地政学的リスクの高まりや欧州の選挙などによる不透明要因を背景に、株式などリスク資産の市場は不安定な動きが続いています。世界経済は改善基調にあるため、先行きは安定した動きに復帰できると見込まれます。しかし、市場が期待しているトランプ大統領による経済政策の実現に時間がかかりそうな中、当面はやや不安定さが残りそうです。そこで、この機会に当社が取り扱う「ベア型のETF」についてご紹介いたします。
図表1 ベア型のETF(上場投資信託)
※SBI証券が作成
「ベア型のETF」とは、対象指数が下落するときに価格が上昇するETF(上場投資信託)です。
例えば、「Direxion デイリーS&P500ベア3倍 ETF(SPXS)」は、S&P500指数の値動きの反対方向に3倍動くことを目指して運用されるETFです。 S&P500指数が1%上昇するときには同ETFは3%下落、S&P500指数が1%下落するときには同ETFは3%上昇といった具合です。
図表2は同ETFの価格とS&P500指数の値動きを比較しています。図示した16年初から17年4/19にかけて、S&P500指数は16.2%上昇、同ETFは47.1%下落しています。ほぼ指数と「反対方向に3倍」のパフォーマンスになっていることが確認できます。
これをどのように使うかですが、【1】保有している資産のヘッジに使う、【2】対象指数の下落による値上がり益を狙う、という2つの投資手法が考えられます。
【1】については、例えば、米国の個別株式を数銘柄に分散して100万円分を保有している場合を考えてみましょう。
地政学的リスクを要因に市場全体が下落する可能性を懸念しているが、個別企業の成長見通しは良好であるため、株式は売りたくないという場合です。
相場の一時的な下落リスクを「ヘッジ」するために、「Direxion デイリーS&P500ベア3倍 ETF(SPXS)」を使うことが考えられます。保有している100万円に対して「フルにヘッジ」する場合は、33万円の同ETFを購入すればよいでしょう。
想定通りS&P500指数が例えば5%下落した場合、ETFは15%上昇して市場全体の値下がりを打ち消すことが期待できます。想定の相場下落が実現した時点でETFを売却すれば、保有銘柄の上昇に再度ベットすることができます。また、半分だけヘッジしておきたいという場合には、17万円(50万円÷3)のETFを保有すれば良いでしょう。
注意点は、ETFは指数には連動するものの、個別株式の株価は指数と違う動きをする可能性があることです。相場の下落時に値下がりが大きい傾向のある銘柄、反対に値下がりが小さい傾向のある銘柄というのがあります。いわゆる「ベータ値」です。
保有銘柄のそのような傾向を踏まえて、値下がりが大きい傾向のある銘柄では、ヘッジを多めにすることが必要になります。
【2】は、対象指数の資産を保有しておらず、単純に指数の値下がりで利益を得ようとするものです。S&P500指数が継続的に下落すると見込む場合に、同ETFを買うことで、指数の下落率の3倍に相当する値上がり益が期待できます。指数が5%下がるときには、同ETFでは15%の値上がりが期待できるといった具合です。
図表1には、当社でお取扱いしている「ベア型のETF」をリストアップしています。
名前の頭の「Direction」は、これらのETFを提供している米国の資産運用会社名です。指数の値動きの2倍、3倍といったレバレッジ商品を多く提供している会社で、運用資産は112億ドル(約1.2兆円、16年末)です。「デイリー」は指数の「日々の」値動きの3倍のパフォーマンスに連動することを目指していることを示します。
個人投資家による指数先物の売買には制約もあるため、ベア型のETFをうまく使われるとよいと思われます。
図表2 S&P500指数とS&P500指数のベア型ETFの値動き
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成