〇IPOの注目点
(1)「配車サービス」で先行する世界最大手で、グローバルに事業を展開する。
(2)食事宅配の「ウーバー・イーツ」などシナジーが期待できる事業も展開する。
(3)ソフトバンクグループが最大の大株主で、本年最大級のIPOとなる見込み。
図表1:IPOの概要
企業名(コード) |
ウーバーテクノロジーズ(UBER) |
上場市場 |
ニューヨーク |
---|---|---|---|
公表日 |
4/11(木) |
上場日(予定) |
5/10(金) |
公募価格(ドル) |
44.00〜55.00 |
募集・売出し株数(百万株) |
180 |
公募規模(百万ドル) |
9,900 |
時価総額概算(億ドル) |
922 |
- 注:公募規模は、「募集・売り出し株数×公募価格のレンジ上限」で計算しています。時価総額概算は「IPO後の発行済株式数(オーバーアロットメントを含まない)×公募価格レンジ上限」で計算しています。
- ※SBI証券では米国株式のIPOの申込み等の受付は行っておりません。当社では上場後に取扱銘柄へ追加を予定しております。
〇企業概要
2009年3月にトラビス・カラニックとギャレット・キャンプによりサンフランシスコで設立された米国の配車サービスの会社です。2010年に他社に先駆けてスマホアプリによる配車サービス(同社は「ライドシェアリング」と呼びます)を開始、グローバルに展開して世界最大手となっています。配車サービスの「パーソナル・モビリティ」事業を主力に、シナジー効果が期待される出前の「ウーバー・イーツ」事業、荷物配送の「ウーバー・フレイト」事業も展開します。
上場を目指すにあたり、同社の企業文化、職場慣行、社会での評判に問題があったため、2017年9月にCEOをカラニック氏からエクスペディアの前CEOダラ・コスロシャヒ氏に替えています。また、COO、CFO、CLOなど主要な経営陣も民間企業でのマネジメント経験が長い人物に入れ替えて、現在の法令順守は高いレベルにあるとしています。
上場前の株主構成は、ソフトバンクがビジョンファンドを通じて16.3%を保有する最大株主となっています。創業者のカラニック氏は8.6%、キャンプ氏は6.0%を保有して取締役の一員です。
〇事業内容
主力事業は「配車サービス」で、スマホのアプリを使って自動車の所有者・運転者と、移動手段として自動車に乗りたいユーザーを結びつけるプラットフォームを提供しています。
具体的には、モバイルアプリを通じて配車を依頼すると、端末のGPS機能を通じて現在位置が発信され、付近の迎車可能なドライバーが手配されます。手配した側は手軽に迅速に自動車を利用することができます。平均の待ち時間は約5分とされます。
自動車を運転する側は空いた時間を使って送迎を行い小銭を稼げるなどのメリットがあります。18年12月期の平均では、利用顧客が支払った額の78%がドライバーの取り分となり、22%がウーバーの取り分となって同社の売上に計上される仕組みです。
同社は米国を中心に同サービスを世界63ヵ国、約700都市で展開しています。図表2の通り、利用は急速に広がっています。しかし、18年10-12月期に同社のサービスを利用した人数(ユニークユーザー数)は、対象地域の2%にとどまっており、成長は始まったばかりだとしています。
また、自社運営によるこれらの国々のほか、中国の滴滴出行(ディディチューシン)の約15%、東南アジアで営業するグラブの約23%、ロシアおよびCIS諸国で営業するヤンデックスタクシーの約38%を保有して、成長を取り込む体制を築いています。
さらに、2019年3月には、ドバイを本拠として配車サービスを展開する「カリーム」を31億ドルで買収しています。同社は中東、北アフリカ、パキスタンの115都市で配車サービス、食事の宅配、決済などの事業を営業しています。
業界については、3/20(水)掲載の外国株式特集レポート『ウーバー、リフトの上場で注目の「配車サービス」業界』もご参照ください。
〇「配車サービス」の市場規模
「配車サービス」の対象市場は自動車による移動になりますが、これを世界の地域ごとに推定したものが図表3になります。
同社が事業展開している63ヵ国では7.0兆マイルです。これはすべての自動車による移動を含みますが、「配車サービス」の対象となるのは1回30マイル以下の移動とされ、この比率は米国の統計で68%に当たるとされます。
この比率を適用すると7.0兆マイル×68%で4.7兆マイルが導き出されます。これを金額に評価すると3兆ドルの市場規模があると推定しています。
この市場規模に対して2018年に同社のサービスを利用して移動した距離は260億マイルであるため、シェアはまだ1%に満たないことになり、拡大余地は非常に大きいと考えられます。
さらに、同社が事業展開していない国や関連企業が事業展開している国も含めた世界175ヵ国では、乗用車による移動距離は11.9兆マイル、金額にして57兆ドルの市場規模があると推定しています。
なお、同社が事業を展開する63ヵ国のうち、アルゼンチン、ドイツ、イタリア、スペイン、日本、韓国の6ヵ国では、当局による規制のためにライドシェアの普及が滞っており、これらの国で事業を普及させることが優先課題となっています。
例えば、日本では営利目的で人を運ぶ場合には二種免許が必要で、これを保有しないと「白タク」(違法タクシー)になってしまいます。世界でウーバーが広がる要因となっている、一般の車所有者がドライバーとして登録することができず、日本でのサービスはプロのドライバーによる「UberBlack」のみのサービスとなっています。
〇自動運転の戦略
同社は自動運転に対する研究開発を行っており、これも同社が株式市場で注目される点です。
研究開発の中心となるアドバンスト・テクノロジー・グループ(ATG)を、エンジニアリングで有名なカーネギーメロン大学の人材を核に2015年にピッツバーグで設立しています。現在1,000名以上の従業員を擁して開発を行っており、250台以上の自動運転車製作、数百万マイルの試験走行、数万件の有人走行試験などの実績を積み上げています。
自動運転車の利用については、標準的な運転環境で、地図が良く整備され、気象条件が良いなどの条件を満たすようなケースで徐々に実用化されることを想定するとします。
最近のニュースでは、同社がデンソー、トヨタ、ソフトバンクから10億ドルの出資を受けていたことが判明、出資条件を適用した企業評価は72.5億ドルに達したとされます。
〇業績動向
図表4の通り、「月間顧客数」「利用回数」「総利用額」の増加に伴って売上は急拡大しています。また、現場レベルの利益率と考えられる「コアプラットフォームコントリビューションマージン」はプラスとなっていることから、売上の拡大とともにいずれ黒字化することが期待されます。
〇類似会社比較
3/29(金)に上場したリフト(LYFT)が同業で、参考になるでしょう。ただし、リフトが北米の「配車サービス」に事業を集中する一方、ウーバーテクノロジーズはグローバルに事業展開して、食事の宅配などの関連事業も併営するほか、自動運転の研究開発を行っていることなどが異なります。
図表5の通り、規模的にはウーバーはリフトに対して売上で5.2倍、顧客の利用額で6.2倍の水準にあることが確認できます。
利益水準は、両社とも調整後EBITDAマージンベースで赤字ですが、ウーバーのほうがマージンがかなり高くなっています。営業を開始したのが、ウーバーは2010年、リフトは2012年と2年違うことも影響しているでしょう。
時価総額と売上の比較では、5/8(水)時点でリフトは7.0倍です。公募価格の72ドルでは9.1倍でしたが、上場後に株価が大きく下落しました。ウーバーの公募価格レンジ上限では8.2倍となります。
図表2:同社サービスの利用回数の推移
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表3:主要地域の自動車保有台数と推定移動距離
自動車 |
自動車当たりの推定走行距離 |
自社運営が対象市場とする63ヵ国 |
全世界 |
|
---|---|---|---|---|
米国とカナダ |
270 |
13.0 |
3.5 |
3.5 |
中南米 |
94 |
4.5 |
0.4 |
0.4 |
欧州 |
271 |
7.1 |
1.8 |
1.9 |
インド |
30 |
7.1 |
0.2 |
0.2 |
中東・アフリカ |
75 |
8.6 |
0.3 |
0.6 |
オーストラリア・ニュージーランド |
17 |
8.1 |
0.1 |
0.1 |
日本・韓国 |
79 |
5.2 |
0.4 |
0.4 |
その他アジア |
14 |
12.8 |
0.1 |
0.2 |
合計 |
850 |
8.8 |
7.0 |
7.5 |
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表4:業績推移
16年12月期 |
17年12月期 |
18年12月期 |
|
---|---|---|---|
売上(百万ドル) |
3,845 |
7,932 |
11,270 |
純利益(百万ドル) |
-3,246 |
-4,033 |
987 |
EPS(ドル) |
-7.9 |
9.5 |
- |
月間顧客数(百万人) |
45 |
68 |
91 |
利用回数(百万回) |
1,818 |
3,736 |
5,220 |
総利用額(百万ドル) |
19,236 |
34,409 |
49,799 |
コアプラットフォーム調整後純収入(百万ドル) |
3,219 |
7,191 |
10,025 |
コアプラットフォームコントリビューションマージン |
-23% |
0% |
9% |
調整後EBITDA(百万ドル) |
-2,517 |
-2,642 |
-1,847 |
- 注:「月間顧客数」は、MAPCs(Monthly Active Platform Consumers)と呼ばれ、同社のプラットフォームを1回以上利用したユニークユーザーです。「総利用額」は、サービスを受けるために顧客が支払った総額で、同社の収入に含まれない、例えば、空港利用税などを含んだ金額です。「コアプラットフォームコントリビューションマージン」は、売上から売上を生むためにかかった直接費用のみを差し引いた現場レベルでの利益率で、減価償却費、営業・サポート費用、販売・マーケティング費用、研究開発費、管理費用などが差し引かれていません。
- ※会社資料をもとにSBI証券が作成
図表5:類似会社比較
銘柄(コード) |
売上 |
純利益 |
調整後EBITDA |
調整後EBITDA |
顧客の利用 |
時価総額 |
---|---|---|---|---|---|---|
リフト(LYFT) |
2,157 |
-911 |
-944 |
-43.7 |
8,055 |
151 |
ウーバーテクノロジーズ(UBER) |
11,270 |
987 |
-1,847 |
-16.4 |
49,799 |
* 922 |
- 注:業績は18年12月期実績、リフトの時価総額は5/8(水)のデータによります。ウーバーテクノロジーズの時価総額概算は「IPO後の発行済株式数(オーバーアロットメントを含まない)×公募価格レンジ上限」で計算しています。
- ※会社資料、各種報道をもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。