6/27(火)のドラギECB(欧州中央銀行)総裁の発言を契機にユーロが上昇しています。ECBの金融政策変更に対する思惑が主因ですが、ユーロ圏の政治の安定、経済の改善を背景としているため、上昇の持続が期待されます。どの程度の上値がありそうなのか、検討してみましょう。
図表1:欧州株式に投資するETF(上場投資信託)
取引 | チャート | コード | 銘柄 |
---|---|---|---|
IEV | iシェアーズ ヨーロッパ ETF | ||
VGK | バンガード FTSE ヨーロッパETF | ||
EWG | iシェアーズ MSCI ドイツ ETF | ||
HEDJ | ウィズダムツリー ヨーロッパ ヘッジド エクイティ ファンド | ||
HEZU | iシェアーズ 米ドルヘッジ MSCI ユーロゾーン ETF |
※当社WEBサイトをもとにSBI証券が作成
6/27(火)にECBのドラギ総裁が「成長はトレンドを上回り、ユーロ圏に広く行きわたっている」、「低インフレ環境は一時的なものだ」との認識を示したことを契機にユーロ高が進んでいます(図表2)。
ECBが金融政策を現在の極めて緩和的な状態から、正常化に向けて動き出すとの期待が数ヵ月前から高まっていたため、市場はこの発言に敏感に反応して、ユーロに対する強気に一気に傾いたと見られます。また、金融政策に対する思惑だけでなく、政治の安定、経済の改善といったファンダメンタルズの変化も背景にあるため、ユーロの上昇期待が高まっています。
政治面について、フランスではマクロン大統領の新党「共和国前進」が総選挙で大勝、イタリアでは反ユーロ政党「5つ星運動」が地方選挙で後退、ドイツではメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の支持率が上昇と、ユーロ圏の政治不安は大きく後退しました。
また、最近の経済指標では、ユーロ圏の1-3月期実質GDP(確報値)、4月小売売上高、6月マークイット製造業PMI、ドイツの6月IFO企業景況感指数、フランスの6月消費者信頼感指数など、ユーロ圏経済の改善を示すものが増えています。
さらに、欧州経済の先行きに信頼が高いと考えられるポイントは、昨年から繰り返し申し上げていますが、以下の3点です。
【1】欧州債務危機で12年〜13年にかけてマイナス成長に落ち込んだため、米国経済に比べて景気循環の局面が若い。
米国の景気拡大は8年に及び、トランプ大統領が主唱する経済刺激策が実現しないと先行きリセッションも懸念される状況です。一方、欧州の場合は景気の循環局面が若く、自然体でも経済拡大が期待できる点が注目できるでしょう。
【2】欧州経済の改善は失業率の低下による個人消費の回復が背景にあり、安定した改善が期待される。
個人消費の回復を背景とする成長は数億人の経済判断によるため、数千人の企業経営者の経済判断によって左右される企業部門が牽引する改善に比べて安定しており、外部からのショックにも強いと考えられます。
【3】欧州企業の投資残高が大きい新興国経済は減速基調から脱したと見られ後押しが期待される。
14年、15年と減速傾向であった新興国経済は、16年から改善基調に変化してきました。中国経済に対する警戒は残っているものの、共産党大会を控えて、当面、大きな波乱はないと考えられるでしょう。
さて、ユーロの上値はどの程度が期待できるでしょうか?長期のチャートで検討してみましょう(図表3)。
ユーロの対ドルレートは、昨年来ユーロの上値を抑えてきた100週移動平均線を5月に上抜けてきたところです。重要なテクニカルポイントをクリアしたため、上昇基調の継続が期待できると見られます。
チャートの節目としては、15年から続くもみ合いレンジの上限である1.15ドル/ユーロ辺り、さらに、低下が続いている200週移動平均線が意識されそうです。今後数ヵ月での上値の目途は1.17〜1.18ドル/ユーロ辺りでしょうか。
また、為替の「ファンダメンタルズ」とも言える購買力平価では、輸出物価基準で1.156ドル/ユーロ、消費者物価基準で1.248ドル/ユーロ、企業物価基準で1.270ドル/ユーロとなっています(国際通貨研究所の計算)。いずれも現在の水準よりも上に位置していますので、まだ安心して買える水準にあると言えそうです。中期的には1.20台まで戻っても、購買力平価からはおかしくないと言えるでしょう。
ユーロ/円については、日本銀行の金融緩和姿勢が継続する見通しであることから、ドル/ユーロ以上にユーロの上昇が大きくなると期待できるでしょう。
ユーロの上昇を取るにはいろいろな方法がありますが、今回の「今週の注目ETF」では、欧州株式に投資するETFを図表1にご紹介しています。
尚、図表1にリストアップしたETFのうち、「ウィズダムツリー ヨーロッパ ヘッジド エクイティ ファンド」と「 iシェアーズ 米ドルヘッジ MSCI ユーロゾーン ETF」は、ユーロの対ドルの動きがヘッジされています。ユーロの対ドルでの上昇を取るには、ユーロがヘッジされていない、これら以外のETFを選ぶ必要がありますのでご注意ください。
図表2:ドラギECB総裁の発言をきっかけにユーロが上昇!!
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:ユーロの対ドルレート、次のターゲットは200日移動平均線か!?
注:購買力平価は国際通貨研究所の17年3月データによる計算です。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成