今回は4-6月期決算の見通しを取り上げます。同決算の結果次第では、S&P500指数は4,600ポイントも視野に入るだろうこと、「GAFAM」の決算見通し、好決算が期待される銘柄群のスクリーニングをご報告いたします。
図表1:注目銘柄リスト
銘柄 | 株価(7/13) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ゼネラル モーターズ(GM) | 58.73ドル | 64.30ドル | 24.45ドル |
コノコフィリップス(COP) | 59.46ドル | 63.57ドル | 27.54ドル |
ウォルト ディズニー(DIS) | 183.65ドル | 203.02ドル | 113.38ドル |
ダウ(DOW) | 62.70ドル | 71.37ドル | 39.90ドル |
ビザ A(V) | 242.35ドル | 242.42ドル | 179.23ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
4-6月期も大幅な増益の予想
昨日JPモルガンチェース、ゴールドマンサックスなど大手銀行から始まった米国企業の4-6月期決算発表は、S&P500指数の採用企業ベースで前年同期比64.0%の大幅な増益が予想されています(FactSet社集計、7月9日時点)。パンデミックによる企業利益の落ち込みは昨年の4-6月期が最も大きかったこともあって、1-3月期実績の同52.5%増から拡大する見通しです(図表2)。
7-9月期以降については、前年同期はパンデミックによる打撃が和らいでいったため、主にベース効果によって予想増益率は低下していく見通しです。通年では2021年が前年比35.6%増、2022年は同11.7%増が予想されています。
4-6月期に前年同期との比較で大幅な増益をけん引するのは、1-3月期と同様に「エネルギー」「資本財・サービス」「一般消費財・サービス」「金融」「素材」など、パンデミックによる打撃が大きかった景気敏感な業種の回復になります。
4-6月期決算も良好ならS&P500指数は4,600ポイントへ!?
S&P500指数は6/24(木)から連日のように最高値を更新し続けていますが、背景には2021年と2022年の予想EPSが図表3のように上方修正基調になっていることがあると考えられます。
いまのところS&P500指数の今年の高値目標は4,400ポイントとしています。2022年の予想EPSが現在の予想である213ポイントから220ポイントまで上方修正されて、予想PER20倍まで買われることを想定したものです。
しかし、4-6月期決算も好調に推移する場合には、230ポイントまで上方修正されることが想定できるようになるかもしれません。その場合には予想PER20倍まで買われるとして、4,600ポイントが視野に入りそうです。
ワクチン接種の進展とインフラ投資計画に期待
上期の企業利益の上方修正が好調だったのは、1-3月期のEPSが前年同期比52.5%増となって、事前の市場予想を28.8%ポイントも上回ったことが主因と考えられます。これを考慮すると、下半期も同様のペースでEPSが上方修正されると想定するのは、今のところやや楽観的過ぎるかもしれません。しかし、下期にEPSの修正を押し上げる要因として以下の2つがあげられます。
一つ目は米国ではワクチン接種が進んでいるため、経済再開が順調に進むと期待できます。必要回数のワクチン接種を終えた人の割合は7月12日時点で48.5%となっています。「集団免疫」となる70%に到達するにはある程度時間がかかりそうですが、経済再開を妨げることはなさそうです。
二つ目は、バイデン大統領が進めているインフラ投資計画が実現すれば、米国経済を押し上げると期待できます。共和党との交渉は難航していますが、(1)失業保険給付の特例措置が9月末に切れる中で雇用創出策が必要であること、(2)道路や橋の補修の必要性が高まっていること、は両党で認識が共有されています。
8年間で1.2兆ドル(約132兆円)の規模は交渉の中でさらに小さくなる可能性がありますが、成立して動き出すことが重要と考えられます。8月第1週の米議会の休会までに実現できるか注目です。
図表2:S&P500指数の四半期EPS
- ※FactSet社の公表資料をもとにSBI証券が作成
図表3:S&P500指数の予想EPSは上方修正が続く
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国株式市場の中心銘柄である「GAFAM」について、4-6月期の売上・EPSの伸びをまとめ、1-3月期の実績と比較しています。
EPSの伸びは低下の見通し
全体の傾向としては、前年同期比のEPSの伸びはいずれも1-3月期から低下する見通しです。これらIT企業は昨年の1-3月期にはパンデミックの打撃を受けたものの、全産業に比べていち早く回復が始まったため、前年同期のベース効果によってEPSの伸びが低下すると考えられます。
ただ、世界的な大企業にして、売上が2割、3割、4割と伸びるというのは好調以外の何物でもないでしょう。
個別にみていくと、アルファベット A(GOOGL)、フェイスブック A(FB)の売上の伸びは拡大する見通しです。両社の売上の大半はネット広告からなり、景気回復による企業の販促活動の活発化がベース効果による伸びの鈍化を凌駕すると見込まれているようです。
アマゾン ドットコム(AMZN)は売上の伸びの低下が大きくなっていますが、パンデミックによって大幅に伸びたネット通販の沈静化の動きが表れてくると考えられます。
アップル(AAPL)については、iPhoneの販売サイクルの影響が大きく、マクロ的な動きよりも個別要因による部分が大きいと考えられます。1-3月期のiPhoneの売上は479億ドルで前年同期比66%伸びました。4-6月期は市場コンセンサスで343億ドルに落ち込み、前年同期比では30%増の予想です。
マイクロソフト(MSFT)は、パンデミックによって押し上げられていたパソコン関連などの売上の伸びが沈静化する見通しの一方、利益面では前年同期に打撃を受けた企業によるソフトウェアの購入などが回復すると想定され、EPSの伸びの鈍化は軽微となる見込みです。
EPSの上方修正への寄与は低下へ
GAFAMの1-3月期決算は、マイクロソフトを除く4社のEPSが市場予想を40%以上上回るなど、驚くような好決算でした。これを受けて2021年通期のEPSも大きく上方修正され、S&P500指数全体のEPSの上方修正にも大きく貢献したと考えられます(図表5)。
一方、さすがにこれだけ通期のEPSが上方修正されると、今回の四半期決算でも上方修正が続くとしても、前回ほどの寄与にはならないと考えるのが普通でしょう。
図表4:「GAFAM」の4-6月期決算予想
銘柄コード | 4-6月期 売上増加率 (予想) (%) |
1-3月期 売上増加率 (実績) (%) |
4-6月期 EPS増加率 (予想) (%) |
1-3月期 EPS増加率 (実績) (%) |
---|---|---|---|---|
アルファベット | 45.8 | 35.3 | 89.6 | 143.7 |
フェイスブック | 48.8 | 47.6 | 67.2 | 93.0 |
アマゾンドットコム | 29.5 | 43.8 | 18.4 | 215.2 |
アップル | 22.8 | 53.6 | 55.0 | 119.6 |
マイクロソフト | 16.4 | 19.1 | 31.5 | 39.2 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:1-3月期の決算実績と当時のEPS修正動向
銘柄 | 1-3月期実績の 前年同期比 |
1-3月期実績の 市場予想比 |
通期EPSの修正率 (4週間) |
---|---|---|---|
アルファベット | 143.7% | 68.1% | 19.2% |
フェイスブック | 93.0% | 40.9% | 11.0% |
アマゾン | 215.2% | 62.9% | 8.4% |
アップル | 119.6% | 41.3% | 14.8% |
マイクロソフト | 39.2% | 9.5% | 3.7% |
- 注:通期EPSの修正率は5/14(金)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
4-6月期に好決算が期待される銘柄を、下記の条件でスクリーニングしました(図表6)。景気敏感株、経済再開銘柄への投資の参考にしていただければと思います。
【スクリーニング条件】
(1)4-6月期の予想売上・EPS増加率が1-3月期実績に比べて5%ポイント以上高い(黒字転換への変化を含む)
(2)過去4週のEPS修正率がプラス
(3)目標株価乖離率が10%以上
米国市場の物色は、5月中旬からの2ヵ月は成長株/テクノロジー株が盛り返しました。この背景には第2節でみたようにGAFAMの決算が非常に好調であったことに加え、景気回復局面の中での小さなピークアウト感が出て、米長期金利が低下したことがあると考えれます。
しかし、これから景気の回復が本格化しようというときに長期金利は下がり過ぎている印象です。下期には再び景気敏感株が優位になるのではないかと考えています。
図表6の銘柄から、いくつか簡単にご紹介します。
【半導体不足の解消で工場の稼働再開】
- フォードと並んで米国最大級、世界5位の自動車メーカーで、キャデラック、シボレー、ビュイック、GMCブランドの中・大型車、SUV、トラックを展開します。2035年までにすべての乗用車モデルをEVにするとして、大手自動車メーカーの中でEVに対する積極姿勢が注目されています。中国の格安EVで注目を集める「上汽通用五菱汽車」の44%を保有する大株主であることも注目されます。5/27(木)に半導体不足でここ数ヵ月操業を停止していた5工場の生産を再開すると発表したことが直近の業績上方修正の主因とみられます。
- 4-6月期の売上は前年同期が落ち込んでいたため大幅な増収となりますが、1-3月期比では半導体不足で工場が止まっていたこともあって5%減の見込みです。しかし、7-9月期の売上は4-6月期比22%増に回復する見通しです。利益率の高い大型のSUV、ピックアップトラックの販売が好調で、基本的な事業環境は良好です。
【原油価格上昇に対する利益レバレッジが高い】
- 石油・天然ガスの探鉱・生産の上流部門に特化するエネルギー企業の大手です。原油価格が安い局面でパーミアン盆地で操業するコンチョ・リソーシズの買収を決めて2021年1月に完了、原油価格回復の恩恵を大きく受けています。カナダのオイルサンド資産を保有するエノバス・エナジー社の保有株式を2022年にかけて売却する方針で、株主還元の拡大が期待されています。
- 1-3月期決算は、原油価格回復に買収効果が加わり、売上が前年同期比60%増、調整後EPSが同53%増と大幅に伸びました。リビアを除く生産量は前年同期比16%増相当の1日当たり石油換算バレルで149万に増加、4-6月期も同150〜154万に拡大する見通しです。年率15億ドルペースでの自社株買いの再開を発表しています。
【全世界のテーマパークが再開を果たした】
- 「ディズニーランド」などのテーマパークを世界各地で運営するほか、「ディズニー」や「ピクサー」、「スター・ウォーズ」ブランドの映画制作、「ABC」やスポーツ専門チャンネル「ESPN」といったテレビ番組の制作などを手がける米国の大手娯楽企業です。カリフォルニア州のテーマパークが4月末に、「ディズニーランド・パリ」も6/17(木)に営業を再開して、全世界のテーマパークが再開を果たしています。
- 1-3月期の業績は、テーマパークの減収が足をひっぱって売上は前年同期比13%減の一方、部門営業利益はメディア部門の増益が貢献して同2%増としました。注目のインターネット動画「Disney+」の加入者数は104百万件と市場予想の109百万件をショートして株価下落につながりました。しかし、同加入者数は前年同期比70百万件、2020年末比9百万件増として順調に拡大していると言えるでしょう。
【原油価格上昇による製品価格上昇が恩恵に】
- 19年4月にダウ・デュポンからスピンオフした化学素材メーカーです。スピンオフ以来、事業の透明性が増し、コスト削減への踏み込みが強まって、株式市場からの信頼性が増しているとみられます。直近の業績上方修正は、原油価格の上昇を受けて製品価格が上昇する中、天然ガスを主な原料としていることから恩恵が大きいためと考えられます。
- 1-3月期決算は、平均販売価格の上昇により売上が前年同期比22%増、EPSが同2.3倍となり、市場予想も上回りました。平均販売価格は前年同期比19%増、前四半期比でも11%増でした。一方、平均販売数量は寒波による一時的な供給制約の影響を受けて前年同期比横ばいにとどまりました。4-6月期決算では、これがプラスに転じているか注目されます。
【海外旅行再開なら恩恵】
- クレジット・デビットカードによる電子決済のインフラを提供しています。新型コロナのパンデミックでは、ネット通販の増加でカード利用が伸びた一方、海外旅行の大幅な落ち込みから減収・減益が続いてきましたが、4-6月期は前年同期の落ち込みが大きかったため、業績の伸びが加速する形です。
- 4-6月期の予想売上は1-3月期比2%増と緩やかな回復にとどまる見通しです。ただ、ワクチン接種の進展から海外旅行が徐々に回復すると見込まれることから、2021年後半には業績回復のモメンタムが強まると期待されます。1-3月期のクロス・ボーダー決済額は、為替の影響を除いたベースで前年同期比11%減、欧州域内の取引を除くと同21%減となっていました。
図表6:4-6月期の好決算期待銘柄(S&P100指数採用銘柄が対象)
コード | 銘柄 | 4-6月期 売上増加率 (予想) (%) |
4-6月期 EPS増加率 (予想) (%) |
1-3月期 売上増加率 (実績) (%) |
1-3月期 EPS増加率 (実績) (%) |
EPS修正率 (4週) (%) |
目標株価 乖離率 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
GM | ゼネラルモーターズ | 83.7 | 黒字転換 | -0.7 | 262.9 | 14.0 | 27.1 |
COP | コノコフィリップス | 256.8 | 黒字転換 | 59.6 | 53.3 | 13.3 | 22.0 |
DD | デュポン・ド・ヌムール | -17.5 | 35.0 | -23.9 | 8.3 | 0.1 | 18.0 |
DIS | ウォルトディズニー | 42.8 | 593.8 | -13.3 | 31.7 | 5.0 | 17.3 |
CVX | シェブロン | 173.7 | 黒字転換 | 1.7 | -30.2 | 6.7 | 16.9 |
DOW | ダウ | 53.8 | 黒字転換 | 21.6 | 130.5 | 5.5 | 14.6 |
BMY | ブリストル マイヤーズ スクイブ | 11.7 | 17.4 | 2.7 | 1.2 | 0.2 | 13.3 |
V | ビザ | 20.5 | 25.9 | -2.1 | -0.7 | 0.1 | 12.2 |
GE | ゼネラル・エレクトリック | 2.0 | 黒字転換 | -16.6 | -40.0 | 1.2 | 10.5 |
MCD | マクドナルド | 47.2 | 215.2 | 8.7 | 39.5 | 0.1 | 10.3 |
- 注:データは7/6(火)時点です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。