年初から世界の株式市場は大荒れで、東南アジアの株式市場も例外ではありません。一方、大局的に見ると、アセアン株式は金融市場で米国の利上げが意識され始めた15年3月頃より下落基調となっていました。昨年12月の米国の利上げは懸念されていた悪材料の出尽くしと捉えられるのではないでしょうか。
16年も米国の利上げは続きますが、回数は当初見込まれていたよりは少なくなる可能性が高まり、新興国からの資金流出は懸念されているほどではないかもしれません。アセアン経済は、中国、ブラジル、ロシアなどの新興国経済が減速する中でも相対的に堅調に推移しています。さらに、15年末にはアセアン経済共同体(AEC)が発足しており、域内の経済活動の活発化が期待され注目できるでしょう。
東南アジアの中でも、高水準の成長を続けるフィリピン、ベトナム、国内政情の安定から成長率の回復が見込まれるタイに注目できると考えられます。
対象市場 | ティッカー | 名称 | 連動指標 | 市場 |
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フィリピン | EPHE | iシェアーズ MSCIフィリピン ETF(EPHE) | MSCI フィリピン・インベスタブル・マーケット指数に連動した成果を目指します。 | NYSE Arca |
タイ | THD | iシェアーズMSCI タイ・キャップト ETF(THD) | MSCIタイ IMI 25/50 インデックスに連動した成果を目指します。 | NYSE Arca |
1559 | NEXT FUNDS タイ株式SET50指数連動型上場投信(1559) | 日本円換算したタイ株式SET50指数に連動する投資成果を目指します。 | 東証 | |
ベトナム | VNM | マーケットベクトル ベトナムETF(VNM) | マーケット・べクトル・ベトナム・インデックスにできるだけ連動する運用実績を目指します。 | NYSE Arca |
03087 | dbxFTSEベトナム(03087) | FTSEベトナム指数の運用成績に概ね連動する投資成果を目指します。 | 香港市場 |
株式は売り込まれたものの、堅調な成長が見込まれるアセアン諸国 |
アセアン6市場の株価について、10年末を100として指数化した図表1を詳しく見てみましょう。
13年6月の「量的緩和を縮小する」としたバーナンキショックの後、また昨年は米国の利上げが意識されはじめた3月以降と、いずれも米国の金融政策の変化に対して調整した様子が窺えます。
国別では新興国のカテゴリーで国際的な投資家の資金が入っていると見られる、インドネシア、フィリピン、タイは上記の反応がはっきり出ています。一方、ベトナムは、市場規模が小さく機関投資家による投資は限定されている模様で、さほどはっきりした反応となっていません。また、マレーシアは先進国に近い扱いとなっている可能性があるでしょう。
株価水準では、タイ、インドネシアはバーナンキショックで調整した14年初めの水準まで調整しています。アセアン株投資のエントリーポイントとして良い水準まで調整していると言えるのではないでしょうか。一方、フィリピンについては、中長期でアウトパフォームする傾向が出ており、引き続き注目できるでしょう。
では、アセアン各国の経済ファンダメンタルズを確認してみましょう。
まず、図表2はGDPの動向です。ベトナム、フィリピン、インドネシアなどは5%以上の高い成長が予想されています。一方、タイは政治的な混乱の影響が一服して回復に向かっていることが注目されます。
アセアンの材料として注目できるのは、15年末に「アセアン経済共同体(AEC)」が発足していることです。6億人の人口を擁するアセアン10カ国が経済分野の統合を推し進めるための枠組みです。AECにより域内の「モノ」「ヒト」「サービス」の自由化が進み、高い経済成長を支えていく要因になると期待されます。
次に、各国経済の安定度についてチェックしてみましょう。
図表3は、各国の経常収支と外貨準備をGDP比で表したものです。インドネシアとベトナムが相対的に経済的ショックに対するリスクが大きいと言えそうです。その他の4カ国については、経常収支が黒字で、十分に高い外貨準備があると言えるでしょう。
以上、東南アジアの株式と経済ファンダメンタルズを概観しましたが、注目市場としてフィリピン、タイ、ベトナムを取り上げたいと思います。インドネシアとマレーシアも高いGDP成長が見込まれて魅力はありますが、鉱物資源の輸出依存度が高いことが現在のような経済環境ではリスクとなりそうです。
ベトナムについては、TPPが発効した場合の恩恵が大きいこと、南部経済回廊(産業道路)でタイ経済と繋がる恩恵が大きいこと、投資を呼び込むための規制緩和を行ったことから、投資を牽引役に成長が期待されます。
この点についてより詳しくは、「ベトナム株式を始めませんか!?TPP、規制緩和、「つばさ橋」の開通で盛り上がるベトナム経済」をご参照ください。
以下、(2)と(3)では、フィリピンとタイに関する注目点をご紹介いたします。
図表1 米国の利上げを意識して調整が続いていたアセアン株式市場
- 注:各月末値。直近データは1/26。株価指数は、ベトナム:ベトナムVN指数、 インドネシア:ジャカルタ総合指数、 シンガポール:ST指数 、タイ:SET指数、マレーシア: FTSEブルサマレーシアKLCIインデックス、フィリピン: フィリピン総合指数によります。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表2 アセアン各国の実質GDP成長率を比較
- 注:予想はBloombergです。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3 アセアン各国の経常収支と外貨準備
- 注:経常収支は15年のIMF見通し。外貨準備はインドネシア、フィリピン、タイ、シンガポールは15年12月末、ベトナムは15年9月末、マレーシアは15年11月末。
- ※IMFデータ、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
中長期の成長性が高いフィリピン |
フィリピンの魅力は、何と言っても国民の平均年齢が23歳と若く、成長力に富むことでしょう。
図表4は、国連の推計によるフィリピンの人口と生産年齢人口の比率の推移と見通しです。人口は15年の1億人から、20年後の35年には1億3,000万人に増加する見込みです。
これだけでも経済は成長するはずですが、生産年齢人口(15歳から64歳の人口)の比率は、今後30年以上上昇が継続する見通しです。人口増加による成長に加え、「人口ボーナス」による成長の上乗せも組み込まれている国だと言えます。
産業面ではコールセンターの受託などBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の成長が期待されます。同国のフィリピンIT・ビジネスプロセス協会によると、14年の同産業の売上は前年比15%増加して153億ドルに達し、16年には250億ドルに増え、130万人を雇用する産業に成長すると見込まれています。
フィリピンでは学校の授業が英語でなされるため、英語力はアジアの中でもシンガポールと並んで高いものがあります。BPO産業の競争相手はインドですが、インド人の英語はなまりがきつく、フィリピン人の英語はアメリカのアクセントのため、欧米企業がBPO先として選ぶことが多いようです。
また、最近ではコールセンターの集積を活かして、周辺のIT分野にも事業領域を拡げる試みにも注目できます。同国のインフラへの投資は相対的に低水準で、製造業の進出先としてはさほど魅力が高くないようです。しかし、英語に堪能であるという他のアジア諸国にない強みを活かして成長することができると考えられます。
図表4 人口増加、人口ボーナスが続く若い国フィリピン
- ※国連データをもとにSBI証券が作成
内需に回復の兆しがあるタイ |
タイについては、消費を中心に内需が回復の兆しを見せていることに注目できます。
図表5の通り、自動車販売台数と消費者信頼感指数が昨年の夏を底に足元まで回復基調となっています。
消費が回復している背景は、政治的な混乱で落ち込んでいた観光客が戻って、サービス業などに良い影響を与えているためと見られます。世界経済が減速しつつある中、固有の要因で内需がしっかりしている国には注目する価値が高まっていると考えられます。
15年にタイに訪れた外国人は2,988万人で前年比20%増加しています(因みに、15年の訪日外国人は1,973万人でした)。14年の前半は大規模なデモが続き、5月に戒厳令が発令されるなど観光への打撃となりましたが、順調に回復しているようです。
観光客の増加を牽引しているのが、日本同様に中国人です。15年の訪問者の27%を占め、前年比70%増加しました。2番目に多いマレーシアからの訪問も同30%増となっています。16年の伸び率は鈍化すると見込まれますが、同国経済の回復を支える要因になりそうです。
また、同国は外資企業による自動車産業の集積があることやインドシナ半島で多くの国と国境を接する地理的な優位性から、15年末に発足したアセアン経済共同体(AEC)の要になると期待されています。
当初はミャンマーやカンボジアなど人件費の安い地域への生産移管によるマイナスも予想されますが、同国を中心としたサプライチェーンが構築されることにより、中期的に同国の重要性は高まっていくことが期待されます。
尚、タイの政情は軍事政権のプラユット暫定首相の下で安定していますが、民政復帰に向けた総選挙が予定されています。17年半ばとなる見通しです。
図表5 消費を中心とした内需に回復の兆し
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6 政治の落ち着きで来訪客が回復
- ※タイ観光省データをもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。