年初来、「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」が28%の上昇となるなど、新興国株式が好調です。ただ、先駆した市場にはこの先高値警戒感が生ずることも想定され、出遅れ市場に物色が回る可能性があるでしょう。そこで今回は、株価が出遅れている一方、経済ファンダメンタルズには改善の動きが見えるシンガポール、タイ、マレーシアを取り上げています。
図表1:アセアン株式のETF(上場投資信託)
取引 | チャート | コード | 銘柄 |
---|---|---|---|
EWS | iシェアーズ MSCI シンガポール ETF | ||
NISE | 日興アセット・マネジメント・シンガポールSTI ETF | ||
EWM | iシェアーズ MSCI マレーシア ETF | ||
THD | iシェアーズ MSCI タイ・キャップト ETF |
※SBI証券が作成
年初から10/4(水)まで、先進国株式の指標である「MSCIワールド・インデックス」が15%上昇する一方、新興国株式の指標である「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」は28%の上昇(同指数はドル建のため、新興国通貨が対ドルで上昇した部分も含まれます)となるなど、新興国株式が好調です。
世界経済の見通しが昨年の夏場を底に上方修正基調に転換、新興諸国も全体として改善傾向にあることが背景と考えられます。また、新興国からの資金流出に繋がるとして警戒された米国の金融政策については、「政策金利の引き上げ」、「FRBの資産縮小」とも緩やかに進められそうなことから、明確な資金流出につながっていないと見られます。
主要市場の年初来の指数騰落率を見ると、新興国ではブラジル、ベトナム、フィリピンなどが2割以上上昇して好調でした(図表2)。ただ、これだけ上昇すると、先駆した市場には高値警戒が生まれることも想定され、今後は出遅れた市場に物色が回る可能性が考えられるでしょう。
そこで今回は相対的に出遅れている新興国市場の中で、アセアン市場を取り上げます。
アセアン諸国の経済ファンダメンタルズを確認するために、17年GDPの成長率の市場コンセンサスがどのように修正されてきたかをチェックしたのが図表3です。シンガポール、タイ、マレーシアはGDP成長率の予想が上方修正基調となっているため、注目できるでしょう。
米国の個別銘柄では、昨年より半導体セクター指数が大きく上昇する中でもレンジ相場が続いていたインテル(INTC)が10/4(水)までの1ヵ月で12%上昇、また、予想PERが5倍台に低下する中でも物色される気配のなかったゼネラル モーターズ(GM)も同じく18%上昇と、出遅れ株が買われる動きが観察されています。グローバル株式のアロケーションでも同様のことが起こる可能性がありそうです。
◯シンガポール
17年GDP成長率の予想は6月以降、上方修正基調です。6月、7月、8月と輸出の増加を背景に鉱工業生産が前年比2桁増となっていることが背景とみられます。世界経済の回復のほか、隣接するマレーシア、タイの改善からも好影響を受けている可能性もあるでしょう。株価指数採用企業のEPSは、17年12月期が前年比10%減、18年12月期が同8%増が予想され、17年12月期ベースの予想PERは14.9倍です。
◯タイ
プミポン国王が16年10月13日に亡くなって1年間の服喪期間にあり、経済活動は低調となっていましたが、服喪明けに向けて改善の動きが出ているようです。また、直近の株価上昇は、インラック前首相が実刑判決を避けて海外逃亡したことで、政治的な不透明感が払しょくされたことも効いているようです。株価指数採用企業のEPSは、17年12月期が前年比7%増、18年12月期が同10%増が予想され、17年12月期ベースの予想PERは16.8倍です。
◯マレーシア
17年GDP成長率の予想は年初に前年比4.25%増でボトムを付けた後、一貫して上方修正が続いて同5.50%増に達しています。鉱工業生産が前年比4〜6%増で堅調に推移する中、輸出の増加がGDPの上方修正に貢献していると見られます。株価指数採用企業のEPSは、17年12月期が前年比6%増、18年12月期が同6%増が予想され、17年12月期ベースの予想PERは16.4倍です。
図表2:株価の出遅れが目立つアセアン諸国
国 |
株価指数 |
年初来 |
3ヵ月 |
---|---|---|---|
香港 |
ハンセン指数 |
29.0 |
11.2 |
ブラジル |
ボベスパ |
27.2 |
22.6 |
フィリピン |
フィリピン総合指数 |
21.2 |
5.1 |
ベトナム |
ベトナムVN指数 |
21.1 |
2.9 |
インド |
ムンバイSENSEX30種指数 |
18.6 |
0.7 |
韓国 |
韓国総合指数 |
18.2 |
0.1 |
米国 |
S&P500指数 |
14.0 |
5.9 |
シンガポール |
ST指数 |
13.2 |
1.1 |
ドイツ |
DAX指数 |
13.0 |
4.7 |
インドネシア |
ジャカルタ総合指数 |
11.4 |
0.9 |
日本 |
東証株価指数 |
10.8 |
4.1 |
タイ |
SET指数 |
9.6 |
7.7 |
中国 |
上海総合指数 |
7.9 |
4.9 |
マレーシア |
クアラルンプール総合指数 |
7.1 |
-0.6 |
ロシア |
MICEX指数 |
-6.5 |
8.6 |
注:10/5(木)までのデータによります。
※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成
図表3:GDP成長率の修正状況からは、シンガポール、マレーシア、タイに注目できる
注:17年のGDP成長率予想の推移です。
※BloombergのデータをもとにSBI証券が作成