スキンケアブランドの買収が増えているという新聞記事が目に留まり、調べてみるとパーソナルケア業界ではスキンケアは成長市場として注目されているようです。そこで、業界動向、業界構造とともに関連銘柄をご紹介いたします。
図表1:言及した関連銘柄
銘柄 | 株価(8/6) | 52週高値 | 52週安値 |
---|---|---|---|
エスティ ローダー A(EL) | 179.56ドル | 194.74ドル | 121.47ドル |
プロクター & ギャンブル(PG) | 114.28ドル | 121.76ドル | 78.49ドル |
ユニリーバ ADR(UL) | 58.90ドル | 64.10ドル | 50.80ドル |
アルタ ビューティ(ULTA) | 340.28ドル | 368.83ドル | 224.43ドル |
コティ A(COTY) | 10.29ドル | 14.14ドル | 5.91ドル |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
7/21(日)のウォールストリートジャーナル紙に「消費財の巨大企業がスキンケア市場で買収を進める(Consumer Giants Buy Into Skin-Care Market)」という記事が掲載されました。
筆者は昨年より米国株を好業績でスクリーニングをすると化粧品大手のエスティローダーが抽出され、業績の内容を見るとスキンケアが売上増加を牽引していることに気付いていました。
ただ、スキンケアのような基礎化粧品が2割も伸びることに違和感をもっていましたが、エスティローダーだけでなく市場全体が好調で伸びているようです。そこで、今回はスキンケア市場についてご報告いたします。
上記のWSJ紙記事によると世界の巨大日用品企業は過去2年間で10を超えるスキンケアブランドを買収しており、そのうち代表的なものが図表2になります。
業界最大手のプロクター&ギャンブルは、美容関連の多くのブランドをコティに売却した一方で、日本で生まれた高級基礎化粧品の「SK-II」はキープしたほか、米国の「First Aid Beauty」、ニュージーランドの「Snowberry」などハイエンドのスキンケアブランドを取得しました。
また、ユニリーバは「Tatcha」という日本にインスパイアされて生まれた米国のスキンケアブランドを買収、日本では歯磨き粉で知られたコルゲートパルモリーブも複数の大型買収を行っています。
このような動きの背景には「年齢を重ねるベビーブーマーがユーザーとして残る一方で、ミレニアル世代や男性がユーザーとして増えつつある」、また、「アジアを中心とした海外市場では、増加する中間所得層がより良い肌のための支出に前向きなことがある」としています。
消費財の調査会社「ユーロモニター」によると、マクロ的な統計でもスキンケアはカラーコスメティックスとともにパーソナルケア業界の中で最も成長している分野となっています(図表3)。
また、フランスの化粧品大手ロレアルは直近四半期のオーガニック売上成長率(M&Aや為替の影響を除く既存事業の売上成長率)が7.7%と好調ですが、好調の背景として以下の4点をあげています。
(1)美に対する飽くなき要求の高まり
(2)プレミアム化の動き・・・消費者はトレードアップ(高級品へのシフト)に前向きで、新しい機能、より高いパフォーマンス、高い品質に反応している。
(3)デジタル化の動き・・・美容関連は消費者がネットで最も時間をかけて見ている分野のひとつであり、情報が行き渡っている。また、ソーシャルメディアでの自己表現や共有の「爆発」が需要を刺激している。
(4)美容製品の浸透向上・・・eコマースによって従来の販売網で届かなかった層にも浸透している。
これは同社の化粧品全般に関する分析ですが、スキンケアにも当てはまることと見られ、確かな成長要因をもつ市場として注目できるでしょう。
図表2:日用品大手によるスキンケア企業の買収
買収企業 | スキンケア企業(国籍) | 買収額 (百万ドル) |
買収時期 |
---|---|---|---|
コルゲート パルモリーブ(CL) | Filorga(フランス) | 1,700 | 19年7月 |
ユニリーバ ADR(UL) | Tatcha(米国) | 500 | 19年6月 |
プロクター & ギャンブル(PG) | First Aid Beauty(米国) | 250 | 18年7月 |
プロクター & ギャンブル(PG) | Snowberry(ニュージーランド) | ? | 18年2月 |
コルゲート パルモリーブ(CL) | PCA(米国) | 730 | 17年12月 |
? | Drunk Elephant(米国) | ? | 進行中 |
- ※各種報道をもとにSBI証券が作成
図表3:パーソナルケアの分野別市場成長率(13年から18年の5年間)
- ※Bloombergに掲載のユーロモニターデータをもとにSBI証券が作成
スキンケアの市場規模は調査会社ユーロモニターによると2018年に1,350億ドルで、化粧品と香水を合わせたよりも大きいとされ、パーソナルケア業界では最も重要な分野となっています(図表4)。
スキンケア市場の企業別のシェアは図表5の通りです。上位10社の合計シェアは41%で大手への集中度はさほど高くなく、まだまだ合従連衡が進む余地があると見られます。
国別には欧米、日本、韓国の企業が上位を占め、業態としては化粧品企業が主力事業として運営している場合と、洗剤、シャンプー、紙おむつなどを広く取り扱う日用品の大手企業が事業の一つとして保有している場合があります。
世界シェアトップはフランスの化粧品大手のロレアルです。「ランコム」の「アプソリュ」、「Vichy」の「ミネラル89」、「ロレアル」の「リバイタリフト」、「CeraVe」の保湿クリームなどがスキンケア分野の主力製品で、世界シェア10%を保有しています。
2位はドイツのバイヤスドルフです。社名に馴染みがないかもしれませんが、「ニベア」「ニベア メン」「アトリック」「8×4」など日本でもよく知られたブランドを擁し、スキンケアをテーマに投資を考える場合に最も適した銘柄かもしれません。ただ、米国市場には上場しておらず、当社での取り扱いはありません。
3位のエスティローダーは米国の化粧品大手ですが、スキンケアの売上・利益構成比が高く、当社が取り扱っている銘柄ではスキンケア関連の投資先として最も注目できそうです。
4位のユニリーバ、6位のプロクター&ギャンブルは、日用品の巨大企業で、スキンケア事業の構成比はさほど高くないと見られるものの、積極的な買収で強化していることから注目できるでしょう。
日本の資生堂と花王は、この分野ではグローバルに戦える規模があると言えるでしょう。製品のイノベーションと海外展開次第では注目できるでしょう。
韓国のアモーレパシフィックとLG生活健康は、韓流スターの国際進出や日本でも韓流メイクが注目されるなど、本来この分野で注目できる銘柄です。しかし、中国で不買運動の影響を受けているほか、日韓関係悪化の影響も懸念され、現在は投資しにくい局面にあると見られます。
図表4:パーソナルケア業界の分野別市場規模
- ※Bloombergに掲載のユーロモニターデータをもとにSBI証券が作成
図表5:スキンケアの世界シェア上位企業(2018年)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
スキンケアで注目できる銘柄として、前節で市場シェアが高い企業として抽出された銘柄に加え、美容関連商品の小売チェーンを展開するアルタビューティと米国の化粧品大手コティを加えてご紹介いたします。
・米国の化粧品大手です。18年6月期の売上構成比は、スキンケアが40%とメークアップの41%に並び、営業利益ではスキンケアが65%とメークアップの24%を上回って、スキンケアが主力の企業と言っても良いでしょう。19年1-3月期にスキンケア売上は前年同期比21%増加して全体の増収増益を牽引しました。スキンケアの増加は「エスティローダー」ブランドが全地域で増収となり、製品では「アドバンス ナイト リペア」が好調です。4-6月期決算は8/19(月)に発表の予定です。
・株式啓蒙家のジム・クレイマー氏が「経済成長が鈍化しても大丈夫な銘柄」の一つとして推奨しており、「16年に就任したイタリア人CEO、ファブリツィオ・フリーダのもとすばらしい会社に変わった。彼がしたことでとくに好きなのは『リバース・メンター』制度(若者のライフスタイルについて若者が年配者に教える)で、会社の運営が改善された。米中摩擦が始まってからも中国事業は好調を維持している。」としています。
・世界最大の日用品メーカーです。21のブランドが年間販売額10億ドル超を記録、洗剤類の「アリエール」「ファブリーズ」、化粧品の「SK-II」、ヘアケアの「パンテーン」、紙おむつの「パンパース」、髭剃りの「ジレット」などを擁します。16年に美容関連の43ブランドをコティに売却して取捨選択を進めました。スキンケアを含むビューティ部門は売上の19%を占めます。スキンケアでは新たなブランドの買収を進めるほか、60年の歴史をもつ「Olay」を日本市場に再導入するなど施策が積極化しています。
・4-6月期のオーガニック売上成長率(為替や事業買収・売却の影響を除いた成長)は製品のイノベーションによるシェア拡大をともなって前年同期比7%増と1-3月期の同5%増からさらに高まりました。数量効果がヘルスケア、ファブリック&ホームなどの分野で伸びて前年同期比3%増、価格効果が同3%増、ヘルスケア、ビューティが牽引して製品ミックスが同2%増となっています
・英国とオランダに本拠を置く世界的な消費財メーカーです。売上は日用品が60%(パーソナルケアが40%、ホームケアが20%)、アイスクリームとお茶が主力の食品部門が40%を占めます(2018年)。スキンケアのブランドとして、「Lux」「Vaseline」「Eskinol」などを擁します。また、米国のスキンケアブランド「Tatcha」を買収して、同分野を強化の方向と見られます。
・同社は今年度のオーガニック売上成長として3〜5%増を目指しています。利益については、製品のイノベーションと製品ミックスの改善による価格引き上げで原料コストの圧力を相殺できると見込まれます。コスト削減プログラムは前倒しで進んでいることから、2020年に20%とする基調営業利益率の目標も達成できそうです。
・ビューティケア製品のロードサイド販売店をチェーン展開しています。 マス向けの美容商品から高級な美容商品まで500ブランド、2万点以上の豊富な品揃えに加え、美容サロンのサービスをワンストップショップできる便利さが受けて拡大しています。19年2月の売上は、小売販売が84%、eコマースが11%、サロンサービスが5%を占め、スキンケア製品の売上構成比も高いと考えられます。
・2-4月期の決算は既存店売上が前年同期比7.0%増、売上が前年同期比13%増、EPSが同21%増と成長が持続しています。既存店売上の伸びは、来店客数が4.3%ポイント、平均単価が2.7%ポイントの内訳で、来店数の増加が牽引しているため伸びの継続が期待されます。5-7月期決算は8/29(木)に発表の予定です。
・1904年にフランスで創業した香水・化粧品大手で、現在はニューヨークに本社を置きます。2016年にP&Gのビューティ部門を買収、カバーガール、マックスファクターなどの有力ブランドを取得しました。ロレアル、エスティローダーに次ぐ世界3位級の化粧品会社です。グローバルでシェアが大きい分野は、香水で1位、ヘアサロンで2位、カラーコスメティックスで3位です。
・最近の業績はP&Gから取得した美容関連ブランドの統合に手間取り、また、これら事業が買収時の想定以上に不振となったことからリストラ費用が発生して、17年、18年と純損失となっています。19年は売上が前年比8%減の予想で、不振ブランドの減損損失として30億ドルの計上が予定され、純損失は34億ドルが見込まれています。会社は7/1(月)に経営再建プラン「Rediscover growth」を公表、ブランドの取捨選択を進めて今後4年間で経営を安定化する計画を示しています。強化する分野としては、スキンケアがあげられています。
図表6:関連銘柄の株価推移
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。