9/8-9/14の香港市場はボラティリティの高い展開となりました。主要指数は9/9に中国地方政府の不動産支援措置を好感し、大幅に反発しましたが、9/14は米CPIの上振れによる米株安を受け、大きく下落しました。米中対立激化への懸念も、投資家センチメントを悪化させました。
今回は、米中対立をめぐる新しい動きを確認してみたいと思います。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:9/14(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(9/14(水)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
02313 | 申洲国際 [シェンジョウインター] | 4.8% | -11.4% | -24.4% | ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。RSIが売られすぎのサインとされる30に達した後、反発した。大手証券会社が悪材料は出尽くした可能性があると指摘した。 |
01928 | 金沙中国 [サンズ・チャイナ] | 4.7% | -0.6% | 17.7% | カジノ大手。マカオと深センを結ぶフェリーが9/14から運航を再開した。中国本土客の増加を織り込み、カジノ関連株が買われた。 |
06862 | 海底撈(Haidilao) | 4.5% | 6.7% | 15.4% | 火鍋チェーン中国最大手。中秋節連休の期間中(9/3-9/5)、主要大都市の飲食業の販売額が前年同期に比べて増加し、買い材料となった。 |
00027 | 銀河娯楽 [ギャラクシー・エンターテインメント] | 4.5% | -9.2% | 4.9% | カジノ大手。マカオと深センを結ぶフェリーが9/14から運航を再開した。中国本土客の増加を織り込み、カジノ関連株が買われた。 |
02020 | 安踏体育用品 [アンタ・スポーツ] | 4.2% | 6.7% | 6.9% | スポーツ用品大手。大手証券会社が同社は短期的および中長期的にも安定成長が期待できるとし、買い推奨した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00700 | 騰訊 [テンセント・ホールディングス] | -3.9% | -1.5% | -20.3% | ゲーム・フィンテック大手。発行済株の約2%に相当する株数が香港の中央清算決済システムに移管された。同社の大株主が保有株売却を進めるのではないかとの観測が広がり、売り材料となった。 |
00175 | 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] | -4.2% | -21.6% | -6.4% | 大手自動車メーカー。軟調地合いのなか、大手投資ファンドによる持ち株比率の引き下げがみられた。 |
09618 | JDドットコム | -4.4% | 0.5% | -7.3% | EC大手。米当局が中国企業の監査状況の検査を実施するため、今週にも香港入りすると報じられた。同社は第1弾の検査対象企業となっているもよう。軟調地合いのなか、検査結果に対する不安で売られた。 |
00857 | 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] | -6.7% | -0.9% | -19.2% | 中国石油・天然ガス最大手。世界経済の減速懸念や中国のロックダウンを理由に、世界大手投資銀行2社が原油価格予想を下方修正し、売り材料となった。 |
02269 | 薬明生物 [ウーシー・バイオロジクス] | -19.8% | -28.3% | -21.9% | バイオ医薬品開発受託大手。米バイデン大統領が国内バイオ産業振興の大統領令に署名し、売り材料となった。同措置は中国への依存を減らすためのものとされている。同社は売上高構成比(2021年)で北米が51%を占める。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09866 | 蔚来汽車 [ニオ] | 25.8% | 5.0% | 30.3% | 新興EVメーカー。決算発表後、急反発した。7-9月期の納車台数ガイダンスが市場予想を上回った。新車種「ET5」の予約販売が好調だとし、大手証券会社が買い推奨した。 |
00909 | Ming Yuan Cloud Group | 7.4% | -6.6% | -44.1% | 不動産会社向けソフトウェア大手。中国の24都市以上で住宅購入を支援する措置が実施され、不動産関連株が買われた。(SBI証券取り扱いなし) |
06690 | 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] | 2.6% | 7.7% | 2.6% | 大手家電メーカー。中国の24都市以上で住宅購入を支援する措置が実施された。不動産市場の持ち直しに伴う家電需要の増加が期待された。 |
00241 | 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] | 1.7% | -7.9% | -9.3% | アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。需給要因のもよう。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
09961 | 携程旅行網 [トリップドットコム゚] | 1.6% | -1.7% | 17.3% | オンライン旅行サービス大手。中秋節連休の期間中(9/3-9/5)、主要大都市の一日当たり予約件数がゴールデンウイークの2倍となり、買い手掛かりとなった。近場旅行が増加したもよう。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のTCOMとなっています。) |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00700 | 騰訊 [テンセント・ホールディングス] | -3.9% | -1.5% | -20.3% | ゲーム・フィンテック大手。発行済株の約2%に相当する株数が香港の中央清算決済システムに移管された。同社の大株主が保有株売却を進めるのではないかとの観測が広がり、売り材料となった。 |
09618 | JDドットコム | -4.4% | 0.5% | -7.3% | EC大手。米当局が中国企業の監査状況の検査を実施するため、今週にも香港入りすると報じられた。同社は第1弾の検査対象企業となっているもよう。軟調地合いのなか、検査結果に対する不安で売られた。 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | -4.7% | -18.3% | -19.7% | 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。米中対立激化への懸念を背景に、大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
00020 | SenseTime Group Inc | -7.0% | -4.5% | -64.5% | AIソフトウェア大手。米中対立激化への懸念を背景に、大手投資ファンドによる持ち株比率の引き下げがみられた。 |
09626 | ビリビリ | -18.1% | -27.3% | -25.5% | 動画プラットフォーム大手。4-6月期決算が市場予想を下回り、大幅安となった。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を大幅に引き下げた。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のBILIとなっています。) |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
9/8-9/14の香港市場は、ハンセン指数が1.0%下落、ハンセンテック指数は1.5%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、0.9%上昇しました。
主要指数は9/9に、中国地方政府による不動産支援を好感し、大幅に反発しました。24都市以上で住宅購入を支援する措置が実施されたことを受け、不動産市場の持ち直しや景気回復への期待が高まりました。
しかし、9/13-9/14は調整し、特に9/14は大幅に下落しました。主な要因は、以下の3つです。
1)9/13に発表された米国のCPIが予想を上回り、米国の大幅利上げ観測が強まりました。それを受け、米国株式市場は波乱の展開となり、アジア市場もそろって大幅に調整しました。
2)ロイター通信は9/13に、米政府は中国による台湾侵攻を抑止するための制裁措置を検討していると報じました。記事では、「関係者は検討されている制裁措置の詳しい内容は明らかにしなかった」としています。このニュースが出たタイミングは、中国の習近平国家主席が9/14-9/16に中央アジアを訪問中、ロシアのプーチン大統領と対面での会談を実施する予定だと報じられた直後に当たります。一連の動きで、米中対立が激化する不安が強まりました。
3)米バイデン大統領は9/12に、バイオテクノロジーを活用する商品の国内製造を促す大統領令に署名しました。同措置は、バイオ産業における中国への依存を減らすためのものとされています。
上記の1)は、ヘルスケアや情報テクノロジーなどグロース株の売りを誘いました。ヘルスケアは、3)による不透明感も加わり、下落が顕著でした。特に海外(特に米国)売上高比率が高い銘柄、たとえば薬明生物(02269)や薬明康徳(02359)(SBI証券取扱なし)が急反落しました。
情報テクノロジーは、1)と2)を受けた軟調地合いのなか、米当局が中国企業の監査状況の検査を実施するため、今週にも香港入りすると報じられ、警戒を誘いました。米当局による検査は、米中両国が事前に達した合意に基づくもので、市場にとってサプライズではありません。しかしながら、足元で米中対立懸念が強まっていたため、検査結果に対する不安を助長しました。
第1弾の検査対象企業(5社)と報じられているJDドットコム(09618)や百度(09888)、アリババ(09988)、綱易(09999)が調整しました。一方、ヤムチャイナ(09987)(SBI証券取り扱いなし、米国上場のADR(YUMC)は取扱銘柄)は、逆行高となりました。中秋節連休の期間中(9/3-9/5)、主要大都市の飲食業の販売額が前年同期に比べて増加し、買い材料となりました。
業種別でエネルギーも調整しました。主に石油大手のペトロチャイナ(00857)の反落によるものです。世界経済の減速懸念や中国のロックダウンを理由に、世界大手投資銀行2社が原油価格予想を下方修正し、売り材料となりました。
一方、素材と電気通信は堅調でした。素材は、中国地方政府の不動産支援を好感し、中国アルミ(02600)やコウセイコパー(00358)など建設資材関連株が買われました。電気通信は、投資家のリスク回避志向の強まりを受け、ディフェンシブ銘柄のチャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00728)が堅調でした。
今回のトピックス
今回は、米中対立をめぐる新しい動きを確認してみたいと思います。
米バイデン大統領は9/12に、バイオテクノロジーを活用する商品の国内製造を促す大統領令に署名しました。同措置は、バイオ産業における中国への依存を減らすためのものとされています。
米中対立がバイオ産業にも拡大することへの懸念から、薬明生物(02269)や薬明康徳(02359)(SBI証券取扱なし)など海外(特に米国)売上高比率が高い銘柄が9/13に急反落しました。たとえば、欧米の大手製薬会社からバイオ医薬品開発を受託している薬明生物は、19.9%も下落しました。
株価急落を受け、薬明生物はアナリスト向けの説明会を開催しました。香港現地紙によると、同社経営陣は、現時点で公表されている情報に基づけば、米国の措置は「ニュートラル」とみるべきで、市場の反応は行き過ぎだとの認識を示しました。また、バイオ医薬品開発受託(CDMO)の市場はサービス品質が大事なため、同社は米国の顧客を引き留める自信があると表明しました。薬明生物はバイオ医薬品アウトソーシング市場で世界シェア2位として、その品質や専門性は世界で認められています。
なお、米政府は9/14に、米バイデン大統領令の実施に向け、バイオ産業に対する20億ドル超の投資計画を発表しました。バイオ産業の国内製造インフラに今後5年間で10億ドルを拠出し、国内肥料生産の支援向けに2.5億ドルを助成するといった内容が含まれています。
同投資計画だけをみるかぎり、米国は中長期的なバイオ製造インフラの構築を目指しているようです。それを受け、薬明生物は9/15の寄り付きで急反発しました。
今後、米当局が中国企業を完全に排除するような措置を取るかどうかが、注目ポイントとなります。以下の2点からすると、バイオ産業における米国の中国依存への脱却は急激に進むより、漸進的なものとなりそうです。
1)バイオ医薬品開発受託のインフラを構築するには時間がかかります。
2)バイオ医薬品アウトソーシング市場で世界シェア2位の薬明生物のような中国企業を排除すれば、米国の製薬会社大手にとっても大きなコスト増につながります。
総合的に考えると、今回の米国の措置による影響は、短中期的にみると限定的と言えそうです。長期的には、米中のデカップリングがどこまで進むか、留意する必要がありそうです。
図表4 ヘルスケア指数の構成銘柄上位15銘柄の地域別売上高構成比(2021年)、株価・業績動向
銘柄コード | 銘柄名 | 売上高構成比(中国) | 海外売上高構成比(注記を参照) | 注記 | 株価騰落率(9/13-9/14) | 調整後EPSの伸び率(2021年) | 調整後EPSの伸び率(2022年予想) |
02359 | 無錫薬明康徳新薬開発[ウーシー・アプテック] | 25% | 53% | 米国 | -16% | 65% | 59% |
02269 | 薬明生物技術[ウーシー・バイオロジクス・ケイマン] | 24% | 51% | 北米 | -24% | 83% | 49% |
06160 | ベイジーン | 94% | 6% | 米国 | -7% | 赤字拡大 | 赤字縮小 |
06618 | 京東健康[JDヘルス・インターナショナル] | 100% | 0% | 米国 | -3% | 34% | -4% |
03759 | Pharmaron Beijing Co Ltd | 14% | 64% | 北米 | -11% | 42% | 19% |
02196 | 上海復星医薬(集団) | 65% | 35% | 海外全体 | -4% | 29% | -9% |
03347 | 杭州泰格医薬科技 | 53% | 47% | 海外全体 | -12% | 64% | -5% |
00241 | 阿里健康信息技術[アリババヘルスインフォメーションテクノロ] | 100% | 0% | 米国 | -2% | 赤字転落 | 赤字縮小 |
01177 | 中国生物製薬 [シノ・バイオファーマシューティカル] | 100% | 0% | 米国 | -3% | 342% | -67% |
03692 | Hansoh Pharmaceutical Group Co Ltd | 100% | 0% | 米国 | -1% | 3% | 11% |
01093 | 石薬集団 | 87% | 4% | 米国 | -5% | 10% | 12% |
09688(*) | Zai Lab Ltd | 100% | 0% | 米国 | 10% | 赤字拡大 | 赤字縮小 |
01801 | 信達生物製薬[イノベント・バイオロジックス] | 93% | 6% | 米国 | -3% | 赤字拡大 | 赤字縮小 |
00853 | 微創医療 [マイクロポート・サイエンティフィック] | 46% | 12% | 北米 | -6% | 赤字拡大 | 赤字縮小 |
06185 | CanSino Biologics Inc | 29% | 71% | 海外全体 | -2% | 黒字転換 | 赤字転落 |
注:1)リンク先が付いていない銘柄はSBI証券で取り扱っておりません。
2)Zai Lab(09688)はSBI証券で取り扱っておりませんが、米国上場のADR(ZLAB)は取扱銘柄です。
3)銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。