01期まで5割を超えました。
AI向けの売上が計上されるデータセンター部門は2017年1月期(17.01期)までは売上高の数パーセント程度でしたが、17.01期以降は伸びが加速し、売上高に占める比率も上昇しました。2023年1月期(23.01期)は売上高構成比でゲーム部門を逆転しました。Bloombergが集計したアナリストの予想によると、今後もデータセンター部門が成長をけん引する見通しです。
図表5 エヌビディアの部門別売上高の推移(通期ベース、百万ドル)
注:24.01期(予)と25.01期(予)はBloombergが集計した予想値です。
※BloombergデータをもとによりSBI証券が作成
【「業績の実績」対「市場予想」】
エヌビディアの「業績の実績」対「市場予想」を調整後EPS(1株当たり利益)で確認してみると、エヌビディアはおおむね市場予想を上回った実績を出してきました(図表6の上段)。
図表6 エヌビディアの実績および予想EPS(調整後)と株価の推移(四半期ベース、ドル)
※BloombergデータをもとによりSBI証券が作成
そして、業績発表日のエヌビディアの株価推移(図表6の下段)と調整後EPSを追ってみると、株価はおおむね業績動向と連動しています。ただ、転換点では株価の動きが業績を先回りしている(およそ数四半期のずれがある)ことが確認できます。たとえば、決算発表日の株価推移をみた場合、2021/11/17以降にエヌビディアの株価が下落しました。ただ、実際に業績が鈍化したのは、2023年1月(23.01期)2Qでした。一般的に株価は半年や1年先を読むと言われている通りの動きでした。
したがって、今後の株価動向を予測する際、業績見通しが重要になってきます。Bloombergが集計したアナリストの予想に基づくエヌビディアの調整後EPSを確認してみると(図表6の上段の赤い点線部分)、今後は上昇が続く見通しです。また、図表5では2024年1月期(24.01期)以降も業績拡大が続く見通しとなっています。AIの導入拡大を追い風に、データセンター部門が成長をけん引すると見込まれるためです。
【株価バリュエーション】
エヌビディアの株価バリュエーションを予想PER(株価収益率)で確認してみると、年初来の株価上昇によって予想PERは2/28時点で53倍に上昇しました。過去5年の最高水準である58倍を下回っているものの、過去5年平均の約36倍を上回っており、バリュエーション面で現在「割安」とは言えない状況かもしれません。
一方、AI半導体で支配的な立場にあるエヌビディアにとってAIの導入拡大は追い風で、エヌビディアの業績見通しの良好さからすると、エヌビディアの株価バリュエーションはある程度高水準で維持される可能性もあります。総合的にみると、中長期投資として注目に値する企業で、調整時は押し目買いを考える対象銘柄と言えそうです。
図表7 エヌビディアの株価と予想PERの推移
※BloombergデータをもとによりSBI証券が作成
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