今回はEVバッテリーの製造に欠かせないリチウムを生産している企業をご紹介いたします。世界的な自動車のEVシフトによってリチウム需要が拡大して価格が高騰、関連企業の業績は大幅な増収増益となっています。株価も史上最高値を更新する勢いです。
図表1 注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(9/20) | 52週高値 | 52週安値 |
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アルベマール(ALB) | 287.65ドル | 308.24ドル | 169.93ドル |
ソシエダードキミカイミネラデチリ ADR(SQM) | 104.66ドル | 115.76ドル | 44.88ドル |
ライベント コーポレーション(LTHM) | 33.95ドル | 36.38ドル | 19.35ドル |
グローバルX リチウム&バッテリーETF(LIT) | 73.75ドル | 97.13ドル | 61.67ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回はEVバッテリー向けに需要が拡大しているリチウムを生産している企業をご紹介いたします。
自動車のEVシフトは昨年あたりから世界的に本格化していますが、米国で8月に成立した「歳出・歳入法」がこれを加速することが見込まれています。景気減速が続く投資環境下ですので、景気動向とは別の要因で業績の下支えがある銘柄への注目は高まると期待できるでしょう。
〇米国の「歳出・歳入法」がEV需要を加速する
米国で8/16(火)に成立した「歳出・歳入法」では、歳出側で4,370億ドルの予算が確保され、このうち85%にあたる約3,700億ドルが気候変動対策に投入されます。その対策の柱の一つが、EV購入に伴う税控除の強化です。
EVの新車には最大で7,500ドル、中古車には4,000ドルの税控除が設定されて、消費者のEV購入を刺激します。また、自動車メーカー毎に20万台と設定されていた控除の上限が2023年1月から撤廃されます。これによって自動車メーカー側のEV供給意欲も刺激されると考えられます。
さらに、8月末にはカリフォルニア州が「2035年にガソリン車の新規販売を禁止」する規制を決めています。同州は地方政府の政策をリードすると言われており、少なくとも十数州がこの規制に追随する可能性があります。連邦政府だけでなく、州レベルでも強力なEV推進が行われる見通しです。
〇EV市場の拡大とEVバッテリーに使われるリチウムの需要見通し
自動車のEVへのシフトは、米国だけでなく世界的に進んでいます。EVに関するネットメディア、「EV volume.com」の予想では、EVの世界販売台数は、2020年の3.2百万台から、2025年に23.4百万台、2030年に45.2百万台と、10年間で14倍に急拡大する見通しです(図表2)。
歴史的に環境政策に積極的な欧州では、EU(欧州連合)が2035年までに欧州域内で販売する乗用のガソリン車とディーゼル車の新車販売を事実上禁止する方針を打ち出しています。あまりに急進的だとする意見もあり、今後の修正も想定されますが、急速なEVへのシフトは変わらないと考えられます。
また、世界最大の自動車市場である中国でも、EV推進の方針は変わらないとみられます。中国市場の動向については、「中国株 ココがPOINT! 〜「目玉政策」の恩恵が期待できるEV関連銘柄、過去の経験から株価動向を探る〜」をご参照ください。さらに、直近の動きとして、中国の地方政府がEV販売に補助金を出すことも報じられています。
このようなEV市場の拡大にともなって、キーパーツとなるリチウムイオンバッテリーの需要が拡大、リチウムの需要も急拡大が見込まれています。
ライベントコーポレーションの説明会資料(2022年5月)によると、バッテリーグレードの水酸化リチウムの需要数量は、2020年から2025年にかけて年平均成長率42%、2025年から2030年にかけても同18%で拡大すると予想されています。図表2のEV販売の成長率に沿う形での増加が見込まれています。
図表2 EV市場の拡大(百万台)
注:EVとプラグインハイブリッド車の販売台数合計。予想はEV volume.comによります(2022年3月)。
※ライベントコーポレーションの説明会資料(2022年5月)をもとにSBI証券が作成
前節ではEV市場の拡大とともにEVバッテリーの主要原材料であるリチウム需要が長期的に拡大する見通しであることを確認しました。今節では、リチウム関連企業に投資するときに知っておくべきことを解説いたします。
〇リチウムとは
充電して繰り返し使える二次電池(畜電池)には、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などがありますが、リチウムイオン電池はエネルギー密度が最も高く、「軽量、高電圧、大容量」といった面で優れています。
このため性能面が重視されるEV(電気自動車)、ノートパソコン、スマホなどにはリチウムイオン電池が多く使用され、今後も同分野の電池市場で主要な部分を占めると見込まれています。
リチウムイオン電池の主要原材料となるリチウムは、原子番号3、元素記号「Li」のアルカリ金属元素の一つです。リチウムの用途はバッテリーが74%を占め、そのほかガラス・セラミックに14%、潤滑剤に3%、その他が9%と推定されています(米地質調査所の「ミネラル・コモディティサマリー2022」)。
〇リチウムの生産国
2020年の主な生産国のシェアは、オーストラリアが46%、チリが26%、中国が16%で、上位3ヵ国で90%を占め、また、埋蔵ではチリが42%、オーストラリアが26%、アルゼンチンが10%、上位3ヵ国で78%を占めます(米地質調査所の「ミネラル・コモディティサマリー2022」)。
リチウムは海水中など地球上に広く分布していますが、資源として経済的に回収するには濃縮されている必要があり、このため上記のように資源として利用できるリチウムは比較的偏在するという結果になります。ボリビアのウユニ塩湖やチリのアタカマ塩原などが主な埋蔵地として有名です。
また、オーストラリアでは鉱山で鉱石として採掘されます。リチウム鉱石のリチウム含有量は6%程度に過ぎませんが、オーストラリアで採掘されたものが中国に輸送されて精製される構図となっています。
〇リチウムの生産企業
リチウムを生産する上場企業は世界に20社以上ありますが、米国の特殊化学品メーカーのアルベマール(ALB)、米国のリチウム生産専業のライベント コーポレーション(LTHM)、チリの化学大手ソシエダードキミカイミネラデチリ(SQM)、オーストラリアのピルバラミネラルズ、オールケム、中国の天斉リチウム、ガンフォンリチウムなどが大手です。
次節では、米国上場の3社をご紹介いたします。
〇リチウムの価格高騰
図表3は各種リチウム製品の価格の動きを指数化したものです。EVの普及をにらんでリチウムの価格は2018年前半までは順調に上昇していました。テスラの普及型セダン「モデル3」の発売が2017年7月です。
しかし、EV市場の拡大以上にリチウムの供給が増えたことで需給が悪化、約3年間市況は低迷が続きました。一方、EVの普及にはずみがついたことで2020年後半に底入れして徐々に市況は回復しました。
市況が悪化した時期に増産投資が低迷したために、昨年からは極端な供給不足となり、価格の大幅な高騰につながっているとみられます。
現在の高価格は中長期に持続しないと考えられていますが、供給が不足する状況は2023年中は解消されず、2023年は高水準が継続するとみられています。
EV市場の拡大とともに需要のベースが広がることで市況は安定に向かうと考えられますが、EVの普及が進む過程では、このような需給の循環による価格変動が激しい時期が続く可能性がある点には注意が必要でしょう。
リチウムを生産する業界大手の株価は図表4の通り、2022年中も上昇基調となっており、上昇来高値を更新するものもでています。2022年1月〜8月のリチウム平均価格は、2021年平均価格の3.7倍に上昇しており、リチウム生産企業の利益は前年同期比何倍にも拡大しています。
図表3 リチウムの価格指数(月次)
注:最後のデータは2022年8月です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 リチウム関連銘柄の株価
注:最後のデータは9/20(火)です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国市場の上場企業で、リチウムの生産に直接関わっている3社を以下にご紹介いたします。
また、リチウムに関連するETFとしては、グローバルX リチウム&バッテリーETF(LIT)があります。同ETF は、リチウムを生産する企業やEV向けのバッテリーを生産する企業に投資するETFです。
組み入れトップ銘柄を下に紹介するアルベマール、2位をソシエダードキミカイミネラデチリとするほか、リチウム関連の銘柄が3割以上を占めています。その他バッテリー関連では、LGケミカル、TDK、EVメーカーのテスラ、BYDなどが組み入れられています。同ETFは2010年7月に設定され、2022年8月末の純資産額は45.5億ドルです。
アルベマール(ALB) | 時価総額: 348億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 3,328 | 6% | 470.2 | 10% | 4.03 |
22.12予 | 7,424 | 123% | 2,498.2 | 431% | 21.15 |
23.12予 | 8,961 | 21% | 2,915.8 | 17% | 24.73 |
株価(9/19): 296.95ドル | 予想PER(22.12期): 14.0倍 | ||||
【リチウム生産の世界的大手】 |
ソシエダードキミカイミネラデチリ ADR(SQM) | 時価総額: 292億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 2,862 | 58% | 620.0 | 193% | 2.17 |
22.12予 | 10,192 | 256% | 3,640.2 | 487% | 12.88 |
23.12予 | 10,169 | 0% | 3,491.7 | -4% | 11.68 |
株価(9/19): 107.03ドル | 予想PER(22.12期): 8.3倍 | ||||
【リチウム生産で世界2位】 ・チリの肥料・化学製品メーカーで、2021年12月期の売上は、リチウムおよび派生製品が33%、特殊肥料が32%、ヨウ素および派生製品が15%、カリウム製品が15%、その他が5%を占めます。リチウムの生産では中国の天斉リチウム(深センの上場企業)に次ぐ世界2位で、生産コストは世界最低レベルとみられています。 ・4-6月期決算は売上が前年同期比4.4倍、EPSが同9.6倍へ大幅拡大となりました。リチウムは、販売価格が前年同期比8倍、販売数量が同41%増で、売上は同11倍となりました。他部門の売上も価格上昇によって特殊肥料が同52%増、ヨウ素および派生製品が同41%増など好調でした。リチウムの年間販売量は2022年に14.5万トンの見通しです。同社CEOは「現在の年間生産能力は18.0万トンに近づきつつあるがここで止まるのではなく、同21.0万トンへの設備拡大を視野に入れている」とコメントしています。 |
ライベント コーポレーション(LTHM) | 時価総額: 62億ドル | ||||
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決算期 | 売上高(百万ドル) (前年比) | 純利益(百万ドル) (前年比) | EPS(ドル) | ||
21.12 | 420 | 46% | 28.3 | -433% | 0.15 |
22.12予 | 848 | 102% | 271.2 | 858% | 1.37 |
23.12予 | 1,115 | 32% | 377.4 | 39% | 1.85 |
株価(9/19): 34.66ドル | 予想PER(22.12期): 25.3倍 | ||||
【リチウム専業企業】 |
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