8月6日に発表されたインドネシアの2012年4〜6月期の実質GDPは前年同期比6.37%増と1〜3月期の同6.32%増からわずかに加速するかたちとなった。欧州債務危機を背景に世界全体で景気減速が懸念されるなか、同国が相変わらず堅調な成長を維持したことは素直に評価すべきだろう。
ここではGDPの需要項目別に見ていくが、消費部門が前年同期比5.22%増と前期の同5.04%増から更に拡大している。同国の魅力として旺盛な内需がよく語られるが、まさに数字として表れた格好だ。この背景として、同国政府が年初から計画していた燃料補助金の削減、つまり事実上の燃料価格の引き上げを国内の強い反対を受けて延長したことにより、現在、同国のインフレ率は同中銀の設定するインフレ水準(3.5〜5.5%)に落ち着いていることが挙げられるだろう。インフレ圧力が現状を維持している結果として実質購買力が上昇したことになる。また過去最低水準の政策金利も下支え効果を発揮していると考えられる。
一方で、純輸出に目を向けてみると、輸出が前年同期比1.88%増と、前期の同7.85%増から急減速している。対照的に輸入は前述のように旺盛な内需を背景として、前年比10.87%増と前期の同8.05%増から更に加速している。その結果、純輸出は成長全体でみたときに大幅のマイナス寄与となっている。
図1:インドネシアの実質GDPと主要項目の推移(前年比)
8月1日に発表されたインドネシアの6月の貿易統計によると、輸出は事前予想の前年比7.83%減に対して、同16.44%減と非常に弱い結果となった。輸出の減少は3ヶ月連続で、約3年ぶりの大幅な落ち込みである。一方で、輸入は事前予想の前年比14.50%増をやや下回る同10.71%増となったものの、これまで述べたように、依然として堅調な伸びを維持している。その結果、貿易収支は事前予想の5億8,000万ドルの赤字を大幅に上回る13億3,000万ドルの赤字となった。
足元のルピア安の背景としては、貿易黒字の縮小を背景とする経常赤字の拡大が挙げられる。8月10日に発表された2012年4〜6月期の経常赤字は69億ドルと前期の32億ドルから倍以上に膨らんでいる。同国の国債市場において、海外投資家は非常に高いシェアを占めており、一時は40%弱までシェアを広げていたが、このような状況下で海外投資家がルピア建て資産の一部を売却していることが影響しているだろう。
通貨安により輸入物価が上がることが懸念されるが、前述の通り、現時点ではインフレは目標の範囲内で安定しているため、同国中銀は通貨安によるインフレ懸念より、通貨安による輸出の促進の方にウェイトを置く可能性が高く、目先はルピア相場は軟調な展開が続くかもしれない。
しかし、足元の輸出の減速は中期的には輸出企業の資本財など(部品や原材料)の輸入を抑制すると考えられ、構造的に貿易収支が今後も赤字幅を拡大していくとは考えられず、結果的に経常収支も安定していくとみられる。また、8月10日に同国中銀がFasBI金利を急遽引き上げたが、前日9日の政策会合で同金利の据え置きを決定した直後の動きということで、市場ではサプライズな材料となった。このような同国中銀の政策方針の転換も中長期的にはルピア相場にはプラスに作用するだろう。
これまでも私だけでなく、多くの箇所で同国の魅力(人口や資源など)は語られているので、ここでは再度説明することを省くが、世界的に国債の格下げが続く中で格付けが上がり続けている同国の健全性や、潜在成長力等を考えれば、中長期の観点に立てば強気の見通しを変える必要はないと思われる。