今回は年初来の株価下落が大きいベトナム株式を取り上げます。株価の下落にはそれなりの要因がありますが、株価バリュエーションは大きく改善しています。中長期のファンダメンタルズは良好と考えられることから、買いのチャンスが到来している可能性が高いと判断しました。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(10/18) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ビンホームズ(VHM) | 50,500ドン | 87,500ドン | 47,200ドン |
ビングループ(VIC) | 58,400ドン | 109,600ドン | 53,000ドン |
マサングループ(MSN) | 82,000ドン | 145,833ドン | 74,900ドン |
ホアファット グループ(HPG) | 18,850ドン | 44,769ドン | 17,,050ドン |
ビナミルク(ベトナム乳業)(VNM) | 76,500ドン | 91,500ドン | 64,500ドン |
- 注:1ドンは0.0061円です(10/18(火))。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は年初来の株価下落が大きいベトナム株式を取り上げます。株価の下落にはそれなりの要因がありますが、株価バリュエーションは大きく改善しています。中長期のファンダメンタルズは良好と考えられることから、買いのチャンスが到来している可能性が高いと判断しました。
〇ベトナムの株価が大幅に下落
ベトナム株式市場の代表的株価指数であるベトナムVN指数は、年初来29.0%の下落となっており、世界的にみても比較的下落が大きい市場となっています(図表2)。
株価下落の要因として、(1)4月に証券不祥事が表面化して、相場下落のきっかけとなった、(2)同国の景況感は世界経済の動向に左右されやすい傾向がある、(3)時価総額が小さく、海外機関投資家の売買に影響をうけやすい、といったことが考えられます。
(1)については、ベトナムのコングロマリットFLCグループのチン・バン・クエット前会長が自社株取引に絡んだ相場操縦などの容疑で逮捕されました。不動産・リゾート開発事業に加え、新興航空会社バンブー航空を通じた旅客運送事業も手掛ける大手企業トップの不祥事だけに、ベトナム国内で大きな関心を集めました。海外投資家には同様のケースが広がるのではないかとの懸念が生じたとみられますが、いまのところそのようなことは起きていません。
(2)については、安価な労働力を売りに製造業の拠点として成長しているため、世界景気、とくにモノの需要動向に影響を受けやすい特徴があると考えられます。パソコンやスマホなどの需要低迷が伝えられているため、同国の成長にはマイナスのインパクトが懸念される状況にあることは確かです。
(3)については、同国の株式時価総額は2,388億ドルで、日本の52,942億ドル、香港の45,344億ドルに比べて非常に小さくなっています(2022年8月末)。海外の機関投資家が売りに回ると市場に対するインパクトが大きく、株価の方向が一方通行になりやすい傾向があります。不安定な投資環境を背景にリスクオフに向かう機関投資家もあり、その影響が出やすい市場とみられます。
〇ベトナムVN指数の予想PERは10.1倍まで低下(10/18(火))
一方、上記のような株価下落によってベトナムVN指数の予想PERは10倍台まで低下しています(図表3)。
2009年からの予想PERの推移をみると、現在の水準よりも低かったのは、リーマンショックの2009年2月の8.0倍、高インフレと貿易赤字で同国の投資環境が悪かった2011年12月の8.7倍のみで、新型コロナのパンデミックによる2020年3月の10.2倍と同程度となっています。
第2節で述べるように中長期的には、まだまだ成長が期待される経済であり、企業業績も成長余地が大きいと考えられますので、ベトナム株式は割安となっている可能性に注目できるでしょう。
図表2 ベトナムVN指数(週足、5年)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表3 ベトナムVN指数の予想PER(月次データ)
注:最後のデータは10/18(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
〇ベトナム経済は高成長が維持される
まず、ベトナム経済のファンダメンタルズを見るために、実質GDP成長率を確認すると、パンデミックによる影響を大きく受けた2020年、2021年の低成長から前年比6〜7%の成長に回復する見通しです。これは予想機関のエコノミストによる予想値をBloombergが集計したコンセンサスによります(図表4)。
一方、10/11(火)に発表されたIMFの「世界経済見通し」では、ベトナム経済の見通しも下方修正されています。4月から10月にかけての予想のGDP成長率の予想変化をみると、世界経済について2022年は3.6%→3.2%へ、2023年は3.6%→2.7%、ベトナムは2022年は6.0%から7.0%へ、2023年は7.2%→6.2%となっています。
確かにベトナム経済の2023年の成長率は1.0%ポイントの下方修正となっていますが、2022年に1.0%ポイントの上方修正となった分を考慮すると、2023年のGDP水準自体は変化していません。4月予想が1.060×1.072=1.136、10月予想は1.070×1.062=1.136です。ベトナム経済は相対的に堅調と言えるでしょう。
〇企業の利益も好調維持へ
ベトナムVN指数の採用銘柄のEPSも高い伸びが維持される予想となっています。2022年が前年比23%増、2023年は同19%増の予想です。世界の基準となる米国のS&P500指数の採用銘柄のEPSは2022年が前年比10%増、2023年は同8%増の予想で、これを大きく上回っています。
一方、ベトナムVN指数採用銘柄のEPSを四半期ベースでみると、1-3月期は前年同期比32%増であったものの、4-6月期は同0.3%減と低調でした。大手企業の一部に一時要因で業績が落ち込んだものが散見されましたが、業績の拡大基調は維持されているとみられます。
〇ベトナムに注目できる要因
中期的な観点から、ベトナム経済、ベトナム株式に注目できる背景についてまとめています。
注目ポイント1: ベトナム経済は人口ボーナス期の真っ最中
ベトナムの高い経済成長が続くと期待できる理由の一つとして「人口ボーナス期」があります。
「人口ボーナス期」とは、総人口に占める生産年齢人口(15歳以上、65歳未満の人口)の比率が高い時期を指し、ベトナムではこれが2040年頃まで続く見通しで、人口ボーナス期の真っ最中です。
同国の実質GDPは6%前後の成長が続いていますが、この高成長が継続する可能性が高いと想定できます。
注目ポイント2: 米中摩擦から漁夫の利
2018年のトランプ政権下で始まった米中摩擦ですが、バイデン政権の下でも軟化の兆しがありません。今年に入ってからは、台湾の主権問題、中国のロシアに対する支援などが絡んで、一層深化しそうな気配です。
中国に製造拠点を置く企業は、中国以外に製造業拠点を移す、あるいは、リスク分散のために中国以外にも製造拠点を持つインセンティブが働いています。そのような環境下で、製造拠点の設置先としてベトナムは選ばれやすいと考えられます。
海外直接投資(FDI)の動向は、新型コロナのパンデミックの影響もあったとみられ、2019年から横ばい圏となっています(図表6)。米中摩擦で漁夫の利を得ているかはっきり確認できませんが、歴史的にみてこの高い水準が維持されるだけでもベトナムには成長の原動力になると考えられます。
注目ポイント3: 株式市場に発展余地が大きい
ベトナム株式の時価総額は35兆円程度と小さく、まだ発展の余地が大きい株式市場と考えられます。
これは株式市場の時価総額とGDPを比較した比率(バフェット指数と呼ばれます)でも確認できます。{2022年8月末の株式時価総額 ÷ 2021年のGDP}を計算すると、ベトナムは65%です。株式市場が発展した米国が186%、日本が107%、アセアンでも中進国のタイが110%、マレーシアが98%となっています。
ベトナムについては、同国の生産活動で外資系企業の役割が大きいなど経済構造の違いも影響していると見られます。ただ、まだまだ大きくなる余地を残している市場と言えそうです。
図表4 ベトナムの実質GDP(前年比、%)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5 ベトナムVN指数のEPS(1株当たり利益)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6 ベトナムに対する海外直接投資額
※ベトナム政府統計局のデータをもとにSBI証券が作成
ベトナム株は、当社が取り扱う9ヵ国の外国株のうちでも、米国株、香港株に次ぐ人気の投資先です。
ベトナム株に投資するには、いろいろな方法がありますが、まず、最も一般的なのは投資信託です。当社が取り扱うベトナム株に投資する投資信託は「キャピタル−ベトナム成長株インカムファンド」など、10本に達します。
外国ETFでは、香港市場に上場するdbx FTSEベトナム(03087)があります。同ETFはFTSEベトナム・インデックスへの連動を目指すもので、同インデックスはホーチミン取引所の上場銘柄のうち、外国からの投資が十分可能である約20銘柄から組成されています。
なお、「外国からの投資が十分可能である」とは、ベトナム株には外国人の保有比率に制限のあるものがあるため、この面で制約が少ないこと、また、出来高の面から流動性が十分に高いものを指します。
個別銘柄では、当社ではベトナム株302銘柄を取り扱っています。FTSEベトナム・インデックスの組入上位5銘柄(2022年8月末時点)を以下にご紹介いたします。
ビンホームズ(VHM) | 時価総額: 219兆ドン | ||||
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決算期 | 売上高(億ドン) (前年比) | 純利益(億ドン) (前年比) | EPS(ドン) | ||
21.12 | 849,856 | 19% | 351,306.1 | 141% | 8,157 |
22.12予 | 760,501 | -11% | 299,137.0 | -15% | 7,083 |
23.12予 | 987,836 | 30% | 362,483.2 | 21% | 8,520 |
株価(10/18): 50,500ドン | 予想PER(22.12期):7.1倍 | ||||
【ベトナム最大の住宅デベロッパー】 |
ビングループ(VIC) | 時価総額:223兆ドン | ||||
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決算期 | 売上高(億ドン)(前年比) | 純利益(億ドン)(前年比) | EPS(ドン) | ||
21.12 | 1,256,879 | 14% | -121,456.2 | 赤字縮小 | -3,310 |
22.12予 | 1,628,672 | 30% | 91,290.5 | 黒字転換 | 2,454 |
23.12予 | 2,122,902 | 30% | 97,298.4 | 7% | 2,630 |
株価(10/18): 58,400ドン | 予想PER(22.12期):23.8倍 | ||||
【EVメーカー「VinFast」の上場計画が注目】 |
マサングループ(MSN) | 時価総額:117兆ドン | ||||
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決算期 | 売上高(億ドン)(前年比) | 純利益(億ドン)(前年比) | EPS(ドン) | ||
21.12 | 886,288 | 15% | 85,807.4 | 53557% | 6,070 |
22.12予 | 892,509 | 1% | 52,522.3 | -39% | 3,964 |
23.12予 | 1,046,658 | 17% | 69,070.2 | 32% | 5,502 |
株価(10/18): 82,000ドン | 予想PER(22.12期):20.7倍 | ||||
【食品・小売中心の多角化企業】 |
ホアファット グループ(HPG) | 時価総額:110兆ドン | ||||
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決算期 | 売上高(億ドン)(前年比) | 純利益(億ドン)(前年比) | EPS(ドン) | ||
21.12 | 1,496,798 | 66% | 316,485.7 | 148% | 5,443 |
22.12予 | 1,505,423 | 1% | 235,426.3 | -26% | 4,164 |
23.12予 | 1,575,816 | 5% | 276,845.7 | 18% | 4,851 |
株価(10/18): 18,850ドン | 予想PER(22.12期):4.5倍 | ||||
【製鉄中心のコングロマリット】 |
ビナミルク(ベトナム乳業)(VNM) | 時価総額:160兆ドン | ||||
---|---|---|---|---|---|
決算期 | 売上高(億ドン)(前年比) | 純利益(億ドン)(前年比) | EPS(ドン) | ||
21.12 | 609,192 | 2% | 94,990.7 | -5% | 4,545 |
22.12予 | 633,777 | 4% | 94,480.0 | -1% | 4,201 |
23.12予 | 668,219 | 5% | 105,062.1 | 11% | 4,683 |
株価(10/18): 76,500ドン | 予想PER(22.12期):18.2倍 | ||||
【乳製品の最大手】 |
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