米国企業の1-3月期決算発表が一巡したことを受けて、米国株の投資戦略について考えてみました。通期EPSの上方修正で市場全体の割高感が緩和したこと、「GAFAM」のバリュエーションも改善していること、ただ、物色の注目は「景気敏感株」であろうことをご報告しています。
図表1:主な言及銘柄
銘柄 | 株価(5/18) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
ダウ(DOW) | 69.53ドル | 71.38ドル | 35.37ドル |
キャタピラー(CAT) | 239.47ドル | 245.78ドル | 111.47ドル |
ユナイテッド パーセル サービス B(UPS) | 213.99ドル | 219.59ドル | 93.06ドル |
エクソン モービル(XOM) | 60.43ドル | 64.02ドル | 31.11ドル |
モルガン スタンレー(MS) | 86.97ドル | 88.88ドル | 38.68ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今回は米国企業の1-3月期決算発表が一巡したことを踏まえて、1節で決算動向をまとめ、2節では「GAFAM」のバリュエーションについて検討し、3節では当面の注目銘柄をご紹介いたします。
1-3月期はまれにみる好決算
S&P500指数採用銘柄の1-3月期決算は、前年同期比50.3%増が見込まれています(FactSet社集計、5/14(金)時点)。決算が発表される前の3月末時点では、同23.7%増が予想されていましたので、まれにみる大幅な上方修正と言えそうです。
2020年1-3月期には新型コロナのパンデミックによる影響が出ており、企業アナリストにとっても経験のない状況からの業績回復となったため、正確な業績予想は難しかったと考えられます。
業種別に前年同期比の増加をけん引したのは、アパレルや自動車の回復が効いた「一般消費財・サービス」、株式の引受業務や市場関連収入が活況となった「金融」、コモディティ価格が上昇している「素材」などです。
一方、事前予想に対するポジティブサプライズをけん引したのは、JPモルガンチェース、ゴールドマンサックス、バンクオブアメリカなどによる「金融」、アップル、マイクロソフト、インテルなどが寄与した「情報技術」、ネット広告が予想以上に伸びたアルファベット、フェイスブックがけん引した「コミュニケーションサービス」などです。
通期の予想EPSも上方修正、株価の割高感は緩和
1-3月期決算が予想を大きく上回ったことを受けて、S&P500指数の2021年の予想EPSは3月末の172.50ポイントから184.41ポイントへ、2022年の予想EPSは同じく199.27ポイントから207.61ポイントへ大きく上方修正されています(図表2)。
四半期決算の発表を受けて通期のEPSが上方修正されることはよくありますが、このような水準で上方修正されたケースは筆者の過去10年の記憶にありません。それほどの上方修正です。
EPSの上方修正を受けて、「株価 ÷ 予想EPS」で計算される「予想PER」は低下しました。2021年予想EPSを基準とした予想PERは22.1倍まで低下し、バリュエーションの割高感は従来比で緩和しました(図表3)。
ただ、パンデミック前の2019年の予想PERが15倍〜20倍で推移していたことが図で確認できますが、これと比べると依然として高水準です。「量的緩和による過剰流動性が予想PERを押し上げているのではないか」、「量的緩和の縮小を織り込み始めると予想PERは低下するのではないか」(つまり、株価が下落するのではないか)ということが市場で気にされています。
筆者も2割近い調整の可能性があると言ってきました。しかし、今回の決算を経て、見方を変えました。これだけ業績拡大モメンタムが強いとより高いPERが許容されますし、予想PERも従来比で低下したためです。
量的緩和の縮小を織り込む局面では株価の調整は避けられないと思いますが、10%以内の調整で切り抜けられるのではと考えています。2022年予想EPSを基準にした予想PERでは20.1倍まで低下する計算で、時間の経過とともに現在の割高感は解消する方向と言えるでしょう。
図表2:S&P500指数の通期予想EPSは大幅上方修正
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:S&P500指数の予想PERは低下
- 注:データは5/14(金)時点。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
米国株式市場の中心銘柄である「GAFAM」についても、1-3月期の決算動向とバリュエーション改善の動きを確認してみましょう。
図表4の通り、GAFAMの2021年1-3月期決算は非常に好調でした。5社の業績の前年同期比変化率を単純に平均すると売上は前年同期比40%増、EPSは同122%増、市場予想との比較で売上は8%増、EPSは45%増といった具合です。
各社の好調の要因を簡単にみてみます。アルファベット(GOOGL)とフェイスブック(FB)はネット広告が好調です。巣ごもりでネットメディアへの需要が高まる一方、企業側も広告宣伝費の投入を強化したということが背景にあります。また、テレビからネットへの広告予算のシフトが加速しているとみられます。フェイスブックの広告の単価は前年同期比30%も上昇しました。
アマゾン ドットコム(AMZN)は売上の伸びが維持される中、ネット通販の収益性が改善しました。パンデミックの環境への対応が進んだということだと思われます。アップル(AAPL)は、iPhoneの売上が予想以上でした。マイクロソフト(MSFT)はパソコン関連の伸びが予想を上回ったことが主因です。
一方、これほど決算が良かったにもかかわらず、決算発表後の株価の反応はフェイスブックが大きく上昇した以外は、必ずしもよくありませんでした。このため、S&P500指数と同じようにGAFAMのバリュエーションも改善しており、これを示したのが図表5です。
図の見方ですが、アップルは過去4週間にEPSが14.8%上方修正された一方、株価は3.5%下落しました。このため、1ヵ月前の予想PERは29.7倍だったのが、25.0倍に低下して、PERの低下率は15.9%ということになります。アルファベットは14.7%、アマゾンは10.8%、マイクロソフトは6.3%、フェイスブックは6.0%、それぞれ改善しています。
新型コロナのパンデミックによってDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展が数年分前倒しされたと言われ、この分野の成長率が高まったとされています。これを考えると、バリュエーションはかなりいいところまで低下している印象です。
定量的なデータでは、5社の平均PERが30.7倍に対して、5社の2020年度から2023年度にかけてのEPSの年平均増加率が27%です。これだけ成長見込みが高ければ、30倍前後まで買うことはありうると考えられます。
少なくともここから株価が下がるようなら押し目買いが期待できそうですし、インフレ懸念や長期金利の動向が落ち着いている局面では、GAFAMにも物色が回ってくる局面はありそうです。
図表4:「GAFAM」の1-3月期決算概況
銘柄 | 前年同期比 | 市場予想比 | ||
---|---|---|---|---|
売上高 | EPS | 売上高 | EPS | |
アルファベット | 35.3% | 143.7% | 7.2% | 68.1% |
アマゾン | 43.8% | 215.2% | 3.8% | 62.9% |
アップル | 53.7% | 118.7% | 15.9% | 41.3% |
フェイスブック | 47.6% | 93.0% | 10.4% | 40.9% |
マイクロソフト | 19.1% | 39.2% | 1.6% | 9.5% |
- ※「GAFAM」の1-3月期決算概況
図表5:GAFAMのバリュエーション改善
通期EPSの 修正率 (4週間) |
株価 騰落率 (1ヵ月) |
予想PER (1ヵ月前) |
予想PER (現在) |
予想PER 変化率 (%) |
|
---|---|---|---|---|---|
アップル | 14.8 | -3.5 | 29.7 | 25.0 | -15.9 |
アルファベット | 19.2 | 1.6 | 28.7 | 24.5 | -14.7 |
アマゾン ドットコム | 8.4 | -3.3 | 55.0 | 49.1 | -10.8 |
マイクロソフト | 3.7 | -2.9 | 34.6 | 32.4 | -6.3 |
フェイスブック | 11.0 | 4.3 | 24.0 | 22.6 | -6.0 |
- 注:データは5/14(金)時点。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
2節でみたようにGAFAMのバリュエーションは改善しましたが、インフレ懸念が高まったり、長期金利が上昇したりする局面では売られやすい状況は残るとみられます。今後3〜6ヵ月の株価パフォーマンスを考えると「景気敏感株」のパフォーマンスが優位となる可能性が高そうです。
というのも、やはり今年は「景気回復」、「長期金利上昇」が投資環境の重要トレンドと考えられるからです。そこで、1-3月期に好決算を発表した「景気敏感株」をスクリーニングにより図表6に抽出しました。
【スクリーニング条件】
(1)過去1ヵ月の株価騰落率がプラス
(2)過去4週の通期EPS修正率が3%以上
(3)1-3月期決算が前年同期比増収・増益
(4)S&P100指数採用銘柄
ここから、いくつか簡単にご紹介します。
ダウ(DOW)は19年4月にダウ・デュポンからスピンオフした化学素材メーカーです。天然ガスを主な原料としていることで原油を原料とする同業他社に対してコスト競争力が高く、景気回復時には業績の伸びが相対的に高くなると期待されます。
決算発表直後には平均販売数量が前年同期比横ばいにとどまったことが嫌気されて株価は急落しました。しかし、数量が伸びなかった要因に2月の寒波による一時的影響が含まれていました。基調は良いということで、その後買い戻されていますが、EPSの修正に比べて株価は依然として出遅れているとみられます。
キャタピラー(CAT)は世界首位の重機メーカーで、資源開発・建設業者向けの油圧ショベル、ブルドーザー、工業用エンジンなどが柱です。2021年1-3月期は前年同期比12%の増収で7四半期ぶりに増収に転じました。
景気回復を受けて銅や鉄鉱石などコモディティ価格が上昇する中、ここから恩恵を受ける銘柄としても注目できるでしょう。また、建設機械はバイデン大統領が推進しようとしているインフラ建設からの恩恵も期待されます。
ユナイテッド パーセル サービス B(UPS)は運輸の会社です。巣ごもりで宅配市場が活況なところに景気回復による輸送需要の回復が重なり、数量、価格とも伸びてEPSが大きく上方修正されました。一方、EPSの上方修正に沿う形で株価が上昇しているため、目先の投資妙味は小さくなっているかもしれません。
エクソン モービル(XOM)は、総合エネルギーの最大手です。原油価格の上昇を受けて業績は回復基調です。2021年1-3月期の売上は前年同期比5%増にとどまりましたが、4-6月期は前年同期のベース効果によって同85%増へ業績モメンタムが拡大する見通しです。配当金が維持されるかが注目されていましたが、順調な業績回復により懸念は後退したとみられます。
モルガン スタンレー(MS)の2021年1-3月期の収入は、新規公開の増加によって投資銀行部門の収入が前年同期比2.3倍となったことに加え、米ネット証券のイー・トレード証券の買収効果もあり、同60%増と好調でした。
図表6:景気敏感株のスクリーニング
株価騰落率 (1ヵ月) (%) |
EPS修正率 (4週間) (%) |
予想PER (倍) |
|
---|---|---|---|
ユナイテッド パーセル サービス | 22.4 | 21.4 | 19.9 |
ダウ | 6.0 | 21.3 | 11.5 |
キャタピラー | 3.2 | 16.9 | 24.7 |
モルガン スタンレー | 5.0 | 13.0 | 12.5 |
エクソン モービル | 3.5 | 9.8 | 17.1 |
バンク・オブ・アメリカ | 4.9 | 6.2 | 14.2 |
ゴールドマン・サックス・グループ | 7.0 | 4.5 | 8.5 |
- 注:データは5/14(金)時点。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。